――Area ラステイション/廃ビル side アリス――
「……はぁ…」
分身体の言っていた地点である廃ビル内部に到着し、フウちゃんと分身体の姿を見つけて思わず溜め息を吐く。
ったく…なんだってこんな時に
「くっ…ぐ…ぅ……っ…!」
その場に座り込み、胸を押さえながら苦しそうにするフウちゃんを見下ろしながらわたしは分身体を自身の身体に吸収し、一振りの剣を召喚してそれを鞘から抜き放つ。
「…………」
白く輝く刀身にわたしの姿が映り込んでいるその剣――退魔の力を宿した聖剣・エクスカリバーをフウちゃんの前に構え、静かに瞳を閉じ意識を剣へと集中させる。
「……剣の担い手として命ずる。我が呼び声に答え、その真の姿をここに表せ――」
剣に力を注ぐように静かに言霊を紡ぐと、徐々にその白き刀身が淡く輝き始める。
瞬間、突然光が強さを増し辺り一帯が光に包まれる。
「……次元は違えど、ちゃんと答えてくれましたか」
そして光が収まる頃には、私の持つ聖剣の形状がまるで別の物かと思える程に変化していた。
刀身は透き通った蒼水晶色となり、柄と握りも金色に変化している。
これが、私の所有する剣の真の姿……私の知る限りで唯一魔剣ゲハバーンに対抗しうる聖剣。
……名前は知りませんが、月明かりのようで実体の無い刃が特徴的な剣です。言うなればそのまんまですが月明かりの剣、でしょうかね。
「よし…。……はぁっ!」
剣の解放はできた。後はフウちゃんをどうにかするだけ…
一呼吸置いてから、月明かりの剣をフウちゃんの前にかざし、力を開放。
すると刀身と同じ蒼水晶色の光がフウちゃんを包み始める。
しかしその光はすぐ消えてしまい、フウちゃんの前に鞘に納められた黒い剣が現れただけでうまく封じることができなかった。
「……これは…」
…魔剣の力が以前よりも増している…?
いや、何か外部から干渉されたような…
「…仕方ない、今はこれで妥協ですね…。フウちゃん、大丈夫ですか?」
魔剣の力が増している事に疑問が残るが、闇の力一応これで抑制はできたはず。
私は宙に浮く黒い剣を手に取り、今だ座り込んだままのフウちゃんにそう訊ねる。
「ぅ……アリ、ス…」
ゆっくりとわたしを見上げるその瞳は普段の透き通った青ではなく、濁ってしまっていて見ていると飲みこまれてしまうような錯覚を覚える程の深い青色へと変化していた。
髪の色も綺麗だった亜麻色が少し黒掛かっているようにも見える。
けれど変わったのはそれくらいで、自我は保てている様子だ。
「調子はどうです? どこか変な所等は…」
「……大丈夫。もう殆ど苦しくないし、変な所も無い…」
「そうですか…」
それを聞いて漸く一安心。
そういえば、ネロさんは大丈夫なんでしょうか。報告だと姿を消したと聞いてますが…
「……フウちゃん、立てます?」
「……(こくり)」
静かに頷くフウちゃんの手を引き、彼女を立ち上がらせる。
…ともかく、彼女を一人にしてはまた何時襲撃を受けるかもわかりませんし、今後はできるだけ離れない様にしよう。
…さて、今後の行動の為にまずは…
「……現在行動中の"私達"に連絡。それぞれ私の指示した方面へ向かう準備をしてください」
ラステイションで情報収集を行っている分身体全員にそう告げる。
『…随分と突然ね、何かあったのかしら?』
「……。各自、ルウィー、プラネテューヌ、リーンボックス、ギョウカイ墓場へとそれぞれ向かい、情報収集を行ってください。どんな小さい事でもいいです、とにかく何かあれば連絡するように」
『了解、了解っ!』『りょーかいですよぉっ』『わかったよ』
フウカさんの質問には答えずに、まず先にそれぞれの国へと移動するように指示。
『…無視?』
「…いえ、先に別のに指示を送っただけです。質問の答えですが…少し本気を出そうかと思った、それだけですよ」
『ふぅん…』
