No.513214

魏エンドアフター22

かにぱんさん

(;´Д`)

2012-11-29 01:25:13 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:8259   閲覧ユーザー数:6028

「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

侍女「どどど、どうしたんですか!!??」

 

叫び声を聞きつけた侍女があわてて声をかけてくる。

 

一刀「あぁいや、うん。

なんでもないんだ、ごめんね」

 

冷や汗だらだらになりながらも笑顔を貼り付け対応する。

本当は死ぬほど痛い。

というか死んだかと思った。

俺がそう言うと心配そうな顔になりながらも侍女は城の中へ消えていく。

そして俺のこの激痛の原因。

それは──

 

 

 

一刀「……氣を使うと死ぬほど痛い」

 

どこを、という訳ではない。

強いて言えば全身が内側から破裂するかのような痛み。

あの世紀末救世主の技を食らった人は多分こんな痛みだったに違いない。

この痛みならあの奇声にも納得がいく。

それはさておき、氣が使えないという風の言葉を鵜呑みに出来るわけが無く、

こうしてひっそりと氣を使ってみた。(叫んだけど

するとどうでしょう、痛いこと痛いこと。

まだ春蘭にどつかれたほうがマシな気がする。

痛みには強いと思ってたけどこれはちょっと次元が違う。

無理です。

 

一刀「はぁぁぁぁぁ……どうするかなぁ……」

 

あのあと華陀に氣は回復するものなのかと聞いたところ、放っておけば元に戻るとのこと。

でもそれを聞いたのはもう1ヶ月も前の事でして……

うう……早く戻らないかなぁ……

俺にとって「氣」は何よりも無くてはならないものだ。

これのおかげで今までだってこの世界の人相手にいい勝負が出来てたし、あの恋を相手に善戦した。

故にあれはどうしても必要なもので……

 

一刀「くそ……」

 

どうしようもない焦燥感が胸を焼く。

もし今白装束が襲ってきたら?

もし五胡が襲ってきたら?

俺はもう皆の後ろで見ている事なんて出来ない。

そんな事を考えただけでも気が狂いそうになる。

俺はちゃんと戦えるようになるのだろうか。

ずっとこのままなんて事ないよな……?

焦りと不安に押しつぶされそうになり、大きく息を吸う

 

一刀「……?」

 

そして息を吐こうと、視線を戻したところに一太刀、切られた跡がある岩が目に入る。

あれは確か……真桜に刀を作ってもらった時の鍛錬でつけた傷だったっけ。

大きく息を吐きながらふとそんな事を思い出した。

でも全然刃が通らなかったんだよな。

まぁ岩だし当たり前って言えば当たり前なんだけど。

そもそもさ、岩を真っ二つに出来る人間なんてこの世界の人だけじゃね?

少なくとも俺のいた世界にそんな人間は──

 

 

 

 

一刀「…………」

 

 

 

 

いたわー。

いましたわーそんな人。

普通に岩だろうがなんだろうが真っ二つにする人がいましたわー。

しかもあの人は氣なんか全然使ってなかったと思う。

しかも刀はこのどちらのものよりも劣っていたはず。

 

一刀「じいちゃん……」

 

あれはあれで現代に生きる化け物なのではないだろうかとも思うが、

じいちゃんのおかげでここまでこれたという事もある。

ま、待て。

落ち着け俺。

思い出せ。

じいちゃんの身のこなしとかじいちゃんの太刀筋とか!

とにかくあの鍛錬の時を思いだせ!俺!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「も、もう無理勘弁……ゲ、ゲボる……」

 

「まったく。こんなんで疲弊しておるようじゃまだまだわしには勝てんな。

 ……雑魚め(ボソッ」

 

一刀「何か言ったかこんにゃろう」

 

この老いぼれのどこにこんなパワーが──

 

「いいぇえええあああいしゃあああああ!!!!」

 

一刀「あいだぁ!?いきなり何すんの!?」

 

いきなり奇声を上げたかと思えば、竹刀で殴られた

 

「今失礼な事考えたじゃろう。わしはまだピチピチの○8歳じゃ」

 

もう十の位を隠してる時点で負けだろ……。

 

「まーお前はあれじゃ。

 身体に力を入れすぎなんじゃと何べんも言ってるだろうに。

 居合いというのは脱力からの瞬発力が肝心。

 故に瞬間火力が爆発的に上がる。

 お主は常に身体が強張っておる。

 それじゃ只刀を鞘から引き抜いてるだけじゃい。

 ほんっと鈍くさいのう」

 

一刀「そんな力抜いたら立つ事もままならないんですけど」

 

実際俺の中ではかなり力を抜いている。

これ以上抜いたら本当に立ってすらいられないと思う。

 

「違う違う、そんな力抜いたら日常生活もままならんじゃろうが。

 もっとこう、なんていうか……

 ああもうめんどくさっ。

 お前めんどくさっ。

 馬鹿じゃねぇの!お前馬鹿じゃねぇの!?

