No.511809

魏エンドアフター~想イヲ乗セテ~

かにぱんさん

(´Д`)

2012-11-24 19:34:35 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:6599   閲覧ユーザー数:4905

最近一刀殿の様子がおかしい。

話をしているときも、鍛錬をしているときも、どこか心ここに在らずといった感じだ。

さりげなく何かあったのかと探りを入れてみても、困ったように笑い誤魔化されてしまう。

私はそんなに頼りない存在なのだろうか。

確かに一緒にすごしてきた時間は魏の皆に比べ長いとは言えない。

しかし、彼のことは理解しているつもり。

彼の優しさや強さ、弱さ。

これまで過ごして来た中で私はずっと見てきた。

私が隣を歩いている時も、会話はおろかまるで私が居ないかのように一人考えに耽っている。

隣を歩いているのが華琳殿だったら、その思いを話してくれるのだろうか。

……胸がチクリと痛む。

昔の自分ならこんな感情は間違いなく経験する事はなかったであろう。

これが嫉妬というものなのだろうか。

……らしくない。

自分で言うのもなんだが本当にらしくない。

聞きたいなら堂々と聞けば良いだけの事。

なぜそれをしないのか。

……理由は分かっている。

私は一刀殿に自分から話してほしいのだ。

私が問いただせば渋々ながらも話してくれるだろう。

しかしそれでは私は只の面倒な女になってしまう。

私は一刀殿にとって頼れる存在でありたい。

何が足りないのだろうか。

わからない。

恋とはこうも苦しいものなのだろうか。

心の病とは良く言ったものだ。

全くその通りだと思う。

はぁ……こんな憂鬱なときはメンマに限る。

メンマでも買って一杯やるとしよう

 

 

 

 

 

 

 

霞「お、星やないか。どないしたんや?そんな浮かん顔して」

 

城壁に上るとそこには先客がいた。

彼女とは良い飲み仲間だ。

メンマのすばらしさもなかなかに理解している。

 

星「なに、一杯やりたくなっただけだ。霞は何をしているのだ?」

 

霞「ウチか?ウチも一杯やっとってん。やっぱ仕事の後の酒は格別やな」

 

そう言ってニヒヒと笑う。

 

星「では私もお邪魔するとしよう。肴も持ってきていることだしな」

 

霞「それはやっぱ──」

 

星「無論、メンマ以外に何がある」

 

霞「ほんま、自分それ好きやね。まぁ美味い事は確かやけど」

 

星「うむ、これ以上酒の肴にふさわしいものはない」

 

二人城壁の上に並んでちびちびと酒を仰ぐ

 

霞「で、その憂鬱な顔の訳は話してくれるんか?」

 

しばらく城下を眺めながら飲み交わしていると、霞がそう聞いてくる

 

星「……なに、つまらん事だ」

 

霞「一刀やろ?」

 

星「っ……」

 

霞「やっぱなぁ」

 

平静を装ったつもりだったが霞にはお見通しだったようだ。

 

霞「なんや自分、毎晩一刀を独占しとるのにまだ何か不満があるんか?」

 

一刀殿曰く、秘密裏の特訓だったそうだが残念ながらバレている。

あれだけ轟音を立てていれば当然だが

 

星「それは役得だと思っているさ。

  しかしな、最近一刀殿の様子がおかしいと思わないか?」

 

そう言うと霞は少し思案する仕草を見せ

 

霞「確かにな、朝議の時も警邏の時も上の空やったしな」

 

星「何があったのかはわからん。

  余程重要な事なのかもしれん。

  しかしあの方はそれを私に話してくれんのだ」

 

霞「あーそれは一刀の悪い癖やな。

  どんなに重くて苦しい事も自分ひとりで背負おうとしよるからなぁ」

 

少し表情に陰りが見える。

何を思い出しているのだろうか

 

霞「星は三年前、一刀が消えた理由は知っとるんか?」

 

唐突な質問。

しかしそれは気まぐれで聞いているわけではないようだ。

 

星「天命を終えた──と聞いているが」

 

霞「まぁ……それはそうやねんけどな。それまでの過程や」

 

星「詳しい話は聞いていないな。皆その時の事は思い出したくないのだろう」

 

以前、何度か桃香様や雪蓮殿が一刀殿の事を華琳殿に聞き、とても痛々しい表情をしていたのが伺えた。

 

