No.506703

すみません。こいつの兄です35

今日の妄想。ほぼ日替わり妄想劇場35話目。美沙ちゃん再登場でぇす。(凸守っぽく)

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(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

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2012-11-11 00:37:30 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:952   閲覧ユーザー数:862

 妹が熱を出した。

「うーうー。にーくーんー」

インフルエンザの可能性もある。うつらないようにマスクをして、妹の部屋におかゆを持っていくと、涙目で妹がうなされていた。

「体温、測ったか?」

「うう~」

妹がパジャマの襟元に手を突っ込んで、体温計を取り出す。見ると、三十九度を超えている。

「おかゆ食えるか?」

「食べさせて~」

しかたないな。まぁ、甘やかしてやるか。おかゆを掬って妹の口元に運んでやる。もう少し身体起こさないと食えないだろ。空いている方の腕を肩の後ろに入れて、持ち上げてやる。本当に熱いな。

 意外と食欲はある。よかった。人間、飯が食えれば大丈夫だと誰かが言っていたような気がする。とはいえ、こうやって支えているとその意外な熱さにけっこう真面目に心配になる。

 おかゆを食べ終わった妹をもう一度、ベッドに横たえて布団をかけなおしてやる。

「にーくん」

「なんだ?他になにかいるか?ポカリも飲んどけよ」

「汗かいて気持ちわるいっすー。背中、痛いっすー」

わかったわかった。汗を拭いてやればいいのか?

「ちょっと待ってろ。タオル持ってきて、拭いてやるから」

一度、タオルを取りに階下に降りる。ちょうど、母さんがパート先から帰ってきた。

「あ、直人…真菜は?」

「熱は、まだ三九度くらいあるよ。汗をかいたって言うから、タオルで拭いてやるとこ」

「ついでに、着替えさせちゃってくれる?病院連れて行くから」

「そ、それは、母さんやってよ」

あれでも、妹は女子高生だよ。

「なにあんた妹を意識してるのよ。気持ち悪いわよ」

あれ?俺がおかしいの?

 なんだか美沙ちゃんに変態って思われすぎて自分の中の基準が揺らいでいる。もしかして、高校生になったからと言って、妹を着替えさせられない兄って変態なのか。普通の兄って、妹が女子高生だろうが女子大生だろうが、裸とか見てもなにも思わないものなのか。いや、俺だって別にあの妹の裸を見ても、どうとも思わないけどさ。

 タオルを持って、上にあがる。

「真菜。母さん帰ってきたぞ。病院に連れて行くってさ」

「…そ、そうっす…か」

「大丈夫か?大丈夫じゃないよな」

妹は顔を赤くして、汗だくになっている。

「ほら、汗、拭いてやるから」

布団をめくって、また妹の身体を起こしてやる。パジャマの上着の背中側をめくる。

 う…。俺がおかしいの?

 小さな背中に汗が浮かんでいる。タオルでそっと拭いてやる。丸めた背中に、背骨とうっすらとあばら骨が浮かぶ。背骨に沿って、薄く背筋がついて、腰のあたりに三角形の傘型のくぼみをつくっている。

 下から上に拭いていってやる。

 肩甲骨までたどり着いて、気づく。あ。こいつ下着つけてない。あたりまえか。寝苦しいもんな。

 …う。俺がおかしいのか…。こっちの顔まで赤くなっちゃうんだが。高校生になった妹の背中を見て、恥ずかしくなるのは俺がおかしいのか?変態なのか?別に、妹になんかしようって気は…ないぞ!断じて!絶対に!

