No.513777

遊戯王GX †青い4人のアカデミア物語† その10

赫鎌さん

誤字脱字報告、感想等お待ちしております。■長くなった上に遅刻!でも月始めだから許しt(ry 最後の方やっつけ感がorz

2012-12-01 00:06:11 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1148   閲覧ユーザー数:1122

 

「どうしてダメなんですか!」

 

 アカデミアの部活棟の一室で反抗の声が上がった。

 声を荒げる女子生徒とは対照的に、ソファに座って書類に目を通していた女子生徒は顔を上げて口を開いた。

 

「ダメな訳じゃないわ。時期じゃないって言ってるのよ」

「新入生が入ってからもう一ヶ月経つのに、どうして今更新入生の特集を組むんですか? 先月組んだばかりじゃないですか!」

「前回のは全員を対象にした、いわば歓迎みたいなものよ。今回はここ一ヶ月で頭角を現している大物ルーキーをターゲットに置いた特集よ。いわば学園の顔を全校生徒に知ってもらうためのものなの。絢、あなたもプロを目指しているなら理解しなさい」

 

 話は終わったとばかりに、手元の書類に目を通す女子生徒。それ以上聞く気がないのが容易に見て取れる。

 絢と呼ばれた女子生徒は言いたいことがあるのか口を開きかけたが、無駄だと知るやいなや踵を返して部屋を出た。

 扉の閉まる音が、廊下中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 私は今、この上なくフラストレーションが溜まっている。

 これというのも、私の案を却下した部長のせいである。責任転嫁? 知ったこっちゃない。

 

「先輩、また却下されたんですかぁ?」

「ええ……まったく! 部長ときたら一も二もなく却下して! ネジ締まりすぎて動いてないんじゃない?」

 

 ガッチガチに頭が固まっていて、決まった通りにしか動かない。センサー式のマイコンカーでも、もう少し融通が効くのではないかとすら思える。

 

「仕方ないですよ。少なくとも先輩の案よりはまだプレミア度高いですから」

「んなっ……わ、私の案よりはってどういうことよ!」

「だって……先輩の企画、『デュエルアカデミアの七不思議! 噂の絶えぬ廃寮を追う!』って絶対時期はずれじゃないですか」

 

 そんなことを言う後輩を横目で睨む。

 いいじゃない七不思議! 墓守の一族と縁のある遺跡とか、悪霊の集まる井戸とか、ロマン溢れてるじゃない!

 ……ま、まあ、廃寮に出る幽霊の噂はちょっとアレだけど……。

 

「あと、ネーミングセンスも無いですね」

「月夜ちゃん、一言余計!」

 

 この不肖の後輩こと薬田月夜は、私の所属するアカデミア新聞部の後輩である。

 新聞部員として様々なところからネタを仕入れてくる優秀な部員である反面、辛口で少し毒舌なところもある困った子だった。

 

「先輩、この後どうするんですかぁ? 独断で七不思議調べにでも行きますか?」

「……私だって、伊達に新聞部を名乗ってないわよ。却下されて頭にきてるけど、特集のためにちゃんと取材するわ」

 

 部長があの様子では、今後いくら抗議しても考えが変わることはないだろう。

 なら、私は私のできることをするまで。今回の特集のテーマでもある『大物ルーキー』の取材に手を抜くことはない。

 

「もうすぐ一年は授業でしょ? 私は勝手に取材してくるから、月夜ちゃんは授業に行きなさい」

「……はぁい。……でも先輩、拉致して尋問とかはやめてくださいね?」

「私がいつそんなことをしたぁ!」

 

 言い返すと、月夜ちゃんはのらりくらりと去っていった。

 あの子は一言多いのよ!

 

 

 

 

 さて、一年生が授業中ということは二年生も当然授業なわけで。

 樺山先生ののんびりとした講義を終えて昼休みに入った私は、早速一年生達の元へ向かった。

 教室から出てくる一年生達だが、私の目的の人物は一人もいなかった。

 

「(新入生は選択制の授業がないから、全員同じはず……。中に残ってる?)」

 

 ここデュエルアカデミアにも、普通の高校と同じように選択制の授業がある。しかしそれは二年生になってからなので、取材すべき一年生は全員同じ教室にいるはず。しかし出てきた中にいなかったことを考えると、休んだかまだ中にいるか。

 扉から顔を少しだけ出して、中のようすを見てみる。

 少し離れた所に、ブルー生の塊を見つけた。

 

「(見つけた!)」

 

 背丈がバラバラなその集団で、頭一つ高い生徒。取材すべき『大物ルーキー』の一人、丸藤亮がいた。

 私の取材理念として、直接取材以外では極力姿を見せない、というのがある。

 これは相手が記者を意識して、自然な振る舞いができなくなることを防ぐためだ。月夜ちゃん以下新聞部員は鼻で笑うが、私はこれを結構アテにしている。

 部の備品であるコンパクトカメラを片手に、彼らの元に忍び寄る。

 

『……。……』

『……? ……っ……』

 

 声は聞こえてくるが、会話内容は聞き取れない。まだ遠い。もう少しだけ近づくと、よく聞き取れた。

 

『……という具合に魔法カードを絡めていけば、上手く使えると思うんだが』

『さっすが丸藤だなぁ。なあ、俺このカード使ってみてえんだけどさ……』

『お前、それ最新作の? よく当てたなぁ』

「(……休み時間はデュエル関連の話、と。友人関係も良好……)」

 

 メモ帳に丸藤亮のデータを次々書き込んでいく。会話も漏らさずだ。こういうのは、いつどこで何が必要になるかわからない。

 もちろん、手元のカメラで写真を撮るのも忘れない。

 

