~聖side~
「ほんなら、この娘も徳ちゃんの仲間やねんな?」
「あぁ。だからとりあえず、皆武器を仕舞おうな?」
「……う~ん。信じがたいのです。」
「……聖の言うことなら…信じる。(スッ)」
「恋殿!! あんな奴の言うことなど信じる必要ありませんぞ!!」
「……聖、嘘つかない…。」
「うぅ~恋殿~!!!」
絶賛、洛陽の門前で月ちゃんの正規軍に囲まれている俺と雅…。しかし、みんな武器は既に下におろしている。
まぁハーフとは言え、五胡の人間と一緒に居たらこうなるのもしょうがないよな…。でも、俺の言葉を信じてくれたみたいでよかった…。
隣の雅を見ると…そんなのどこ吹く風と言う様に、俺の腕に抱きついている。
……正直……ちょっと恥ずかしい…。
その後、俺と雅は多くの兵に囲まれたまま、洛陽の玉座の間に連れてこられた。
玉座の間には、残りの皆が既に揃っていて、俺たちはその中心へと移動した。
「まったく、人騒がせな奴だ…。」
「せやで~華雄の言う通りや…。今日は非番やから、部屋で酒を楽しんどるって時に、急に『五胡が現れた!!』なんて聞いたやさかい…。」
「……そりゃ悪い事したな、霞。今度何かお詫びをさせてくれ。」
「ええの!? じゃ~あ~…また、あのすぶた作って~な。ほんで、それを肴にお酒飲んで~…。」
「なんだ、そんなことで良いのか?? だったら何時でも言ってくれ。」
「おぉ~。徳ちゃん、おおきに~!!」
「他の皆もして欲しいことがあれば言ってくれ!! 皆に迷惑かけたし、それぐらいのことはさせて欲しい。」
俺がそう言うと周りの空気が凍る。
皆の方を見ると、頬を赤く染めて俯いてる人たちが多い…。
……今、何か変なとこあったか??
「なぁ、聖。」
「ん? どうした、一刀?」
「そのお願い俺からで良いか?」
「あぁ、別に構わんよ。」
一刀がこう言うと、急に残りの皆から野次が飛ぶが……まぁ、早い者勝ちでしょ…。
「じゃあ、俺のお願いな!! お前の隣に居る娘を紹介してくれないか!?」
「おぉ!! そういや紹介してなかったっけ…。雅、皆に自己紹介して。」
「は~い!! 名前は姜維、字は伯約。天水郡冀県の出身で、漢民族と五胡の間に生まれました。」
「………あんた、五胡出身じゃないの?」
「あくまで私の出身は冀県。五胡に近いってだけで、生まれも育ちも漢国だよ。」
「詠、この娘の言っていることは本当だよ。この娘は五胡とは繋がってはいない。それは保証する。」
「そうは言われても…。」
「まぁ、雅の言葉を信じれないのは無理もない。だが、雅が潔白である事を信じている、俺を信じてくれないか?」
「………う~ん…。」
「聖様~私たちは信じますよ~。聖様が信じるに至ったのなら、私たちはそれに従うのみですので~。」
「芽衣…。」
「お頭は人種とか気にせず、誰しもが手に手をとって生きていく世界を作るんだろ? だったら、こんなの気にすることじゃねぇよな?」
「その通りなのです。『その通り…です。』(そうだな。)[その通りでございます。]{…その通り。}〔そうですぜぇ!!〕」
「皆…。ありがとな…。」
「あんたが嘘を言うような奴じゃないことくらい、ボク達だって分かってるし、ある程度は信用してるわ…。でも…流石に五胡関連の人は厳しい…。ボク達が良くても、快く思わない人たちが少なからず居るはずだし、ボク達としても、折角ここ洛陽の統治も出来てきて、皆に月の善政を布いて上げることが出来る様になったばかりに、不穏分子を置くのはちょっと…。」
「詠ちゃん…。」
詠の言うことは最もだと思う。
今まで漢民族の敵であった五胡の人間を急に軍に組み込んだら、やはり不満に思う人が数多くいることだろう…。
不満に思った人間が何をしでかすか…。
どちらにせよ、その処理に手をとられるので、政事は確実に停滞する。
