No.511814

魏エンドアフター~龍ノ牙ガ折レル刻~

かにぱんさん

とりあえずはここまでです。

2012-11-24 19:47:16 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:6586   閲覧ユーザー数:5002

華琳「やはり何かあると思ってたのよ……!」

 

先程蜀へ向かっている桂花の軍から伝令が来た、白装束の魏への襲撃

報告が早すぎる件についても気にはなるが今はそれどころではない

蜀、呉への五胡の襲撃。

なぜ魏だけが狙われないのか。

今考えれば簡単な事。

おびき寄せ、戦力を削ぎ、手薄のところを責める

 

しかしそれは普通ならば不可能な事。50万もの大軍を見逃すわけが無いのだから

 

だが突然、何も無い場所にいきなり50万もの軍が現れたとなれば

……考えたくはないが妖術としか思えない

 

洛陽に出現した白装束の軍団の情報を聞き、すぐに戻ろうとしたが断念。

このまま戻ればいくら呉とはいえ数で負けてしまう

 

そして城に残してきたのは春蘭達が居ると言っても殆どが新兵か戦を経験した事がない者達

いくら日々鍛錬を積んでいようと、経験がなければ実力は半分も発揮されない

 

華琳「……まずいわね」

 

今、洛陽がどうなっているのか。

それさえつかめれば動きようがあるものの知る由がない。

このまま進むしか……

間違いなく城に残してきた風や稟が白装束に対して陣を張っている筈、彼女達を信じるしかない。

 

──いや、まだ打つ手はあった。

 

 

華琳「誰かあるッ!」

 

「はっ」

 

華琳「至急使いの者を出しなさい、今の状況を伝えれば必ず来てくれるはずよ」

 

「は、はぁ、どこに使いを出せばよろしいのでしょうか」

 

華琳「それは――――――」

 

そして使いの者を出し、あとは間に合う事を祈るしかなかった

 

頑張りなさい……風、稟、春蘭、星、詩優!

 

 

 

 

 

愛紗「こいつら……!まるで我らの足止めが目的かのような戦いを──!」

 

朱里「おそらくその通りでしょう、今、魏が白装束の方々に襲撃されているとの報告が入りました」

 

翠「な──!?じ、じゃあ援軍は来ないってのか!?」

 

雛里「いいえ、援軍は予定通りこちらに向かっているとの事です。恐らく引き返したくても引き返せないのでしょう」

 

朱里「はい、呉の状況も今の我々と同じみたいです、押せば引き、引けば押す。

   魏国を手薄にするのが目的のようです」

 

雛里「そして魏が援軍を送るのをやめたとなれば全力で蜀、呉を潰しにかかると思います

   ……華琳さんは私たちの為に援軍を送ってくれているんです。

   蜀や呉を守ってくださっているのです……!」

 

翠「で、でもよ!だったら向こうのほうが数は圧倒的に多いんだ。

  最初から潰しにくればいいんじゃないのか!?」

 

朱里「普通ならそうなんでしょうけど……何故こんな面倒な事をするのかわからないんです」

 

愛紗「くっ……!なんたる醜態……!我らの力が及ばぬばかりに友を危険な目に──!」

 

朱里「はい、ですから援軍が到着次第、急いでこの状況を打破します。

   魏の皆さんを必ずお助けしましょう!」

 

翠「応!!!」

 

愛紗「皆のもの!聞け!我が友が我々の為に危険にさらされている!

   このような輩相手に手間取っている場合ではない!

   こやつらを蹴散らし、友の危機を救うのだ!!」

 

『うおおおおおおーーーーーーーーーーーーーー!!!!』

 

 

 

 

 

 

冥琳「どうやらこやつ等の真の狙いは我々ではないようだな」

 

雪蓮「みたいね、どうにも手ごたえがなさ過ぎる。

   これだけの戦力差がありながらこうも均衡を保っているし」

 

穏「魏領にも別の大軍が出現したそうですからそちらが本命だと思います」

 

亞莎「我々は只の足止めのようです。

   蜀、呉を止めて、尚且つ大きく上回る数で攻め、援軍を出させて手薄のところを叩く。

   足止めに気づき援軍を引き返させればその数で二国を攻め落とす

   ……今まで小規模なものばかりだったので完全に油断していました」

 