霞「思い出したくないんやない。

  その時に一刀に何もしてやれんかった事を皆悔やんでるんや。

  自分は何かできたんやないか、自分が気づいていれば何か対策が取れたかもしれん。

  自分達の何も知らん所でずっと一人苦しんで、我慢して、皆の平和を勝ち取った矢先、

  自分はもう用済みとても言うように消えていったんやあのアホは……!」

 

その時のことを鮮明に思い出しているのだろう。

歯を食いしばり、杯をぎゅっと握っている

 

霞「あぁいかん、ちょっと熱くなってもうた。

  全部華琳から聞いた話なんやけどな。

  一刀の世界ではウチらの世界の歴史が全て書かれとるらしいんよ。

  それをもとに一刀はいろんな策を提案したんや。

  あの定軍山での奇襲の事覚えとるか?別に今更どうでもええねんけどな

  本来ならあそこで秋蘭は紫苑に討たれるはずやったんやと。

  でもそれを知っていた一刀はそれを阻止するために軍を送ったんや。

  異常な速さやったろ?あれは一刀が未来を知っとったからなんや」

 

……そうだったのか。

確かにあの援軍の速さは尋常では無かった。

奇襲を受け、すぐに城へ援軍の要請をしたとしても明らかに異常な早さで援軍が到着していた。

 

霞「そのおかげで秋蘭は無事に生還。

  一刀もごっつ安心しとった。……でもな。

  一刀が華琳に定軍山での話をした直後に倒れたんや。

  原因は不明、医者は過労やっていっとった。

  でも明らかにおかしいねん。

  それから一刀は度々眩暈を起こしたり、寝込んだりしたんや

  あの赤壁の戦いの時にも一刀は未来の話をしたんや。

  結果、ウチらは勝利を収めることができたんやけどな」

 

杯に注がれた酒をじっと見つめながら語る

 

霞「一刀は許子将にこんな事を言われたらしい。『大局には逆らうな、逆らえば身の破滅』」

 

大局──とは多分、天の世界での歴史の事だろう

 

霞「一刀はどこかで分かっとったのかもしれん。

  このまま進めば、先にあるのは自分の消滅やって。

  それでも一刀はやめようとせんかった。

  皆の夢、理想を叶えるために別の所で自分一人苦しんだんや」

 

……確かに彼らしいとは思う。

だが愛した者を置いて消えていく。

その時の彼にとって、それはどれだけの恐怖だっただろうか。

 

霞「そして華琳が見事大陸を収め、やっと世の中が平和になる。

  戦なんかせんで済む、自分の愛する人と平和に過ごす事ができる。

  皆大喜びやった。

  ……その夜、一刀は消えたんや」

 

気のせいだろうか、少し声が震えている気がする

 

霞「あのアホはな、ウチらのため、平和のためや言って苦しいのも辛いのも全部独りで背負って

  全部独りで抱えて消えてったんや。

  在るべき歴史を大きく捻じ曲げたから。

  ……これが一刀の消えた理由や」

 

そう言って顔を上げ、酒を仰ぐ

 

霞「本当は怖いって、消えたくないって叫びたかったのかもしれん。

  それでも一刀は笑顔やった。

  それは一刀の優しさなんやけどな、一刀はウチらには何処までも優しいねん。

  せやけどその優しさが時に辛いんよ」

 

私は当事者ではない。

しかし一刀殿の事だ。

皆に心配をかけまいと無理に笑顔を作り、体調不良を隠していたに違いない

その時の彼女達の気持ちが痛いほどにわかる。

悲しみのどん底に突き落とされただろう

ある者は絶望すらしたかもしれない

 

星「……辛い話をさせてすまないな」

 

霞「ええよって。

  同じ人を愛しとるんや。

  愛した男のことくらい知っておきたいやろ。

  まぁウチが言いたいことはあれや。

  あの何でも独りで背負い込む癖を何とかしようやって事」

 

星「何とかしたいのは山々だがあの方はあれで強情な所がある。

  簡単にはいかぬのではないか?」

 

霞「ウチら武官は力しかないからなぁ。

  力でぶつかっていくしかないと思うで」

 

星「そんな強攻策で良いのか?」

 

霞「ま、やってみるだけやってみたらええんちゃう?無駄にはならんと思うで。

  自分の気持ちぶつけてみようや」

 

