No.508031 第十五話~刀匠 1~紫月紫織さん 2012-11-14 05:42:27 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:620 閲覧ユーザー数:618 |
アーベントと一緒にふらりと旅に出て、何はともあれまずは帝都へと向かうことにした。
私の折れた刀を打った人物を探すためにも、すべての起点となるのは帝都のあの武器屋なのだから。
道中、山賊などをナマクラ刀で切り倒し、アイレイド王国期の遺跡を見つけては踏破してを繰り返しながら、アーベントの希望でオブリビオンゲートに乗り込みもしながら道中は過ぎていった。
ゲート内部でバルログを発見し、閉じれないままに撤退したこともある。
どこかしらで変わりの牙が見つかることを期待したが、異界の戦士の武器も、アイレイド王国時代の遺物にも、私達が選ぶ物は存在しなかった。
帝都について翌日の夕刻、私があの刀を手に入れた店へと共に足を運ぶ。
店主は健在で、武器の手入れをしながらすでに客の居なくなった店の番をしていた。
アーベントは話の邪魔をしないつもりなのか、適当に店に並ぶ武器を流し見し始めており、こちらに関わるつもりはないらしい。
程なくして見る気もなくしたらしく、店の隅にあった椅子に腰を下ろしてしまったが。
私の目から軽く店内に残る武器を見回しても、たしかにあの刀に匹敵するようなシロモノは見受けられなかった。
つまらない品揃え、というつもりはないが、所詮人間の扱う武器と言えなくもない。
私達が本気で振るったら簡単に壊れてしまうような気さえした。
そんな考えを頭の片隅に残しながら、店主に声をかける。
「久しぶりね、元気にしているかしら?」
「ああ、お嬢ちゃんかい。久しぶりだねぇ、どうしたの? また何か入り用かい?」
気さくに話しかけてくるローサンに腰に下げている刀を見せ、この刀を作った主を探している事を告げる。
ローサンは暫くの間古い記憶を探していたようだったが、やがて口を開いた。
「ううん……その剣を売ってきたのはなんか変わった服を着た精悍な顔つきの中年男でね、『金が欲しいから剣を打ってきた、買い取って欲しい』って言うからものを見たらあの出来だろう? これぐらいでって買い取ったんだけども、あれが本当に鍛冶師だったのかはわからないねぇ」
「その男はどこへ?」
「さて、ねぇ……店にきたときは娘連れだったが、故郷に帰るとか行ってたけども」
その故郷についての情報が欲しい。
変わった服というのがどういうものなのかわかればいいのだが、服飾に疎そうな彼女から答えを探しだすのは無理だろうか。
「故郷……」
「旅費が要るっていってたから少し高めに買い取ったから、そこだけは覚えてるね」
「いくらで?」
「……千二百だけど」
「千二百……」
店の邪魔にならないようその後外に出てから、果たしてどこへ進んだものかと思案する。
「どこか行くアテはできたか?」
「微妙な所じゃな。旅費で千二百となれば、シロディール外の可能性もある」
「だとしたら追うのはもう諦めか?」
しばらく考えた末に、私は静かに首を横に降る。
可能性があるとするならばどこだろうかと考え、そうして一つの結論に達するまでにそれほどの時間はかからなかった。
「西に行こう、アンヴィルという街があるはずじゃ」
「アンヴィルね、理由は?」
「この帝都から一番遠く、そして国外に出る船が出ている場所だからじゃ。他国へ行くならあちらのほうが都合がいい」
シロディールの入出国を管理しているところは二箇所あり、一つは私が帝都にやってきた時の海路。
そしてもう一つが、アンヴィルから発着している交易船によるものだ。
だから、帝都から出国していない限り、アンヴィルからの出国以外はありえないということになる。
そして、帝都での入出国は船がいく場所が限られているのだ。
「それじゃま、アンヴィルまで行こうか。結構長旅になりそうだ」
「どうせだからスキングラッド伯のところへ顔出しもしておくとするかの」
* * *
「気づいたか?」
「ああ、この近くにオブリビオンゲートあるよな」
スキングラッド周辺に入ってからというもの、空がひどく暗い。時折響く雷鳴や、たまに赤い光が漏れる。
それらはオブリビオンゲートが現世に顕現したときに見られる症状だ。
禍々しい空であること事この上ない。
「いよいよやっこさんも本気ってことかね?」
「じゃろうな、マンカー・カラモンが逃げ込んだ先はおそらく、オブリビオンの世界のいずれかじゃろう。となれば、裏で連中と情報交換があってもおかしくあるまい」
「やれやれ……しばらくは防戦一方ってことか、気に入らねぇな」
「牙を欠いたままでは防戦すら儘ならんよ。現に、ゲートを閉じたという話はまるで聞かんじゃろ? この国は今まで治安が良かったんじゃろ、特に帝都などは……戦の経験が古い時代の話になっておってもおかしくない」