冥琳「汚いやり方だがそれと同時に最適の策かもしれんな。

   ……どうやら相手も今回は本気のようだ」

 

雪蓮「魏は大丈夫なの?」

 

蓮華「わかりません。

   しかし曹操はこのまま援軍を送ってくるでしょう。

   彼女は敵には容赦はありませんが仲間となれば、死に物狂いで守ろうとするようですから」

 

雪蓮「……歯痒いわね。

   さっさとこの状況を何とかしないと──」

 

 

 

 

 

 

 

春蘭「くそ!こやつ等痛みを感じていないのか!?」

 

詩優「一人一人の戦力は然程強くはないのに……!

   痛みを感じないなんて狂ってる……!」

 

「諸悪の根源を根絶やしにするのだ!」

 

春蘭「えぇい!!!同じ事をさっきから何度も何度も!鬱陶しい!」

 

詩優「勝手に人を悪者にしないでください!ハァァ!!」

 

春蘭「失せろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

風「……早くしないと星ちゃんが危ないのです」

 

稟「それはどういうこと?」

 

風「冷静に考えてください。

  今粗全軍が出ているといっても城にはそれなりの数の戦力は残しているのですよ?

  なのに城内へ侵入なんてするにはかなり少数ではないと無理なのですよ。

  大軍ならすぐに風達が気付くはずですから。

  そしてその少数の敵を未だ鎮圧できないとなれば……敵さんはとてもお強いということなのです」

 

稟「……星ですらその者には勝てないと?」

 

風「……かもしれません、華琳様が居なくて正解だったのです」

 

そう淡々と言う風の表情には不安と焦りが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

星「ハァァ!!」

 

薙ぎ払い、弾き、突き、叩きつけ、目にも留まらぬ連撃を繰り出す。

普通ならば相手は絶命していてもおかしくは無い。

しかし

 

兀突骨「んんー。まぁまぁだな」

 

星「かはッ──!」

 

一瞬何が起きたのか理解できなかった。

確実にこの男の攻撃は防御したはず。

 

なのに──

 

防御など意味は無かった。

防いだところでその化け物のような力の前には意味を成さなかった。

その衝撃波のような膨大な力の爆発に耐え切れず、後ろへ吹き飛ばされた。

壁に叩きつけられ、呼吸困難に陥る。

 

星「はッ──ぐぅ!かはっ!げほっ……はぁ、はぁ……」

 

な……なんだこの腕力は。

本当に奴は人間なのか?

 

兀突骨「おいおい、ちょっと小突いただけだろ?大げさな奴だ」

 

 

星「まだまだぁ!!」

 

竜の嘶きが王間に響く。

昔の自分ならば只武を示したいが為に戦い続け、無意味な死を遂げていたかもしれない

しかし今は違う。

蜀の仲間達や街の皆。魏、呉に居る友。

バカみたいに真っ直ぐな我が愛する人。

 

絶望を乗り越え、再び幸せに向かい歩んでいる少女

 

3年前の戦は自分にとても大きな意味をくれた。

本当の意味で守りたいという気持ちを教えてくれた。

そして今。

何よりも、あの子を守りたい。

あの少女に幸せに笑っていてほしい。

あの無垢な笑顔を失わないでほしい。

絶望の中に一筋の光を見つけ、必死に手繰り寄せている少女を守りたい。

 

 

 

 

 

 

今こそ己の武を存分に振るう時ぞ!趙子龍ッ!!

 

 

 

 

 

星「ハアアアアアアアアア!!!」

 

相手が自分より強いからなんだ。

敵わぬからなんだ。

そんなことは関係ない。

 

私は守る。

必ず守る。

一刀と約束したではないか

絶対に──守り抜くと!

