No.508016

IS x 龍騎〜鏡の戦士達Vent 33: 己の義務

i-pod男さん

そろそろ戦いの火蓋を落とそうと思います。

2012-11-14 03:25:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1532   閲覧ユーザー数:1460

放課後になると、一夏は学園を出て街に入った。バイクで再び町中を疾走して行く。ポツポツと雨が降り始めたが、それさえも心地良く感じていた。だが、走っている最中、一夏は見覚えのある人物の後ろ姿を見た。ダークブルーの長袖シャツに白いフード付きのベストにジーンズと言う普段着であったが、その水色の頭髪は間違い無く更識楯無の物だった。彼女が向かった先で突如耳を劈く音がした。

 

「モンスターか・・・・って・・・・おいおい・・・」

 

一夏が見たのはベノスネーカーと同系統の爬虫類型モンスター、ベノヒュドラだった。体格こそベノスネーカーに劣る物の、その分スピードが速く頭を二つ持っている厄介なモンスターである。楯無はアビスに変身し、直ぐにベノヒュドラへ向かって行く。

 

『ユナイトベント』

 

アビスハンマー、アビスラッシャーが合体したアビソドンがホオジロノコギリシュモクモードで援護した。アビスもアビスバイザーとアビスクローのアビススマッシュを放って攻撃するが、するするとその攻撃を胴体をくねらせて避けて行く。遂にはアビソドンをその長い胴体で捕縛し、締め上げ始めた。

 

「そろそろヤバそうだな。手を貸してやるか・・・・」

 

デッキからダークウィングのカードを引き抜いてベノヒュドラを攻撃させる。

 

「変身。」

 

ミラーワールドに飛び込んだ。

 

『ナスティーベント』

 

怯んだ所でアビソドンが解放された。そこですかさずファイナルベントのカードをベントインした。

 

『ファイナルベント』

 

『ギイィイィイイイイイイィイィイイ!!!』

 

ダークウィングが背中に合体してマントの様になり、空に飛び上がるとマントがドリルの様に変形してベノヒュドラの頭を貫いた。

 

「はああああああああ!!!」

 

爆発とともにベノヒュドラは倒れたかに思えた。だが、もう一つの頭はまだ健在であり、ナイトに襲いかかろうとした。

 

『ファイナルベント』

 

だが、アビソドンが発生させた巨大な波に乗って飛び蹴りを放つ『アビスダイブ』でその頭も吹き飛ばされる。二人のライダーは無言で向き合ったが、先に動いたのはナイトだった。ミラーワールドから出て楯無の方に歩いて行く。彼女は腰が抜けてしまったのか地面に尻餅をついたまま立ち上がらない。

 

「立てよ。そんな所にいたら濡れるぜ?」

 

一夏は着ていたコートを脱いで頭からかぶせた。

 

「ここまで来てモンスターと戦う必要は無いだろう?本社の方からライダーが来て駆除してる。それにオーディンが定期的に餌をくれるんだ、向こうだって文句は無い筈だ。」

 

だが、楯無は何も言わずに立ち上がった。

 

「まだ気掛かりか?妹の事が。随分と中良さそうだと思うがな。それともアレか?肩書きに縛られるのが苦痛か?常に冷静に、そして最強であれ。そんなのやってたら頭がパンクしてしまうぞ。良くそこまで出来るな。何故我慢する?俺より一つ年上なだけなのに。」

 

「私も、色々あるのよ。」

 

「だろうな。まあ、とりあえずウチに来いよ。体冷えてるだろ?」

 

バイクの後ろに乗せると、社宅に着いた。中に招き入れるとポットに入れた水でお湯を沸かし始めた。楯無にはタオルと毛布をかぶせてソファーに座らせる。

 

「コーヒー、緑茶、紅茶、麦茶があるけど、どれにする?」

 

「じゃあ、紅茶・・・・」

 

戸棚の中にある茶葉は品揃えが豊富で、それなりに値段が張る物もある。適当な物を選ぶと、ティーカップ二つを受け皿に乗せ、それを盆に載せて運んだ。

 

「砂糖とミルクは出してあるから。」

 

幾分か顔色が元に戻った楯無はポツポツと語り出した。

 

「貴方も知ってると思うけど、私の家柄は対暗部用暗部だから、その為に私に『自由』なんて物は存在しなかった。自分でいる事を許されなかったの。だから、時々疲れちゃって、何もかも放り出して逃げたくなるの。だから」

 

「それが何だよ?」

 

「え・・・・?」

 

バッサリとそう言われた楯無は面食らってしまう。

 

「お前何か勘違いしてないか?逃げたくなる事が悪いと誰がいつ言った?逃げたいなら、一時だけでも全力で逃げろ。それは負けかもしれないし、そうじゃ無いかもしれない。だが、それは悪い事じゃない。勝ち続ける様な人生なんて存在しない。休息は誰にでも必要だ。俺より年上の『おねーさん』なら知ってる筈だろ?」

 

そう言いつつ彼女の首筋に手を当てた。

 

「体が冷えてるな。シャワー貸してやるから浴びて来い。着替えのトレーナーは出しておくから。服も乾かさなきゃならないしな。」

 

「え、でも・・・・・・」

 

「良いから行けって。風邪引いて困るのはお前だ。簪にも心配かける事になるだろ?シスコンねーさん?」

 

尚も渋る楯無を一夏は抱え上げてユニットバスに入った。浴槽、シャワールーム二つ、そして洗面台が揃っており、かなり広い。

 

「最終的に決めるのは自分だ。逃げようがパンクする寸前まで戦い抜こうが俺は止める義理は無い。だから、中途半端にするな。やりたい事はちゃんとやれ。後悔してからじゃ、遅いんだぞ?人間誰しも老い先は短いんだ。特に、最前線で命張ってる様な奴らは。服はその籠に入れろ、後で乾燥機に放り込むから。じゃあな。」

