No.509229

同人ゲーム原稿『すみれの境界線1』

ADVゲームのシナリオです。
ゲームシナリオ講座的なものでなく、あくまで作品として見て頂ければ。
色々な方からの意見が欲しいのでキャラクターの感想、イラストに関して書き込みあれば嬉しいです。

2012-11-17 15:40:44 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:1376   閲覧ユーザー数:1372

少年は目的も無くただ人ごみの雑踏で時間を過ごす。

蒼乃「……」

朝から夜までそこに居座り、警察から注意されては別の場所を探しては人ごみが一番多い定位置の場所に再び腰をおろす。

蒼乃「……」

しかし傍目から見れば待ち合わせか、不登校の学生かに見えるためそこまで違和感は感じない。

朝から夜までただ居座るだけの行動。

何の意図を持ってしてなのか、そもそも意図を持たないからこそできる行動なのか。

少年は夜になれば一度家に帰る。

次の日。

そのまた次の日も。

二日、三日と意味を持たない行動に時間を費やしていく。

蒼乃「……」

日曜日。

人ごみが増す駅の町並み。

少年は土日も休日関係なく、既に定位置となりつつある場所に足を運びそこに腰掛ける。

次に行う行動は、駅から溢れる出てくる人の群れをぼうっと見つめ続けるだけだ。

これをただ、一日の殆どの時間に費やする。

蒼乃「……」

きっとボクは思春期なんだろうなー。

当の奇妙な少年は自身の謎の行為を楽観的に捉えていた。

頬もこけ、ここ数日まともな食事を摂った記憶が無い。

夜は一応自宅で食べているものの、朝食昼食はもちろん飲料水すら摂取せず、夏の炎天下の中でただ人を眺め続ける。

人は何のために生まれるんだろう……。

蒼乃「とか言っちゃう」

言ってないけど。

6日目。初めて口を開いた。

蒼乃「……」

自分を客観的に見た時、きっとボクみたいなタイプはそんなに珍しく無いはずだ。

これぐらいの年齢ならきっと誰しもが哲学に興味を持ち、反抗期で親に怒り、自分の生きる意味と目的を模索するはずだ。

うんうん。

そうやって人と違って深いことを考えてる俺かっけーとか思って達観するのが、若い証拠だよね。

うん。若いもん。まだ学生だし当然だね。

自分の行っている儀式的な奇妙な行動を正当化することで"普通"の枠に抑え込むことに成功すると、少年は無邪気そうにニヤニヤと笑みを浮かべた。

週が開け、月曜日。

少年が謎の行動を取ってから一週間が経過した。

早朝。

変わらず少年はいつもの"定位置"を見つける。

特に思い入れのある場所ではないが、この一週間でお気に入りの場所となりつつあった。

この街で一番人が観察できる場所が、すっかり定位置として馴染んだことが。

蒼乃「……」

しかしそこには先客がいた。

??「先客でーす。いつも座っている場所奪われたらどんな感じですかー」

蒼乃「……」

??「にゃはは、タマりませんねー。タマらんなー」

見ると少年と同じぐらいの少女が少年の"定位置"を陣取っていた。

蒼乃「そりゃー……タマらんねー」

??「お、なんだ普通に喋れるのかい」

蒼乃「だって君みたいに可愛い子から声かけられるのずっと待ってたんだもん」

??「しまった、逆ナン待ち!?」

蒼乃「あははは、せいかーい」

彼女の横に、腰を下ろす。

??「ねえ、君学校行かないのかい?」

蒼乃「その言葉、そっくり君に返すよ」

??「タマりませんねー」

蒼乃「あはは、君面白いね」

素直な感想だ。

??「逆ナン待ちってことは、遊び誘ったら付き合ってくれるの?」

蒼乃「エッチなところならいいよ」

??「ヤっちゃいますか」

蒼乃「……うーん困った。予想以上にノリが良い」

??「人気が出る美少女ってかんじっしょ」

蒼乃「ここで一つ浮上する方程式は、そんな美少女が声をかけるほどボクは美少年ということだろうか?」

