《 恋姫無双 小ネタ集その7 『三つ乳巴の争い ~序~』 》
【1】
皆さん、こんにちはっ!
北郷一刀ですっ!
今、俺を含めた各国の武将・軍師たちは、都からほどほど離れた荒野にいますっ!
…………。
……何でかって?
それはこれからここで模擬戦を行うためだ。
今回は、本来の所属を飛び越えて集まった、三つの軍による三つ巴の戦いが繰り広げられる予定である。
開戦時刻は例によって明け四つ。
おそらく、そう間も無いうちに、バトルスタートを告げるにわとりが鳴くことだろう。
周囲の戦気は否が応にも高まり、皆引き締まった顔で余念なく戦闘準備をしている。
そんな雰囲気の中、とある軍の大将役たるこの俺は――
「朱里さま! ここより南方二里の距離に、『巨乳陣』を確認しました!」
「ありがとうございます明命さん! 戦闘開始まで、そのまま斥候を続けてください!」
「はっ!」
「朱里ー! 中軍の流琉から伝令! 弓を斉射した後、左翼の後詰に兵を分けたいんだけど良いかって!」
「了解ですー! 分ける兵数はお任せしますと伝えてください! 季衣ちゃんは親衛隊を率いて待機を!」
「わかったー!」
「軍師殿。中立軍が少々妙な動きをしている。……先手で狩るか?」
「華琳さんが? ……いえ、直接こちらに向かって来る気配がないならまだ良いです。ただ警戒は……お願いできますか、思春さん?」
「承知」
「朱里! 俺に何かすることはっ!?」
「特にありませんご主人様!」
「……うん」
――役立たずだった。
ええそりゃもう見事に。
「誰もおまえに戦働きなど期待してはいないのです。何も出来ないなら出来ないなりに、大将らしくただどーんと構えていれば良いのですぞっ!」
と、ねねが言ってた通りになってるこんな俺より、同じくやることは無かったものの、
「うははははーっ! 皆の者、妾は誰じゃ? 言うてみよっ!」
『『『えーんじゅーつちゃーんっ!!』』』
「うむうむっ! では戦まえの景気づけ、妾の歌を聴くのじゃーっ!!」
『『『ほわっほわっほわあぁーーーーーーーっ!!!』』』
暇つぶしに始めた歌と踊りで無意識に周りの兵の士気を上げてる美羽の方が何倍も役に立っていると思う。
――ところで、だ。
皆様この辺りで、『この軍』に配属されている武将たちに、一つ共通した部分があることにはお気付きだろうか?
名前が出てきた順に朱里、明命、流琉、季衣、思春、ねね、美羽。
他の主な将として鈴々、猪々子、シャオ、雛里、風、桂花、さらに南蛮猫部隊と、なぜか月まで所属し戦場に出て来ているという事実から推測される答えは?
そう、もうおわかりだろう。
我が軍の武将軍師は、おしなべて皆――貧乳だ。
付けられた名前はそのものズバリ、『貧乳軍』。
ちなみに、他の二つは『巨乳軍』と『中立軍』って名前だったりする。
三軍とも、文字通りだいたいの胸の大きさで人員配置がなされた、今回の模擬戦用の特別編成なのであるっ!
なーんて、あはは。
……冗談だと、思うだろ?
それが全然、みんな本気と書いて「うっしゃおらぁぁっ!」と読む(?)ほど、本気なんだよ……。
特に、この貧乳軍の気の入れようはハンパじゃなくて――
「貧乳軍のみなさん! もう間もなく、開戦となるでしょう! ……その前に! ここでもう一度、我らの意思統一をはかりたいと思います! では……私、諸葛孔明はっ!」
『『『貧乳だっ!』』』
「許仲康はっ!」
『『『貧乳だっ!』』』
「周幼平はっ!」
『『『貧乳だっ!』』』
「袁公路はっ!」
『『『貧乳だっ!』』』
「……貧乳はっ!」
『『『個性!』』』
「……貧乳はっ!」
『『『希少価値!』』』
「……ならば、巨乳人はっ!?」
『『『突撃・粉砕・乳モゲろっ!!!』』』
「良し! その意気や良ーしでしゅっ!? ……はわわ! はわわっ!! はわわわわーっ!!!」
『『『はわわ! はわわっ!! はわわわわーーーーーーーーーっ!!!』』』
――もはや、意味がわからないほどだ。
とりあえず朱里。噛んだのを誤魔化すための勢いだけで、兵のみんなに「はわわ」の大合唱させるのは止めてくれ。
……HPすげぇ削られるから。
嗚呼、それにしても。
こんな狂気の軍団の大将がなぜ俺なのか?
どうしてぺたんこ王として名高い華琳や、貧乳のカリスマこと桂花ではないのか?
そもそもなんなんだこの事態?