星「ふむ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前に言われた事を考えていた。

俺が外史という世界で何をしてきたのか、そしてどういう運命を辿ってきたのか。

どの外史の話を聞いても共通している事。

──外史の消滅。

今までこの外史は何度も繰り返されてきたと言っていた。

そして全てがリセットされ

また新たな外史が生まれ、俺は消滅し外史も消滅してきたと。

しかしこの外史は異例。

皆の想いが強く、外史は残り俺も帰還を果たした。

白装束の望む、外史の破壊。

それを実行するために明花が必要となる。

この世界を在るべき姿に還す事が目的。

在るべき姿、それは──この外史の消滅。

それは華琳達の消滅を意味している。

華琳達を消す?ふざけるな。

そんな事させる訳がない。

俺の大切な人たちを消す事なんて絶対に許さない。

このままこの世界は続いていく。

俺が皆を守るんだ。

ずっと……ずっと俺は守られてきたんだから。

明花の心の傷を少しでも癒してやりたい。

華琳達に平和な日常を少しでも長く過ごしてもらいたい。

それが出来るなら、俺は喜んでこの命を差し出す覚悟がある。

絶対に守るんだ。

絶対に。

この世界を、華琳達を消させてたまるかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて夜中の鍛錬。

いつもなら星が手合わせしてくれるんだけど今日は都合が悪いのかな?

先に来ているはずの星が見当たらない。

まぁいつも付き合ってもらうのも悪いし、たまには一人で基礎でもやるか

と、思った矢先。

暗がりの向こうから影が二つ。

誰かと思ったがその二つのシルエットには見覚えがある

 

霞「やっほ。一刀」

 

星「…………」

 

やはりというべきか、やってきたのは霞と星。

霞はどうやらずっと酒を飲んでいたのか少し出来上がっている

 

星はというと……なんだろう、少し元気がないように見える。

 

一刀「こんばんは。えっと、どうかしたのか?」

 

二人ともどこか空気が違う。

イラついてるというか怒っているというか……俺なんかした?

 

霞「自分の胸に手ぇ当てて考えたらええんちゃう?」

 

ぅぉぉ怒ってる。

霞が怒ってる……マジで俺なんかしちゃったのか?

記憶にない。

というかそもそもここ数日誰かと話した記憶が残ってない。

いやしかし普段そんな怒らない霞が怒っているんだ。確実に何かしたのだろう……けど……

 

一刀「ごめん、心当たりがないんだけど……何かしたなら謝るから教えてくれないか?」

 

そう言うと霞が一歩前へ出る

 

霞「なぁ一刀。自分気づいとるか?最近どっか様子が変やで」

 

一刀「え、誰が?」

 

霞「一刀がや。朝議の時も警邏の時も時々上の空になっとんで」

 

一刀「え?」

 

まじか。

俺なりに結構まじめにやってたつもりなんだけどなぁ……あの筋肉め。

霞が怒ってるのはその事か?仕事に関しては結構まじめだからな。

 

一刀「あー……ごめん、今度から気をつけるよ」

 

しっかりしないと。

 

霞「そんな事はどうでもええねん」

 

どうでもいいんかい

 

霞「一刀。また何か独りで厄介な事抱えこんどるやろ」

 

 

 

 

心臓が跳ね上がった。

あの話は霞達には聞かせてはいけないような気がした。

 

一刀「白装束のことか?それは明花が狙われたからちょっと神経質になってるだけで……

   それともあれか?五胡の事か?

   最近襲撃報告も目撃報告も何もないから気になってはいたんだけど──」

 

霞「ごまかすなや」

 

とても落ちついた、とげのある声で制止される

 

星「一刀殿。私と真剣勝負をして頂きたい」

 

そう言って竜牙を取り出す。

刃は潰れていない、文字通りの真剣だ。

 

一刀「ちょ、ちょっと待ってくれ。本当に何かしたんなら謝るから!」

 

霞「何もしてへんよ。……ホンマに、なぁんにもしてへん」

 

ちょっと!?それじゃこれ只のイジメになるんですけど!?

 

霞「何もせぇへんから──腸煮えくり返っとんのや」

 

なんで!?なに!?これどんな状況!?

