~聖side~
ただいま厨房にて、奮闘中の俺と麗紗と一刀。
「なぁ~徳ちゃん、まだぁ~??」
「もうちょっとだから…これでも食べて待っててよ、霞。」
「ん?? これは??」
「胡瓜を味噌で漬けたんだ!! お酒に合うと思うよ。」
「ふ~ん。じゃあ、一本…。」
霞は、差し出された漬物を一つ摘むと口に運び、それに続けて酒を煽る。
「ん~!! 酒に合うな~!!!!」
「そう? そりゃ良かった。」
霞はその目を細めて、にこりと微笑んだ。その笑顔を見ると、作って良かったと思う。
「恋もどうぞ。」
「……もきゅもきゅ。(コクン)」
ほわ~……癒される~……。この小動物みたいな食べ方…ギザカワユス!!
「こら~!!!ねねにも食べさせろ~!!!
「はい、酢豚。それと、これは俺の国の煮物ね。」
「無視するな~!!!!」
「はいはい、落ち着いて。ねねには…これだ!!!」
俺が取り出したのは……日の丸の旗が刺さったオムライス、小さめなハンバーグとエビフライ、ポテトサラダにナポリタンまで付いているワンプレート…。
「…何か悪意を感じるのですが…。」
「なんでかな??」
「…まぁ、良いのです。」
渋々ながら、ねねは食べ始めた。
「……これは…。」
「どうかしたか?一刀。」
「……似合ってるな…。」
「だな!!」
一刀にサムズアップで答える。
「なぁ、徳ちゃん。ねねの食べてる奴も天の料理なん?」
「あぁ、そうだよ。」
「ふ~ん。名前は?」
「お子様ランチだ!!!(ドンッ!!!)」
「子ども扱いするな~!!!!(ガシャーン!!!)」
ねねは、卓袱台返しの要領で、お子様ランチのプレートを放り投げた。
上に乗っていた料理が空を飛び、放物線を描きながら地面に落ちる。
「あぁ~…。せっかくの力作が…。」
「自業自得なのです!!」
ガシッ!!
ねねの首根っこをつまみ上げ、宙ぶらりの状態にする恋。
「恋殿!!??」
「……食べ物粗末にしちゃ……駄目…。」
「でも…それは、こいつが…。」
「…聖は…ねねの為に作った…。それを粗末にするのは…失礼…。ねね…聖に…謝る…?」
「何でねねが!!!!」
「恋も…一緒に謝ってあげるから…。」
「うっ…。 ……わ…悪かったのですよ…。」
「聖…ごめんなさい…。」
「うん、許さん!!(ニコッ)」
「何ですと~~!!!!!!」
「ってのは冗談で…。俺も、理由も言わずにねねに出したからな…。」
「理由??」
「あぁ。実は、子供向けの採譜として、さっきのを考えてたんだけど…試作品だったし、一番年が若いねねに食べてもらって、判断しようと思ってたんだ…。」
「……。」
「でも、料理は無残な姿になっちゃったし……。」
「……。」
「もし、もう一度作っても、また食べてもらえなかったら、作っても仕方ないし…。」
ちらっとねねの方を見ると、申し訳なさそうな顔をしている。
……やべぇ、楽しくて仕方ない。序に日頃の恨みもかえしておくか。
「はぁ~…。せっかくの新メニューがな~…。」
「……。(グサッ)」
「手間かかったのにな~…。」
「……。(グサグサッ)」
顔を俯かせた状態で震えだすねね…。
ここまで言えば普段の俺に対する態度も変わるだろう…。
そう思って得意顔でねねの方を向いていた俺。
しかし、どうも様子がおかしい…。
すると…。
「うわぇぇ~ん。」
「「「「「!!!!!」」」」」
突然泣き出したねねに、その場に居た全員が驚く。
「…おい…ねね??」
「ねねが…ねねが悪かったのでず~!!! ぞごまで…がんがえでるなんで……。」
「いやっ、もう気にしてないから…。」
「せやで~。徳ちゃんが、そんな小さいこと、いつまでも気にするかいな…。」
「あうぁぅ~……ねねさん……泣き止んでください…。」