 

そう言ってドアを閉めると、玄関のドアが開く音がする。

 

「ただいま、兄さん。」

 

「おお、マドカ。お帰り。って・・・・・・簪、何でお前がここに・・・?」

 

「私が誘ったのだ。同じジャパニメーション及び特撮ファンとしては語り合う事が多くてな。」

 

(そういや忘れてたな。特撮系に嵌ったのも簪の入れ知恵だった・・・・それも確か平成から全部休日にぶっ通しで見たとか・・・)

 

「ごめんね、迷惑だった?」

 

「いや、寧ろ丁度良いだろう。楯無も来てる。傘も差さないで雨の中を歩いていたからウチに連れて来た。今シャワーを浴びてる所だろう。体が冷えてたんだ。」

 

「そっか・・・・あの・・・この間はありがとう。映画の前売り券とお弁当。」

 

「・・・・ああ、まあ、気に入ってくれたなら幸いだ。マドカ、ポットのお湯は残ってるからココアなり何なり好きに作れ。俺は少し寝る。」

 

だが、部屋に戻ると、バスローブを羽織ったままの楯無がそこにいた。ドアを一旦閉めると、深呼吸を繰り返してもう一度扉を開いた。どうやら厳格でも部屋を間違えた訳でも無いらしい。

 

「何でここにいる?」

 

「御礼が言いたくてね。おねーさんも言われっぱなしじゃ気が済まないの。そー言う事言ってくれる人って、いないんだ。だから、ありがと。簪ちゃんともまた仲良くなれたし、本当に感謝してるわ。」

 

「俺が勝手にした事だ。それはそうと、簪は下にいるぞ。俺の妹と一緒にな。会ってやれ。俺は少し眠る。」

 

「じゃあ一緒に寝ましょー!」

 

「断る。色仕掛けで俺をからかおうとしても無駄だぞ?」

 

一夏はベッドにどさりと倒れ込み、目を閉じた。色々と起こり過ぎて最近ゆっくりと眠れなかった為、直ぐに眠りについた。だが、それを見ていたのか、楯無が再び部屋に侵入して来た。一夏の寝顔を覗き込むと、薄く笑う。

 

「可愛い・・・」

 

そう言って軽く彼の額にキスを落とした。

 

「フフッ。お休み、一夏君♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く・・・・」

 

その頃、司狼、斉藤、スコール、オータム、そして弾の五人は中国にいた。正確には政府の本拠地である建物の残骸の真っ只中に。

 

「こうなったのは自業自得だ、何度も俺達の命を狙うに留まらず、俺達の持つISのデータを消そうとする為に工作員を送り込むなんて。どうせなら正面から喧嘩売って欲しかったな。こっちもやり過ぎたかもしれないけど。」

 

「あ、あ・・・・・」

 

「それよりも聞きたい。この政府は、俺達の何が気に入らないんだ?それともあれか?今最も織斑一夏と近い鳳鈴音が彼のISデータを奪取して持って来ると期待していたのか?悪いがそれはあり得ない。」

 

「な・・・・何故分かった・・・・?!」

 

「質問はあたしらがする。アンタは答えに集中しな、髭デブ!」

 

アラクネが持つ二本のカタールを突き付けながらオータムが口元を邪悪な笑みに歪める。

 

「ああ、そうそう、ゆっくりとだけど、確実に俺達の力はこの国の基幹組織にも届き始めている。お前達が止める事は出来ない。女尊男卑こそが、世界の巨悪の根源だ。俺達は、それを断ち切る為に戦う。だがもし邪魔をすると言うのなら、死ぬ覚悟をしておけ。」

 

五人はミラーワールドから再び学園に戻ると、一息ついた。

 

「司狼さん、流石にあれはやり過ぎでしょう?ジェノサイダーを使うなんて・・・・インパクとあり過ぎますよ?ライダーの事がバレたらまずいって言ったのは司狼さんじゃないですか!」

 

「分かってる。だが、あいつらは一度言ったらてこでも聞かない。自国の民を他国の裁判にかける事だって出来ないから、面倒な事この上無い。幸い逃げられる前に取っ捕まえてスコールとオータムに吐かせられたから良かったけど。あれ位のインパクトが無いと向こうは分かってくれない。憲司にも一応俺達の味方をしてくれる国に反乱分子を見つけたら出来るだけ早く片付ける様注意を呼び掛けさせてるけど、全部に行き届く訳じゃ無いしねえ・・・・・困った物だよ。ISその物を使えなくすると言う手もあるけど、それじゃ元の木阿弥だ。男が一気にまたパワーバランスをひっくり返して余計に混乱が増す。ISを使って、男の力を証明する。それで俺達は、初めて勝ちを掴み取る。流石に奴らも俺達に真っ向から挑む様な馬鹿な真似はしないだろう?それこそ、ISを使えるフリーランスの傭兵部隊でも雇わない限り。」

 

「傭兵部隊、ねえ・・・・・」

 

司狼は腕組みをしたまま目を閉じる。

 

「憲司。現在どのコアがどの国に幾つあるか、二十四時間以内に調べられるか?」

 

「勿論。十二時間で終わらせる。」

 

「早ければそれに越した事は無い。頼むぞ。(傭兵部隊・・・・もしISでそんな物が出来れば・・・・資金もかなりある筈だし、ISなら目立つ。完全に隠れる事は不可能だ。まあ、杞憂である事を祈るしか無いか・・・・)」

 

司狼は自身のISの剣の柄を握り締めてゆっくりと息を吐き出した。

 


 
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