『で、で? 私達は何をすればいいのー?』
と、フウカさんと行動を共にしている分身体が聞いてくる。
焦らずとも指示しますよって。
「フウカさん達はご自由にどうぞです。何でしたらイレギュラーと接触されても構いませんよ」
『そう? なら丁度近くで戦闘をしているヤツらを見かけたから、様子を見ながら接触してみるわ』
「了解…って、いつの間にそんな所まで…まぁ良いでしょう、そちらでの出来事はそちらの判断に任せます。ただ、危険と感じたらすぐに避難してくださいね」
『だいじょぶだいじょぶ、危なくなったらフウカちゃん連れてすぐ潜って逃げるからー』
『…できるだけそうならない事を願いたいわ、ホントあれ気分悪くなるのよ…』
通信先のフウカさんが心底嫌そうに言う。
それだけ慣れないんだろう、アレの感覚には。
「…以上です。では各自、行動開始してください…」
分身体への指示を終えふぅ、と一息付く。
それとほぼ同時か、私とフウちゃんの周りを取り囲むように多数の人間の気配を感じ取った。
「へっへっへ…見つけたぜ…」
その集団のリーダー格なのだろうか、銃を持った男が笑みを浮かべながら私達を見てそう言った。
…数は……5人、か。
「…何か、御用ですか? 何やら物騒な物をお持ちですが」
「あぁ、御用だぜぇ…? 主にそっちの小さいのになぁ…」
「………」
私の質問に、男はフウちゃんを指差しながら答える。
フウちゃんの様子はと言うと、やはり苦手なのはまだ治っていないからか、少し嫌そうな表情。
「…へぇ、そうなのですか。ですが私達はあなた方には何も用は無いのですが」
「へっ…知ってるんだぜ? その小さいヤツが…女神だってのはよぉ」
男の言葉を聞いて少し顔を強張らせる。
…どこかで見られていたのか。
「…あなた方は、犯罪組織の一員か何かで?」
「ご名答。もう一人の黒いヤツがいねぇみたいだが…まぁいい。テメェみてぇなガキでも女神は女神、捕まえるか殺せば俺達も晴れて昇進よぉ…」
汚い笑みを浮かべながら男がそう言うと、周りの男たちも「へっへっへっ」と気色悪く笑う。
……。
「……あの、できれば見逃してくれませんかね? そうすればお互いの為ですし…」
「はぁ? んな事…するわけねぇだろぉぉッ!!」
穏便に済ませるような提案をするも、リーダー格の男は叫びながら手にもった銃をこちらに乱射してきた。
……めんどくさい。
「……わざわざ穏便に済ませてやろうとおもってましたのに……」
はぁ、小さく呟きながら溜め息を吐き、手をかざして地面から影を盾状に展開して放たれた弾丸を防いでその盾をすり抜けるように駆け男の目の前に立ち、
「…へっ…?」
「提案を呑んで貰えないのでしたら…目障りです、死んでください」
左腕を槍状にし、男の胸を貫く。
その間抜けな声を最期に、男は何も言わなくなった。
『ひ…ッ!?』
『ば、化け物…ッ!』
リーダー格の男が討たれたから、周りにいた男共が動揺し逃げ出そうとし始める。
「……今更逃げられるとお思いで?」
リーダー格の男の遺体から腕を抜き、振り向きざまに逃げ出そうとする男達を三人、影で貫き、仕留める。
…あ、もう一人いた。
『ひ、ひぃぃ…っ!』
「…すみませんね、うっかりあなたを殺し損ねてしまいました」
腰を抜かしながらもまだ逃げようとする男に一歩、また一歩と近づいていく。
…あぁ、たまたまとはいえ折角最後に生き残ったんです、本当の事を教えてあげようか。
「…そういえば、先程「見逃してくれませんか?」とあなた方に言いましたね」
『…! そ、そうだ! 見逃す! 見逃すから…!』
「申し訳ありません。あれ…嘘です」
必死に懇願する男の前に立ち、にっこりと微笑みながらわたしは右手に持った月光の剣でその首を刎ね飛ばした。あれ、月明かりでしたっけ? まぁいいです、名称不明ですし。