「でも…でも~…。」
より一層、泣き出すねね。泣く子と地頭には勝てないとはよく言ったものだ…。
「あ~あ…。聖のせいだぞ…。」
「俺っ!?」
「そらそやろ…。あそこまでねねを追い詰めたんやから…。」
「聖…ねね泣かしちゃ…駄目…。」
「う~ん…。参ったね…。」
どうしようか迷っていると、アレを思い出す。
「じゃあ、アレを使おう!!」
「アレか…。」
「アレ……ですか…。」
「…なんや、あれって??」
「アレとは……これだ!!」
俺は、黄色いお山型の、プルプル震えるものを取り出す。
辺りに、甘い香りが立ち込め、その匂いにねねが少し泣き止んだ。
「ぐすっ…これは…??」
「これは、天のおやつだよ。プリンって言うんだ!!」
「ぷりん??」
「これに…これをかけて…はい、どうぞ。」
上からキャラメルソースをかけて、ねねに出してあげる。
ねねは、少しだけ掬ってそれを口に運ぶ。
次の瞬間、泣いていたねねの顔が嘘のように笑顔になった。
「う~~~~!!!! 美味しいのです!!」
「良かった、気に入ってくれたみたいで。」
「(クイクイ)」
「ん??どうした? 恋?」
「…恋も…。」
「恋も食べたいのか??」
「……。(コクンコクン)」
「う~ん…。食べさせてあげたいのは山々なんだけど、材料が無いんだよね~…。」
そう、先ほどまでの恋の食事に、用意していた材料をつぎ込んでしまっていたのだ。
「何ですと~!!! どうして、そういう大事なことを先に言わないのですか!! あぅ~恋殿~。申し訳ありません…。 …よしっ!! なら、ねねが買ってくるのです!!」
「…良いのか??」
「恋殿のためなら、それくらい、ちょちょいのちょい、なのです!!」
「そうか…なら、お願いしようかな!!」
「任せるのです!!」
俺は、ねねに、卵を買いに行くように頼み、お金を渡した。
ねねは、意気揚々と市場の方に歩いて行った。その後ろ姿を見守っていると、何故だかとても不安になる。
「あぁ~…心配だな…。」
ねねには悪いが、初めてのお使いを見守る親の気持ちだ…。
「大丈夫やって!! ねねは子供みたいやけど、董卓軍の立派な将やで!? 心配するだけ無駄やって!!」
「まぁ…そうだけど…。」
それでも、不安な気持ちが止むことは無い。寧ろここまで来ると、何か悪いことが起こる前触れにも感じる。
「やっぱり俺、ねねを追いかけるよ!! 一刀!! 後よろしく!!」
「えっ!! おい!! ちょっと!!」
俺は厨房を出て、ねねを追いかけた。
その頃、残された厨房では…。
「なんや~ねねは徳ちゃんに愛されてんな~!!」
「まったくだね。」
「……まったくですね…。」
「…。(コクン)」
「でも、女としてって言うより、むしろ妹って感じな気がすんねんけど…。」
「あぁ。実際、聖にとっちゃ妹同然なのかもね…。」
「一刀は何か知っとるん?」
「昔、聖に教えてもらったことがあるんだけど、あいつには妹がいたんだと…。だから、年下で、自分と親しい女の子と接すると、まるで妹と接してるような気持ちになるらしいよ。」
「へぇ~…。」
「……そうなんだ……お兄ちゃん…。」
俺も心配し過ぎかな…。
実際、ねねは市場に着くまで、トラブルに巻き込まれるようなことは無かった。
今現在は、人の往来が激しい道を歩いてはいるが、特に問題は無さそうだ。
どうも俺は年下の女の子を見ると、妹のように扱ってしまう。
妹じゃないことくらい、分かっているのに…。
ねねは、無事に店に入る。俺は、ねねが出てくるまで、向かいの店から見守ることにする。
店に入ってから四半刻。
卵を買いに行ったにしては、時間がかかり過ぎている。
……何かあったか…??
