地球資源が枯渇し、私は火星へと送られた。近年の調査で、あの荒涼とした惑星のうちには未だに手付かずの資源が眠っているとわかったからだ。
私は私の仲間と協力して、地表に大穴を穿った。それからは、少しずつ私自身で掘り進めていく他なかった。私に複雑な行程を経て道具を扱う技術がなかったためである。
小さなドリルを相棒に、私は手で火星の大地を削り始めた。何年も何年も時間がかかった。得られる資源の量は多くなく、労働にとても見合わない。それでも私は諦めることができなかった。
道具の声を聞き、確実に少しずつ、掘り進めてゆく。誰も私を愚かとは言わずに讃えた。
そしてある日、私の手が空洞を掘り当てた。空洞に満ちていた水は小さな穴を瓦解させて大きな穴を作り上げ、またたくまに私を呑み込んだ。
私はバラバラに引き裂かれ、「私」だけが残った。誰も私が無くなったことを、悲しむことをしなかった。
――やがて私が見つけ出した大空洞からはたくさんの資源が発見され、私は社会から礼賛を受けた。
賞状と多額の奨励金を受け取ったのは、私の産みの親の男だった。周りの人間は口々に彼の技術を褒め称えたが、彼は「ほんとうに素晴らしい奇跡的なこと」が起こっていることには、まるで気が付いていない。
彼はしばらくすれば、かろうじて火星の地下に残っていた「私」を、四角い箱の中で解いてしまうだろう。
そうなれば、「私」という奇跡には、もはや誰も気付くことはないのだ。
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火星・鉱夫・賞状