「(……まぁこのくらいかな。後は別途取材させてもらおう)」

 

 メモ帳とカメラをしまい、教室を抜ける。もちろん見つからないように。

 さて、次のルーキーを探さなければ。

 

 

 

「いないわねぇ……」

 

 探す、と言っても、アカデミアは広い。普段人の立ち入らないところを除いてもかなり広い範囲で生徒たちが過ごしている。

 しかも新入生は内部構造に疎いことが多い。初日から一週間で主要箇所は覚えられても、細かい通路等はまだわからないことが多々ある。故に、普段行かない場所も探さなければならないことがある。

 つまり、この昼休みの間に全員探しだすのはある意味無謀というものだ。

 

「こりゃ放課後も続行かなぁ……。固まっていてくれれば見つけやすいんだけど……」

 

 愚痴の一つも言いたくなる。探せど探せど、いるのは用の無い男子生徒ばかり。

 今探しているのは購買だが、赤黄青とカラフルなメンツが揃っている。

 

「(………………あれ?)」

 

 ふと、違和感を感じた。

 目の前でドローパンの引き合いをしている男子生徒たち。それ自体は別に珍しくはない。

 しかし、おかしい。男子ばかりというより、"男子生徒しかいない"。

 普通女子生徒も購買に買いにくるはず。それなのに、何故いない?

 

『吹雪様~。わたし、お弁当作ってきたんですよ~』

『吹雪くん、私も作ってきたんだけど食べない?』

『ちょっと抜け駆けしないでよ! 吹雪様、あたしのを是非!』

『あ、アハハハ……あの、動けないんだけど……』

 

 答えは後ろで見つかった。

 

「(大物ルーキーの一人、天上院吹雪……?)」

 

 見つけたのだが、確証が持てない。

 ――女子生徒に囲まれていて、本人が見えないのである。

 

「…………天上院吹雪、女子生徒に人気がある、と」

 

 取り出したメモ帳にそう書き留めた。

 注釈として『女性の頼みを断らないフェミニスト』と付け加えておく。

 

「……まともな写真は別途取材の時でいいか」

 

 そう言いながら、数枚カメラに納めておく。何かのネタにはなるだろうし、損はないだろう。あるとすれば、データメモリの圧迫くらいだ。

 

「……しっかし、凄い人気ね」

 

 人の壁で見えなくなるなんてことが本当にあるとは思わなかった。しかも、それが一般生徒で。

 どうしたらここまでのカリスマ性を出せるのか、そこら辺も突っ込んで聞いてみよう。

 

「…………ん?」

 

 人溜まりが耐えないドローパンのワゴンに目を向けると、一際目立つ白い制服の生徒が立ち去るのが見えた。

 白地に青いラインの入ったそれは、確か特待生のもののはず。ということは、彼は一年生唯一の特待生、藤原優介に違いない。

 

「(ちょっと後を追ってみますかね)」

 

 購買部から遠ざかる彼を、少し離れたところから追う。

 しばらく歩くと、普段見慣れない場所へ向かっていることがわかった。ここは、一般生徒でもほとんどくることの無い場所だった。

 しかし彼は歩みを止めない。当然、私も追いかけるが。

 そして、幾つ目になるかという角を曲がった時、変化が起きた。

 

「………………あれ?」

 

 彼にと同じように角を曲がる。しかし、そこに彼の姿はなかった。

 なんで? どうして? 確かにここを曲がったのに、後をつけていたはずなのに?

 見回しても人が隠れるようなスペースは見当たらない。奥には何もない突き当り。完全に、見失った。

 ……こんなところまで追いかけてきたのに、写真一枚も撮れないとか。思わぬハプニングに、心のそこから鬱になりそうだ。

 

「はぁ……仕方ないなぁ。いっそみんなまとめて取材しようかなぁ……」

 

 普段は固まっているのを見ることが多いが、こういう日に限ってバラバラに行動している。これではまともなネタは期待できそうにもないだろう。

 

「落ち込んでても仕方ないか……えぇと、取材対象は丸藤亮、天上院吹雪、藤原優介、龍剛院真理、早乙女ケイの五人……」

「優介は放課後は捕まらないからな。朝アポを取っておいた方がいいだろうな」

「あーそうか。ちゃんとアポ取らないと時間空けてくれないかー……てなるといいとこ明後日かなぁ」

「亮はともかく、吹雪は別にしたほうがいいと思うぞ。女子とデートの約束している場合が多い」

「まぁそこは大体予想通り……………………」

 

 私は今、誰と話している?

 

 

 

 

 

 最初にみかけたのは購買だった。昼飯を買おうと購買に向かったところ、吹雪の写真を撮っているのをみかけた。

 また吹雪の追っかけかと思ったが、どうにも様子が違っていた。吹雪の様子をメモしたり、本人が写っていないのに撮っていたり。

 ややすると吹雪から興味が逸れて、優介の方へ移っていた。

 優介は、今日の昼は用事があると教室で言っていた。つまり、これから用事とやらに行くのだろう。

 その後をつける女子生徒。背丈は低いが、一年だろうか。

 用がある優介、それを追う女子生徒。そして昼。これらを簡単に結びつけた後の俺の思考は、まさに山本勘助の如き閃きを出した。

 すなわち、――――逢引き! つまりはデート!