「ま…前は自分でやれ」

「…そ、そうっす…ね」

妹にタオルを渡す。

「あと、病院行くから、着替えておけってさ。着替えだしておいてやるよ」

楽なのがいいだろ。スウェットかジャージだな。

 クローゼットからジャージとTシャツを出して、妹に放り投げてやる。

「んじゃ、着替えたら言えよ。廊下にいるから」

けっして妹の裸を意識しちゃうわけではないんだが、さすがに高校生になった妹を着替えさせるのはできない。俺がおかしいんじゃないよね。普通だよな。

 廊下に出て、妹の部屋のドアの前で待つ。

 ふぅ。

 妹の裸の背中を見て、変に緊張した俺は変態なのかな。普通な気がするけど、他の誰かに「妹の背中でちょっと変な気分になったんだけど…」とか言って、これが変態反応だった場合のことを考えると、他人には聞けない…。

 ドアが開く。

「着替えたか?大丈夫か?」

「…ふらふらするっすー。あー。あー」

言っているそばから、妹が斜めに傾いで、廊下の反対の壁にがつんとぶつかる。

「おい。こら。あぶない。そんな状態で階段に向かうな」

妹の腕を引っ張って、肩を貸そうとしたが失敗した。妹の身長が小さすぎる。肩を貸すと、妹がぶら下がってしまう。仕方なく背負うことにする。妹の身体が熱い。三九度後半の発熱だもんな。

「おにい…ちゃん…」

いつもなら、そんな呼び方をしたら踏みつけるところだが、今日は許してやろう。共倒れにならないように注意して階段を降りる。

「あ、丁度よかったわ。タクシー来たから」

階下に降りると、玄関の前までタクシーが来ていた。

「ほら、真菜。靴はけ、靴」

玄関に妹を下ろし、足を靴に突っ込んでやる。

「じゃあ、直人。留守番お願いね」

「ああ」

 タクシーの後部座席に妹を放り込んで、母さんに任せる。タクシーが走り去っていくのを確認して、家に戻る。

 

 呼び鈴が鳴った。

「ほいほい」

玄関のドアを開ける。

「きゃっ…お、おに…いさん?」

美沙ちゃんが立っていた。表情は引きつっている。

「う…」

こっちも固まってしまう。仕方ないことだと思う。

「あ、あの。ま、真菜にプリントを持ってきたのと、あと、お見舞いに…」

カーデガンにフレアスカートをソフトトーンで揃えた美沙ちゃんが、クリアファイルをのぞかせる紙袋を持ち上げる。

「あ、ああ。ありがとう。妹は、母親と病院に行っててさ…あ、入る?」

「……え…と。も、もしかして…い、今、家にお兄さんだけ…ですか?」

しまった。美沙ちゃんに怯えの色が見える。ここで、『なんにもしないから』とか言って、信用してもらえると思うほど脳天気じゃない。

「そ、そうだよね。良くないな。じゃあ、プリントだけ受け取っておくよ。ごめんね」

「あっ!あのっ!そ、そうじゃなく…て…あの。お邪魔します…」

美沙ちゃんの無理してる感あふれる気遣いが地味につらい。

 とりあえず上がってもらって、居間に通す。俺の部屋とか絶対につれていけない。

「あの…これ、お見舞いにもってきたんですけど、ゼリーなので…」

「あ。じゃあ、冷蔵庫に入れておくね。ありがとう」

ガラスの容器に入ったゼリーだ。ホイップクリームで凝ったトッピングがしてある。何層かにわかれて色が変わっていて、間にスライスしたイチゴやオレンジが挟んである。…容器というか、コップか?これ?

「これって…」

「……姉が作ったんです」

少し言いにくそうに言う。なるほど。真奈美さん作なら、さぞかし美味かろう。真奈美さんの料理スキルはプロ級だからな。

「紅茶でいい?」

「はい…」

真奈美さんが、紅茶を入れるときはポットのお湯じゃなくて、かならず一度沸騰させなおしていたことを思い出して、真似してみることにする。ポットのお湯を二杯分ヤカンに移して火にかける。その間に、カップにお湯を注いで温める。お湯が沸いたら、カップを温めていたお湯を捨ててティーバッグをカップに入れて、沸騰しているお湯をゆっくりと注ぐ。