…後々面倒事になりうる火種は消しておかないといけませんからね。
「まったく、たまたま
「………(こくり)」
剣の鞘を蹴り上げ、月明かりの剣をエクスカリバーに戻して落ちてきた鞘に納めながらフウちゃんを呼ぶ。
私の呼びかけにこくりと静かに頷き、こちらへと歩いてくるフウちゃん……いや、黒フウちゃん? ああもういつも通りでいいです。
「それで、どこに…?」
「とりあえず、
「……ああ、あいつら…。…どうして…?」
「どうして、ですか…。強いて言えば、この世界でネロさんの次に面識の多い方々だから、ですかねぇ」
主に襲撃されたりと録な目に遭わされてませんが。
「…危ないよ」
「意外とそんなこと無いかもしれませんよ? あちらだって、別世界からのイレギュラーなんですから。ま、とにかく会えばわかります、大丈夫だってことが」
そう言って別の分身体の持っていた記憶を頼りに、彼女達の拠点にしている場所へと向かう。
「…………」
「そんな顔をせずとも大丈夫ですって、私は何時でも何処でも、何があったとしてもフウちゃんの味方ですから、ね?」
普段のよりも二割増しくらいに不安そうなフウちゃんにそう言いながら、私は目的地に向けて歩き出した。
……フウちゃんと、フウカさんと一緒に元の世界に帰る為ならば…何だってして見せましょう…
――Area プラネテューヌ side フウカ――
「…さて」
目の前の影を通してアリスとの連絡を終え、物陰から目の前の惨状をもう一度見る。
気配は隣の影によって完全に消してもらってるから、多分見つかってはいないだろうけれど…ここは異世界。そんなの無視してこっちの存在に気付くような輩がいるかもしれない。
だからこそ背後にも意識を回しておく。何か来たら隣のが反応するだろうけど、一応ね。
「……あっ。フウカちゃんフウカちゃん、あそこに倒れてる紫髪の子って…」
「ちゃん…? …まぁいいわ、それよりも、よ。確かにあれはプラネテューヌの女神候補生、ね。見知らぬ男が数人…その内妙に殺気立ってる奴が二人いるけれど、アイエフとコンパもいる。…どういう状況かしら」
「うーん……ちょっとわかりにくいけど、ネプギアちゃんは気を失ってるだけみたい。死んではいないよ」
ああうん、生きてるのは良い事なんだけど……どうしようかしら。
「下手に出ていってもアレのどちらかに殺されかねない。その上、ネプギア、コンパ、アイエフ以外のヤツはどいつが友好的でどいつが敵なのかが分からない」
「んー…そう言われるとあたしには全部敵に見えてきちゃうなー」
いや、それは無いでしょう、流石に。
「…いっそ、ワザと見つかってみるとか。退路は貴女がいるし」
「うーん、まぁ、どれが友好的なのかが分かれば何時でも撤退できるからね。それも良いかもー?」
不意打ちを仕掛けても通る気が全くと言っていい程しないし、そうしましょうかね。
…正直、気分悪くなるから嫌だったのだけど、この際そんな事も言ってられない。
「ふー……」
腕を組んで壁に寄りかかり、ポケットからタバコを取り出し火をつける。
「…タバコは身体に悪いよ?」
「知ってる。でもこの世界に飛ばされてから発喫煙なのよ、少しは多目に見てほしいものね」
「うーん……なんで人間ってわざわざ自分の身体に毒なものを摂取するんだろ…ホント、変なの」
存在自体が変なのの貴女には言われたくないわ、と心の中でツッコミながら、その時を待つ。
正直言って、明らかに人外染みた能力を持つような奴等のいるこの世界は、戦いの心得があったとしても人間である私には少し荷が重い場所だとは思う。
けれど、私にだってプライドみたいなものはある。黙って殺されるのなんか真っ平ゴメンだ。
だからこそ、私は…
「…人間は人間なりに、せいぜい抗ってやるわよ…」
そう、異質な色をした空に向かって吐き捨てる様に言った。
