No.506431

リリカルなのは~君と響きあう物語~

第5話です。
え~、お久しぶりです。
更新が遅れてスイマセン。
痛い!! 空き缶を投げないで。

続きを表示

2012-11-10 11:58:56 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4367   閲覧ユーザー数:4271

「ロイドにコレット、準備は良い?」

 

「ああ、バッチリだぜ」

「私も良いよ」

 

ロイドとコレットは模擬戦を行うため機動六課の訓練場に来ていた。

この場にいるのはロイドとコレットの他にもう一組。

模擬戦の対戦相手としてシグナムとヴィータがいた。

2人とも普段の制服姿ではなく騎士甲冑を纏いロイド達の前に対峙している。

ヴィータ達2人とは此処に来てから何度か話したしソコソコ良い関係と言うような物を築けていたと思う。

だがロイドが知っているような普段の彼女達とは違う、数々の戦場を潜り抜けた歴戦の騎士として此処に彼女達はいた。

ロイドとコレットはゴクリと喉を鳴らす。

試合はまだ始まっていないが両者の間にはすでに目に見えない気の鬩ぎ合いが始まっているのだ。

ピリピリとした空気が部屋の中を覆う。

 

「じゃあ、これから模擬線を行いたいと思います。ロイド君とコレットちゃんのペアとシグナムとヴィータちゃんの2対2の実戦形式で行います。勝敗は相手を戦闘不能状態にするか、降参をさせるかで決まります。」

 

なのはは訓練室の外、モニター室からマイクで部屋にいる人達に模擬戦のルールを説明する。

モニター室にはなのはの他に腕に『実況』の腕章をつけたはやてと『解説』のザフィーラもいる。

ちなみに外部に備え付けられたTVの前では六課の隊員全員がワイワイガヤガヤと仕事そっちのけで集まってロイド達の戦いを今か今かと始まるのを待っている。

一体何をしているのだ? この部隊は……。

市民にばれたら税金泥棒と騒がれても仕方ないとしか言いようがない……。

ちなみに誰が始めたのかどちらが勝つかの賭けも行われておりシグナム&ヴィータチームが副隊長チームと言うこともあり倍率では断トツで優位である。

 

「フィールドは草原地帯で設定するね、二人ともこういう場所のほうが市街戦よりも馴れているらしいし」

 

今回はロイド達の実力を見極めるための模擬戦だ。

そのため2人の実力を最大限に発揮させるために2人の馴れた草原地帯という舞台になった。

そして部屋の中があっという間に草原になっていく。

これにはロイドとコレットは大いに驚いている。

 

「すっげえ!、これも魔法なのか?」

「わあ、すごいねロイド、お部屋の中が草原になっちゃったよ」

 

2人は辺りをキョロキョロ見渡している。

先程まで何もない唯の空間だったのにいきなり草原になったのだから2人が驚くのも無理はなかった。

ロイドは地面の草をむしり取り。

 

「うぉお、すげえ!!本物みたいだ!!」

「う~ん、良い匂い。このお花も本物そっくりだねぇ」

 

なんというかシグナム達と対峙していた先程とは一転はしゃぎ始めてしまった。

先程までの睨み合いの気の張りつめた空気からこの2人のノー天気ぶりな変わり様に気が抜けてしまったのかヴィータは。

 

「……なあ、シグナム。あの二人どう見ても強そうには見えねえんだけど」

 

目の前にいるのは、どう見ても子供のようにしか見えない。

見た目で侮るな、というのは当然ヴィータも心得ている戦いの基本だが今の2人なら後ろからアイゼンの一振りで一撃KOが出来てしまいそうな気がする位だ。

『本気で戦え』ってはやての指示だが本気でやっていいのだろうか?