 そこからの俺の行動は早かった。即座にドローパンを数個掴んで精算。音も立てす忍び足で二人の後を追った。

 入り組んだ構造をしているアカデミアだが、吹雪の探検に付き合わされた俺は既にマッピングも完成されている。肝心の吹雪は途中で飽きて女子生徒とデートに行ったが。

 

『………………あれ?』

 

 入り組んだ道を進み、そろそろ行き止まりだなー、と漠然と考えながら追っていると、突然目の前を進んでいた女子生徒が止まった。

 ちょうど角を曲がったところでそう呟くところを見るに、優介を見失ったのだろうか。

 こっそりと後ろを追っていた俺が言うのもどうかと思うが、この女子生徒は尾行慣れしていないのだろう。簡単に巻かれてしまうのは、尾行する側にとっては致命的である。……いや、俺も得意なわけはないが。

 しかしこれで二人がデートするという可能性は消え去った。これでは、こっそり後をつけてきた意味がまるでないではないか。

 どうしたものかと考えていると、女子生徒は懐から小さなノートらしきものを取り出した。メモ帳だろうか、それを片手に唸っていた。

 

『――――いっそみんなまとめて取材しようかなぁ……』

 

 ……取材?

 取材と聞こえたが、それはやはりあの取材なのだろうか。雑誌とかで見かける、記者が質問して相手が答えるという。

 カメラを持って、メモ帳を持って、取材等の言葉を口にする。そこまで要素が揃えば、答えは勝手に導き出された。

 この女子生徒は、新聞部の部員だ。

 

『落ち込んでても仕方ないか……えぇと』

 

 メモ帳を見ながら唸る新聞部の女子――ブン屋娘は、またしてもひとりごとのように呟いた。

 

『取材対象は丸藤亮、天上院吹雪、藤原優介、龍剛院真理、早乙女ケイの五人……』

 

 ……俺も入っているのか。

 身を隠す必要もなくなってしまったので、堂々とブン屋娘に近づく。

 亮や俺は別として、優介や吹雪は時々いなくなることが多い。余計だろうが、勝手にアドバイスしておこう。

 

「優介は放課後は捕まらないからな。朝アポを取っておいた方がいいだろうな」

「あーそうか。ちゃんとアポ取らないと時間空けてくれないかー……てなるといいとこ明後日かなぁ」

「亮はともかく、吹雪は別にしたほうがいいと思うぞ。女子とデートの約束している場合が多い」

「まぁそこは大体予想通り……………………」

 

 不意に会話が途切れた。

 錆びたブリキの玩具のような動きで首を動かし、こちらを向く。

 

「……………………き」

「き?」

「――――ァァァァアア――――むぐっ?」

 

 対男性用女性専有武器『叫び声』を最大出力で放たれる前に口を手のひらで抑えた。

 

「………………」

「………………(モガモガ)」

 

 何か喋りたそうにしているが、手はどかしたほうがいいだろうか。さっきの続きを叫ばれてはたまらないが。

 ゆっくりと、手を口からどかした。

 

「ぷはっ! な、なな、なななな、なな……!」

「落ち着け。そして日本語を話せ」

「な…………なんでこんなところに!?」

 

 そこかよ。

 そう突っ込みたい衝動を余計な思考と一緒に頭から振り落とす。

 

「それはこっちの台詞だ。優介の後をつけて、何をしていた」

 

 さっきの予想通りだとすれば、優介の写真でも撮って新聞のネタにするつもりだろう。

 しかしこれはあくまで予想。少々強引だが、直接聞き出す他確かめる方法はない。

 

「えっ? えーっと………………あれ?」

 

 目を泳がせていたブン屋娘は、突然俺の顔を凝視してきた。

 見られて困るものでもないが、あまり見られるのも気分のいいものではない。

 

「……なんだ」

「……もしかして、早乙女ケイ?」

「よろしい、デコを出せ」

「なにゆえ!?」

 

 急な制裁アピールに慄くブン屋娘。リアクションがいちいち大きいが、それはギャグなのだろうか。

 

「他人を初対面でフルネーム呼び捨てとはいい度胸だ」

「え、あ、あー……早乙女ケイ、君、ですか?」

「……そうだが」

「………………」

 

 また黙りこんでしまった。手を顎にあて、何か考えているようだ。

 無視されるのも気分の良いものではないが、下手に口を出さない。俺は空気の読める男のはずだ。

 

「………………あの!」

 

 これまた急に、ブン屋娘が話しかけてきた。

 

「なんだ?」

「ちょっと…………取材させてもらっていいですか?」

 

 どうやら新聞部という予想は当たっていたようだ。

 

 

 

 

 

「(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう……!)」

 

 私は大変困った状況に追いやられてしまったかもしれない。

 一人でいたはずなのに、会話するように言葉をかけてきた人。後ろを振り向くと、一人の男子生徒がそこにいた。

 思わず声を上げたが上げきる前に塞がれた。思いの外大きな手は、口だけでなく鼻まで塞いでくれやがった。

 必死に訴えて手をどかせると、いきなり「優介の後をつけて、何をしていた」ときた。

 言うべきか言わぬべきか、ここで言ったら藤原君の耳にも入るかもしれない。そう思ってためらっていたのだが、声をかけてきた相手が取材対象の一人、早乙女ケイだった。

 これに驚いた私は思わず聞いてしまったが、これが失敗。いきなりデコピン発言が返ってきた。

 しかしこれはある意味で好都合。別の写真は使うかわからないが、本人を相手に取材しながら撮った写真ならば必ず使う機会がくる。

 そう考えた私は、まっすぐ「取材させてくれ!」と声をかけたのだった。

 

「…………断る」

「えーっ!?」

 

 しかし返ってきたのは了承でもデコピンでもなく、否定だった。

 

「取材ということは、あれだろう? 玄関ホールに貼られている新聞に載るんだろう? そういう注目のされ方は……」

「そこをなんとか! 今回の件は、新聞部部長の企画なんですよ! 断られたら私が怒られるんですよぉ!」

「構わん」

「構ってください!」

 

 必死に、恥も外聞もなくすがりつく。どうにかしてここで了解を得ないと、私の企画がまた遠ざかってしまう!