俺は、その店の近くに寄り、慎重に中の様子を伺うことにした。
中からは、言い争う声が聞こえてくる。
「離すのです!! ねねを、董卓軍軍師、陳公台と知っての狼藉なのですか!!」
「うるせぇ!!!!将軍だろうが軍師だろうが、秘密を知られたからには生かしちゃおけねぇ!!」
「止めるのです!! 離すのです~!!!」
どうやら、ねねが危険みたいだ…。嫌な予感が当たっちまったな…。
とは言え、このまま俺が、この姿で事件を解決するのは宜しくない。
さらに悪いことに、今日はたまたま蝶々仮面を持ってきていない…。
ねねの命が危険に晒されている今、取りに戻る様な猶予は、一刻も無い。
「くそっ!!何か無いか!!」
市場に目を移し、何か無いか探してみる。
「っ!!! すいません、コレください!! お金はここに置いときます!!」
俺は、露天商で売られていたお面を一つ買い、それを手にねねの救出に向かった。
「うふふふっ。特に疑問も無しに買っていったわねぇ…。また、直ぐに会うことになるでしょうけど…それまで頑張ってねぇん♪」
聖の後姿を、露天商のその筋肉達磨は見つめ、不気味に笑うのだった…。
~ねねside~
私は、鶏卵を買いに市場へ行った。
恋殿の為にも、早く買って帰らなければならないのだが、しかしその店はどうも怪しい…。
店には、他に客は居ないというのに、三人の店員らしき人が居て、常に私の行動を見ている。
そして、私の応対をした中年の男は、自分の店であるはずなのに、物の場所が分かってない。加えて、鶏卵の扱い方が明らかにおかしい。この人は、普段からこのようなことをやっていないのは明白である。
では、何故そのようなものがここにいて、店主をしているのか…。答えは一つ、この男は本物の店主ではない。
つまりは、この男は賊か何かで、この店の主人を襲い、成りすましていたのだろう。なんとも下劣な奴らだ…。
私の表情が曇る。
私はこの男達を捕まえるべく、鶏卵を受け取って、直ぐに警備兵を呼ぼうとした。
しかし、呼ぼうとした刹那、男達に体を押さえつけられ、身動きが取れない格好になる。
どうやら、私の表情の変化に、自分達の事が気付かれたと思い、即座に拘束したようだ。
「離すのです!! ねねを、董卓軍軍師、陳公台と知っての狼藉なのですか!!」
「うるせぇ!!!!将軍だろうが軍師だろうが、秘密を知られたからには生かしちゃおけねぇ!!」
「止めるのです!! 離すのです~!!!」
私の願いは受け入れられず、拘束された状態が続く。
すると、男の一人が生身の剣を持ち、こっちにやってくる。
「何を!!!」
「口封じに決まってるだろ? このままお前に生きてられちゃあ困るんだよ。」
「くっ!! 離せ!! 離せ~!!!!!」
「恨むんなら、この店に来ちまった自分を恨むんだな。」
そう言って、男が剣を振り下ろそうとする。
背筋には、今まで掻いたことの無いほどの汗を掻き、顔は青ざめ、唇が震える…。
愈々殺される、と思ったその瞬間、店の扉が吹き飛び、そこに一人の人影があった。
~聖side~
店の扉をぶち破り、店内に侵入する。
「おいっ!!てめぇ、何者だ!?」
急に現れた人影に、ねねを押さえつけていた男達は、一瞬戸惑う。
それもそうだろう…。なんて言ったって、俺は今、般若面と薄い布で顔を隠しているのだから…。
「ひと~つ、人世の生血を啜り、ふた~つ、不埒な悪行三昧、みっつ、醜い浮世の鬼を、退治てくれよう、桃太郎!!!」
俺は、高橋○樹ばりの低い、良い声で名乗る。
ここに、新・桃太郎侍が誕生した。
「何、訳解らないこと言ってんだ!! 死ね~!!!!」
男の一人が襲い掛かってくるが、俺はそれを難なく避け、磁刀で峰打ちにして戦闘不能にする。
「くそっ!! 皆のもの、やってしまえ!!」
「「「「応っ!!」」」」
「ふん、下種が…。一人残らず成敗してくれよう!!」
……その後、数分も掛からない内に男達を全滅させた俺は、怖かっただろうねねの傍に行く。
「うっ…グスッ…うっ…。」