だがシグナムはヴィータと違って依然、戦気を高ぶらせ続けている。

 

「侮るなヴィータ。油断は大敵だ。それにあの2人はかなり強いぞ。

いくつもの戦場や修羅場を潜りぬけてきた者の気配を感じる。フフフ、久々に満足のいく戦いができそうだ」

 

今宵のレヴァンティンは血に飢えている……とでも言いたげに剣の柄を力強く握りしめるシグナム。

ペロリと上唇を舌で舐める姿は騎士というより戦いに飢えた獣のようだ。

 

「……またでたよ、シグナムのバトルマニア癖」

 

ヴィータはそんなシグナムを見て「やれやれ」という感じで掌を上に上げて首を横に振る。

こうなったシグナムは今までの経験上、手加減なしの本気モードで突っ込んでいくだろう。

2人がもし弱いならシグナムに秒殺されてしまうのは確実だ。

秒殺されてしまう程度の実力なら仕方ない。

2人には雑用でもやってもらえばいい。

だけど本気のシグナムを相手に渡り合うことがもしできるなら……。

ヴィータは帽子に付けた呪いウサギの人形を手で触って今から始まる戦いの結末を考えてみた。

 

「ロイドにコレット大丈夫かな。ねえティア?」

「シグナム副隊長にヴィータ副隊長相手だから、やっぱり勝ち目は薄いわね。なんとか善戦できれば良いって感じでしょ」

 

スバルとティアナはモニターを見ながら話す。

スバルにとって2人は同年代の友達というのもある。

副隊長の実力は六課だけでなく管理局の誰もが知る折り紙つきの実力者だ。

そんな高レベルの実力者を相手にロイド達が戦って怪我をしたりしないかどうか心配なのか?ハラハラした様子で先ほどからティアナに同じ質問ばかりしている。

ティアナの予想を聞いてガックリと肩を落とすスバル。

スバルはロイド達に勝って貰いたいようだ。

ティアナはちらりとスバルの手を見る。

其処にはロイド達の勝ちに賭けた券があった。

……友達を心配しているからか?それとも賭けに勝つかどうかを心配しての質問か?

 

「それは分からないよ」

 

ティアナの予測を聞いて後ろから2人に話しかける人がいた。

 

「「フェイト隊長!!」」

 

フェイトの横にはライトニングのエリオとキャロもいる。

エリオ達2人もティアナと同じ予想をしていたようでフェイトが言う試合の流れがわからないという言葉の真意が気になるようだ。

フェイトはモニターに映るロイドを見ながら話し始めた。

 

「コレットはまだ実力は分からないけど、ロイドは本当に強いよ。

単純な剣技の実力だけならシグナムに匹敵するか、もしかしたらシグナム以上かもしれない」

 

ロイドが本当にそんなに強いのか?疑問に思うティアナ。

賭け券をギュッと握りしめてロイド達2人の勝利を願うスバル。

エリオとキャロはこれから始まる戦いを見逃さないようにモニターを見るのだった。

フェイトはこの試合でロイド達の実力を見極めようと真剣なまなざしで彼らの戦いを見守ることにした。

 

「じゃあ早速模擬戦を始めたいと思います。準備はいいですか?

………模擬戦開始!!」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

模擬戦開始と同時に戦場にいる4人は武器を構える。

ロイドは腰の剣を二本抜き十字状に構える。

その姿はいつものノー天気な面影が無い。

真の剣士のものだ。

コレットは二つのチャクラムを構える。

そのチャクラムは見た感じ接近戦用ではない、どうやら中距離に向いた物らしい。

 

「ヴォルケンリッター 烈火の将シグナム、いざ参る!」

 

「ヴォルケンリッター 鉄槌の騎士ヴィータ、いくぜ!」

 

シグナムとヴィータは名乗りと同時に突撃をかましてきた。

それに向かい撃つようにロイドも駆け出す。

シグナムの鋭い袈裟から振り下ろされる一撃を左に紙一重で避けながら右手の剣で喉元を狙った突きを放つがソレを首を動かすだけで避けるシグナム。

突きで切り落とせたのはシグナムの髪の毛数本だけだった。

数本の髪の毛が地に落ちる瞬間までシグナムはロイドと剣を幾度となく交える。

ロイドの2本の剣戟の合間を縫ったシグナムの長剣の一撃。

それを避けながら放つロイドのカウンター。

お互いの全ての一撃が必殺の威力を持った剣戟の応酬。

互いの剣がぶつかるたびに火花が飛び散る。

シグナムのレヴァンテインとロイドの2本の剣“マテリアルブレード”が鍔迫り合いを交えると両者の剣から放たれる魔力の圧力によって2人を中心に小さな竜巻が起きる。

 