そうなれば、月の政事に不満を感じる人間が増えていくのは目に見えている。詠はそれが懸念事項なのだろう…。
「……三日。」
「えっ??」
「……三日だ…。その間だけ俺達をここに泊めさせて貰えないか?」
「……その後、どうするって言うのよ…。」
「俺達はここを出て、東へ向かおうと思う…。」
「……無駄だと思うけど…あなた、ボク達の仲間になる気は…。」
「悪いな…。俺はもう…決めたんだ…。」
「そう…分かったわ。三日なら何とか隠し通すことぐらい出来るでしょ…。あんたの好きなようにすれば?」
「……ありがとう、詠。恩に着るよ。」
「あんたにはこっちもお世話になったんだから…その恩を返すだけよ…。」
「……詠は俺に何かして欲しいことはあるか?」
「……今は特にないわ…。」
「そうか…。じゃあ、もし出来たら言ってくれ。俺が出来ることなら何でもするから。」
「……えぇ。」
その後、恋とねねからは霞と同じく料理を作って欲しいと言うこと、華雄からは勝負をしろということ、月からは少しお話を聞かせて欲しいと言うことを願い事として引き受ける形となった。
場所は変わって、今は城の中庭にいる。
今ここにいるメンバーは俺の仲間だけ。雅の紹介をもう一度するためだった。
「雅、もう一度自己紹介をしてくれないか?」
「うん、ひーちゃんがしろって言うなら何度でも♪ ……姓は姜、名は維、字は伯約、真名は雅。皆よろしくね♪」
雅が自己紹介をして、皆も自分と相手の真名を交換する。
こうして確かに仲間になったのだと実感する…はずだったのだが…。
「俺は北郷一刀。よろしくね、m『ジャキッ!』えっ!!!!」
「その後を口にしたら……殺すわよ…。」
「えっ!? …あの…えっと…。」
「……男に真名は許してないから。」
「あれっ? でも聖には許したじゃないか…。」
「ひ~ちゃんは特別だから良いの~♪」
「そんな理不尽な…。」
「……うるさい、死にたいの…?」
「(シュン…。)」
「一刀さん、災難っすね~。」
「あんたもよ!!」
「えぇ!!!俺っちもですか!!!?」
「……私の真名は女の子とひーちゃんしか呼ぶことを許さない…。もし、それを破るようなら…。」
雅の目からすっと光が消えて、暗く鈍く光る…。
「ふふっ……地獄を見せてあげる…。(ニヤッ)」
「「(ぞぞぞっ……。)」」
俺を除く男二人に対して、いやに冷たい雅であった…。
「……ふぅ。」
「……いかがでしたか?」
「あぁ、とっても気持ち良かったよ。」
「良かった……私、初めてだったので……嬉しいです…。」
「こんな気持ちになったのは生まれて初めてだ……。月、ありがとう。」
「そんな……。お礼を言われるような事は…。」
「謙遜しなくて良いよ。 ……それにしても、何故このいれ方を? 他にもあるのに…。」
「……私はこれが一番良いと思います。これが、一番深い気がして…。」
「成程…。確かに、深いな……熱くなかったか?」
「熱くて……少し火傷しました…。でも、すぐになれましたから…大丈夫です。」
「……痛くなかったか?」
「……少し痛かったです…。」
「……ゴメンな、俺の為に体をはって…。」
「いえ…。私がしたいって言ったのですから…。」
んっ??何の話をしているのか、だって??
お茶ですよ!!お茶!!!
月が俺のためにお茶を淹れてくれて、その最中に指を火傷したって言う話です。お茶って淹れ方がたくさんあって、それぞれ味が違うらしいですよ!!
その中でも、月が選んでくれたのは、お茶の奥深さが感じられる淹れ方…。火傷って意外と痛いよね…。
うん? 小説を読んでいる君。顔を赤くしてどうしたのかな?
もしかして、別なことを考えていたのかな??
何を考えていたのだろう…?? 俺に教えてくれよ!!