 ええから脱力せぇや!!」

 

一刀「ええ!?ちょ、なんだそれ!?いい加減すぎるだろ!?」

 

「馬鹿もん!!!武は頭で考えても体得できん!

 身体で覚えるんじゃ!!ほれ!へばっとる暇があったら身体動かせぇ!!」

 

 

 

 

…………

……

 

 

 

 

あ、あれ?ろくな記憶が残ってないぞ?

何かいろいろと駄目じゃねこれ。

え?詰んだ?

しかも結局勝手が分からずただ著しく疲労して終わった気がする。

 

一刀「仕方ない、こっちにじいちゃんはいないし……一人でなんとかするしかないかぁ」

 

それにしても今思い返すとじいちゃんとの鍛錬は相当適当だったように思う。

なのに基礎がしっかり身体に叩き込まれているのは何故だろうか。

ちょっと腹立つけどやっぱり何だかんだ教え方が上手いのだろうか。

……まぁそれは置いといて。

早速鍛錬を開始しようとしたものの、

じいちゃんが居てもできなかった事を俺一人でできるはずもなく。

 

一刀「参ったな……」

 

まずどうしたらいいのかも分からないのに何をどう鍛錬するんだ?

しかも今はちょっとでも気張ると氣が流れ出して激痛が走るというおまけつき。

ぶっちゃけもう氣とか漏れても関係なしに鍛錬してしまおうかという考えもあるが

それをするとやばい。

何がやばいって全部がヤバい。

前にも一度だけこうして隠れてちょっと無茶をしたことがある。

当然の如く激痛が襲ってきたわけなんだけども、それと同時に後方から矢も襲ってきた。

身体とぎりぎり触れるか触れないかというくらいの距離に射られた矢。

振り返るとそこにはいつもの微笑でこちらに弓を構えている秋蘭がいた。

背後に「次無茶したら殺す」という文字が浮かんで見えた──気がした。

 

 

 

 

そして俺があまりの恐怖に身を竦めていると──

 

 

 

 

ズシャっと、頭上からそれはそれは立派な大剣が降ってきて地面に突き刺さった。

俺の前髪をかすって。

上を見上げれば2階の窓から笑顔でこちらを見ている春蘭。

 

春蘭「あぁすまない。

   得物の手入れをしていたら手が滑ってしまった」

 

手入れをしていてどう滑ったら窓の外に放り投げられるんだろう。

しかも的確に俺目掛けて。

ちびりそう──というかちょっとちびった気がする。

 

そして──

 

 

 

 

「ハァッ!!」

 

 

 

 

俺のすぐ横の地面がえぐれた。

 

凪「すみません隊長。

  少し目測を誤ってしまって」

 

いや今お前掛け声出してたよね。

絶対狙ったよね。

そして何で現在進行形で拳に氣を溜めてるの?

 

 

というように恐らく華琳からの命令で常に俺は監視されているらしい。

俺が勝手に無茶しないようにという事なんだろうけど逆に殺されそうだ。

さすがにもう身体の傷は癒えてきてるので只の鍛錬に関しては割と甘くなっている──と思いたい。

とはいえやりすぎれば今度は何が飛んでくるかわからない。

数々の死線を潜り抜けてきた歴戦の勇士でもこの死線は潜り抜けられないだろう。

というわけで極力氣が零れ出ないように気をつけなければならない。

自分の意思で出てるわけじゃないから気をつけるも何もないんだけどね。

 

 

 

 

 

 

よし、まずは力を抜いて刀を構えて──

 

一刀「ふっ!!」

 

 

 

 

 

 

ビキッ!!

 

 

 

 

 

 

一刀「ぬほおおおお!?攣った!思いっきり攣った!!」

 

そういえば俺はここ最近ずっと身体を動かしてないじゃないか!

ぉぉぉ……こ、これは……!