「やはり、私の目に狂いはなかった。ロイド・アーヴィング、今お前と戦えることを私は心からうれしく思う」

 

「コイツ、できるぞ。気をつけろ!! コレット!」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

一方、コレットはヴィータとの戦いに入っていた。

接近戦を仕掛けようとするヴィータをバックステップとサイドステップをうまく使い間合いを詰めさせない形に持ち込みつつチャクラムをヴィータに目がけて投げるコレット。

だが直線的に飛ぶだけのチャクラムなどヴィータに通じるわけもない。

難なく避けられてしまう。

どちらの攻撃もまだヒットせず膠着状態が続いているようだ。

 

「はああああああ!」

 

ヴィータはデバイス、【グラーフアイゼン】でコレットに攻撃を仕掛ける。

先程までの“手の内の探り合い”とは違い今度はコレットの懐へと入り込むための全力の踏込。

狙いは上手くはまった。

チャクラムを投げた状態で手元にチャクラムが戻るまでホンの僅かだが完全に無装備状態のコレットではヴィータの攻撃から身を守る手段などないだろう。

おまけに先程までのスピードに目が慣れていたコレットはこれには咄嗟に対抗できない。

もしヴィータに接近戦で攻撃されたら武器も無く無抵抗のコレットはキツイ。

 

「あわわ!! はわっ」

 

“運よく”足を縺れさえてスっ転んだコレット。転ばなければ今頃ヴィータによってホームランボールのように場外へ飛ばされていたかもしれない。

チッと舌打ちを鳴らすヴィータ。コレットは先ほどから何度もこうやって“運よく”転び致命的なダメージを難なく回避し続けている。

こんな幸運が何度も続くはずがない……と言いたいのだが幸運の神様が孫を可愛がっているかのようにコレットにはその幸運が嘘のように続く。

こんな“運のいい奴”と戦うのは初めてだとヴィータは思う。

 

ヴィータの攻撃はロイド達の仲間であるプレセアと似ている。

小柄な体格に対し巨大な得物で敵を圧砕両断するパワー型。

プレセアの武器“大斧”もそうだがヴィータのハンマーもデカいだけあって破壊力は凄まじいだろう。一撃でも当たればおそらくコレットの体力を大幅に奪って行く筈。

だがその攻撃を生かすためにはどうしても大振りの一撃になってしまうはず。

その大振りの攻撃を動体視力と持ち前の“幸運”で見切ったり回避して居るがこのままではいずれ捕まってしまうだろう。

コレットは乾いた笑顔で「えへへ、どうしよう……」と呟くのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「っつう、コレットを助けに行きたいけど、そのためにはアンタを倒していかないとな」

 

「そういうことだ。だがそう簡単に私は倒せないぞ」

 

ロイドとシグナムは鍔迫り合いからお互いにバックステップを挟んで3メートルほどの距離で剣を構えながら対峙する。

ハァハァと息を切らすロイド。

顔から流れる汗は尋常な量ではない。

一方シグナムは小さな傷こそ幾らか顔に付いているが大した汗も出て無く凛とした表情でいる。

 

(シグナムか。体力では俺の方が負けているみたいだな……。

それにしても先から一切“魔法”を使ってくる様子は……無いな。

純粋な剣の戦いをしたいってことか。

いいぜ。クラトス仕込みの剣でアンタを倒してみせる!!)

 

「対峙の最中に考え事をしているようではまだ一流の剣士とは言えんぞ」

 

シグナムは炎の魔剣“レヴァンティン”を上段に構え、ロイドに攻撃を仕掛けてきた。

レヴァンティンは剣の周りに炎を纏っておりその熱気だけでロイドを圧倒してくる。

 

「っくううぅ」

 

ロイドはそれを交差して構えた剣で防御しようとするがシグナムの攻撃はかなりの威力だったらしくロイドは歯をくいしばっても後ろへドンドンと追いやられていく。

この剣の腕前……世界救済の旅の時出会った人の中でもクラトスやユアンと匹敵するほどの物だ。

此処までの力を持っていたとは……。

 

「まだ、こんなモノではないぞ」

「!?」

 

「レヴァンティン!!」

 