今俺は、月と一緒に東屋でお茶している。
と言うのも、月のお願いである俺との話し合いを実行しているのである…。
「あの……お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何でも聞いてよ。答えれることなら何でも答えるから。」
「では聖さん…。あなたの目的は何ですか??」
「目的…??」
「ここ洛陽は漢王朝の中心…。帝もいらっしゃいますのでこの地は諸侯の権力争いの激震地に為り得ます。」
「まぁ、確かにそうだな・・・。」
「そんな町を見ておきたいと言うあなたの目的を……教えてくださいませんか?」
「答えになってるか分からないが……俺は単に町が見たいだけだよ。」
「他に理由はない……と?」
「まぁ、町を見るって言う目的の中に、政治体制とか市場の規模とかそういうのを見るって言うのは含まれるが…。まぁ安心してくれ…。俺は洛陽を占拠しようとかそういうことは考えてないから…。」
「そう…ですか…。」
「逆に聞くけど、月は何故洛陽の太守をしてるんだい?」
「……私は涼州で太守をしていた頃。張譲さんに、『帝は幼いので、我々が守っていかねばならない。協力していただけまいか?』と呼ばれてこの都に来ました。」
「ふむっ…。」
「その頃はここ洛陽もかなり荒れていて…。町の皆さんも今のような生活は出来ていなく、その日暮しもままならない様子でした…。だから私は、どうにかしてあげたい一心で張譲さんに頼み込み、ここ洛陽の太守になりました…。これが、ついこの前の出来事です…。」
「……なぁ、月。」
「何でしょうか?」
「謀られていたことには気づいているのか?」
「……はい、洛陽の町を見た時に…。『きっと彼ら十常侍は、悪政が進んだこの都の民の不安を、私を矢面に立たせて解消させようとしている』と詠ちゃんが言ってました…。」
「なら、何故わざわざこの話に乗った?? 逃げても良かっただろうに…。」
「……見捨てることなんて出来なかったんです。都に住む民、一人一人の命を…。でも、その所為で…私のわがままで、詠ちゃんや霞さん、恋さんにねねちゃんにも迷惑をかけてしまっている…。それが…私には辛くて…。」
「……優しき暴君。」
「えっ?」
「今の月を表す最適な言葉かな…。自分のやりたいことを独断で判断、行動している面は正に暴君・・・。しかし、その実は民のため、皆のためを考えた心優しき太守…。」
「……。でも皆、快く思ってないかも…。」
「そんなこと無いって!!」
「……そうでしょうか…。」
「あぁ!! それに、俺はそんな暴君なら歓迎するけどね……。」
「えっ?」
「第一に民のことを考えれる太守が、この世にどれだけいるか…。」
「……。」
「その太守の下に居れるんだ。皆それを誇りにこそすれ、汚点になんかしないさ!!」
「……ありがとう…ございます。」
「ははは。俺は嬉しいよ。」
「何故ですか?」
「こうして民のことを第一に考えれる優しき人に出会えて。そして、それが漢王朝の中枢であるここ洛陽の太守をやっている人であったことが…。」
「……そんな…勿体無きお言葉です…。」
「さて、じゃあ他に聞きたいことはあるk『急げ!!城下で喧嘩だ!!』??」
「何か…あったのでしょうか…。」
「喧嘩みたいだが……行ってみるか…。」
俺と月は連れ立って城下町へと足を向ける。
城下町では既に人だかりが出来ていて、何か事件が起きていることは明白だ…。
「武器を下ろし、素直に我々の拘束下に収まれ!! さもなくば、力付くで押さえつけるぞ!!」
「なんだと!! そもそもお前達役人が贅沢しているから、俺達がその皺寄せに遭うんだ!!」
どうやら警備兵とこの町のスラム街の住民とで喧嘩が勃発しているらしい…。
「まだ町が完全には整えれてないようだな…。」
「えぇ、貧困街の皆さんとは話し合いをしているんですが…。」
「まだまだ話し合いが必要なようだな…。」
「はい…。」
さて、この騒動も早めに収拾しないと董卓軍がなめられてしまう。
俺は磁刀に手をかけ、群集を書き分けて前に出ようとする…がそれよりも先に月が前に出て行った。
「月っ!!!」
「……すいませんでした。」
「あぁ!? なんだお前は!!」
人だかりの中心に月は立ち、開口一番に謝った。
急に出てきた少女に、スラムの人たちは警備兵に向けていた怒りを月に向ける。
月はその気迫に一瞬体を縮ませるが、胸の前できゅっと拳を握り、毅然とした態度でまっすぐに向き直る。
「この町を治めさせていただいてます、董仲頴と申します。」
「董卓様!!」
「董卓様だ!!」
「董卓様萌え~!!!!!」
月の登場に、周りを囲んでいる人々から驚愕の声が上がる。
………最後の奴、後で覚えてろよ!!
