私は目の前に出されたお椀の中に入っている謎の物質を凝視した。
「……これは何」
「……お味噌汁?」
「何で疑問符が付くの。むしろ付けたいのは私なんだけど」
「いやー、あたしもまさかこんなものを錬成するなんて思わなくてさ」
彼女は苦笑いしながら頭をかいた。エプロン姿に腕まくり。エプロンや服のあちこちに点々と染みが付いていて、所々失敗しながらも料理していたという様子だけは見て取れる。
ただ、その料理によって作られたのは、こげ茶色の粘液のようなものだったみたいだ。よく見ると中に白い塊や黒く薄平べったい物体が入っている。大根とワカメだったものだろうか。
「お湯をかけたら普通の味噌汁になりそうね」
「あ、それ無理だよ。さっき試してみたら水分が全部吸収された」
高分子ポリマーで出来てるのかこれは。吸水性が良すぎて紙おむつに使えそうなくらいだ、実際に使うわけにはいかないが。色合いが最悪だ。
「そうなると食べるわけにはいかないわね。体内でとんでもない事になりそう」
「えー、せっかく作ったのに」
食べさせる気だったんかい。そんな残念そうな顔をしてこっちを見ても絶対に食べてやらんぞ。
「そもそもどうやったらこんなのが出来たのさ。いくら料理が初挑戦だからって、せめて焦がすとか味が濃すぎるとか、そういう普通の失敗にはならなかったの?」
「ならなかったんだな、これが」
彼女がどこかで聞いた事のあるようなセリフを口にしてきたため、私はデコピンをくらわせた。
「あいたっ」
「はあ……」
そしてため息。
「やっぱり私が手伝った方が良かったじゃない」
「一人で大丈夫だと思ったんだけど」
彼女はデコピンされた額をさすりながら口を尖らせた。
「仕方ない。私が何か簡単なものを作るから、それをお昼にしましょう」
「はーい」
私の言う事を素直に聞いて返事した彼女はエプロンを外して二つ折りにし、空いているイスの背もたれにかけて自分はもう一つ空いていたイスに座った。
「次から私が指導するから、一人でやろうとしない事」
「わかりましたー」
「よろしい」
ルームシェアで住んでいる以上、互いに迷惑をかける事はないようにしないと。
Tweet |
|
|
0
|
0
|
追加するフォルダを選択
即興小説で作成しました。お題「いわゆる汁」制限時間「30分」