――カートリッジロード――

弾丸が吐き出される。

レヴァンティンにより大きな炎が巻き付いていく。

ロイドの目にはその炎が天高く飛翔する龍のように見えた。

龍がロイドへ牙を剥く。

 

「紫電……一閃!!!」

 

「なっ!」

 

シグナムは防御したままのロイドにむかい紫電一閃をぶつけた。

十字に構えたマテリアルブレードの防御の構えを崩しロイドの腹へと剣の一閃が張り込んだ。

カハッと口から吐き出される息の中に血が混じっている。

その威力はさすがに想像していなかったロイドは砂埃をあげながら地面を数度バウンドしながら吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

コレットとヴィータの戦いはお互いゆずらず、硬直状態が続いていた。

と言ってコレットは自分から仕掛けるようなことはしていないので戦いの主導権を終始握っているのはヴィータである。

幸運の女神はコレットの味方のようだが勝利の女神はどちらに微笑むかは解らない。

 

「ちっ、しゃらくせえ戦いをしやがる」

 

確かに攻撃力だけでいえばヴィータのほうがコレットを上回るだろう。しかし、その攻撃が当たらない。コレットの回避率の高さに正直我慢の限界を迎えていたヴィータは此処で一気に勝負に出ることにしたようだ。

攻撃が当たらないなら、そう簡単に回避できるレベルの攻撃をしなければいい。

 

「……カートリッジロード!!」

アイゼンから弾丸が二発排出される。

ヴィータのまとう魔力が爆発的に増大した。

 

「お前には悪いがこれで一気に決めさせて貰う」

 

ハンマーをブンブンと回しながら推進力と破壊力を増していく。

このハンマーの一撃を受けたらどんなに頑丈な肉体を持つ者でも耐えられるわけなどある筈もないだろう。

この小柄な少女のどこにそんなパワーが秘められているというのか。

コレットはその攻撃の前に回避しようとしたが足元に高速で空から飛来してきた鉄球がコレットの足に当たり彼女を転ばせる。

鉄球の正体はヴィータが戦いの最中に仕掛けていた罠である。

コレットの謎のスッ転びぶりは確かに脅威に値する。

先などグラーフアイゼンを転んだ拍子に強奪されたりもした。

だが重要なのは“転ぶタイミング”だ。

この“転ぶタイミング”がヴィータの攻撃と上手く連動して発動し回避されるなら先に転ばしておけば何の問題もある筈がない。

無防備に転んでいる少女に後ろから大技で仕掛けるというのは騎士としてどうかと思うが今は騎士道云々というより勝敗に拘らせてもらいたい。

アイゼンに十分すぎる程のエネルギーが溜まったのを見計らいヴィータは大声で技名を叫んだ。

 

「ギガントーーーーーー………シュラーーーーーーーーーーーーク!!!!」

 

ヴィータの持つ技の中でも大技である一撃、この間合いなら避けるのも無理だろう。防御などできよう筈もない。まさに一撃必殺。轟音と共にヴィータの一撃が振り下ろされる。

コレットは迫るヴィータを地に伏せながらその瞳に映し続けた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

モニターを見ている観客達はこれで試合が完全に決まったと思った。

シグナムもヴィータも代名詞とも言える両者の必殺技をぶっ放したのだ。

これで立ち上がれる者が居たらソレは化け物だ。

 

「あちゃー、シグナムもヴィータもあんな大技出さへんでもええのに」

 

モニター室ではやて“はやってもうた”と言わんばかりに顔に手を当てて「あちゃー」と表情を曇らせた。

確かに本気でやれとは言ったが限度はあるだろう。

限度は。

シグナムも手加減抜きの本気の紫電一閃を至近距離から放っていた。

下手したらロイドが真っ黒焦げの変わり果てた姿で出てくるかもしれないと思うとはやては気に毒に思う。

だが、これは勝負が決まっただろう。

シャマルに連絡してロイドとコレットの治療を早くやってもらうべきかと思い医務室へと連絡回線を走らせた。

 

「でもロイドもコレットも2人にあんな攻撃を出させるくらいの実力を持っているということだよね」

 

なのははロイドとコレットの実力を思った以上の物で高く評価できるものと認めた。

シグナムもヴィータも管理局有数の実力者なのだ。

その2人を相手に此処まで善戦できるなら大したものだ。

 