 

手負いの竜は激しく舞う。

その舞はまるで残りわずかな命の灯火を爆発させ、自らの死に場所を飾っているかのような

言葉にならぬほど壮絶で、誰もが見惚れるほどに美しく、誰もが見入るほどに猛々しかった

 

兀突骨「なるほど……それなりにはやるようだ。──だが」

 

星「ッ!!」

 

星の連撃を力技で中断、そのまま両手を組み、振り上げ

 

兀突骨「砕けろッ!!」

 

凄まじい勢いで、星の脳天目掛けて振り下ろした。

 

 

 

あ、危なかった……

今のを受けていたら間違いなく殺されていたであろう。

その衝撃は地面を易々と抉りぬいていた。

 

兀突骨「ぬぁあああああッ!!」

 

振り下ろした両腕をそのまま横に薙いできた

 

星「くッ!!」

 

そのあまりの速度に回避が間に合わず、防御体勢を取ってしまう。

 

星「くぁああッ!!!」

 

得物がいつ折れてもおかしくは無い。

それほどの衝撃だった。

 

一撃が……重すぎる……。

 

立とうとするも、衝撃を受けた体が言う事を聞かない。

足に力が入らず倒れてしまう。

 

兀突骨「あーあ、あの嬢ちゃんを渡せばこんな痛い目見なくてすんだのにねぇ、

    何を必死こいてんだか」

 

男はまったく余裕といった様子でゆっくりと近づいてくる

 

兀突骨「あんな小娘一人の為にこんな苦痛を味わってなぁ。バカなのか?」

 

立たねば。

私がここで倒れればあの子が……明花が……!

 

兀突骨「どうせ生きてたって人に迷惑をかけるだけなんだ。

    今のお前が良い例だろう。

    関わらなければこんな苦痛を味わうこともなかったろうに──」

 

星「黙れッ!!」

 

ダンッと力を振り絞り何とか立ち上がる。

 

星「貴様にあの子の何が分かる!貴様のような外道に──あの子の何が分かる!!

  貴様にあの子の苦しみが分かるまい!あの子の悲しみが分かるまい!

  父を失い母をも失い、

  絶望に落とされながらも笑顔で生きようとしているあの子の強さがわかるまい!

  皆の幸せを願い、必死に生きているあの子を──!」

 

どうしようもない怒りがこみ上げてくる。

この男に手も足もでない自分の不甲斐なさへの怒り、あの子を殺そうとするこの男への怒り。

様々な感情が混ざり合い、もう自分自身でもわからない。

 

星「皆の幸せを願い、絶望を乗り越え笑顔を絶やさず生きているあの子を──!

  貴様のような下衆がバカにするなッ!!」

 

竜牙を握り締め、構える

 

星「絶対に殺させはしない!この身が滅びようともあの子だけは守り抜いてみせる!!

  指一本触れさせはせん!!」

 

激昂し、自らを奮い立たせ、目の前の男へ突進する。

 

 

 

そして──

 

 

 

一頭の竜は

 

 

 

 

自分の持ち得る力全てをぶつけ

 

 

 

 

その牙を折った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏候惇将軍!敵後方から謎の集団が接近して来ているとのことです!!」

 

春蘭「な、なにぃ!?旗は!!!」

 

「わかりません!

 しかし曹操様達は援軍へ向かっています……!希は薄いでしょう……!」

 

詩優「そんな……!こんな時に……」

 

春蘭「このっ……!!雑魚の集団の癖に粘りおって!

   押し切れぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

詩優「ここが正念場です!頑張ってください!!」

 

『うおおおおおおおーーーーーーーーーーー!!!』

 

 

 

 

稟「くっ……!このままでは星が……!」

 

風「こういう時、風はなんて──無力なのでしょうか」

 

稟「風……」

 

風「こういう時、思ってしまうのです。

  今の風は只無責任に策を施し、

  それを人任せにして後ろでふんぞり返っている愚者なのではないかと」

 

声色こそ変わっていないものの、その顔は歯を食いしばり、手は血が滲むほどに握られていた

できることなら今すぐにでも城へ引き返し、星の手助けをしたい。

しかしここで自分達が行ったところで何ができるだろうか。

足手まといになるだけだ。

星の状況を更に悪化させることしかできない。

友が危機に晒され、自分に力があれば助けられる状況なのに。

これほどまでに文官である事を悔いた事があっただろうか。

これほどまでに自分の無力を悔いたことがあっただろうか。

只神に祈る事しかできない自分を、これほどまでに呪った事があっただろうか。

 

