「魔理沙は、しばらく永遠亭診療所で預ることになったわ」
ぐったりとしているレミリアに、難しそうな顔で告げる。
「傷は治せるんだけど……いえ、あまり説明をしない方がいいわね。とにかく、復帰までは時間がかかると思ってちょうだい。咲夜の方は治療をして一晩眠れば良くなるから……」
澄まし顔で何でも知ったように話す八意永琳が、苦悩すら見え隠れする表情でとりあえずの事情を話している。何かを言い難そうにしていることくらいは、素人でも見抜けてしまうだろう。
『あの八意永琳が、動揺を表に出すほどの事態が起こっている』
当事者であり、かつ百戦錬磨のレミリアとパチュリーならば、そう考えて然るべきところなのかもしれない。動揺している今だからこそ、その隙を突いてこの意味のわからない迷宮探索に対する情報を得ようとすれば、今後に有益な話の一つくらいは引き出すこともできたのだろう。だが、連戦をこなした上に2人抱えて死に物狂いで帰還した疲労困憊のレミリアと、知能担当なのに判断を間違えてパーティを壊滅させてしまった自己嫌悪中のパチュリーには、それが何を意味するのかを考える力も問いかけるほどの余力も残ってはいなかった。
代金のことも次のパーティ編成のことも今後の探索についてのあれやこれやも何もかも。一切を忘れたくて、とにかく早く休みたくて、ありとあらゆる可能性は自動的に二の次以下へと追いやられてしまった。話半分、どころか一割にも見たぬままに、拠点としている白玉楼へと重い体を引き摺るように動かしていった。
こうして2人は、大切な切欠を失ってしまった。
もっとも。永琳の動揺に気づけていたとしても、その隙を突ける手を思いついたとしても。そこにどれだけの利点を見出そうとも、一心に休養を欲する2人を止めることはできなかったのだろう。
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迷宮外(永遠亭診療所):侮り続けた集大成とぼろぼろの少女たち