 

星「とにかく勝負して頂きます。

  貴方にその気がないのならこちらから勝手に仕掛けますので」

 

一刀「ッ!?」

 

一瞬で間合いへ踏み込み竜牙を振り下ろしてきた。

とっさに桜炎を抜き防御できたが、あと一瞬遅ければ死んでいたかもしれない。

 

一刀「せ、星ッ!!」

 

星「はぁぁぁぁ!!」

 

竜牙を頭上で回転させ遠心力を加え振り下ろしてくる

まじか……これは洒落にならんぞ……

 

星「まだやる気がないのですか?私は本気で貴方を殺しにかかっているのですよ」

 

 

…………

 

 

一刀「ちょっと頭冷やしてもらうぞ。これは洒落になってない」

 

星「無論。洒落などではありませぬからな」

 

ちょっとカチンと来た。

……何があったかは知らんがとりあえず頭を冷やしてもらおう。

霞も霞で止めようもしないし、なんなんだ。

何か不満があるなら普通に言ってくれよ。

 

星「余所見している余裕があるとは──随分となめられたものですな!!」

 

振り下ろした状態から身体ごと回転させなぎ払い、振り上げ、高速での連続突き

 

くッ……!!

どうも本気のようだ。

覇気も大会の時以上のような気がする。

 

一刀「このッ……!!!」

 

連続の突きを居合いで止め、上段蹴り。

氣を暴発させ思い切り通り過ぎ様に抜き打ち

しかし全て防御される。

さすがは五虎将の一人。

この程度どうってことないってか。

 

星「ようやくやる気になられたようですな」

 

口元に手を当て、艶美な微笑みを見せる

 

一刀「悪いが何もおかしくない。俺は今怒ってるんだぞ」

 

星「それは我らとて同じ。貴方は少々我々を見くびっているようだ」

 

何を言っているんだ星は。

俺が彼女達を見くびっている?何の話かさっぱりわからない

 

一刀「何の事かはさっぱり分からないけど、もっと平和的なやり方があるんじゃないのか?」

 

星「貴方は多分何を言ってもその考えをお変えにならないでしょう。

  ならば我が武を持って知らしめるのみ」

 

俺はそんなに聞き分けの悪い子だったのか

 

一刀「そんなに俺が気に入らないのか。嫌われたもんだな」

 

星「嫌ってなどおりませんよ。

  むしろ貴方を好いているからこそ、皆やりようのないイラつきを抱えてしまっているのです」

 

俺の与り知らぬ所で話が勝手に進んでいるが全く理解できていない。

もっと直接的に言ってくれ。

 

星「我らが不甲斐ないから貴方は独りで全てを抱えてしまう。

  貴方に認めてもらうにはこの方法が一番手っ取り早かったのですよ」

 

一体なんのことを──ッ!!

 

一瞬で間合いを詰め、薙ぎ払い、それを返し、叩きつけ、突く

その全てが舞うように連続的に繋がっている。

戦いの最中彼女を美しいと思うものは少なくないはずだ。

 

見惚れてしまったが最後、彼女の牙の餌食になるのは目に見えている。

その連撃から逃れるため、思い切り地面を蹴り後ろへ下がる。

 

星「やはり……貴方は本気では向かってくれないのですね」

 

何を言ってるんだ。

こちとら命が掛かってるのに本気じゃないわけがないだろう

 

星「貴方の力はこんなものではないはずです。

  なぜ全力を向けてくださらない?」

 

なんだろう。

何か──

 

星「いえ、わかっています。貴方は本気なのでしょう。

  無意識に加減してしまっているのでしょうな」

 

今の星の言葉にはいろんな意味が込められているような気がする。

 

霞「ウチらはそれが心底辛い、歯痒い、もどかしいんや」

 

彼女の表情からはどこか切ないような悲しいようなものを感じる。

……なんだ?俺が彼女達をここまで追い詰めているのか?

 

つか──ちょっと待て!!

 

桜炎で竜牙を受け止め、もう片方の腕を摩天楼に添える

そのまま居合で一閃。

未だ完璧には扱え切れていない。

今のような不安定な態勢からだと姿勢が崩れ次の攻撃に繋がらない。

 

霞「選手交替や」

 

そう言って霞は得物を担ぎ近づいてくる。

……マジかよ!!