「うん、そうやな、コレ位強いんならウチらの心強い戦力になるわ、正式に2人には民間協力者になってもらおう」

 

はやても思った以上の実力者であるロイドとコレットの協力にはこれで異論を挟むつもりはないらしい。

 

「じゃあ模擬戦はここまでに……」

 

なのはが模擬戦の終了を知らせるためマイクへ口を近づらせた、まさにその時。

 

 

 

 

 

『うおおおおおおお、見せてやる!!』

 

 

 

 

 

 

「えっ!?」

 

まだ模擬戦は終わってなかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「この程度か、もう少しできる奴だとおもっていたのだが」

 

シグナムはロイドの吹き飛ばされたあたりを見て残念そうに呟く。

瓦礫が散乱した場所からは粉塵がモクモクと立ち込めている。ロイドの姿は無い。

瓦礫の中で気を失っているのだろう。これで勝負はついた。

初めてロイドを見たときから感じていた胸の高鳴りはこの程度だったのか。

正直言って彼の実力はこんな程度の物ではなくもっと凄まじい物。

永き時を過ごしてきた中でも滅多に出会えない豪の者だと思っていたが拍子抜けではないか。

レヴァンティンを鞘に戻していると“ある事”に気付いてもう一度剣を抜いてみる。

レヴァンティンの表面が極度に疲労したかのように傷つき刃こぼれを起こし、部分部分で罅の入った場所まであるではないか。

何故ここまで傷ついたかと考えてみる。

真っ先に頭に浮かんだのはロイドの持っていたあの蒼と紅の2本の剣だ。

一流の剣士であるシグナムの目から見てもあのロイドの剣は異質な物だった。

内包する魔力が計り知れない物だったのだ。

蒼の剣にはブリザードで凍るかのような恐ろしい冷気を、紅の剣には火山の噴火口にいるような熱気を放っていたのだ。

何らかのロストロギアなのだろうか?

あの2本の剣と僅かの間とはいえ鬩ぎ合ったから自分の愛剣は此処まで傷ついたのだろう。

まだロイドはあの魔剣を使いこなせてはいないようだが、もしもっとあの魔剣を操りきっていたならこの勝負はどうなっていたか……。

 

「ふっ、だが見所のある奴だった。これからさらに強くなったときまた剣を交えたいものだ」

 

シグナムは埋もれているロイドを掘り起こそうと近寄る。

 

――ドカッ

 

ガレキの中からロイドが飛び出してきた。

ロイドの左手に付いた青い宝石から放たれる光が周囲を蒼く照らす。

 

「なに!?」

 

シグナムはレヴァンティンを構えロイドの剣撃に備えるが。

シグナムの目は大きく見開かれて「馬鹿な……!?」と声を上げる。

ロイドから放たれるこの圧力……高町なのはのスターライト・ブレイカーをも遥かに凌駕する衝撃だ。

とても耐えられない。

……コレだ。コレを感じていたのだ。ロイドに。

蒼い衝撃をその身に受けながらもシグナムは唇をニッと吊り上げるのを止める事が出来なかった。

 

「まだ終わりじゃないぜ!!!!

うおおおおおおお、見せてやる、天翔蒼破斬!!!!」

 

ロイドを中心に大地に円陣が描かれ闘気が螺旋状に立ち上る。

周囲の瓦礫が螺旋の中で渦を巻いている。

ロイドは天高く跳躍し一気に剣をシグナムにむかい振りぬく。

斬撃が光を貫くと同時に巨大な衝撃波が発生した。

ロイドの持つ最強の秘奥義。

この一撃を受けたレヴァンティンは罅の入った場所から亀裂が更に入り中ほどから真っ二つに割れてしまった。

轟音と共に起きた青い閃光が草原の大地を覆い尽くす。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

ロイドの切り札、秘奥義「天翔蒼破斬」、これをうけたシグナムは思わず叫び声を上げながら飛ばされていく。

吹き飛ばされている最中でもシグナムはその顔に喜色の色を浮かべていた。

 

「はあはあ、やったか!?」

 