 そこで、何が私に味方をしたのか。もしくは、何かの電波でも受信したのか。

 これ以上ないというような妙案が、私の頭に浮かんできた。

 

「……そ、そうだ! デュエル、デュエルしましょう!」

「はぁ?」

「デュエルして、私が勝てば取材、貴方が勝てばもう付きまとわない! どうですかこれ! これ以上ないくらいシンプルでしょう!」

「む…………」

 

 乗ってこい、乗ってこい、乗ってこい!

 心の中で何度も何度も祈る。さあ、乗ってこい!

 

「……本当だな?」

「女に二言はありません!」

「………………わかった」

 

 ――――よっしゃぁああああ!!

 心のなかでガッツポーズするも、決して表には出さない。

 あくまで表面冷静に、普通に。

 しかし中身はヒートアップします!」

 

「本当ですね!? 嘘ついたら『早乙女ケイは重度のペドフィリア』って噂流しますからね!」

「反故するぞ」

「冗談です!」

 

 からかうのもほどほどにしなければいけない。

 しかし、これで目処は立った。

 首にかけたカメラを、自動撮影モードにして胸元にかけ直す。

 仕込みは上々。後は押すだけです!

 

 

 

 

「(……まぁ、一度だけだしな)」

 

 ブン屋娘の必死さが面白くて散々断っていたが、別に新聞に載ること自体は嫌ではなかった。

 俺だけではないし、おそらく特待生の優介や模範生徒の亮がトップを飾るだろうから、俺は大して目立たないだろう。

 しかしそうやってはぐらかしていると、いきなり「デュエルしよう」と言ってきた。

 聞けば、デュエルで勝てば付きまとわないし、負ければ取材する、ということらしい。

 これは面白い提案だ。

 デュエルは嫌いではないし、なによりデッキ構築を変えたばかりで試してみたかった。取材自体はどちらでも構わないが。

 ……しかし。

 

「(……なんだろう。この感覚は)」

 

 この勝負に負けて、このブン屋娘が嬉々として取材してくるのに付き合うのも一興。勝って部長とやらからの制裁を思って泣き崩れる姿を見るのも一興、と考える自分がいた。

 この感覚は中等部の頃に多少なりとも感じてはいたが、ここまではっきりと感じるのは初めてである。

 なんというべきか。

 これは、そう。あれだ。なんと言ったか。

 

「それじゃあ準備はいいですね? 約束忘れないでくださいよ!」

 

 考えていたら、いつの間にか準備が終わっていたらしい。

 すぐにデュエルディスクを起動させて、構える。

 

「最近は好調でな。手加減はできないぞ? …………えー……」

「……?」

「…………名前は?」

「あ、そーいえばまだでしたねー。私は絢、風見ヶ丘絢ですよ、早乙女ケイ君」

「そうか。では_風見ヶ丘、いざ勝負!」

「はい! いきますよ!」

「「デュエル!!」」

 

風見ヶ丘絢 LIFE4000

早乙女ケイ LIFE4000

 

「先攻は私です、ドロー!」

 

 今更だが、相手は俺を知っているようだったが、俺は相手を知らない。情報アドバンテージとしては、圧倒的に不利な状況だった。

 先手を見て判断するしかないだろう。

 

「私は『ハーピィ・レディ1』(ATK1300)を攻撃表示で召喚します!」

「おお……!?」

『キャハハハハ!』

 

 特徴的な赤い髪の翼人が姿を現した。手は鉤爪となっており、腕には大きな翼が生えている。

 ハーピィ・レディ。俺の記憶が正しければ、それは伝説のデュエリストと同等に名を連ねる猛者、孔雀舞が使用したモンスターである。

 今でこそリメイクカードが出たりということもあり一般人が所有することもできるが、関連カードは軒並みプレミアがついており高い。学生がそうそう組めるデッキではないはずだが、まさかこんなところでお目にかかれるとは思わなかった。

 

「『ハーピィ・レディ1』の効果は、風属性モンスターの攻撃力を300ポイントアップさせる! そしてカードを二枚伏せて、ターンエンドです!」

 

『ハーピィ・レディ1』ATK1300 → 1600

 

 最近は、やたらとレアなカードを見る機会が多い。

 

「俺のターン、ドロー! ……俺はモンスターをセット。さらにカードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 組んだばかりか、どうにも手札が悪い気がする。

 理想のコンボを使うには、いささか手が足りない。

 

「ドロー! なら私は『ハーピィ・レディ2』(ATK1300 → 1600)を召喚します!」

『キヒヒヒヒヒ!』

 

 次いで現れたのは、オレンジ色の髪のハーピィ・レディ。先に出た『ハーピィ・レディ1』と同様、猛禽類のような笑みを浮かべている。

 

「『ハーピィ・レディ2』でセットモンスターに攻撃! 爪牙砕断"スクラッチ・クラッシュ"!」

 

 鷹のごとき鉤爪を持った足で、伏せられているモンスター目掛けて襲いかかる。

 反転させられた蟲のようなモンスターが、強靭な顎で足に噛み付いた。

 

「セットされていたのは『人喰い虫』(DEF600)だ。その効果はモンスターの破壊。『ハーピィ・レディ2』は破壊だ」

 

 足を噛み砕こうと力を込める人喰い虫。しかし一瞬の間に、鉤爪でその顎は引き裂かれた。

 

