全員が傷を塞ぎ、治療を終えると、宴の準備が始まった。セッティングや料理など、やる事は沢山ある。料理組は一夏、マドカ、ラウラ、クラリッサ、弾、司狼、そしてその他数名。残りは材料を運んだり下準備等で奔走していた。
「ふう・・・・」
一方、斉藤は横になって目頭を揉んでいた。ようやく政府の重役全員を説き伏せる事に成功したのである。何時間もスクリーンと睨めっこをしていたので、目がしばしばして体力もかなり低下していた。
「私も年甲斐も無く無茶をしましたね。」
「確かにな。だが、お陰で勝ちは確定した。ありがとう。裏方での一番の功労者だな。」
「いえいえ、それ程でもありますがね。」
得意そうに言う斉藤を尻目に、司狼は心無しか体を少し引き摺っている。部屋に駆け込むと、ベッドの上に大の字に手足を広げて倒れ込んだ。苦悶の表情を浮かべ、体からは滝の様に汗をかいている。
「くそ・・・・・やっぱり今の今まで碌に休まなかったのが裏目に出たか・・・・この上でサバイブ使ったら負担が掛かり過ぎて死ぬかも・・・・まあ、それも良いかもな。この世界は、十分に楽しんだ。来世では、何をしようかな?」
司狼はヴォルフとリュードのデッキを見比べた。
(打倒オーディンには、どれを使うべきだ・・・・?デッキ破壊のチャンスはそうそう無い。簡単には行かないだろう。一度、やって見る必要が有るか。ヴォルフサバイブを。)
キイイイィイィィイィイイイイイ・・・・・
丁度モンスターも現れた。見ると、四足歩行の図体がかなりデカいモンスターだ。挑発のつもりなのか大口を開け閉めしてくる。
「やってやろうじゃないか。変身!」
ヴォルフはミラーワールドに飛び込むと、デッキに手をかけてカードを引き抜いた。サバイブ『覇王』のカードを。両腰のデュアルバイザーが消え、それが左腕に新たなバイザーを作り出した。狼の頭を模したデュアルバイザーツバイを。そして口の部分にカードを滑り込ませた。
『サバイブ』
紫色の煙と、赤い炎がヴォルフを包んだ。その中から現れたライダーは、正に『王』の名に相応しい姿をしていた。背中から靡く黒いマント、鏤められた金の装飾、そして鬣らしき物。見た目は狼と言うより、ライオンに近かった。Vバックルもオーディンと同じ金色になっている。
「これが、サバイブか・・・・」
素早い突進攻撃を仕掛けて来たカバ型モンスター、ターボタスを片手で止めた。更にターボタスを蹴り飛ばし、デュアルバイザーツバイの上顎部分を開くと、そこにカードを装填した。
『『アドベント』』
エコーの掛かった音声と共に、巨大なミラーモンスターが姿を現した。それは、三つの頭を持つ虎ともライオンとも言えないマントの様な器官が体を覆った巨大なモンスターだった。その名も、皇魔幻獣ケルベライガー。
「やれ。」
ただ、そう言った。それを合図に、ケルベライガーはターボタスを叩き潰し、引裂き、喰らった。かなりグロテスクな事になっている為説明は割愛するが、かなりグロい事になっている。
「さてと・・・・カードの確認〜と♪」
デッキからカードを残らず引っ張り出した。現在彼が所持しているのは先程使ったアドベント(ケルベライガー AP10000)を除いて、
ソードベント(尻尾:レオセイバー)
ガードベント(バリア:ミスティックウォール)
ブラストベント(クエイキング・ハウル)
シュートベント(トリニティー・バスター)
タイムベント
スチールベント
ストレンジベントx2
コンファインベントx2
ストライクベント(篭手、具足:ビーストアーマー)
ファイナルベント(ディバイン・ラース AP12000)
の計十二枚だった。
「・・・・いや多いだろ?!何だこれ?!しかもソード、ガードのAP、GP共に4000ってどうなの?!ブラストベントですら3000だし!ファイナル・・・・普通に一万超えてやがるぜ、おい!良いのか、これ?!良いのか?!」
一人でノリ突っ込みをやってしまった。余りにカードが多いのだ。そしてその攻撃力がオーディンと互角、否それ以上だった。元々ISでもライダーとしてもかなり規格外だったが、これで遂にハイスペックならぬ廃スペックになってしまった。最早世界が相手でも負ける事は無いだろう。
