第百三十九技 堕ちた者の主
キリトSide
俺達がこの迷宮に閉じ込められて三日目(正しくは丸二日間)の朝。時間は十三時。
準備を整えて、巨大な扉の前に立つ。
「さて…覚悟は出来てるか?」
「もちろん。生き残る覚悟だけど」
「……全力を尽くす、勝つ為に…」
「そうね、あたし達にできるのは本気で戦うことだけ」
俺はハクヤ、ハジメ、カノンさんのモチベーションを確認した。
俺達は武器を手に持ち、ボス部屋の扉を開けて中へと入った。
ボス部屋の壁はステンドグラスで出来ている。
だがそこに描かれているのは、黒い翼を持った血まみれの天使達。
武器を持ち、女を抱き、酒を飲み、人を殺す……この絵は…。
「『グリゴリ』、なのか…?」
「確か…堕天使の一団のことよね?」
カノンさんの問いに俺は頷くことで答えた。未だに出現しないボスに俺達は警戒を続ける。
だが俺が疑問に思ったのはそれだけではない。
かなり高い天井を見上げると、そこには九枚のステンドグラスがあった。それには英語と動物の絵が彫られている。
「プライド、エンヴィー、ラース、スロウス、グリード、グラトニー、ラスト……ヴァニティ、グルーム……」
「ライオン、蛇、ドラゴン、熊、狐、蠅、蠍、グリフォン、
「最初の方は『七つの大罪』だけど、残り二つはなんだろう?」
俺が英語を呟き、カノンさんが動物を言い、
ハクヤはそれらが指し示すことに気付いたが全てではない。
「いや……これは紛れもなく『七つの大罪』だ」
「……なぜ分かる、これは九つあるぞ?」
ハジメの疑問は最もだが、これは人の七つの罪で間違いない。
「
この二つは元々、『八つの枢要罪』に当てはめられていた。
それが『虚飾』は『傲慢』に含まれるようになり、『憂鬱』は『怠惰』と一つの大罪となった。
そこに『嫉妬』が追加されたことで『七つの大罪』になったんだ」
「グリゴリに七つの大罪、堕天使型モンスター……ボスはこれらに関係しているのかしら?」
俺の説明を受けてカノンさんは言った。彼女の言う通りその可能性は非常に高い。
そして俺は、自分達が立っている床の絵にも気付いた。
「始まりの罪……アダムとイヴと禁断の果実…」
床に描かれているのは、始まりの人類であるアダムとイヴ、そして知恵の木の果実。
これは最早、ボスに関係している以前の問題だ。これはプレイヤー達に対するメッセージだと思った。
その時、
―――パァァァァァァァァァァンッ!
突如として部屋全体が輝きだし、中央に台座が現れた。そこから光が集まり、形を作っていく。現れたのは、
「…………………………」
ボスモンスターだった。名を〈The
その姿はいままで見てきたモンスターの中でもあまりにも異質だ。
全長は74層のボス〈The
僅かに見える皮膚は爬虫類の赤い鱗になっている。
これくらいならばまだいいだろう。だが異質なのは次に挙げるものだ。
奴の背中には、天使の翼が二枚、堕天使の翼が二枚、悪魔の翼が二枚、そしてドラゴンの翼が二枚の計八枚がある。
腰元からは鎧で固めた尾が伸びており、腕は六本、上の二本は鎌を、中の二本は剣を、下の二本は槍を持っている。
最後に、奴の頭部は兜を被っているが、顔の部分が露わになっており、その顔は眉目秀麗といえる男性のものだった。
兜の中から出ている髪は黒く、瞳も黒である。しかし、その顔に表情は一切無い。
その横にHPバーが表示される、数は七本。
「……本当に、ボス、なのか…」
「なんのモーションも起こさないなんて…」
「だけど、こいつは…」
「ああ……かなりやばい…」
呆然と呟くハジメと疑問を持つカノンさん。ハクヤと俺はそれに大きな不安を感じる。
レベルの安全マージンは十分にある。だが、俺達にはあまりにも嫌な予感しかしない。
そして俺はこいつがなんなのかということに辿り着いた。
「こいつは……アザゼル、ルシファー、サタン、サマエルを表しているのか…」
「どういうことだ?」
俺の確信の篭った声にハクヤが尋ねる。警戒を緩めずに、疑問に対して答えていく。
「『グリゴリ』のリーダー格であるアザゼル。
『七つの大罪』の『傲慢』を司るルシファーと『憤怒』を司るサタン。
そして『エデンの園』に棲む、天使にして、蛇にして、魔王であるサマエル。
一説では彼らは全て同じ存在だと言われている。
奴の姿は、まぁ全てを合わせた結果なんだろうな…」
「ステンドグラスに描かれている絵はそう意味だったのね…」
「……前者の三体は分かった。だが、サマエルは何故分かったんだ?」
ハジメの疑問は当然だ。床に書いてあるエデンの園の絵には蛇などいない。
「アダムとイヴが食べた禁断の果実。それを食べるように、イヴを唆したのが…サマエルってわけだ」
「……なるほどな」
俺達が会話を終えた時、奴がついに動き出した。武器を構え、攻撃の態勢を取っている。
「まるで俺達の理解が終わるのを待っていたみたいだな」
「意外と気が利くのかしら?」
「……或いは最後の時間を与えた、と…」
「かもな…。ま、最後になるつもりはないけど、な!」
ハクヤ、カノンさん、ハジメ、俺の順で軽口を放っていく。
俺達もまた、武器を前に出しながら瞳をギラつかせる。そして、
「「「「っ!!!」」」」
「!!!!!」
俺達はボスとぶつかり合った。
キリトSide Out
To be continued……
後書きです。
オリジナルのボスってこんな感じの説明で良かったでしょうか?
分かり難かったらすいません(ペコリ)
出来るだけ異形なものにしてみたかったもので、こうなった次第です。
さて、キリト達はどうなるのか・・・次回は戦闘です。
では、また・・・。
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第百三十九話になります。
ボスとの対面を果たすキリト達、戦闘にはなりませんよ。
どうぞ・・・。