稟「……ッ!!」

 

 

 

自分の無力さを呪っていると、稟の横を一騎の騎馬が通り過ぎた。

 

 

 

稟「なっ──!」

 

風「────!」

 

二人は目を疑った。

今この場に居るはずの無い人が、城へ向かって馬を駆っている。

二本の美しい得物を腰に挿し、全速力で城へ向かって馬を駆っている。

 

 

そして──

 

 

「ハァァァァーーーーーーー!!!」

 

まるで獅子の咆哮のような轟音を鳴らしながら白装束に向かって放たれる氣弾。

それを放った銀色の獅子には見覚えがあった。

このような強い氣を扱える者はこの大陸で一人しか知らない。

 

「──!!旗を確認しました!」

 

伝令係の兵士が旗を目視し声を張り上げる

 

「十文字です!北郷隊です!お味方が援軍に駆けつけてくれました!!」

 

春蘭「なんだと!?」

 

詩優「え!?蜀へ向かったのではないのですか!?」

 

何かの間違いではないかと思うほどに信じられなかった。

しかしあの氣弾は間違いない──

 

凪「侵略者を許すな!!仲間を守れ!!全軍突撃ぃぃぃーーーーー!!!」

 

春蘭「凪!?」

 

詩優「な、凪様!?」

 

 

 

 

 

戦場で何が起きているのか、確かめるよりも早く理解する事ができた。

なぜなら今城へ駆けているあの背中は、自分が一番よく知っている背中だから。

 

風「必ず……!必ず星ちゃんを助けてください!!」

 

風とは思えない大声で彼にその願いをぶつける。

そして、その願いを背中に受けた彼は少しこちらを振り返り、力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

身体を強く壁に打ち付けられ、その場に崩れ落ちる

 

星「…………ッ!」

 

しかしすぐに起き上がり、折れた竜牙を構える

その姿はもう竜の見る影も無く、生まれたての小鹿のように弱々しかった。

 

兀突骨「ぬぅりゃ!!!」

 

立ち上がり、構えを取ったところでもはや得物を振るう力すら残っていなかった

 

しかしその弱々しい姿とは裏腹に、まだ彼女の瞳からは強い意思を感じる。

 

 

 

はぁ、はぁ……やけに周りの音が静かだ。

自分の鼓動がうるさいくらいだ。

これが死か……

明花はちゃんと外へ出れただろうか。

誰かに保護してもらえただろうか。

今の私にできることは、なるべくあの子の逃げる時間を稼ぐ事──

 

 

またも立ち上がる。

その意思は何よりも硬く、決して折れない。

 

兀突骨「おいおいまだやるのか?いい加減飽きてきたんだが……」

 

面倒そうに呟く男に殴り飛ばされ、全身の骨が軋む。

 

まだだ……まだ手は握れる、足も動く。

まだ──

 

 

立てる……!

 

 

 

 

頭部からの出血が多い。

目の前が霞む。

自分が立てているのかもわからない。

それでも星はこの男の前に立ちはだかる。

守りたいという想いのみで、身体を動かす。

先程の一撃で肋骨が何本か折れたのか、うまく呼吸ができない

 

 

どうやら本当にここまでのようだ。

あまり実感はわかないがここで私は死ぬだろう。

あの男が間合いを詰めてくるのが見える。

しかし身体はもうピクりとも動かない。

その動きはとても遅く見える、不思議な感覚だ。

 

──ゆっくりと目を瞑る。

 

明花……どうか無事で。

必ず幸せになるんだぞ。

 

我が仲間達……先に逝く。

桃香様を頼んだぞ。

近いうちに会わぬ事を祈ろう。

 

 

 

一刀……

皆で生きるという貴方との約束は、どうやら守れぬようです。

お許しください。

どうかこの先、あの子のような子供が増えないように、お願いします。

 

……許されるのなら、最後に──

 

 

 

 

 

 

 

貴方の、笑顔を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王間に、真っ赤な鮮血が飛び散った。

 


 
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