「『ハーピィ・レディ2』は戦闘破壊したリバース効果モンスターの効果を無効にするんですよ! 引き裂きなさい!」

 

 顎への攻撃から一転、全身を切り裂かれた人喰い虫は為す術もなく破壊された。

 ……そうか、このモンスターは『ハーピィ・レディ』であって『ハーピィ・レディ』ではない。効果を持っていない前提で戦えば、充分脅威になる、か。

 

「『ハーピィ・レディ1』でダイレクトアタックです!」

「残念だがリバースカードだ。速攻魔法『ハーフ・シャット』発動!」

 

 リバースカードから発せられるオーラを受けながら、『ハーピィ・レディ1』のダイレクトアタックが直撃した。

 実際に鉤爪で襲い掛かられるというのは、正直こわい。

 

早乙女ケイ LIFE4000 → 3200

 

「あれ? なんでダメージが半分に?」

「『ハーフ・シャット』は戦闘破壊耐性を付ける代わりに攻撃力を半分にする。よって『ハーピィ・レディ1』の攻撃力は800にダウンした」

 

『ハーピィ・レディ1』ATK1600 → 800

 

「へぇ……やっぱり一筋縄じゃいかないですか。ならこういうのはどうですか?」

 

 そういうと風見ヶ丘は伏せていたカードを発動した。同時に、フィールドから『ハーピィ・レディ2』の姿も消える。

 

「速攻魔法『スワローズ・ネスト』発動! 鳥獣族モンスター一体を生贄に、同じ星の鳥獣族モンスターをデッキから特殊召喚します。効果で『バードマン』(ATk1800 → 2100)を特殊召喚!」

「……『ハーピィ・レディ3』じゃないのか?」

 

 1と2が出てきたから3、と思っていたがどうやら違うらしい。

 

「それでもいいんですけどねぇ。今回は勝つのが目的ですからね。『バードマン』でダイレクトアタックです! フェザー・シュート!」

 

 マッハ5で空を翔けられる翼人は大きな翼を広げ、その翼を大きく振り鋭い羽根を飛ばしてきた。

 ……高速移動で攻撃する、とかじゃないのか。

 

早乙女ケイ LIFE3200 → 1100

 

「ふっふっふ。早くも勝ちが見えてきたようですよ? ターンエンドです!」

「俺のターン、ドロー」

 

 ………………。

 勝ちにいこうと思えば、この手札なら無理すれば勝てるかもしれない。相手のセットカードにもよるが、六割の確率で勝てるだろう。

 勝つ必要はないし、負ける必要もない。だからこそ、このまま流れに身を任せるのも一つの選択肢だ。

 

「魔法カード『闇の誘惑』発動。デッキから二枚ドローし、手札の闇属性モンスター一枚を除外する。俺が除外するのは、『グリード・クエーサー』だ」

 

 ドローしたカードを軽く確認してから、一枚のカードを発動させる。

 

「装備魔法『D・D・R』発動。手札一枚をコストに、除外されているモンスターをフィールド上に特殊召喚する。こい、『グリード・クエーサー』!」

 

 フィールドに次元の歪みが発生し、最初に腕が現れた。

 次に反対の腕。頭が順番に出現し、最後に巨大な口を有する身体が次元の壁を突き進んでくる。

 胴体の口から『ギチギチギチ……』と歯を鳴らし、目の前の翼人達を威嚇した。

 

「このモンスターの攻撃力は、自分の星一つにつき300ポイントアップする。今の星は七。よって攻撃力は、2100となる」

 

『グリード・クエーサー』ATK? → 2100

 

「『バードマン』と並びましたか……」

「『グリード・クエーサー』で『ハーピィ・レディ1』に攻撃! …………あ」

「え?」

「ちょっと目を閉じろ」

「え? え?」

 

 意味もわからずといった様子だが、言われた通りに目を閉じたようだ。

 『グリード・クエーサー』が両腕で『ハーピィ・レディ』を掴み持ち上げる。

 そして次の瞬間。

 

 

 ゴリッ、ブチブチッ。ギチャッ。

 

 

「……!?」

「見るな。絶対に見るんじゃないぞ。見ても責任はとれん」

 

 一瞬目を開けそうになった風見ヶ丘にそう言いつける。今の音に対して耳を塞ぎ始めたから、多分聞こえていないと思うが。

 ゆっくり、じっくりと咀嚼するさまは一見優雅にすら見える。……いや、無理があった。

 最後にクエーサーが『ゴクン』と喉を鳴らすと、風見ヶ丘が恐る恐る目を開けた。

 

「…………………………悪趣味です」

「……正直、すまない」

 

 なんとも気まずい。お互いの間に微妙な空気が流れた。

 クエーサーの口の周りについている赤い液が、事実を物悲しく語っているように思えた。

 

風見ヶ丘絢 LIFE4000 → 3500

 

「……グ、『グリード・クエーサー』が相手を戦闘破壊した時、破壊したモンスターの星を吸収する。『ハーピィ・レディ1』の星は四。そして星が上がったことで、攻撃力が増加する」

 

『グリード・クエーサー』星7 → 11 ATK2100 → 3300

 

「そして俺は『ヒール・ウェーバー』(DEF1600)を守備表示で召喚し、効果発動。自分の場のモンスター一体を選択し、そのモンスターの星の100倍のライフを回復する。『グリード・クエーサー』(星11)を選択し、ライフを1100ポイント回復する」

 

 鏡のようなモンスターが場に現れ、『グリード・クエーサー』の姿を映し出す。

 その身体から光の粒子が降り注ぎ、俺のライフを回復させていく。

 