スラム街の人々も、月の登場におろおろとしている。
流石にここまでは想定していなかったんだろう。
「出来ることなら、もう少し皆さんの生活を改善させてあげたいのですけれど…この町に来て時間が短く、話し合いが上手くいっていないことが原因で今回このような…全て私の至らぬところ…。どうか、その怒りは兵の皆さんにではなく、私に直接ぶつけては戴けないでしょうか。」
「いやっ…その…何だ…。董卓様が頑張ってくださってるのは、周知の事実ですし…。その…俺達のために色々としてくださっているのは分かっていますから…。ただ、その…中々…生活が改善しないもので…少し怒りが…。」
「すいません…。もう少し、国庫の方から食料なり提供できないか、再度検討します。それでも厳しい場合は、再度申し立てを…。私の分の御飯を削ってでも、何とかかき集めてみます…。」
「そんな!! そこまでしていただかなくても…。」
「いいえ…。皆さんが御飯を食べて仕事をして下さるから、私達は御飯を食べていけるのです…。ならば、私達よりも皆さんが優先されるのが道理…。皆さんが一生懸命働けるのなら、私達の御飯などいくらでも提供いたします。(にこっ)」
その笑顔に嘘偽りは見えなかった…。
これが月の……董仲頴の人柄、魅力なのであろう…。
先ほどまで怒りに満ちていた人々から、その怒りが急速に消えていくのが分かる…。
これで、この問題は解決だな…。
その後、少しの話し合いの後、スラム街の人々は帰っていった。
俺は月の傍に行く。
「お疲れ様、月!!」
「あっ!!すいません、聖さん。一人にしてしまって…。」
「いやっ、気にしなくて良いよ。それにしても…優しき暴君でよかったんじゃないか?」
「えっ??」
「優しき暴君であるから…月がこの町にいたいと願ったから今回のことは解決した。月がいるなら、この町の事件は直ぐに解決するんじゃないか!? いや~これなら、この町の犯罪件数が減るのも目に見えているな!!」
「そんな…。( ///) でも…それは根本の解決にはなっていませんし、何より皆さんを騙していることに他なりません…。」
「他の誰にも出来ない方法で月はこの騒動を止めたんだ。俺だったら実力行使に出て、新たな反感をかう結果になったかもしれない…。これは、悪いことかな…??」
「悪いこととは…思いませんが…。」
「根本の解決は話し合いで解決すれば良いし、騙したと思えばこれからの誠意で返していけば良い…。今回大事なのは、騒動の中で誰も怪我せず、且つ双方満足した形で治めたことだ…。月は凄いな!!」
そう言って月の頭を撫でてあげる。さらさらとした銀髪が絹の様で気持ち良い…。
「へぅ……。( ///)」
月の顔が真っ赤に染まり、特有のへぅボイスがもれる。
そういや、ここ街中だったな…。月も大人なんだし、子ども扱いされたら恥ずかしいか…。
俺は撫でていた手を月から離す。
「あっ…。」
「ん? どうかした?」
「……いえ、何でも…。」
「???」
まだまだ、乙女心を理解できていない聖なのであった。
後書きです。
いかがでしょうか?
原作ではあまり無かった、月の太守としての強さを描いて見ました。
月は太守ということもあり、政治力はあるはず、ならば頭も良いので張譲の策略くらい理解するんじゃないかなと………。
結構無理やり感も感じますが……まぁ、ご都合主義ってことで…。
次話はまた日曜日に。
それではご期待ください!!
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どうも、作者のkikkomanです。
前話で雅が参軍しました。
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