「是非とも試してみたいが・・・・今は戻るか。まだ飯を食ってないしな。」
変身を解除すると、皆の許に戻って飲み食いし、笑った。今までに無い程。未成年者にもアルコールが回った。島なので、誰も文句を言わないし、言えない、言わせない。酒が切れ、整えられた食事が無くなっても宴は尚続いた。皆が泣き、笑い、喋り、歌い踊った。それも、夕方近くまで。全員が寝静まると、司狼は一人コーラのボトルを傾けて空を眺めていた。心地良い風が頬を撫で、波が浜辺に打ち寄せる音が心を落ち着かせる。
「オーディン。」
『どうした?』
「やっぱり俺はお前が信用出来ない。俺をこんな世界に来させて、凄い力を与えてくれた事には感謝してる。だが、お前がミラーワールドを使って
『お望みとあらば、見せてやろう。』
デッキをバックルから引き抜き、そこに現れたのは・・・・
「ほお・・・・・これはこれは。まさかそいつを操り人形に使っていたとはな。」
スコールだった。
「予想外だぜ。士郎、どうせならお前が変身した
『一年後?何故だ?』
「少しは平和って物を満喫してみたいんだよ。お前に勝つ為の必勝法も考えなきゃならないからな。」
『面白い。良いだろう。では、一年後にまた会おう。その間、ミラーワールドは閉じる。ライダーの力は使えなくなるだろうが、お前のデッキはISであってISではないイレギュラーだ。問題は無い。』
「ああ。じゃあ、一年後に、また会おうぜ。」
IS委員会本部襲撃事件と、そこで明かされた白騎士事件の隠蔽は女尊男卑を叩く最大の口実となり、僅か数ヶ月で消えて無くなった。多数決では、結果的にISは廃棄されない事となったが、その技術が他の分野にも幅広く応用する事が決定され、世界はかなり発展した。イレイズドからIS学園に帰還したAD・VeX7は世界中でニュースに取り上げられた。彼らの行いは後に歴史の教科書に載る程有名な『Above The Law Association’s Sabotage』つまり超法規的組織による(悪を)サボタージュした事件、通称『ATLAS』と呼ばれる様になった。異を唱える者も多少いたが、世界によって完全封殺されてしまう。そして白騎士が誰か、と言う疑問は相変わらずだった。が、その真相は今でも闇の中に葬られたままだ。
「戻って来たな。」
例の別棟の広間で、司狼はふとそう呟いた。
「そうっすね。長かったです。数ヶ月だったのが、一年に思えた。」
向かいのソファーに座っていた一夏は新たに出来た額から左頬にかけて出来た傷跡を撫でる。過去に一度マドカを庇った時に出来た傷だ。今ではすっかり所謂『大人の顔』をしている。
「ああ。だが、満足だろ?」
「はい。」
「もうそろそろ俺達も二年生になるな。」
「そうですね。考えてみると何か可笑しいです。俺達は世界を相手に喧嘩して、結果的に勝って、それで戻って来て元の生活に戻るなんて。何と言うか・・・・退屈してしまいそうだ。」
「戦い過ぎて遂に頭が可笑しくなったか?」
司狼が冗談めかしてそうからかってみる。
「案外そうかもしれません。学園にいる間、俺ずっと武器とか携行してましたし。寧ろ武器が無いと落ち着きませんでした。体がまた・・・・戦いを、刺激を求めてます。」
「へえ。まあ、その調子でお前も頑張れよ。お前なら代表候補どころか、日本代表まで登り詰められるかもしれない。お前は、お前自身が思っている以上に強いしな。」
「俺からすれば、司狼さんの方が化け物ですよ。ISでもライダーでも」
「おいおい。化け物はねえだろ。俺だって人間なんだよ。」
「人間が世界にタイマン張れるタマですか?それにライダー一人を五分も経たずに倒せるんだったら化け物でしょ。」
「安心しろ、お前も化け物の仲間入りをする事になる。お前だったら一人でタッグマッチ出ても簡単に勝てるぞ。」
二人は笑った。だが、一夏は知らない。近い内に、上司であり、戦友であり、仲間である男が一年後にその姿を消すかもしれない事を。
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ヴォルフサバイブ、登場です。そしてデーモン赤ペンさんのもう一つのモンスターを出します。かませ犬ですが。