……ねねは泣いていた。
当然だ。
こんな女の子が、こんな怖い体験をしたら、泣き出すのも当然である。
しかしねねは、恐怖以外にも泣いている原因があるようだった。
「…鶏卵が…鶏卵が…グスッ…。」
どうやら、先ほどの出来事の最中、卵が割れてしまったようだ。
ねねにとっては、自分が危ない目に遭うことよりも、恋がプリンを食べられないのが悲しいらしい。なんとも恋想いなことだろうか…。
そんなことを思いながら、ねねを見ていると、ねねは、俺の存在に気付く。
すると突然、恐怖の表情が浮かび、後ずさりする。
……まぁ、般若面とか怖いしね…。良いよ…俺、気にしてないもん…グスッ…。
一筋の涙を仮面の下で流しながら、ねねの頭を撫でてやる。
初めは、恐怖で動かない体を、必至に動かそうとして逃げようとしていたが、急に大人しくなり、素直に頭を撫でられていた。
その後、新たな鶏卵をその店から買って、城へと帰宅するねね。
俺は、人気の無いところで仮面を外し、ねねよりも先に城の厨房へと戻って、何食わぬ顔で、ねねが帰ってきたのを迎えた。
その後、ねねが買ってきてくれた鶏卵を使って、新たに人数分のプリンを作り、皆で食べた。
霞も恋も、プリンを気に入ってくれて、俺の料理スキルがまた一つあがった気がした。
~ねねside~
城で、賑やかに談笑している時より、少し時間は遡る。
……変な奴が現れたのですよ…。
怖い表情をした仮面を被り、意味の解らないことを述べるその男。しかし、その強さは、賊なんかでは適わない。
ようやく一安心できると思い、溜息を一つ吐いたところで、鶏卵が割れていることに気付く。
……せっかく買ったのに…あの男に『任せろ!!』と言ったのに…。
私はそのまま俯く。
自然と私の頬を涙が伝い、そのまま堰を切ったように、涙が溢れ出した。
私は、こんな簡単なことでさえ、満足に出来ないのか…と自分を哀れむように…。
ふと気配を感じ、顔を上げると、仮面をつけた男が傍に居て、驚いて後ずさりした。
それと同時に、得体の知れない恐怖が私を襲う。
……一体、この男は何をしたいのだろうか…。
表情から読み取ることが出来ない以上、深く推察が出来ない…。
男は手を伸ばして、私の頭を撫でてきた。
あまりに急なことに、思考が追いつかず、ぼーっとしたが、直ぐに『逃げなければ危ない!!』と言う結論に達し、逃げようと試みる。
が……ここで、男の服から独特な匂いが立ち込める。
それは、先ほど私が食べた物で、恋殿が食べたがっていた物の甘い甘い匂い。
……では、この男は…。
分かると、撫でられている感覚も変わるもので、男が私の頭を撫でる行動は、『買い物お疲れ様。大変だったね、でももう大丈夫だよ。』と言っているような気がする。
……あなたはこんな役立たずなねねでも、叱らないのですか…?
……任せろと言ったことに、責任を負わせるようなことをしないのですか…?
……トクン。
頭を撫でられているのに、心が温かく感じる…。
あぁ~、きっと、これが恋というものなのですね…。
後書きです。
いや~……原作崩壊だ!!!!!
ねねがこんなに素直なわけが無い!!!!
まぁ、ねねからツン要素を無くせばこうなるかな? と思った感じで書いてみてますが……ここまでなるものですかね??
でも、ねねが恋の後をずっと付いていくのは、恋に昔、命を救ってもらった事があるからと言うのを何処かで聞いた気が……ならば、今話みたいに命を助けられたら……無いかな…。
さて、次話はまた来週の日曜日にあげようと思います。
今話を読んでくださりありがとうございました。
次話もお楽しみに……。
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どうも、作者のkikkomanです。
前話はまた極端に支援が多いですね……。
皆、月好きなんですね…。分かります。作者も月好きですので…。
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