No.512282

アイマスSS 歩いて帰ろう~如月千早編~

突発的に始まってしまいましたけれども。とりあえず765プロ女性陣の分は全部書こうかなぁと。遅筆

2012-11-25 23:00:03 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2972   閲覧ユーザー数:2940

~如月千早 十一月上旬~

 

 「それじゃプロデューサーさん、戸締りよろしくお願いしますね」

 

 音無さんがそう声をかけてくる。彼女が帰ると、事務所には俺しか残らない。

 

「わかりました。お疲れ様です」

 

 バタン、と事務所の扉が閉まると、それきり静になる。自業自得ながら寂しいものだ。

 

「・・・さてと」

 

 俺は、手元にあった冷め切ったコーヒーを流し込み、またパソコンと対峙した。

 

 なんで俺がこんな時間まで仕事をしてるのかって?オフにもかかわらず事務所に遊びに来ていた亜美真美と戯れてたら、とっぷりと日が暮れていたわけだ。

 

「・・・な?自業自得だろ?」

 

 あまりの寂しさにそう呟いた時、不意に事務所の扉が開いた。

 

「!?」

 

 急な出来事に、声すら出ずにビクッと少し飛び上がる。

 

「・・・プロデューサー?まだお仕事中でしたか?」

 

 声のした方を見やると、千早が立っていた。少し不思議そうな線をこちらに向けている。

 

「あ、あぁ。いやなに、一人で心細かったところに、急に扉が開いたもんだからな」

 

「すみません、驚かすつもりはなかったんですけど」

 

 俺の粋なジョークにもまじめに返してくれる千早。最近柔らかくなったが、まだまだ固いな・・・っと。

 

「いやいや、冗談だよ。で、どうしたんだ?帰ったはずじゃ」

 

「携帯を事務所に忘れてしまったみたいで、取りに来たんです」

 

 チラ、と机を見る千早。無機質なガラケーが、その視線の先に置かれっぱなしになっていた。千早のだったのか。

 

「わざわざこんな遅い時間にか?夜道を一人で歩くのは危ないだろう」

 

「はい、すいません・・・」

 

 しまった。そこまできつく言った訳ではなかったんだが。シュンとしたちーちゃん可愛・・・じゃなくて。

 

「ごめん、怒ってるわけじゃないんだ。そうだ、千早さえ良ければ帰りは送るよ」

 

 ハッと顔を上げると、さっきとはうってかわった笑顔になっていた、と思ったら一瞬で眉を寄せる。

 

「そんな、わざわざ悪いですよ」

 

「なんだ、俺と帰るの、イヤか?」

 

 我ながら意地の悪い質問だと思う。答えはわかってる・・・つもりだ。

 

「いえ、そんなつもりじゃ、なくって・・・」

 

 千早は、言い終わるや顔を真赤にして俯いてしまった。やっぱりちーちゃん可愛い。

 

「んじゃぁ、チャチャッと仕事終わらすから、待っててな」

 

「あ、じゃあコーヒー淹れてきます」

 

 千早の入れたコーヒーか。仕事も捗るな。

 

「さて、頑張るかなぁ・・・っと」

 

 

 

 

 

 Pさん、こんな時間まで一人でお仕事なんて、私達のために・・・。

 

「私達も、もっとしっかりしないと」

 

 私がそう決意を固めるのと、ヤカンが鳴くのは図らずも同じでした。

 

「あちち・・・こんなものかしら?」

 

 あまりコーヒーを飲まない私には、インスタントコーヒーの分量がよくわかりません。あまり入れすぎても濃くなるだろうし・・・。

 

 とりあえず出来上がりました。我ながら上出来、だと信じましょう。

 

 私の分とあわせて2つのカップを持って行くと、Pさんは真剣な顔でパソコンと睨めっこしてました。

 

「プロデューサー、コーヒーです」

 

「ん、あぁ。ありがとう」

 

 返事もそこそこに、またパソコンとにらめっこ。少し寂しいです。

 

「あの・・・」

 

「ん、なんだ?」

 

 声をかけてもパソコンから目を上げてくれません。

 

「お砂糖とか・・・」

 

「いや、いいよ。ありがとう」

 

 会話が続かない。二人しかいない事務所には、プロデューサーさんの作業の音しか聞こえません。

 

 一口、コーヒーに口をつける。・・・大丈夫、だよね?