力を抜いている状態から一気に力を全身に込めるので身体には大きく負担がかかる。

それを今まで療養のために身体を休めていた者ともなればこうなるのは必然だった。

 

一刀「ぉ、ぉぉぅ……」

 

武士の魂とも言える刀を放りだし、地面にのた打ち回っていると

 

 

 

「あら、一刀じゃない。

 ヤッホー♪──て、どうしたの?」

 

 

この陽気な声は──

 

 

一刀「雪蓮か」

 

顔は冷静になりながらも悶絶している俺を見る雪蓮はそれはそれは奇怪なものを見るような目だった。

 

一刀「いやほら、俺今までずっと身体動かしてなかったからさ。

   久々に鍛錬でもしようと思ったらね。

   来たねこれ」

 

鍛錬をしようとして刀を抜いたら身体が攣って悶絶しているなんて情けない事この上ない。

 

雪蓮「ふーん……あの大会の時も思ったけど、一刀の得物は細いし妙な形をしてるわよね」

 

俺の傍らに放り出された刀を1本手に取り眺める。

 

雪蓮「それにすっごく軽いし──」

 

何度か片手で振り回し、何を思ったのか正面の小柄な木に向かって構え──

 

雪蓮「ハッ!」

 

突然正面の木に刀を振り切ったが、刀は木をなぎ倒すどころか半分ほどしかめり込んでいなかった。

 

雪蓮「……全然威力もないし」

 

少しがっかりしたような顔を浮かべる。

 

一刀「そんな力任せじゃ得物のほうが駄目になっちゃうよ。

   この世界にある武器は全部叩き切るとか叩き潰す事に特化してるみたいだけど」

   これは切り裂く事に特化してるんだ。

   そのまま力を込めないで引いてみて」

 

雪蓮は半分程めり込んだ刀をもう一度握り直し、

言われたように力を込めずに刀を引き寄せた。

するとその半分程めり込んでいた場所から軽く引いただけで、その木は容易く倒れた。

 

一刀「な?」

 

雪蓮「…………」

 

一刀「まぁこの得物は真桜特製だから特別切れ味は良いんだけどね」

 

雪蓮「へぇ……ふぅーん……」

 

大会の時もちらっと刀に興味があったようだが、

今目の当たりにした出来事により、更に興味がわいたようだった。

 

一刀「はい、というわけで返してね。

   これからやらなくちゃいけないことがあるから」

 

ひょいと雪蓮の手元から刀を取り、先ほどの岩がある場所へ行く。

 

雪蓮「やらなきゃいけないこと?

   さっきの地面にのた打ち回ってた、あれ?」

 

一刀「ちげぇわ」

 

そう言いながら岩に向かって居合いの体勢を取る。

 

雪蓮「?、何?この岩を切りたいの?」

 

一刀「うん。まぁ岩を切るなんて普通に考えたら無理なのは分かってるんだけど──」

 

雪蓮「ん?できるわよ?」

 

すたすたと岩の前まで歩き、南海覇王を抜き

 

雪蓮「とうっ♪」

 

まるで発破で吹き飛ばしたような爆音が響き

 

雪蓮「ね?♪」

 

岩を砕いた。

 

 

一刀「いや……ね?♪じゃなくて……。

   まぁ確かに切ったといえばそうなんだけどさ、

   そうじゃないというか……俺の話聞いてた?」

 

雪蓮「なによぉ、ちゃんと叩き切ったじゃない」

 

うん、確かにね。

そうなんだけどさ、これ斬ってなくない?砕いてない?

破片を見れば一目瞭然。

切ったというなら綺麗な切断面が残るはずだが、

雪蓮が「切った」痕は粉々に砕けた岩が転がっている。

つくづく恐ろしい腕力の持ち主ばっかりだな……もう皆素手で戦えばいいじゃん。

 

一刀「まぁいいや。

   とにかく腕力の無い俺にはこういう風に岩を砕く事なんてできないの。

   だから斬るの、そのために鍛錬するの」

 

雪蓮「ふぅん……。

   ね、一刀と同じように鍛錬すれば力が無くても誰でも岩を切れるようになるの?」

 

一刀「誰でもっていうか……まぁ毎日鍛錬すればなるとは思うけど、なんで?」

 

突然そんな事を切り出す雪蓮の思惑が理解できず、意図を聞いてみるが

 