 トレイに載せて、ソファに座る美沙ちゃんへ出す。手が震えて、かちゃかちゃと耳障りな音を立てる。

「……」

「……」

沈黙が重い。美沙ちゃんと話す機会があったら、伝えなくてはならないことが沢山あったのだけど、こうなってみると何もいえない。俺は変態じゃないよーと叫んでみるのは、変態アピールにしかならない。変態じゃないことをアピールするというのは、難しいことだ。女の子の言う『普通の人』ほどハードルの高いものはない。

「…あの…真菜が言ってました…」

あいつ、なにを言ったんだ?やる気が空回りして、誤解を助長していないことを切に願う。

「…お兄さんは…その…」

美沙ちゃんが言いよどむ。美沙ちゃんが言いよどむようなことを、妹が言っていたのだな。願いが儚く崩れていくのを感じる。

「お、お兄さんは、あ…ああいうこと…を二次元の女の子とするのが大好きだけど…」

いや、キライじゃないけど。わざわざそこを強調するな妹よ。

「…二次元限定で、二次元しか相手にしないって…二次元の女の子にしか興味がないって」

現実の女の子に、あんなことしないと言った記憶はあるが二次元しか相手にしないって言った覚えはない。

「それはちょっと、違う…」

「ひぃっ…や、やっぱり…」

うわぁ。しまった。美沙ちゃんの声が三音階ほど上がり、足をひきつけて肩をすくめる。

「いや。そういうことじゃなくてっ!」

こっちも、つい声が上擦ってしまう。

「あっ!だ!大丈夫ですから!私、大丈夫です。」

目が泳いでいるどころか、漫画だったらぐるぐる渦巻きになっている状態で美沙ちゃんが大丈夫と連呼する。

「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて…あ、あのさ、お、俺といるの嫌だったら、俺、ちょっと外に出てるよ」

席を立つ。客だけ自宅に残して家族全員外出してどうする。俺は大丈夫じゃないみたいだ。

「だ、大丈夫です。すわってください!」

美沙ちゃんが、俺の肩を押して座らせる。ほっそりとした手の圧力を感じた肩が熱い。

 ソファに座る。

 L字型に置かれたソファの両端。斜めに美沙ちゃんを見る。

 うつむいている。膝の上に載せられた、ほっそりとした両手は握り締められて、拳を作っている。まっすぐに伸びた腕に肩が持ち上げられて、軽く震えている。

 ごめんなさい。

 そんな気持ちが湧き上がる。

 フィクションはフィクション。俺の中で、そう思っていた。でも、美沙ちゃんは怖がっている。俺の中にある変態性に怯えている。犬を怖がる人と同じだ。犬好きは、犬は絶対に人を襲わないと思っている。でも、大型犬は人を食い殺す能力を持っている。犬は肉食だ。人肉を食べないと言われても証明はできない。あるのは能力を持っているという事実と、肉食という事実だ。美沙ちゃんにとって、俺が美沙ちゃんを襲わないという客観的な保証はどこかにあるだろうか。一切ない。

「美沙ちゃん。俺…」

そこまで言って、言いよどむ。

 なにが言えるだろう。

 好きだから襲ったりしないと言う?大事に思っているから襲ったりしないと言う?

 好きだと言っても無駄どころか、逆効果だ。ここで好きだと言っても区別がつかない。たとえば、牛さん大好きと、ビーフ大好きのどちらも「牛が好き」だ。人食い土人の「オレ、ニホンジン大好き」状態だ。

「…お兄さん…あ、あの。今日はやっぱり、もう帰ります…」

そう言って、美沙ちゃんが立ち上がる。玄関まで見送る。

「あ、うん。ありがとうな。真菜のお見舞いに来てくれて」

「…いえ。あの。ちょうどよかったです。お兄さんと久しぶりにお話もできて…よかったです」

ドアを開けて、立ち去る前に一度だけ美沙ちゃんが振り返る。

「お兄さんも…スーパーマンじゃないんですもんね……それじゃ」

どういう意味だろう?