 

 

 

 

 

 ・・・終わった。さすが俺、本気でかかればこんな仕事ちょろいな。ちーちゃんのコーヒーも冷めてねぇ。さすが俺、エラい。

 

「さぁって、終わった終わった」

 

 千早の入れてくれたコーヒーに口をつける。

 

 ・・・にげぇ。

 

「・・・うん、やっぱり千早の入れたコーヒー美味しいなぁ」

 

 言うや、ぱぁっと明るい顔をこっちに向けてくるちーちゃん可愛い。可愛すぎてヤバイ。

 

 すっかり目も冷めたし、そろそろ帰るとするか。カップも片付けたし。

 

「千早、待たせてゴメンな。そろそろ帰ろうか」

 

「はい。わざわざすみません」

 

「いいんだ。千早が安全に帰れるんならいくらでも付き合うさ」

 

 耳まで真っ赤になっちゃって、可愛いなぁ。

 

「さ、鍵閉めるから出てな」

 

「は、はい」

 

 急かすと、小走り気味に出てくる。

 

「忘れ物はないか?鍵閉めたあとで申し訳ないけど」

 

「はい、携帯もちゃんとありますし、大丈夫です」

 

 わざわざ携帯を掲げて俺に見せてくれるちーちゃんマジ天使。

 

「そういえばプロデューサー、今日は歩いて出勤してましたよね」

 

 そうなんだよ。こんなクソ寒い時期に、わざわざ歩いてきたわけだ。

 

 と言うのも、朝起きると、俺の愛車のバッテリが上がってた。俺としたことが抜かったぜ。

 

「あぁ、ちょっと故障しちゃってな」

 

 世の一般女性に、特に千早みたいな若い子に、事細かに故障の症例を言ってもピンとは来ないだろう。

 

「そうなんですか。でも、今日はそれでよかったかもしれません」

 

「ん?なんでだ?」

 

「だってP・・・プロデューサーとこうして歩いて帰れますから」

 

 つくづく可愛いことを言ってくれるやつだ。抱きしめたくなるじゃないか。

 

「そっか。俺も千早と帰れて嬉しいよ」

 

 ま、こんな往来じゃ抱きしめるなんて無理だけどな、とてもじゃないけど。

 

 

 

 嬉しい?私と帰ることが、嬉しい?

 

 Pさんの言葉を心内で反芻すると、顔が熱くなって来ました。

 

「・・・どうした千早?」

 

 私が会話を切って黙り込んだことを気にしたPさんが、私の顔を覗きこんできます。

 

 ・・・顔、近いです。余計意識しちゃうじゃないですか。

 

「な、ななな何でもないです」

 

 ほら、お陰様で変な返し方しちゃったじゃないですか。

 

「そっか」

 

 でも、一旦途切れた会話って、どうやって戻したらいいんだろう。

 

「千早さぁ」

 

「は、はい、なんですか?」

 

 この人のこういうところは素直に見習わなければならないと思います。

 

「夜ご飯って、もう食べた?」

 

 ・・・なるほど。少し向こうに、赤い提灯が下がった屋台がありました。

 

「ふふっ、まだですよ」

 

「じゃぁさ、そこで食べてかない?奢るよ」

 

 それは申し訳ないですから・・・と断りかけて、ようやく違和感に気付きました。財布がない。すぐ帰るつもりだったから、持ってきてませんでした。

 

「すみません。ありがとうございます」

 

 今回ばかりは、お世話にならざるを得ませんでした。

 

 

 

 珍しいこともあるもんだ。千早がすぐにこういう誘いを受けるなんて。普段なら一度は断るのに。

 

「千早はなんにする?」

 

「あ、えと、プロデューサーと同じので」

 

 なんだよそれ、彼女みたいじゃないかよ。と考えたところで、ラーメン屋でそれはないか、と考えを改めるわけである。

 

「ん。おっちゃん、醤油ラーメン二つ、一つは大盛りで」

 

 屋台のオヤジは、返事もそこそこに麺を茹で始めた。

 

