飲み食いを済ませると、一夏の前に十個前後の箱が置かれた。
「はーい、プレゼントタイムでーす!」
事前にくじ引きで決められていたのか、箱には番号を書いた紙切れがくっ付いている。
「まずは私のだな。」
箒が得意気に胸を張る。その箱に入っていたのは、サファイアの様な鮮やかな青色の石と赤いラインが入った乳白色と黒の天然石を使って作ったブレスレットだった。それを早速付けてみると、ぴったり手首に嵌り、腕を振っても外れない。
「良いな、これ。ありがとう、箒。」
「次は私だな。」
ラウラからの贈り物は、ライダージャケットとパンツのセットだった。
「ケブラーの二重織りで出来た特注の防弾仕様だ。普通の銃ならば簡単に弾く。寸法を入手するのは少し難しかったがな。だから少し余裕を持たせて大きめに作らせた。」
試しに持ってみると、かなり軽い。普通の衣服と殆ど変わらない重さだ。付いているボタンや装飾の一部も重さからして限り無く純銀に近い物だ。
「すげえな。かなり高く付いただろ。」
「私の隊を救ってくれたのだ、この程度どうと言う事は無い。」
「ありがとう。大事にする。隊の皆にも俺から礼を言っておいてくれ。」
「うむ。」
「じゃあ、次はあたしね。」
包装紙を解き、中から現れたのは、辞書並みの分厚さを持つ料理本だった。様々な国の食べ物の料理法が記されている。
「あんた、料理好きでしょ?参考になるかなと思って。」
「そっか。ありがとうな。上手く出来たら、今度食わせてやるよ。お前もレパートリー広げる様に頑張れよ?」
鈴音の頭を軽く撫でてポンポンと叩いてやる。
「う、うん・・・・」
「では、次は私の番ですわね。」
セシリアから渡されたのは、鎖の付いたアンティークな懐中時計だった。裏には一夏のイニシャルが刻印されていた。開くと、蓋の内側にはいつか撮った集合写真だった。皆が思い思いの顔をしていたが、いずれも笑っていた。
「現代の物ばかりでは少しつまらないと感じましたので、少し珍しい贈り物をと思いまして。探すのに苦労しましたわ。」
「確かに、最近は腕時計ばかりだからな。骨董品とかに造詣が深い人なら持ってるかもしれないが、現代で日常的に使う人はほぼいないに等しいし。ありがとう、セシリア。」
「喜んで頂けて何よりですわ。」
セシリアは満足そうに頷く。
「残るは四つか。」
「僕のはこれだよ。」
シャルロットが差し出したオレンジ色の包装紙に包まれていたのは、フルフェイスのヘルメットだった。指出しタイプのグローブとUVカットのサングラスも入っている。
「これ、普通のヘルメットよりも軽くて丈夫なんだ。これ、ISの装甲を作る素材で作ってあるの。一夏は運転するのが上手いから事故を起こすとは思えないけど、仮に起こしても頭は絶対防御してくれるから。」
試しに被ってみると、確かに軽く、いつもの様に肩もこらない。通気性も良いらしく、蒸れる感じが全くしない。
「おおー、これは良いな。すげえ。これ大量生産したら絶対売りに出せるぞ。ありがとう。これは大事に使わなきゃヘルメットに失礼だ、俺に罰が当たる。」
「良かった、気に入ってくれて♪」
「兄さん、私のはこれだ。」
袋に入っていたのは、白いマフラーと鳥の両翼をあしらったシルバーリングだった。中心には小さな黒瑪瑙が嵌っている。
「ありがとう、マドカ。これなら首元が凍えずに済む。さてと、最後に残ったのは楯無と簪だが・・・・」
二人から渡されたのは何かの券だった。
「これは・・・・ディナーのペアチケットか。で、こっちは・・・・・アミューズメントパークの無料チケット?」
「皆が先に色々と選んじゃったから、何にすれば良いか分からなくて・・・・」
「色々とカブっちゃうから、ね。大した物じゃないけど。」
「いや、俺に連れて行って欲しいんだろ?」
図星を疲れたのか二人は黙り込む。
「それならそうとそう言えば良いのに。別に俺は構わないぞ?」
「ま、待て!それなら私と」
「駄目だ。券をくれたのはこの二人だ。プレゼントは俺と一緒にいて楽しんで貰う事。強いて言うなら俺はそうする権利が有る。これだけ貰って他の人と一緒に行ったら失礼だろ?」
「そうだよ、箒。ここは大人しく引いた方が良いよ。」
「悔しいけど、これは仕方無いわね。」
「非常に不本意ですが・・・・」
「恋愛に於いて駆け引きは重要な物だとクラリッサから聞いた。これが正にそれか。」
「何の話をしてる?恋愛がどうしたって?」
「あ・・・・」
しまったと言う顔をするラウラ。
「はあ・・・・・ここまで来たらもう隠せないわね。」
鈴音はやれやれとばかりに頭を振る。
「そうね・・・もう少し後までバレずに済むと思ってたけど。私達は、全員一夏君の事が好きです!」
楯無が皆を代弁して告白した。一夏は今何が起こったか分からないと言う顔をしている。
「・・・・・え?」
そう言うやいなや、全員が抱き付いて来た。
「一夏の事だから、一人だけってのは絶対に出来ないだろうと思って全員でと思って。」
「いや・・・・でも・・・・」
「兄さん、私からもお願いする。最初は只の世間知らずの甘いガキだと思っていたのは認める。だが、年月を重ねるうちに考えが変わって行った。私が死にかけた時、いつも私を助けてくれた。その顔の傷も、本来なら私が受ける筈の傷だったのに。生まれ方は違えど私は兄さんの妹だと言う事は百も承知だ。だが、もう・・・・私も抑えが利かなくなって来ている。」
マドカが自分の胸に手を当てる。顔も少しだが赤い。
「・・・・分かった。けど、幾ら俺でも限界はある。目の届かない所だってあるかもしれない。それに、俺はまだ全然弱い。出来ない事だって一杯有る。苦労も迷惑もかけまくる事になるだろう。でも、それらを全て踏まえて、本当にそれでもいいなら・・・・その申し出、謹んでお受けします。」
一旦離れて居住まいを正し、正座すると、深々と頭を垂れた。
(あーあ。予想外だぜ。まさか全員を娶るとは思わなかったな。あいつもいつの間にか罪作りな男になっちまったぜ。なあ、オーディン?)
(・・・・・私に聞いてどうする?)
鏡の中からオーディンとヴォルフの二人がこれを見ていた。
(で、お前はこれからどうする?)
(決着は一年後だ。それまでは動かない。精々モンスターの餌にならない様にするんだな。コアミラーに辿り着く事は容易ではないぞ。)
(分かっている。頭の中で色々とシミュレーションしてるんだ。お前を倒すのは不可能じゃないが、極めて難しい。お前こそ精々首洗って待ってろ。ゴルトフェニックスの餌にしてやる。)
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そのまんまです。どうぞ。最終決戦、オーディンvsヴォルフまで後僅かです。