早乙女ケイ LIFE1100 → 2200

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「うぷ…………ど、ドロー!」

 

 先程の光景を直に見たわけではないだろうが、音だけで参ってしまったようだ。

 ……今後このカードの使用は控えよう。

 

「モンスターをセット! カードを一枚伏せて、ターンエンド!」

 

 攻撃力3300を超すモンスターはそうそう用意できるものではない。セットモンスターが先程使った『人喰い虫』のようにモンスターを破壊するような効果を持っている可能性も無いとは言えないが、見たところ風見ヶ丘のデッキはハーピィ主体の風属性。そのデッキで相手を破壊するようなカードがあるとは考えにくい。

 

「俺のターン、ドロー。『グリード・クエーサー』(ATK3300)で『バードマン』(DEF600)を攻撃!」

 

 守備表示の『バードマン』をつかもうと、クエーサーが手を伸ばす。

 しかしそれよりも早く、『バードマン』がフィールドから姿を消した。

 

「罠カード『モンスターレリーフ』発動! 攻撃される時、そのモンスターを手札に戻します!」

 

 なるほど。いきなり消えたのはその効果か。

 

「更に手札から四ツ星のモンスターを特殊召喚できる! 私は『聖鳥クレイン』(DEF400)を特殊召喚します!」

 

 翼人に代わり現れたのは真っ白な鶴。しかし翼を折りたたんで大人しくしている限りでは、脅威には感じられない。

 

「そして『聖鳥クレイン』の効果発動! 特殊召喚された時、カードを一枚ドローする!」

「へぇ……?」

 

 モンスターを替えながらカードもドロー。そして『聖鳥クレイン』を破壊すれば攻撃力は上がっても、なんらかの方法で特殊召喚された時またドローされてしまう。

 相性が考えられている、良いコンボだと言えよう。

 

「ならばセットモンスターを攻撃する!」

 

 長い腕を振りかぶって、裏側のモンスターを殴りつける。

 表返されたモンスターは『ハーピィ・レディ3』。ハーピィ・レディのラストナンバーだった。

 今度はそのまま破壊し、破壊されエネルギーとなったハーピィを吸収した。

 しかし吸収が終わる頃、途端にクエーサーは動きを止めた。

 

「『ハーピィ・レディ3』の効果発動! この子と戦闘を行ったモンスターは、二ターンの間攻撃できなくなる!」

「……なるほどな」

 

 攻撃できなければ、相手から攻撃してこない限りは安全。ニターンの間、俺は攻め手を封じられたのに等しい。

 

「だが、破壊したことで『グリード・クエーサー』の星は更に上昇する」

 

『グリード・クエーサー』星11 → 15 ATK3300 → 4500

 

「そして、『ヒール・ウェーバー』の効果発動! スターライト・ウェーブ!」

 

早乙女ケイ LIFE2200 → 3700

 

「これで俺のライフは3700。ニターンの間にどうにかしないと、勝ち目が更に薄くなるぞ? ターンエンドだ」

「わ、わかっていますよ! ドロー! 私は魔法カード『古のルール』を発動! 手札から星五以上の通常モンスターを特殊召喚します! 私が呼ぶのは、『始祖神鳥シムルグ』(ATK2900)!」

 

 ――――ビュオオォォッ!!

 巨大な突風を背に、巨大な怪鳥が姿を現した。

 

「このモンスターは効果モンスターですが、手札にあるときは通常モンスターとして扱います! そして風属性モンスターの召喚コストを一つ下げることができます! 更に! 生贄を一体減らしたことで、『聖鳥クレイン』を生贄にこのモンスターを召喚します! きなさい、『ハーピィズペット竜』(ATK2000)!!」

 

 ――――ジャラッ

 鎖のぶつかり合う音がする。

 首に繋がれた鋼鉄の首輪。しかしその装飾は気高いものであり、気品さえ溢れているのが見て取れる。

 長い首を持った、ハーピィの忠実なしもべのドラゴンが場に現れた。

 

「『ハーピィズペット竜』……。孔雀舞の使っていた、ハーピィの忠実なしもべの竜か……」

「ええ。あいにく今はハーピィ・レディがいませんけどね」

 

 しかしこれでも、攻撃力は『グリード・クエーサー』の方が上。『青眼の究極竜』と同等の力を持つこのモンスターを攻略するには、いささか足りない。

 

「バトル! 『始祖神鳥シムルグ』(ATK2900)で『ヒール・ウェーバー』(DEF1600)に攻撃! サウンザンド・ウィンド!!」

 

 神なる巨鳥の作り出す暴風が『ヒール・ウェーバー』を容易く吹き飛ばす。

 地面へ激突した『ヒール・ウェーバー』は粉々に砕け、破壊された。

 

「よし! ターンエンドです!」

「では俺のターン、ドロー」

 

 『グリード・クエーサー』は攻撃できない。他のモンスターでは上級モンスターに太刀打ちできない。となれば、このターンでできることはほとんどない。

 

「俺は、カードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー! 『強欲な壺』を発動! 二枚ドローします! 更に速攻魔法『手札断殺』発動! 互いに二枚捨て、二枚ドローします!」

 

 互いに残っていた手札は二枚。それら全てを捨て、改めて二枚のドローをする。

 必要ないと思い残していたモンスター二枚を墓地に捨てられたのは若干痛いが、現状では大した問題ではない。

 問題なのは、相手が何を捨てたかにある。

 

「……よし! 私は魔法カード『受け継がれる力』を発動! 『始祖神鳥シムルグ』を生贄にして、その攻撃力を『ハーピィズペット竜』に受け継がせる!」

 