果たして、オブリビオンの世界からの攻勢に対してどこまで踏みとどまれるかという話だろう。
そしてその実例はすでにクヴァッチによって証明され、広がっている。
連中が本気で襲いかかってくれば、街を守り切ることができないと。
攻める側は自由に攻められる、だが防衛側はどうしても後手に回る。
そのため守り切ることは不可能に近い。
こちらの勝利条件は限られているのだ。
スキングラッドの門をくぐり、街の中へ入ると、街の雰囲気が肌で感じられた。
夜であるにしてもひどく静かな、まるで廃墟のような街の空気に、私もアーベントも眉をひそめる。
空を見あげれば赤く、雷鳴が微かに轟いて見える。
いつから続いているのかは分からないが、この天候がずっと続いているというのなら街人が不安になっても仕方はあるまい。
「なんか雰囲気暗いな……」
「無理もあるまい、天候や環境に人は容易に左右されるからの……」
上を指差して言ってやれば、アーベントも納得したかのように小さく嘆息するのみだった。
「そのとおりだ、民は変化に敏感なのだよ」
突然の背後からの声にアーベントが即座に距離を取る、それを横目に私は呆れたように嘆息してみせた。
「久しいの、ジェイナス。うかつに出歩いてよいのか?」
「此処は治安の良い街だからな。……そちらの男も同胞のようだな、歓迎しよう」
「……あ、ああ、そういうことか。アーベント・シュヴァルツヴァルドだ」
「ジェイナス・ハシルドアだ。では参ろうか、我が屋敷へ」
そう言ってジェイナスは人通りの殆ど無い街を歩き出した。
「対応はどうしておる?」
「どうにも。件のゲートの位置はわかっている。だが……内部に送れる人材が居ない。監視は続けていて、街への直接的な脅威はないのだが、この天候だけはどうしようもなくてね」
「やはりか」
「募集はかけているのだがどうにもね……戦士ギルドもあたってみたが、出払っているらしい」
稼ぎどきで忙しく動いている、というところだろう。戦士ギルドはそういったことには貪欲だ。
本格的に侵攻してこないのは、内部からの崩壊、あるいは疲労することを狙ってのことなのかもしれない。
「そこにちょうど俺らが来た、ってことか?」
「そうだ。それも期待している……状況がそれを許すのならば、だけどね」
「そう、だな……」
そう言ってこちらの方にちらりと視線をよこすアーベントだった。
「こちらとしても、今はうかつに踏み込めん。中にこちらの手に負えないものが存在する可能性があるからじゃ、実際数回にわたってそれでゲートから引き上げておる……準備が整えばといった所じゃが、それが整う目処がたっておらんからな」
ため息ばかりが出る中、城のある丘の上から件のゲートが目視できた。
忌々しい異界の門は、森の中にあってなお、堂々とその姿を晒していた。
「魔術師ギルドに声をかけて、魔術的にあの門を封鎖できないかと検討中だ」
「難しいじゃろうな。向こうはゲートの維持に魔術的な核を用意しておるから」
こちらからの返答に、ジェイナスは目頭を抑えうつむいてしまった。
人よりも遥かに力を持つ者が集まってですら、この有様なのかと思わざるをえない。
「その、手に負えない存在というのは、一体なんだ?」
「……バルログじゃ」
「伝承上の怪物……そんなものが居るのか。ゲートから出てこないことを祈るしか無いな」
「うむ、そのとおりじゃ。わしの刀が折れたのも彼奴の所為じゃからな」
「そうか、事情は分った。協力できることがあれば言ってくれ、可能な限りは請け負おう。それが……この事態全体を打開することにもつながるのだろう?」
* * *
日の出を前にして、あてがわれた部屋のベッドへと体を鎮める。
アーベントは鬱憤に任せてか普段は食べないような量を食い散らかして見せる始末だった。
「なあ」
「何じゃ?」
ベッドにうつ伏せになったままのアーベントが、呻くように声をかけてくるのに怪訝な視線を向ける。
とはいえ、その視線をアーベントは捉えていないのだから意味も無いのだが。
「無駄足に、ならねぇよな?」
「知らんわそんなこと」
そう、それこそ知ることができない類の話だ。
無駄足になるならないなぞ、わかるはずもない。
このまま港町アンヴィルまで行って、そこで件の人物を見つけられなければ、私達にとっては詰み同然なのだから。
「しかし、解せねぇよな。あんな化物がいるなら、それを送り込めばそれだけで簡単な話なんじゃねぇのか? 侵略なんて、よ」
「彼奴は物理はたしかに強靭じゃが、魔法に対してそこまで耐性があるわけではないんじゃろう、それにこちらにも召喚魔法という類もある。無駄遣いできない上等の手駒、というところじゃろ」
「となると、最悪の選択肢としては、被害を覚悟の玉砕戦ってわけか?」
「そうはなりたくないのぅ」
柔らかいベッドに身を沈めつつ、眠気の波に飲み込まれながら、明日のことを考える。
明日の夕方、伯爵がアンヴィルまでの馬車を出してくれるという。
夜の内にアンヴィルにつき、宿や港を当たり話を聞いて、それが答えとなる。