そんな、今更考えても仕方ないことを嘆きながら、俺の記憶は少し昔へ遡っていた。
……うん。
現実逃避とも言うね、これ。
【2】
しばらく前に行った、六つ巴での模擬戦。
参加したのは蜀董連合、魏、呉、袁家二つに、白蓮のとこ。
これ、公(おおやけ)には「魏の勝利」ってことになっている。
――が、知っての通り、内実はもっと混沌としていた。
模擬戦終了直後の俺たちの認識は、「蜀董と呉を打ち破った魏が、袁術軍の奇襲を支えきれずに負けた」、つまり最終的な勝者は美羽たちだってもの。
で、色んな意味でぐったりしながら都に戻ったのだが、ここで一悶着あった。
戦闘総括のため集まっていた俺と三国の王の元へひょっこり顔を出した七乃が、「さっきの結果なんですけどー、華琳さんたちの勝ちってことにしといてくださいませんかー♪ 美羽様は私が上手く言いくるめ……説得しますので♪」とか、言い出したのである。
正直、なぜ七乃がそんな美羽の不興を買うようなことするのか、最初は意味がわからなかった。
蓮華辺りもおそらくそうで、「……張勲、貴様何を企んでいる?」と、警戒を露わにしていたんだけど……まぁ当時は、まだ孫呉と袁家のわだかまりが強く残っている頃だったし、仕方ないだろう。
ただ残り二人――桃香と、当事者の華琳があっさり承諾したからか、蓮華もそれ以上は言わず結局首を縦に振った。
ちなみに、この時の七乃の言い分はこんなのだ。
「考えてもみてくださいよー? 三国一つよーい華琳さんに美羽様が勝ったー! なんてことが知れたら……すっごく、面倒じゃないですか♪」
これを、華琳風に訳すとこうなる。
「三国鼎立の一角であり、最大の軍事強国である魏を模擬戦とは言え、倒した。それが世に広く知られたら、良からぬ考えを持つ輩が美羽に寄ってこないとも限らないわ。今の美羽に国盗りの野心無く、軍としての内実も伴わない現状を鑑みるに、そんな事態はいたずらに幼いその身を危険にさらすだけ。ならば、たとえ一時の不興を買おうとも、主君の安全を確保するため動くのが、臣下として務めの一つではあるでしょう」
さらに桃香風に続けると、こうだ。
「それにねご主人様。魏呉蜀……私たち三国が、全然別の軍に負けちゃった、っていうの、やっぱり不味いと思うんだ。もちろん袁家の人たちも白蓮ちゃんも仲間。けど風評とか……何より暮らしてる皆が不安になっちゃうよ。次に五胡みたいな、ホントの敵が攻めてきたとき大丈夫かー、って。だから心苦しいけど、ここは七乃さんの意見をありがーたく受け入れるのが良いと思うんだけ……ど? あ、あれ? こ、これってもしかして、強か? 私、強かですか!? 腹黒いですかっ!!? ……うわーん!」
――と。
実際七乃が言ったわけじゃないものの、魏蜀の王はだいたいそんな感じで提案を受けることにしたらしかった。
来たときと同じ笑顔で七乃が去った後、二人の話を聞きながら複雑な表情を浮かべた蓮華が印象に残っている。
ただ、まぁね?
……ここまでなら、まだ良かった。
「おーっほっほっほっほっ! わたくしたちが、一番! 一番ですわねっ!」
「そーですね、姫っ! 結局あたいらが最後まで残ってましたから!」
「すみません、すみません! 麗羽様と文ちゃんが空気読めなくて、ほんっとうにすみませんっ!」
「……ははは。私、また負けちゃったよ。……途中までは押してたのに、駄目だったんだ。……なんか、うちの陣にだけ、突然雷が落ちてさ。兵站で火事が起きたり、驚いた馬たちが暴れたりで……散々だった。死人が出なかったのがちょっと信じられないな。……おまけに気付いたら、おまえも桃香も華琳も蓮華も、誰もいないし。…………………。あ、ああ、ごめん。……少し疲れたから、もう休んでいいかな? ……たぶん、部屋からくぐもった嗚咽みたいなのが聞こえるかもしれないけど、気にしないで欲しい。はははっ……うっく、ひっくっ……! じゃ、じゃあ、またな北郷っ!」
……模擬戦終了の翌日。
完っ全に忘れてた麗羽たちと……とても可哀そうな白蓮が戻って来たのである。
斗詩はもちろん猪々子もそれほど問題にはならなかったが、放っておいたらいつまでも高笑いを続けそうな麗羽を懐柔したり、白蓮を元気づけるため開いたはずの宴に本人呼ぶのを忘れて余計落ち込ませたりと、その後数日てんやわんやだった。
って、いうか白蓮。
……あの時はマジごめん。
【3】
で、それから時は経ち。
各国の親睦をより深めるため三国合同で開催した祭りも無事終了。
アレやらコレやらで一時第一線を外れていた桂花と思春も復帰して、今日も都は平常運転っ!