――Area ラステイション/スラム side アリス――
「……なるほど」
目的地へと向かいながら分身体の集めた情報を確認する。
現在このゲイムギョウ界にて起こっている、気になる出来事を簡単に纏めると…
フウカさん達の向かったプラネテューヌにて、イレギュラー同士の争いが発生中。内片方は戦闘が終了した様子でもう片方の戦闘中の方の所へと移動中。
そのイレギュラー達の中にプラネテューヌ女神候補生・ネプギア、諜報部・アイエフ、ナース・コンパの姿も確認、と。
先刻邂逅したイレギュラー、ゼロは一人の少女と共に行動中…それ以外は不明。あの人警戒心強そうですし。
そしてここより南の方角にある国、リーンボックスにもイレギュラーの姿を確認。リーンボックスの教祖・箱崎チカと接触中。
と、もう一人、アレは……なんでしょう、私から知性を取った様な化物がいますね。同類視されたら嫌なものです。
…こんな所でしょうか。
現状では何とも言えませんが…出来うる限りなら戦闘は避けたいところだ。
何せ相手はイレギュラー、強さが不明なのだから。
しかしネロさんは一体どこへ消えてしまったんでしょうかね。
「どうかした…?」
「いえいえ、なんでもないですよ」
考え事をしているのに気が付いたのか、不思議そうに聞いてくるフウちゃんにそう言って歩みを進める。
私達は犯罪組織団員の襲撃を受けたビルから移動し、途中教会関係者がしつこく追ってきた為軽く排除しながらラステイションの下層の方にあるスラムの一角へとやってきていた。
「ふむぅ、ここですかね」
「…なんか、人がいるようには見えないんだけど」
「ちゃんと中には人の気配がしてますよ。さ、行きましょう」
目の前の今までは空家だったらしき家を見て言うフウちゃんの手を引き、扉を三回ノックする。
「失礼しまー――」
そして扉を開けながらそう言いかけた時、何かを頭に突きつけられる感じと真横を風が通り抜ける感覚。
気が付けば、今まで大体二度くらい狙撃してきた人物が私に銃を突きつけ、その人物の首元にフウちゃんが鎌を突きつけているという状況に陥っていた。
そんな状況に、思わず溜め息一つ。
「…フウちゃん、今回は争う為にここへ来た訳じゃないんですから…武器を仕舞ってくださいな」
「………」
私がそう言うとフウちゃんは少し不満そうに鎌を杖に戻した。
まぁ相手はまだ私に銃を突きつけたままなんですけども。
「…何の用だ」
「はー、二度目の時くらいから思ってましたけど、相当喧嘩っ早いですねぇ、貴女」
「私は臆病者なんでね、やられる前にやるってやつさ」
「はぁ、そうですか。ですがさっきも言ったように私達は争う為に来た訳じゃなく少し話をしに来ただけであって、敵対の意志はありませんよ」
「…それを信じろと?」
「いえ、ご自由に」
両手を上げながら銃を突きつける人物に言う。
んー、できればあの、がすとさん?と話したい所なんですが…
「なんですの? 騒々しい……おやおや、これはこれは…今このラステイションにて指名手配中の方々じゃないですの」
「…大体の原因は……あ、なんでもありません」
奥からやってきたがすとさん?の白々しい顔を見た瞬間に思わず当初の目的がダメになってしまうような事を口走りそうになるのを何とか抑え込む。
なんども言うようだけど、喧嘩を売りに来た訳じゃないんだから。
「? まぁいいですの。それで、態々がすと達に会いに来るなんて何の御用ですの?」
「あぁ、すみません。では、単刀直入に言いますね」
モヤモヤと込み上げてきていた苛立ちを捨てて一呼吸置いてから、私はがすとさんに向けて言った。
「私達を、貴女方の配下として加えて貰えませんでしょうか?」
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なんというか、投げちゃった感がする。リアおぜ様ごめんなさい!