すでに出発していないことを、祈るしかあるまい。
気づけばアーベントはすでに寝入っていて、私も程なくして眠りへと落ちていった。
* * *
「それじゃあ、私どもはこれで」
「ええ、ありがとう。伯爵に宜しく伝えてちょうだい」
「良い結果であることをお祈りします」
御者はそれだけ言うと馬車で再びきた道を戻っていった。
潮風の匂いを感じつつ、私とアーベントはアンヴィルの門をくぐる。
門をくぐった正面は広場になっており、一本の巨木がそびえ立っている。昼であれば街人に木陰を提供する憩いの存在となっていただろう。
生憎と今は私達にとって月明かりを隠す厄介な存在でしか無いが。
ひときわ強い風が吹き、木の葉を撫でてざぁと葉音を響かせた。
その風に乗って、私に──今はアーベントもいるから私達にとって、微かにだが嗅ぎ慣れた匂いが運ばれてきた。
血の匂い。
私が顔をしかめていると、アーベントもそれに気づいたのだろう、どうするんだという視線を向けてくる。
「関わることもあるまい、わしらの目的を果たすほうが先決じゃろう。」
血の匂いは変わらずアンヴィル包んでいたけれど、私達はそれを無視してまずは私たちの協力者に会いに行く事にした。
港付近の宿"船首楼"を拠点として活動する、アントニオという男がそれで、日中は船着場の雑用のようなことをしているらしい。
* * *
「それでは、此処しばらくで国外に出た船は無いのね?」
「そうさ、オイラが把握している限りでは……一ヶ月前ぐらいから、海外行きの船が運行停止になってるんだ。理由は分からないけれど」
「一ヶ月、か……私がこっちに来た頃と同時期っていうなら、多分どこかに宿をとっていると思っていいわね」
時期の計算をしてみれば、だいたいそれぐらいのはずだ。まだシロディールから国外へ出たということは考えられない。
「質問を変えるわ、此処一ヶ月の間に、娘を連れた異国風の男性を見なかった?」
私の質問にアントニオはしばらく考え込んだ末、自信なさげに顔を横に振った。
「おそらくだけど、来ていないと思う。娘連れなんて珍しいし、見ていれば記憶に残ると思うけど……」
記憶にないし、とまで言い切れない当たりいささか確信にかけるが、珍しいものの組み合わせの印象というのは強いものだから、なんとなくだが信じていいだろうと思える。
「それが正しいってんなら、しばらくこの街に滞在して情報収集と人探し、ってところか?」
「そうなるわね。アントニオ、貴方にも一応、港に来る人には気を配って、情報を集めてほしいわ」
「わかったよ、出来る範囲でやってみる」
アントニオはそう言うと酒場から出ていった。こんな夜中でも情報を仕入れるアテはあるということなのだろう。
その姿を見送りながら、アーベントは聞かれないよう姿が消えてからボソリと呟いた。
「……頼りねぇ」
同感のためフォローのしようもなかった。
しばらくそのまま酒場で休憩をとっていたが、外がにわかに騒がしくなり中断せざるを得なくなった。
嫌な予感というのは往々にして当たるもので、衛兵が酒場にやってきたのはその直後のことだった。
衛兵はざっと酒場を見渡すと、すぐに私達に目をつけたようで近寄ってきた。
「お前達、少しいいか?」
「何かしら?」
「なんだ?」
「見かけない顔だが、この街に来たのは何時だ?」
「つい先刻ね、まだ一時間もたってないわ」
私が相手をするのに任せるつもりらしく、アーベントは酒の注がれたカップを手に反応を伺うにとどめた。
衛兵がその後何やら幾つか確認したあと、当分教会には近づくなと釘を刺された。
どうやら何か事件でもあったのだろう。私達にとっては特に関係のない話だろうから気にもとめはしなかった。
* * *
昼に動けないため情報収集にはなかなか手間取ったし、案の定というかアントニオはあまり頼りにはならなかった。
"Terran"に所属するにしてはいささか実力不足感が否めないのは、まだ経験が浅いからか、それとも街の環境や生い立ちからだろうか?
そのために、ようやく私達が彼らにたどり着いたのは、四日目の夜のことだった。
「彼らは、此処に滞在しているようです、半月ほど前までは空き家だったようですが、買い手がついたとかで……」
「なるほど……家を買って滞在では酒場や宿では情報も集まりづらいか」
「話はつけてあるので、尋ねるのは問題ないかと、その後のことは……お任せしても?」
「十分よ、ご苦労だったわね」
そう言うとアントニオは礼をしてからさっさと帰ってしまった。
「さて、それじゃ行くかい?」
「ええ、話をするだけしてみましょう……話に乗ってくれるといいのだけれど」
木のドアを叩く乾いた音が響いて、その後少ししてから、短く返事があった。
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だいぶ更新遅くなってしまいました、申し訳ありません。
ちょっと本編から外れたらこの有様です、実力不足を痛感しました。