雪蓮「ん?ん~……うふふ♪まぁまぁ、じゃ、お邪魔して悪かったわね」

 

一刀「?」

 

はぐらかされて終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪蓮たちがこちらに来てからだいぶ経つ。

が、未だ彼女達が帰る気配は無い。

雪蓮曰く

 

「だぁいじょうぶよ、うちには冥琳がいるんだから♪」

 

とのことだが、雪蓮が言うと大丈夫に聞こえない。

それにあの人の性格だから黙って出てきた可能性もある。

……まぁ他国の政務を心配できるほど俺に余裕なんか無いわけなんだけど。

 

稟「手を動かしてください。

  力仕事は出来ないのですから政務くらいしっかりとお願いします。

  貴方は眠りこけていたから知らないと思いますが

  こちらはいろいろと大変だったのです」

 

一刀「あ、じゃあ俺ちょっと警邏の様子でも──」

 

風「なにか?」

 

一刀「……いえ、なにも」

 

最近皆俺に冷たくない?

何か無言で威圧してくるよね。

そりゃね。

勝手な行動して何日も眠り続けて迷惑掛けたのは悪いと思ってるけどさ。

 

稟「ぶつぶつ言ってないで早く終わらせてしまってください。

  私の分はもう終えたので失礼させていただきます」

 

一刀「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀「ん?」

 

冷たい激昂に涙を流し、政務に取り組んでいるとなにやら背後から視線を感じる

 

一刀「……」

 

振り向いてみるがそこには誰もいない。

それどころか視線を感じた先は扉で、その扉は完全に閉まっている。

誰かが開けたのなら音でわかるはずだし、覗いているなら少しでも扉は開いているはず。

 

一刀「ぉ、ぉぉぅ……」

 

もしや物理的には触れられない者に?

詳しく言えば心霊的な何か。

 

一刀「お、おい、風。何か視線を感じないか?」

 

風「?、いいえ?お兄さんも自意識過剰ですね」

 

否定された上にさりげなく罵倒された。

いやしかし風は視線を感じないらしい。

と、なると俺にのみ視線を注いでると言う事になるが……

 

 

 

その日、1日中俺の背後から感じる視線は消えなかった。

 

 

 

 

 

一刀「うーむ」

 

昨日の部屋で感じた視線は感じられない。

やはり気のせいだったのだろうか。

確かに見られてるような気がしたんだけどなぁ。

風の言うとおり俺って自意識過剰なのか?

確かに気のせいと言われればそのような感じもしなくはない。

むしろそう考えるほうが普通なのかもしれない。

 

一刀「ブツブツブツブツ……」

 

 

 

ドンッ

 

 

一刀「ぉぉう!?」

 

昨日のことを考えながら歩いてると、背中を結構な力で押された。

こけた。

 

 

星「何をぶつくさ言っておられるか一刀」

 

一刀「うん、人に声を掛けるときはまずは名前を呼ぼうね」

 

星「何度も声をかけたではありませんか。

  なのに私を無視してブツブツブツブツと……」

 

あれ、そうだったのか。

それは悪い事をしたな。

でも何でこけた俺の背中に座ってるのこの人。

柔らかい感触が背中に広がるのでいくらでもばっちこいだが。

 

星「おや、一刀は女性に乗られる事にも慣れているようだ。

  これは期待できそうですな」

 

何やら怪しげな笑みを浮かべてはいたがどいてくれたのでよっこらせと立ち上がる。

 

一刀「で、俺に何か用事か?」

 

星「ええ、とても大切な事です。

  これからの私と一刀にとって、何よりも大切な事です」

 

人差し指を立てながらずいっと顔を近づけてくる。

 

一刀「な、なに?」

 

星「…………」

 

一刀「……?」

 

 

 

 

 

 

 

星「いつ、私を抱いてくださるのですか?」

 

一刀「……はい?」

 

すごく真剣な顔で、とんでもない事を口走った気がする。

 

一刀「な、なんて?」

 

星「ですから、いつ私を抱いてくださるのかと聞いているのです」

 

一刀「いや、え、何、いきなりどうしたの」

 

いきなり何を言い出すんだこの子は

 

星「貴方は私を愛してくださっているのですよね?」

 

一刀「う、うん」

 

改めてそう言われるとすごい照れるんですけど。

 

星「私も一刀を愛しています。

  ここに愛し合っている一組の男女が。

  ならばする事は一つですな?」

 

一刀「いや、うん、言わんとしてる事はわかるんだが、

   ちょっと極論すぎないかね、あなた」

 

貴方が好きよ、俺も好きだよ、じゃあ絡み合いましょうってのはちょっと……

 

星「そんなことはありませぬ。

  若い男女が愛し愛されているのに何もしないとは何事か!