 

一刀「待ってくれ!いくらなんでもこれは無理だ!」

 

霞「あたりまえやん、一刀の根性を叩きなおすためにやっとるんやから」

 

 

 

…………

 

 

 

一刀「いい加減にしろよ。

   何が不満か知らないけど俺だって限界ってもんがあるんだぞ」

 

らしくもない。

彼女達にこんな怒気をぶつけるなんて本当に何を考えているんだ俺は。

でも意図がわからないままここまでされて尚且つ二人掛かりで来るなんて只のリンチだ。

 

霞「それでええねん、一刀は本気でぶつかってくればええ」

 

両脇に二刀を構え居合い。

そのまま交互に斬りつけ全力で叩き伏せる

その連撃を全て受け止め、霞が懐へ潜り込んでくる

 

ドンッ!!

 

霞「なっ……!」

 

それを肩で弾き飛ばし、後退したところへ逆胴を放つ

 

霞「ぐッ……!!」

 

弾き飛ばされた霞は得物を落とすことはないものの酔っていた為かいつもよりも動きが遅い

というか勝負には大真面目な霞が酔っているにも関わらず得物を振り回すなんて……

 

霞「せぁあ!!!!」

 

頭上で得物を回転させ振り下ろし、横へ薙ぎ、中段への蹴り、切り上げ

動きはいつもよりも遅いものの力は衰えていない。

これだけの連撃を受け続けるのは無理だ。

 

一刀「なんなんだよッ!!」

 

振り下ろしてきた得物を斜め前へでて回避し、思い切り二刀を横から叩きつける

その衝撃からか、少しよろけて後ろへ下がる

 

霞「あっかんなぁ……こんなんやから一刀は独りで全部背負ってまうんやな」

 

さっきから一体何のことを──

 

霞「こんなんやから一刀は誰にも何も言えず独りで苦しんでたんやなぁ」

 

ふらつきながらも得物を担ぐ。

その目には哀しい感情が見える。

 

霞「もう独りで背負わせることなんてせぇへんよ。

  ウチらは皆一刀を支えるためにおるんやからな」

 

神速の牙が襲い掛かる。

しかしその連撃が次の攻撃に繋がる事は無かった

 

霞「悔しいなぁ……なんでこんなに不甲斐無いんやろな。

  ホンマ、悔しいなぁ……」

 

哀しい感情を映した彼女の目から──雫が零れ落ちる

 

──え?

 

霞「待っとってや。すぐに隣に並んでみせるさかい。

  隣で手を握ったるから、独りで背負わせる事なんてせぇへんから」

 

心臓を鷲掴みにされているような、胸を締め付けられる感覚に襲われる。

霞が泣いている、俺のせいで。

涙を流しながらそれを拭おうともせずにまた切りかかってくる。

……この子は心を痛めながらも俺の為にこうして全力で向かってきている

 

霞「もう──独りで消えていくなんてことさせへんから……!」

 

ッ……!!!

 

その言葉を聞いた瞬間、彼女達がこんなことをした理由を理解した。

 

何をしているんだ俺は……!

これじゃあ──三年前に彼女達を苦しめた事と同じ事をしようとしているじゃないか……!

 

凪に言われた事を思い出した。

俺は残された者の痛みを分かっていない。

俺は自分の自己満足で、皆を傷つけているのか。

 

霞達の言葉から察するに俺が最近考え込んでいるのを皆気付いていたのだろう。

そしてあの時のようにまた俺が何かを隠しているのではないか。

また皆に何も言わずに消えてしまうのではないかと。

心配してくれているのだろう。

こんなに心根の優しい子を俺は──!

 

自分に嫌気が差す。

皆に心配を掛けないように、皆を悲しませないようにとしている事が全て彼女達を苦しめている

華琳と誓ったじゃないか。

二度と皆を泣かせるようなことはしないと──!

 

霞が間合いに踏み込んでくる。

同時に前へ踏み込み

 

 

 

 

 

その身体を抱きしめた。

 

 

 

霞「一刀……?何しとんねん。

  まだ勝負はついとらんで、ウチはこれからが本領発揮なんや」

 

一刀「ごめん。本当に……ごめん」

 

更に強く抱きしめる

 

霞「まだ一刀はウチらを認めてへんやろ?