……な、はずだったのだが。
「……巨乳党?」
「そ。今さ、桂花が率いてる貧乳党ってあるじゃない? なんか楽しそうだから、私も同じようなの作ってみようと思って♪」
良い笑顔でそんなことを言い出したのは、古今無双の享楽主義者・雪蓮。
とある休日、行きつけの飯店でたまたま一緒になり、俺が食後のデザートを頬張っているときだった。
「んー、良いんじゃないか? 貧乳党が楽しそうかどうかはともかく」
ほろほろと口のなかで崩れる杏仁豆腐の触感を楽しみながら答える。
「あら? 一刀はあの娘たち、楽しそうに見えない?」
「いやまぁ……完全に否定するわけじゃないけど。ただどっちかって言うと……必死だろ?」
「あははっ! そうね、確かに必死かも。みーんな、一刀に愛されたくて頑張ってるんだもの♪」
――ぶふぅーっ!?
「きゃっ!? ……ちょっとー。いきなり吹き出さないでっ」
「げほげほっ。……ご、ごめん。急に変なこと言われたんで、つい……って、うおっ!?」
「なに?」
「雪蓮! す、すぐに顔を……おやっさーん! 拭くもの、即効持ってきてっ!」
「うー、べたべたするー。一刀に白くてドロドロしたのかけられたせいで、すっごくべたべたするー!」
「止めてっ!? そゆこと大声で言うの、止めてっ!! 他のお客さんの目が痛いっ!?」
「あー、服も汚れちゃった。……一刀がいっぱい出したからっ!」
「止めろーーーっ!?」
……少し後。
俺たちは店主のオヤジさんに店を叩き出された。(当たり前)
「うふふ。悪いわねー、一刀。ご飯、奢ってもらっちゃって♪」
昼過ぎの街。人通りはそこそこあるが、混雑しているというほどではない。
賑わいが増すのはもう少し遅くなってからだろう。
「……いや、良いんだ。一応、俺のせいだし」
なんだかんだと挨拶してくれる街の人や、すれ違った警備兵のみんなに声をかけつつ、機嫌良さげな雪蓮の隣をトボトボ歩きながら答える。
あの店、結果拝み倒して二人分きっちりお金を払い、出入り禁止だけは何とか防げたが、しばらく通うのは無理そうだ。
「ところでさ。さっき言ってた巨乳党だけど、誰か入ってくれそうな当てはあるのか? 雪蓮一人じゃ『党』とは言えないだろ?」
落ち込む気分を変えるため、ちょっと気になっていたことを雪蓮に尋ねてみる。
「そうねー。……まぁ冥琳は決定でしょ? あとは……祭とか?」
「身内ばっかりだなっ!?」
「だ、だってー。作ろうって決めたの、さっきの飯店で一刀の顔を見たときなんだもんっ! 細かいことなんてまだ考えてないわよっ!」
「……マジかよ? ホント雪蓮って勢いだけで生きてるよな。時々、羨ましくなるよ……」
「そう? でも、アレね。今の貧乳党の主力が桂花に朱里、雛里、風、あと小蓮の五人だから、私たちも最低それくらいは欲しいわっ」
ぐっ、と力強く握った拳を顔の前に掲げ所信表明する元呉王。
俺はそんな妙にやる気に満ちた雪蓮の綺麗な横顔を見て……なぜか、ものすごく嫌な予感がした。
「ま、まぁ……ほどほどにな?」
だがこの時俺にできたのは、苦笑混じりにそう言葉を返すことだけ。
この日は結局その後も、雪蓮に引きずり回されて終わった。
――そして後日。
「……一刀?」
「あ、あははっ! な、なんだ華琳? そんな怖い顔してっ?」
「確か、貴方だったわよね? 雪蓮に『巨乳党』を作る許可を出したのは?」
「い、いや許可っていうか、ただ『良いんじゃないか』みたいなことを言っただけで、だな……」
「……へぇ。『良い』とは言ったのね、ホントに」
「なっ!? お、お前、まさかカマかけたのかっ!?」
「まあ、そんなところかしら?」
「ず、ずるいっ、ずるいぞ華琳っ!?」
「……黙りなさい」
「……はい」
「で。今のこの状況、貴方どう責任取るつもり?」
「せ、責任って……お、俺にどうしろとおっしゃるので? か、華琳様?」
「うふふ。わかっているのでしょう? ……私はね、止めろと言っているのっ! 貧乳党と巨乳党、あの娘たちの『暴走』をなんとかなさいっ、一刀っ!!」
「りょ、了解……」
――俺の「嫌な予感」は、見事的中することになるのだ。
――続く。
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このお話は以前いただいたコメントを元に書いたものです。
テーマは「持つ者と持たざる者の争い」……嘘です。
基本カオスな上、小ネタとか言いつつ続き物になっちゃったりしてるんですが、それでも良いよという奇特な方に読んでいただけると嬉しく思います。
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