  神への冒涜にも程がある!」

 

何の神だ。

顔だけ見ると只事ではないような感じがするのに話の内容は猥談というシュールな画。

しかも何かすごい怒られたんだけど。

え、俺が間違ってんの?

 

一刀「そ、そうなんだ。

   えっと……じゃあ今夜──」

 

 

「ほう」

 

 

一刀「ふひゃあ!?」

 

突然耳元で囁き声。

思わずその場から飛びのいてしまう。

……何いまの情けない悲鳴。

 

凪「ああいえどうぞお構いなく。

  続けてもらって結構です。

  隊長が今夜何をするのか、とても興味深いです」

 

どこから出てきたのか、いつの間にか背後に凪が立っていた。

不満そうに。

 

一刀「な、凪か。

   いや特にこれといって何も……な?」

 

星に助けを求めるように視線を送る。

……するとこちらもすごく不満そうな顔をした後に、

何故かニヤっと嫌な笑みを浮かべた。

 

星「ええ、特に何もおかしなことはありませぬな。

  只愛し合う男女の営みをする約束をしていただけで」

 

うおおいっ!

わざとだ。

絶対わざとだ。

絶対荒波を立てて楽しむつもりだ間違いない。

 

凪「なるほど。

  英雄、色を好むと言いますし、

  隊長の私事について自分などがどうこう言えるはずもありません」

 

冷静な事を言ってるけどものすごいジト目で見られてる。

絶対ふてくされてる。

こういう風になった凪をなだめるの大変なんだよなぁ。

……そこがかわいいんだけど。

──ってそうじゃない。

 

一刀「あの、だからね凪さん。

   とりあえず冷静になって俺の話を──いぎッ!?」

 

凪を説得?しようと話かけた瞬間。

右腕にとてつもない痛みが走った。

 

一刀「……?」

 

しかしそれも一瞬の出来事、

腕を上下に動かしても手を握ったり開いたりしても先ほどの痛みは無い。

 

凪「……?隊長、どうかしましたか?」

 

ふてくされていた凪も彼の異変に気づいたのか心配そうな眼差しを向ける

 

一刀「え?あ、あぁいやなんでもないんだ、うん……」

 

その一瞬の痛みのせいか、異常な量の冷や汗が見られる

 

星「一刀……?もしや体調が優れないのですか?」

 

自分でも何も理解できていないためよくわからない。

今の痛みは何なのだろうか

 

一刀「そ、そうなのかな。

   ちょっと今日は部屋でおとなしくしてるよ。ごめんね」

 

凪「い、いえ!お身体は大事にしてください。

  自分こそ……申し訳ありませんでした」

 

深々と頭を下げられてしまう。

あぁぁぁあああやめて!すごい罪悪感!やめて!

 

星「ふむ、私も少々悪戯が過ぎたようです。

  申し訳ありませぬ」

 

やっぱり悪戯だったんですね。

すごく精神的に負担が掛かる悪戯ですね。

それでも俺は皆が大好きです。

そのまま凪と星に自室に連れられ、二人は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

一人寝台に腰掛け、先ほどの痛みの理由を探る。

冷静になればすぐに分かった。これは後遺症だ。先日華陀に言われた事が鮮明に頭に浮かぶ

五感、最悪は命を失う事になる。

でもそれはこれ以上無理な氣の使い方をしたらであって──

腕を組み頭をかしげる。

これ治るよね?

 

……すごく不安になってきた

まぁ考えても仕方ない。

とりあえずは安静に過ごそう。

そうでなくても今の俺は使い物にならないんだから。

そのまま寝台へポスッっと横になり、眠りに落ちた。

 

 

 

 

その日の政務を忘れていて次の日に地獄を見たのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……うーむ。

政務をしながら痛みの走った右腕を確認。

別に何も痛みは感じないしこうして動かしてみても何の違和感も無い。

やはりこの前のはちょっとでも氣を使ったからなのかなぁ。

……いやだから考えても仕方ないってば。

今はこの目の前の膨大な書類を片付けて──なにこの量。

白装束の襲撃により破損した城や町の修理経費。

新しく店を出すための許可証。

行商人からの仕入れ経費。

その他にも警邏の報告書や町の人々の意見や税収などの書類がこんもり。

今すぐ目の前の書類を燃やしてしまいたい。

平和になってからが大変と華琳は言っていたがまさかここまでとは……。

というかこういうのって華琳が決めるものじゃないのか?