??「うーん、ちょっとモヤシっぽいけど整ってるよね」

蒼乃「お、照れ隠しだ」

??「抱いて」

蒼乃「……うーん。踏み込むね」

??「タマちゃんは逃げないよー」

??「恋も部活も勝負も!」

蒼乃「……」

??「お、グっときた?」

……良い子だなあ。

初対面。

第一印象は、ぼんやりとだが好感的なイメージだった。

会話を数往復した程度だが、人間的に飾らず素直な自分を表現している少女は素直に魅力的だと思った。

蒼乃「タマらんなー」

??「パクんのかい!」

蒼乃「あははは」

??「球」

球「私の名前」

蒼乃「ペットみたいな良い名前だね」

球「踏み込むね。悪い方向に」

蒼乃「うーん、君とは気が合うけど仲良くなれないタイプだなー」

球「お、本当だ。気が合うね」

それにしても良い子だな。

久しぶりに人と喋ったから感傷的になってるとか、そういうのではないと思う。

球「名前教えて」

蒼乃「ボクの個人情報収集しても意味ないよ」

球「ちょっとここに名前と拇印してくれるだけでいいですから」

ノリもいいなあ。素直に男子から人気出そうなタイプだと思う。

球「ほら、早く携帯番号教えてよ」

蒼乃「うわー、たくましい」

球「はい、おっけー。蒼乃君ね」

蒼乃「球より良い名前でしょ」

球「タマりませんねー。タマらんなー」

蒼乃「……あー、意味わかったら寒くなってきた、それ」

球「あ、ホントだ。仲良くなれないタイプかもね」

蒼乃「うん。やっぱり気が合うね」

コホン、と会話遮るように球が咳払いをする。

球「実はね、蒼乃君がずっとここに座ってるの気付いて、声かけてほしいって頼まれたの」

球「女・子・に」

蒼乃「あー、知ってる。これ本命の子がブスで中継してくれる女の子が可愛い法則でしょ」

球「あらーん、やっぱタマちゃん可愛い?」

蒼乃「うん。凄く可愛いよ」

球「……ヤったいましたね」

蒼乃「ハート奪われた?」

球「その表現はちょっと古いな……」

タマちゃんとは仲良くなれないらしい。

球「それで、蒼乃君を気にかけてた乙女を紹介したいのだけど」

蒼乃「あ、ごめん。実はボク逆ナン待ちじゃないんだ」

球「うん。知ってるよ」

球「一週間近くもごはん食べないでずっとここに居たんでしょ?」

蒼乃「……」

……見た目より頭良さそうな子だなあ。

球「タマちゃん近くの学院の生徒なので、ここは通学路なのです」

蒼乃「……うーん」

そりゃー……同級生ぐらいのボクがこんなところで座ってたら、気になるか。

球「おおぉぉぉい、祥ちゃああああん!」

球「草食系タイプのイケメン捕まえたよおおおお!」

蒼乃「うわ……」

町中の視線が蒼乃と球に注がれる。

う……恥ずかしい。

球「今うわって言った?」

蒼乃「うわあ」

球「タマらんなー。君も踏み込むじゃないかい」

球「悪い方向に」

うん。タマちゃんとは気が合うと思う。仲良くなれないけど。

球「……あれ、祥ちゃんいないのかい」

そりゃあ出てきにくいでしょう。

球「しょおおおおおおお、ちゃあああああああああん!」

蒼乃「……」

他人のフリ、他人のフリ。

いや、街で急に話しかけれた程度だから、他人でいいんだった。うん。

??「……」

周囲の視線がタマちゃん注がれる中、蒼乃に向けられた視線が交わる。

蒼乃「……」

??「……」

あ……可愛い子だなあ。

うん。おっぱいおっきいし。

球「祥ちゃん!」

祥ちゃん「ぅ……」

蒼乃「あれ、この子なんだ」

球「そうだよ。すっげータマらんでしょ」

蒼乃「うん。タマちゃんより可愛いね」

球「だろー! 祥子はもうすっげえ美人で………」

球「……いや、タマちゃんのが可愛いだろ」

タマちゃん面倒くせえな。

祥ちゃん「ど、ども」

蒼乃「こんにちはー」

祥ちゃん「あ、はい。こんにちは」