『ハーピィズペット竜』ATK2000 → 4900

 

「『グリード・クエーサー』の攻撃力を超えたか……」

「『ハーピィズペット竜』! 『グリード・クエーサー』を攻撃しなさい! セイント・ファイヤー・ギガ!!」

 

 顎口に青白い炎を溜め、『グリード・クエーサー』へ目掛け勢い良く吐き出した。

 迫り来る炎を食らいつくさんとばかりに大きく口を開けるクエーサー。しかしその炎がクエーサーに届くことはなく、未然に消滅した。

 

「そ、そんな!? どうして!?」

「……墓地にある『ネクロ・ガードナー』を除外することで、相手の攻撃を一度だけ無効にできる。残念だったな」

「えぇ~~…………やっと倒せそうだったのにぃ…………」

 

 顔中の筋肉を総動員させたかのように、顔いっぱいにガッカリを表現する風見ヶ丘。やっと訪れた千載一遇のチャンスを潰されれば、そんな顔もしたくなるだろう。

 ……正直、危なかったんだがな。

 先程の『手札断殺』で『ネクロ・ガードナー』が送られていなければ、今の攻撃で『グリード・クエーサー』は破壊されていた。

 俺の伏せカードはクエーサーの高攻撃力を更に活かすための『ギブ&テイク』、低攻撃力モンスターを守るための『ガリトラップ―ピクシーの輪―』の二枚。正直、失敗したかもしれない。

 だが悟られてはいけない。風見ヶ丘の性格を察するに、おそらく自分が優位に立った瞬間とことん舐めて掛かる性格だろう。それでプレイングが乱れるなら大いに利用するが……。

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド。そして『ハーピィズペット竜』の攻撃力も戻ります……」

「途中の勢いはどうした? 勝ちが見えたんじゃなかったのか?」

「う、うっさいですよ!」

 

 ――舐められるのは大嫌いだ。

 

「俺のターン、ドロー。俺は『逆巻く炎の精霊』(ATK100)を召喚だ」

『キヒヒヒヒヒ!』

 

 ハーピィ・レディ達に負けず劣らず、性悪な笑い方をしながら現れる。

 さて、どこまで持つかな?

 

「こいつは直接攻撃をすることができる。攻撃だ! ファイヤー・ブリーズ!」

「きゃっ!?」

 

 とても女性らしい……というか、女の子らしい驚きの声を上げる風見ヶ丘。

 目の前に炎の壁が迫れば驚きもするが、その壁は薄い。”そよ風”と名がつくだけあって、その威力は微々たるものである。

 

風見ヶ丘絢 LIFE3500 → 3400

 

「直接攻撃に成功したことで、『逆巻く炎の精霊』の攻撃力は1000ポイントアップする」

 

『逆巻く炎の精霊』ATK100 → 1100

 

「そして永続罠『ガリトラップ―ピクシーの輪―』を発動。このカードがある限り、攻撃力の一番低いモンスターに攻撃することはできない。更に次のターン、『グリード・クエーサー』の攻撃制限は解除される。ターンエンドだ」

「ぬぬぬぬぬ……! ドロー!」

 

 この状況でも尚気丈に睨みつけてくるが、その目にはうっすらと涙があった。手札も少なく渾身の反撃を躱された挙句、確実にダメージを与えてくる破壊できない相手が出てきたのだ。未だに戦意喪失しないことを褒めたいくらいである。

 ――またあの感覚が戻ってきたが、やはり、アレだろうか。

 

「私は、魔法カード『貪欲な壺』を発動! 墓地の『始祖神鳥シムルグ』、『バードマン』、『ハーピィ・レディ1』、『ハーピィ・レディ2』、『ハーピィ・レディ3』をデッキに戻してシャッフル! 二枚ドローします!」

 

 最後の一枚から新たに二枚にまで手札を増やしてきた風見ヶ丘。

 それを引いた瞬間、目元を拭いカードを伏せた。

 

「私はカードを一枚セット! ターンエンド!」

 

 ……ほう。

 ドローした時、明らかに眼の色が変わった。

 ならばあのカードは逆転を可能とする罠。そのまま馬鹿正直に攻撃すれば間違い無く罠にハマる。

 

「俺のターン、ドロー」

「………………………………」

「………………………………」

 

 互いに視線が交錯する。

 たった今、手札にきたのは速攻魔法『突進』。これを使えば『グリード・クエーサー』の攻撃力は5200まで上がり、ダメ押しで墓地のモンスターを『ギブ&テイク』で相手フィールド上に召喚しクエーサーの星を上げれば、『ハーピィズペット竜』を攻撃してデュエルを終わらせるに充分な攻撃力となる。

 

「………………俺は『突進』を発動! 『グリード・クエーサー』の攻撃力を700ポイントアップさせる! さらに『ギブ&テイク』発動! 墓地の『人喰い虫』を相手の場に守備表示で特殊召喚し、『グリード・クエーサー』の星を『人喰い虫』の星分上昇させる!」

 

『グリード・クエーサー』星15 → 17 ATK4500 → 5200 → 5600

 

「攻撃力……5600…………!」

 

 圧倒的な攻撃力を前にして、なおも折れない闘争心。

 ……久しぶりだな。あいつら以外で、こういう相手は。

 

「この攻撃で決めてやろう! 『グリード・クエーサー』(ATK5600)で『ハーピィズペット竜』(ATK2000)に攻撃だ! ラスト・クエーサー!!」

 

 今までと違い、その大きな口にエネルギーを溜めていく。

 じっくり、じっくり時間をかけ、エネルギーを圧縮、濃縮させる。

 