俺の一存で決めていいの?

しかし愚痴を言って書類が減るわけでもないのでせっせと処理していく。

……お日様が眩しいねぇ。

 

 

なんとか一日の政務を全て終えた頃には日は傾いていた。

あー、このまま篭ってたら絶対身体にカビ生える。

というわけで気分転換をかねて町にでも──お?

渡り廊下を歩いているとやや遠くに劉備さんと関羽さんの後姿が見える。

あの人たちの国は大丈夫なのか?

主に政務が。

朝から書類の山を目の前に終わりを告げたのは夕焼けが眩しい時間。相当溜まってたんだなぁ・・・・いやいや。

蜀には確かに優秀な軍師が二人いるけど、

この量を二人でまわすのはキツいんじゃないか?

まぁそれを言ったら呉もそうなんだけどね。

あれはなんと言うか雪蓮だし仕方ない。

周愉さんには非常に同情する。

 

「お、北郷じゃないか」

 

うーん、と唸っていると後ろから声をかけられる。

あまり親しみのない声に誰だか分からなかった。

 

一刀「ん、あぁ馬超か。こんばんわ」

 

翠「何難しい顔してるんだ?……桃香様と愛紗がどうかしたのか?」

 

俺の視線の先を追って確認する。

というかこの人来てたんだ……

 

一刀「いやさ。

   俺はさっきまで自室でひたすら書類処理という拷問を強いられてたんだけど、

   蜀ってそういうの大丈夫なの?」

 

翠「ん?んーどうだろうな。

  桃香様は一生懸命やってくれるけどそんなに仕事ができる人って訳じゃあないからなぁ。

  こっちは大抵朱里と雛里がやってくれてるよ」

 

ほー、まぁその朱里と雛里というのが誰かは分からないけどそれなりには回ってるのかな?

 

一刀「というか君はこっちに居ていいの?手伝ったりとか──」

 

そういうと少しキョトンとし、すぐにカラカラと笑う

 

翠「あたしはそういう仕事は全然駄目だからなー。

  居ても居なくても同じだと思うぞ?」

 

いや、結構笑い事じゃないからね。

 

翠「それに星だけずっとこっちに居てずるいじゃないか。

  あたしだってたまには遠出したいんだよ」

 

結局こっちに居たいだけかーい。

観光旅行か何かと思ってるんじゃないかこの子は。

 

翠「五胡と白装束が攻めて来たときに世話になったしな。

  あたしも何か役に立てたらと思うんだ。

  主に警邏で」

 

と思ったらそうでもないらしい。

まぁ何か手伝ってもらうとしたら間違いなくこの子には政務は無理だろうけど……。

 

一刀「あれはどこも同じ状況だったからね、気にしないでよ。

   君達はお客さんなんだからのんびりしていけばいいよ」

 

翠「うーん、でもなぁ」

 

うむ、基本的にはいい子だと言う事がわかった。というか悪い奴なんかいないんだけどね。

 

一刀「まぁまぁ。

   もうすぐ夕飯だしそろそろ食堂に行ったほうがいいよ?

   季衣や春蘭に全部持っていかれちゃうから」

 

翠「なにぃ!?」

 

それだけは駄目だ!と急いで食堂に向かって走り──途中で振り返る

 

翠「北郷は行かないのか?」

 

一刀「俺はあんまり食欲がないんだ。

   町で軽く食べてくるから俺の分も食べちゃっていいよ」

 

なんと言うか最近いつも食欲が無い──訳じゃないんだけどがっつりはいけない。

鍛錬も満足にできてない上に政務に取り掛かりきりだからなぁ……加えて稀に来る脱力感と痛み。

 

翠「…………」

 

こちらを振り返った体勢のまま思案する。

……何だ?

 

翠「ちょっと待ってろ」

 

一刀「ん?」

 

言うが否やそのまま走っていく。

……何やら劉備さん達に話かけている。

何か話がついたのだろうか、二人を引き連れてこちらへ。

 

翠「よし、行くぞ!」

 

一刀「いやいやいや。全く話がわからないから」

 

翠「なんだよ、町に行くんだろ?