 謎の言葉を残して、美沙ちゃんはドアを閉めて行ってしまう。

 

 陽が落ちるころ、母親に付き添われて妹が病院から帰ってきた。まだ、顔が赤くて熱は高そうだった。またベッドに直行する。

「直人…わるいけど、また真菜に夕食を食べさせてクスリを飲ませてあげてくれる?」

「ああ。いいよ」

いつのことからか、妹が風邪をひいたときに面倒を見るのは俺の役目になっていた。妹はなぜか、体調を崩して弱ると、お兄ちゃんお兄ちゃん言ってやたらと甘えてくる。ウザいので、元気なときにお兄ちゃん禁止にしたら、にーくんという謎呼称を使うようになった。

「あ、そうだ。美沙ちゃんが、お見舞いもって来てくれた」

「あら?そうなの?市瀬さんにはお世話になりっぱなしねぇ…」

たしかにそうだな。今度、なにかこちらも持って行くべきだろうか。でも、それまた恐縮されそうだな。

 ま、いいや。

 焼き鮭をほぐして入れたお粥に、刻んだ長ネギとおろし生姜を載せて妹の部屋に持っていく。

「真菜、具合はどうだ?」

「…にーくん」

ベッドの上から相変わらず、赤い顔でこちらを見る。呼称が「お兄ちゃん」じゃなくなっているということは、それなりに回復しているのか。

「ほれ。晩飯」

「あーん」

「自分で食え」

「あーん」

スプーンに生姜だけを載せて、口に運んでやる。

「ひゅごっ」

妹が楽しい顔をして、慌てて水を飲む。

「…病気の妹にあにするっすかー」

「昼間に比べたら、だいぶ回復したみたいだな」

「ひどいっすー」

「いいから食え。生姜、足してやろうか?」

練りショウガを元の位置に足してやる。

 垂直に身体を起こしていることもままならなかった昼間に比べると、だいぶ回復しているようだ。ぱくぱくとお粥を口に運んでいる。よかった。

「お前が病院に行っている間に美沙ちゃんがお見舞いに来たぞ。真奈美さんの手作りゼリーを置いていってくれたから、食べるなら持ってくるぞ」

「たべるっふー」

立ち上がって、台所にゼリーを取りに行く。見れば見るほど、よくできてる。オレンジ色と赤と紫の三色のゼリーが層になっていて、その隙間に白いババロアの層がある。ぽちぽちと浮かんでいるのは、ブルーベリーだろうか。四つあるうちの二つを取って、妹の部屋に戻る。

 丁度、おかゆは食べ終わったところだった。さっそく、スプーンを手にとってゼリーを食べ始める。俺も、一緒に食べる。

「わふー。あいかわらず、真奈美っちの作る食べ物はうまいっすー」

たしかに美味い。もう今さら驚かない。酸味と甘み。ババロアの柔らかな食感と少し固めのゼリーの食感も絶妙だ。たちまち食べ終わる。

 食べ終わった容器をトレイに載せる。再びベッドに横になった妹がこっちを見る。

「にーくんー。添い寝してー」

「百パーセントうつるからやめろ」

「インフルエンザとは確定しなかったっすー」

「インフルエンザじゃないとも確定しなかったんだろ」

「まー。そーっすね。インフルエンザ患者の半分が判明する検査って言ってたっす」

「熱は?」

体温計を見ると、三十八度後半。若干下がったとはいえ、まだきっちり発熱している。

 クスリを飲ませて、おとなしく寝てることを命じて俺は部屋に戻ることにする。その前に、洗面所に寄って手洗いとうがいをする。俺まで熱を出したら、妹の看病をするのが大変になる。

 部屋に帰ると、携帯が点滅していた。

 メールだ。美沙ちゃん?!

 

《さきほどは、失礼しました。私も、しばらく混乱してて…。でも、お兄さんが優しいお兄さんのままでよかったです。また、真菜が元気になったら三人で出かけましょうね。》

 

 返信する。

 

《ありがとう。四人で出かけようね》

 

自分の姉を忘れちゃだめだろ。美沙ちゃん。真奈美さんは影うすいけどさ。

 

 

(つづく)


 
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