  ウチは早う認めてもらわなあかんねん。頼られなあかんねん」

 

そう言う霞の声は震えていて、俺の頬を彼女の涙が濡らす

 

俺は──俺がバカなばかりに……この子にこんなことを言わせてしまっている。

俺が彼女達を認めていないはずがない。

彼女達を頼りにしていないはずがない。

只俺はずっと守られてきたから。

今度は俺の番だと、今度は俺が皆の楯になろうと思っていたんだ。

それがこんなにも彼女達を苦しめている。

何よりもバカな自分を呪った。

 

一刀「違うよ、違うんだよ霞。

   俺は霞達を認めていないんじゃない。

   頼りにしていないんじゃない。

   なによりも頼りにしているし大切に思ってるよ。

   ……只俺は皆に守られていたから……悲しませてしまったから

   今度は俺が守る番だと思ったんだ。

   それがこんなにも霞達を苦しめてる。

   ……本当に俺はバカだ」

 

自分に置き換えて考えてみろ。

自分の知らないところで大切な人が苦しんで、独りで消えてしまうかもしれない。

それも二度も。

俺だったら耐えられない。

それくらい少し考えれば分かる事じゃないか……!

 

一刀「俺の自己満足で皆を苦しめているなんて……本当にごめん」

 

霞「一刀……」

 

一刀「俺はこんな情けない男だけどさ、まだ見捨てないでくれるか?霞達を頼ってもいいか?」

 

霞「そんなん……当たり前やんか。

  見捨てるなんてことせぇへんし、どんどん頼ってや、寄りかかってや」

 

一刀「星も……いいかな?」

 

星「ふふ……愛しい殿方に頼られるのだ。これほどに嬉しい事などそうそうありませんよ」

 

一刀「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

霞「よっしゃ!」

 

いきなり霞が大声を張り上げる

 

霞「一刀がウチらを頼ってくれるいうんやから記念に祝杯あげなあかんやろ!」

 

いや、あかんことはないと思うけど……

 

星「ですな、ここで杯を交わせば今の貴方の言葉は二度と取り消せぬ事になる。

  ずっと頼っていただきますぞ」

 

この祝杯の裏にそんな陰謀が隠されていたとは。まぁ取り消すなんてことしないけど

 

一刀「とりあえず落ち着こう。今は草木も眠る丑三つ時だからさ」

 

霞「そんなんどうでもええやん、明日非番やろ?じゃあ一刀の部屋に直行やな」

 

星「うむ。私も明日は非番故、飲み明かすこともできよう」

 

そう言って俺の腕を霞と星がぐいぐいと引っ張る

 

一刀「い、いや俺は明日警邏はないけど書類の処理が──」

 

霞「いくでぇ!!今日はとことん飲もうや!!」

 

俺の話を聞いてくれ!明日までに終わらせなきゃいけない仕事なんだから!

 

先程のしんみりした空気とは裏腹に元気いっぱいの霞。

……彼女らしいといえば彼女らしい。

そのまま俺は朝まで飲まされ、二日酔い&寝不足&筋肉痛という半死状態で仕事を行った。

そしてさりげなく星が俺を『一刀』と呼び捨てにして呼んでいた。

距離が縮まったという感じがして嬉しく思う。

でももう次の日仕事の時は勘弁してください、お願いします。

 

 

 

 

 

数日後、皆に王間に集まってもらい数日前街で言われた事を話した。

いくつもの外史の存在、、白装束の狙い、明花の力。

皆も最初は何を馬鹿なことをみたいな顔をしていたが、真剣に聞いてくれていた。

明花を守る事。

それがこの外史を守り、皆を守るということに繋がる事。

全てを話した。

 

秋蘭「そうだな、それに突拍子も無い話だが北郷の言っている事を否定する材料もない」

 

稟「ええ、白装束は何かを探していたようですし、

  その探し物が明花であるとなれば私たちは全力で守るだけです」

 

桂花「あんたの事はどうでもいいけど明花に手を出されるのは許せないわ」

 

春蘭「その半裸の大男なら以前どこかで見かけたような気がしたのだが……」

 

季衣「春蘭様ぁ、今はそんな奴のことなんかどうでもいいんですよぉ」

 

流琉「季衣が突っ込みを……」

 

華琳「とにかく、今はまだ何もわかっていないわ。各地に兵を送って調べさせてみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、事態は急展開を見せる。

それは俺たちにとって、いや、三国にとって凶報以外の何物でもなかった。


 
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