  だったら一人よりも人数が多いほうがいいじゃんか」

 

愛紗「やはりお前が勝手に話を進めていたのか。

   全く、北郷殿の都合も考えろ」

 

なんだよぉーと言いながらも関羽さんとギャーギャー言い合う。

 

一刀「あー別に迷惑じゃないから!

   むしろ嬉しいよ、一人は少し寂しいもんね!」

 

翠「ほら!北郷もこう言ってるじゃないか」

 

愛紗「お前が言わせたようなものだろう!全く……」

 

一刀「だー!もう遅くなっちゃうから行こうか!

   うん、皆にも俺の行きつけの店とか紹介したいしね!」

 

またも始まりそうだったので大声で静止。

とりあえず町に出よう

 

「じー……」

 

ん?

何やら視線を感じるかと思えば劉備さんがこちらを凝視している

 

一刀「えっと……何?」

 

あんまりジロジロ見ないでほしいんだけど・・・

 

桃香「うふふ♪」

 

な、何だ?

至近距離で見つめられてそんな眩しい笑顔を向けられたら……

ド、ドキドキしちゃうじゃないか!

 

愛紗「北郷殿。

   くれぐれも桃香様に不埒な真似はせぬよう──」

 

一刀「しないよ!?」

 

どうやらまだ凪たちの爆弾発言を気にしているようだった。

……俺ってずっとこの印象でいくの?

何だかやりきれない気持ちになったが馬超が催促するのでそのまま町に出る。

 

 

 

 

 

 

 

翠「やっぱりいつ見てもこの町は賑わってるよなー」

 

愛紗「ふむ……」

 

桃香「そうだねぇ。町の人もすごく活気付いてるし」

 

三人が関心するように口々に言う。

 

一刀「劉備さんのところも町は小さくないよね?

   というかむしろでかいと思うんだけど」

 

劉備「いえ、そうじゃないんです。

   なんと言うかこう、活き活きとしてるじゃないですか」

 

うん?うーん……いつも見慣れているせいかよく分からない。

 

愛紗「そうですね。

   我々も日々努力はしているつもりですが……

   ここは大変治安が良く、皆が心の底から活気づいています。

   これは北郷殿の案なのですよね?とても参考になります」

 

一刀「いやー皆が頑張ってくれてるからね。

   俺は特別何もしてないよ」

 

只知ってる知識を教えただけだしなぁ。

 

翠「そんな難しい話をしに来たんじゃないだろ?

  せっかく出てきたんだからさぁ……」

 

どうやらこういった話を聞くだけでも駄目らしい。

 

一刀「はいはい、じゃあとりあえず──」

 

「お、御使い様じゃないかい?最近見ないから心配してたんだよ。

 少しはあたし達にも顔見せに来ておくれよ」

 

案内しようとしたところへいつものおばちゃんからお声が掛かる。

 

一刀「あはは、いろいろあったからね。

   ちょっと忙しくてさ。

   元気そうで何よりだよ」

 

このおばちゃんは結構気さくに話しかけてくれるから俺としても嬉しい。

襲撃でもしやとは思ったけど無事でよかった。

そのまま少し話し、いつもの如く籠いっぱいの丸く太った桃。

 

一刀「いつもありがとね。

   また今度皆連れてくるからさ」

 

皆というのは北郷隊の事。

警邏の時、俺の班はいつもここで桃を買って食べる。

たまに凪に見つかって怒られるけど。

 

「なぁに、あたしらにはこれくらいしか出来ないからね。

 いつでも来ておくれよ」

 

おばちゃんから籠を受け取り別れる。

その後もしばらく警邏に出ていなかったせいか、いろんな人が声をかけてくれた。

 

「御使いさまー、明花はー?ずっと遊んでないよー」

 

一刀「あー、ちょっとね。

   明花に伝えておくよ。

   また今度皆で遊ぼうな」

 

ぐりぐりと頭を撫でる。

うん!と大きく頷き、子供達は遊びへ戻る。

 

 

翠「…………」

 

愛紗「…………」

 

桃香「…………」

 

あ、やべ。

案内するとか言っておいて話し込んでる場合じゃなかった。

 

一刀「ご、ごめん!すぐ行こう!とりあえずどこか飯が食えるとこに──」

 

三人が無言で俺を見つめる。

……すんません。

 