「太りますよ?」

 

「今日はじめての食事だから全然オッケイ」

 

 腹減ってたんだよなぁ、などとのほほんと考えてたら、千早がものすごい顔で睨んでた。ちーちゃん怖い。

 

「今日一食しか食べてないってことですか!?普段から体調管理はしろって言ってる本人がそんなことでどうするんですか!!」

 

 めっちゃ怒られた。ちょっと前までの千早からは思いもよらない言葉だ。今は春香と料理の練習してるらしいけど。

 

「まぁまぁ、今日はたまたまだよ。ちょっとお昼食べ損ねちゃっただけだから」

 

「まったく・・・」

 

 と呟きながら、千早は前を向いてしまった。

 

「そんな怒るなって。明日からは気をつけるよ」

 

「・・・約束ですよ」

 

 目の前に丼が二つ置かれた。ウマそうな香りがたまらんな。

 

「わかってるよ。ほら、食べようぜ」

 

「頂きます」

 

 俺から箸を受け取って、ラーメンを食べ始める千早。うん、やっぱり髪をかき上げて麺をすす様は、綺麗だな。貴音を見てても思う。

 

 ・・・俺が朝食をとってないことに気が付かないちーちゃんマジちょろい。

 

 

 

 これが今日はじめての食事なんて、貴方が倒れたら私・・・。そこまで考えて、不吉な考えはよそうと思って、ラーメンをまた一口すすりました。

 

 ・・・それに、今日はじめてってことは、朝ごはんも食べてないってことですよね。

 

「・・・美味しいです」

 

「そうだなぁ。体も温まるし、たまにはいいよな、こういうの」

 

 貴方はもっとちゃんとしたものを食べてください。お仕事で忙しいのはわかりますけど。

 

 私そっちのけで屋台のおじさんと話してますけど、これでも心配してるんですからね。

 

「ぷはー、いやぁうまかった。ごちそうさま」

 

 もう食べ終わったんですね。やっぱり男の人って食べるの早いですね。

 

「あ、別に急がなくていいからな」

 

 もう、そんな事言われると余計に申し訳なくなるじゃないですか。

 

 

 

 美味かったし、何より味の割に安い。今度からも贔屓にさせてもらおう、なんて考えてるうちに、千早も食べ終わったみたいだ。

 

「ごちそうさまでした」

 

「よし、んじゃ帰るか。ごちそうさまでした」

 

 二人分の代金を置くと、千早と一緒にまた寒空の下に体を晒した。

 

「・・・温まったと思ったけど、やっぱ寒いなぁ」

 

「もう十一月ですからね」

 

 早いもので、今年ももうそろそろ終わりなわけで。慌ただしい一年だった。

 

 足滑らせて舞台装置から落ちたのが今年の二月だっけ。我ながらみっともない。

 

「今年のクリスマスは、どうなるだろうなぁ」

 

「去年みたいに、出来るといいですね」

 

 これまた珍しい。初めてあった時からすると、だいぶ外向的になったとおもう。最初はケーキバイキングにも来なかったし。

 

「そうだな。神様の誕生日はどうでもいいとして、大切なアイドルの誕生日だしなぁ。あ、その前には美希の誕生日もあるのか」

 

 あ、この子ちょっとムッとした。もちろんちーちゃんも大事だよ。本人には言えないけど。

 

「スケジュールの調整は、この敏腕プロデューサーにお任せ!なんつって」

 

「ふふっ、期待してますね。でも――」

 

 千早が、クルッとこちらに向き直った。

 

「無理はダメですから、ね?」

 

「あ、あぁ。前向きに善処します」

 

 あまりの可愛さに、自分でもわけわからん返答になってしまった。

 

「ダメです。約束してください」

 

 え、どうしよう。小指を差し出されたんですけど。なに、可愛いんですが。

 

「おぅ、わかったよ。指切りだな」

 

「はい、指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った」

 

 ちーちゃんの声で歌われると、こう、クるね。いいよね。

 

「よし、これで明日からも仕事頑張れそうだな」

 

「だから程々にしてくださいってば」

 

歩いて帰ろう~如月千早~ 了


 
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