蒼乃「別に物乞いじゃないんで、そこのコンビニで売ってるパンとかジュースとか板チョコとかいらないですよ」

祥ちゃん「あ……はい。今買って……」

球「うん。物乞いじゃないならいらないね」

やっぱりこの子と仲良くなれないと思う。

蒼乃「……」

そういえば、

こんな風にお互い対等な会話は何年振りだろうか。

少なくとも形にとらわれない会話形式なんて、

球「ん、アオノスどったん」

蒼乃「いや、なんでも……」

蒼乃「……」

蒼乃「……それはもしかしてボクの名前?」

祥ちゃん「あ、ボクっ子なんですね」

蒼乃「……ん、んんん?」

なんか…会話成立してなくない?

蒼乃「タマりませんなー」

球「あ、またパクった」

祥子「可愛いですね」

蒼乃「ありがとう。よく言われるんだ」

球「祥ちゃん、こいつ思ったより性格悪そうだよ」

蒼乃「タマらんなー」

球「ほらほらほら!」

祥ちゃん「……うーん、でも」

祥ちゃん「私、この人と友達になりたい」

蒼乃「……」

球「……」

ん?

祥ちゃん「あ、あれ?」

球「祥ちゃん……」

蒼乃「……うーんと」

蒼乃「今の口説き文句かな?」

祥ちゃん「ぇ……ぁ…」

球「あー、ヤっちゃいましたね」

蒼乃「まだヤってないもん」

球「その返しがヤっちゃいましたよ」

蒼乃「……」

会話が一区切りするタイミング。

もうそろそろ、いいかな。

うん。

こういうのも悪くないけど、ボクは大事な思春期を満喫しないといけないし。

おもむろに、腕時計に視線を落とす。

蒼乃「ああ、学校始まるよ。急がないと」

祥ちゃん「いえ、今日はサボりなので大丈夫です」

蒼乃「うん。また明日ね」

祥ちゃん「……」

蒼乃「……」

あれ?

祥ちゃん「えと……アオノス君と友達になりたいから、今日はサボりでもいいかなーと」

蒼乃「あー、なるほどね」

球「祥ちゃんは学園休んだことなかったんだよ。すごいことなんだよそれは」

蒼乃「タマちゃんサボりそうな顔してるよね」

球「祥ちゃんこいつ性格悪い、やめようよ!」

祥ちゃん「や……アオノス君がいい……」

球「くーーーー、タマらんなー。一目惚れかい嬢ちゃん」

祥ちゃん「そ、そんなんじゃ……」

蒼乃「……」

ボク、アオノスで定着しちゃったんだ。

球「大体アオノスもサボりっしょ」

蒼乃「ボクは27歳の童顔で休職中なんだ」

球「サボりだって。大丈夫だよ祥ちゃん」

祥ちゃん「う、うん」

うん。ボク、タマちゃんきらいだ。

祥ちゃん「あ、あの……」

一歩、祥ちゃんが近づく。

祥ちゃん「わ……」

祥子「私と友達になってください!」

蒼乃「……」

ともだち……。

変な宗教やってないよね?

球「……」

祥ちゃんの死角からここぞとばかりに鋭い眼で睨む球。

おかげでその言葉を飲み込んだ。

蒼乃「……」

なんだかんだ言って、タマちゃん友達想いなのかな。

ぼんやりとそんなことを考えると、自然と笑みが溢れた。

そうだなあ。

うん。

こういうのも、ありかもね。

ボクにとっても、

うん。

多分、ここでずっと青春なんか悟ったフリしてるよりは、そういう方がよっぽど建設的かも。

蒼乃「天文蒼乃。よろしくね、祥ちゃん」

4から5に上がる良いきっかけかもしれない。

祥子「ぁ……はい!」

差し出した右手を、祥ちゃんは両手ががっしり掴み、ぶんぶんと上下に降りながら頭を下げる。

祥子「さ…坂上祥子です!」

球「……んー、やっぱりタマちゃんはこの人危険だと思うよ」

蒼乃「ボクはタマちゃんも良い人だと思うよ」

球「……」

球「タマらんなー」

5、か。

早く見てみたい景色かもしれないな。

いや、もしかしたら、ボクはもう5に達しているのかもしれないしね。

それはそれでーー良いかもしれない。


 
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