「まだ諦めない! 絶対に勝って、取材させてもらうんだから! 罠カード『ヒステリック・パーティー』発動! 手札を一枚捨てて、墓地の『ハーピィ・レディ』を可能な限り召喚する! きなさい、ハーピィ三姉妹!」

『キャハハハハハハハ!!』

 

 フィールド上に舞い戻った三体の『ハーピィ・レディ』。その三匹は守備表示だが、いるだけで『ハーピィズペット竜』の攻撃力を上昇させる。

 

「『ハーピィズペット竜』の攻撃力は『ハーピィ・レディ』の数の300倍アップする! 更に『ハーピィ・レディ1』の効果で300ポイントアップする!」

 

『ハーピィズペット竜』ATK2000 → 2900 → 3200

 

「だが攻撃力は届かない。ターゲット、ドラゴン! 打てェ!!」

 

 クエーサーのエネルギーは巨大な塊となった。

 照準を合わせ、『ハーピィズペット竜』に向けて放たれた。

 避けるすべは、ない。

 しかし。

 

「……あいにく私は……………………最後に美味しいところを持っていくのが得意なんですよ!」

 

 そう言って一枚のカードを発動した。

 

「罠カード『奇策』発動!」

「奇策だと?」

 

 聞いたことのないカードに一瞬戸惑う。

 風見ヶ丘は手札から一枚のカードを捨てて、俺に言ってきた。

 

「このカードは手札のモンスターカードを墓地に送り、その攻撃力分だけ相手の攻撃力を下げる! 私が捨てたのは『始祖神鳥シムルグ』! つまり、『グリード・クエーサー』の攻撃力は2900ポイントダウンする!」

「な、にィ!?」

 

『グリード・クエーサー』ATK5600 → 2700

 

 一度した攻撃を止めることはできない。

 高密度エネルギーは徐々にその勢いを殺し、最初の半分以下の大きさとなった。

 そして相対する『ハーピィズペット竜』は顎口から吐き出した炎により、そのエネルギーを巻き込みながら弾き返した。

 

「跳ね返せ! セイント・ファイヤー・ギガ!!!」

 

 青白い炎はエネルギーを増し、巨大な炎となりクエーサーを飲み込む。

 先程のように途中で消されることもなく、正真正銘の破壊。

 クエーサーは炎に包まれながら、地に落ちた。

 

早乙女ケイ LIFE3700 → 3200

 

「…………………………やった?」

「………………」

「やった…………やった! やったぁ!! 倒したぁ!!」

 

 体全体で喜びを表現する風見ヶ丘。反対に俺の頭はクールダウンしていた。

 ――倒されたか。倒せない、とは思っていなかったが、倒されてしまったか。

そう考えていて、頭を振った。

 

「……ターンエンドだ」

「はっ……!? あ、た、ターンエンドですね! わ、私のターン、ドロー! ぜ、全モンスターで、一斉攻撃ぃ!!」

 

 三体のハーピィ・レディ、一匹のドラゴンが続けざまに攻撃してくる。

 それら全てを、甘んじて受けた。

 

早乙女ケイ LIFE3200 → 0

 

 

 

 

 

「……じゃ、受けてくれますね!?」

 

 デュエルが終わり、勝ったということに気づいた風見ヶ丘はそう詰め寄ってきた。

 というか、近い。

 

「わかった、わかった。今日の放課後ならいいが……」

「放課後ですね!? 迎えにいきますから待っててくださいよ! あ、これ私のPDAのアドレスなので、なにかあれば連絡くださいね! それじゃ!」

 

 メモ帳から千切ったであろう紙を押し付けられ、それだけいうと教室の方向へ走り去っていった。

 ……風というよりは、嵐のような奴だったと思ったのは言うまでもない。

 

「…………用事は終わったのか?」

「……いつから気づいてたんだい?」

「終わった後、あたりからだな」

「俺の方はとっくにな」

 

 窓ガラスを開け、身を乗り出しながら優介がため息をついた。

 

「なんだその意味深なため息は」

「……最後、なんで手抜いたんだ?」

「…………わかりかねるな」

「手札。『魔法の筒』があったんだから、『逆巻く炎の精霊』でダイレクトアタックした後、最初に攻撃してきた『ハーピィズペット竜』の攻撃を反射すれば勝てただろ?」

「………………」

 

 そう。最後に引いたのは『突進』だが、それより前、『手札断殺』の時に『魔法の筒』が手札にきていた。

 優介の言うとおり、使っていれば勝っていた。

 

「君が女子に気を使えるなんて知らなかったよ」

「たまにはいいだろ」

「よくわからないね」

「自覚はある」

 

 それだけいうと、優介は窓から廊下へ入り教室へ向かった。当然、俺も同じように教室へ戻る。

 ――ああ、ようやくわかった。

 デュエル前から感じていたあの感覚。

 なんとなく頭でわかっていたものの、どう言っていいものかわからなかった。しかし、今ようやく霞が晴れたようにクリアな頭で思い出した。

 

 ――――この感覚は、加虐心、嗜虐心だな。

 

 

 

 後日、この取材を受けた新聞が発行され掲示された。

 見出し『アカデミアの未来を担う大物ルーキー達』とあったのですぐに分かった。

 しかし。

 

「コラぁ待てェェェェ!! 誰が『生粋のサディスト』だァァ!!」

「書いたもん勝ちなんですよー! 諦めてくださーい!!」

「諦められるかァー!!」

 

 俺と風見ヶ丘は、一日を使った壮大な追いかけっこをすることとなった。

 

 

To be continued...


 
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