桃香「あ、いえ、そうじゃなくて。

   すごく……いいなって」

 

一刀「え?」

 

愛紗「ええ、我々の求める形がここにはあります」

 

翠「あたし達なんかはああして町人達と気さくに話すことなんてないからな。

  それに北郷と話してる人は皆すごく嬉しそうだった」

 

一刀「そうかな」

 

桃香「うん、私達のところは話しかけてくれる人はいるけど、どこか距離を感じるの」

 

うーん、よくわからないな

 

一刀「もともと俺は普通のどこにでも居る只の男だからね。

   貧乏臭い空気がにじみ出てるんじゃないかな」

 

カラカラと笑いながらそんな事を言う。

実際に俺は皆とずっとこうした関係でいるから他の事はよくわからない。

 

翠「ま、ここの人は皆幸せに暮らしてるって事さ。

  とりあえず腹減ったから飯食おうぜ」

 

一刀「あぁそうだったね。

   じゃあ俺がいい場所を案内しよう、伊達に警邏の途中に買い食いしてないぜ」

 

愛紗「それはいろいろと問題があると思いますが」

 

桃香「まぁまぁ、今はお仕事じゃないんだから愛紗ちゃんも楽しまないと、ね?」

 

どうやら関羽さんは劉備さんには頭が上がらないらしい。

ってそりゃそうか。

自分の主だし……俺の扱いがおかしなだけですねハイ。

そして三人を引き連れいろいろな場所を回った。

本当は軽く何か食べて帰るはずだったんだけど馬超の食欲がすごいのなんの。

結局店を4件ほど梯子してしまった

 

翠「お!北郷!あれもすごく美味しそうだぞ!」

 

一刀「え!?まだ食べるの!?」

 

店を出ても外で売っているものに目が行き、走りよっていく。

 

一刀「俺もうこれ以上食ったら吐く……ぅぷ」

 

愛紗「翠に付き合っていたら胃が裂けてしまいますよ。

   程ほどにしておかないと──ふふ」

 

そういうのは先に言ってくれないかなぁ。

まさかここにも大食いが居たとは。

俺が腹を抑え苦しそうにしているのが面白いのか、かすかに笑う。

……まぁ将軍の姿じゃないよね。

って馬超はまだ食ってるし。

見てる俺まで……ぅぷっ。

 

桃香「あはは」

 

まぁ笑ってくれてるしいいか。

退屈ではないみたいだしそれに

 

一刀「……あはは」

 

両手に饅頭を持って口いっぱいに詰め込んでいる馬超の姿は季衣と重なる。

思わず笑いが出てしまう。

そしてそのまま更に食い続けた馬超をいい加減にしろと関羽さんがしびれを切らし、

城に戻る事にした。

 

 

 

 

 

翠「いやー、食った食った」

 

本当にね。

俺は明日までに消化しきれる自信が無いよ。

 

愛紗「それでは私は部屋へ戻ります。

   今日は無理を言ってしまって申し訳ない」

 

一刀「いやいや、俺も楽しかったからさ。

   また今度行こうね」

 

桃香「うふふ♪約束ですよ。

   絶対また行きましょうね」

 

そう言って二人は自室へ向かい歩き始めた。

 

一刀「ん?馬超は戻らないの?」

 

馬超の部屋はあの二人の部屋とさほど離れていないから方向は一緒だと思うんだけど。

 

翠「ちょっとは元気出たか?」

 

一刀「え?」

 

 

 

 

 

 

翠「あたしは難しい事はよくわからないけどさ。

  あんたにあんな顔は似合わないと思うぞ」

 

……もしかしてこの子は俺を元気付けるために町へ行こうと誘ってくれたのだろうか。

 

翠「あの襲撃の時にさ。

  北郷の怪我を知ったあんたの隊がどうなったか知ってるか?

  ……すごく怒ってた。

  隊長が隊長がって……皆北郷の事を大事に思ってる。

  兵の心にこんなに入り込む将軍なんてあたしは知らないよ。

  だからさ、えっと──」

 

上手く言葉が見つからないなりにも一生懸命伝えようとしてくれている。

 

翠「ああああ!ま、そういう事だ。

  またなー!」

 

そう言ってタタッっと軽快に走っていく。

……本当に、すごくいい子だと思う。

ありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

それにしてもよくあんな食った後に走れるね。

歩くのもキツいんですけど。


 
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