ロイドもかなりの疲労だ。

この技はロイドの最大の技でもあるが発動条件が厳しい。

体力の限界まで追い詰められ且つ最大限まで精神を追い詰められた状態でないと発動できないのだ。

シグナムの紫電一閃を受けギリギリまで追い詰められた状態でなければこの技を使えなかっただろう。

最後の大技をぶっ放しただけあってロイドは立っているのもやっとの状態らしい。

 

「はあはあ、―――……勝った」

 

ロイドは大の字になってその場に大きく倒れた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

ヴィータはコレットにギガントシュラークを放ったことで完全に勝利をつかんだと確信している。

きっとこの砂埃が消えれば巨大なタンコブと目を回したコレットが倒れていることだろう。

いや、ひょっとすると紙のように薄くなった姿で……。

いや、いやいや。そんなマンガみたいなことになっている筈はない。

一応手加減はした……した?したっけ?

ヴィータの頬にツツーっと一筋の汗が流れる。

アレ?もしかして……殺っちゃった?

だ、だいじょうぶ、だいじょうぶ。

だって非殺傷設定だし無問題だろう。多分。

だが冷静になった頭で考えると色々と反省点ばかりが頭に浮かんでくる。

 

「……ちょっと大人げなかったかな。戦いで熱くなっていたからってあんな技使わなくても良かったんじゃ」

 

冷静になりはじめたヴィータは自分のやった事を反省し始める。

とりあえずコレットに謝罪しないといけないだろう。

 

「あとで謝んないとな。アイスおごってやれば許してくれるかな」

 

そんな一人事を言っていると徐徐に砂埃が納まってきた。

だが――

 

「え、えええ!?アイツの姿がねえ!!」

 

そう、ソコにはコレットの姿がなかった。

まさか跡形も無く……。

そんなわけはないか。だが現にコレットの姿は無い。

……だとするとあの一撃を躱されたという事か。

 

「でも、どこに!?」

 

ヴィータは周辺をキョロキョロ見渡す。

どこにもいない。

この草原のフィールドは障害物など一切ない見晴らしの良い戦場だ。

コレットが幾ら小柄な体型と言っても隠れるような場所などどこにもある筈もない。

 

「聖なる翼よ、此処に集いて神の御心を示さん」

 

ヴィータの耳に入ってきたのはコレットの透き通った声だった。

この声のする方向は……まさか。

 

「えっ!?」

 

「エンジェル・フェザー!!」

 

詠唱と光のチャクラムがまったく予想外の所から来た。

上空だ。

コレットの背には光輝く羽が生えていた。

その羽から薄い紫色の羽が神々しく見る者を魅了する。

まさに《天使》が降臨したかのように思えた。

その羽で飛びヴィータの攻撃を間一髪躱し、まさか飛べるとは思っていなかったヴィータの隙をうまく突くことができたのだ。

チャクラムの通用しないヴィータに勝つには天使術を使うしかない。

だが詠唱中は無防備になるためヴェータの不意を狙ったコレットの作戦だ。

 

「うわああああああ!!!!」

 

ヴィータは天使術の1つである『エンジェル・フェザー』をまともに受けてダメージを負った。

この『エンジェル・フェザー』はコレットのもっとも得意とする天使術だ。

光り輝く翼から放たれた光輪はただのチャクラム以上のダメージを敵に与える。

頑丈な騎士甲冑で身を守っているとはいえ不意打ちに近い形でコレを受けたヴィータはかなりのダメージを受けた筈である。

 

「えへへへ、やったかな」

 

もちろんコレットも無傷ではない。

ギガントシュラークを直撃こそしなかったものの余波は受けた。

少しフラフラしながら飛んでいるのだからこちらもかなり危ない状態なのだろう。

そこに。

 

「コレット大丈夫か?」

「ロイド、あはは ……ちょっときついかも」

 

シグナムを倒したロイドと合流できた。

フラフラと飛ぶコレットをロイドが抱きかかえて上手く地上に降ろす。

ロイドの方もダメージが溜まっていたのかコレットを抱きかかえた時に尻もちをついてしまったがコレはコレットが重かったわけではないので悪しからず。

両者とも疲労困憊だ。これ以上の戦闘は不可能だろう。

恐る恐る対戦相手の2人をみる。

2人は倒れたまま動こうとしない。

シグナムとヴィータはどうやら気を失っているらしい。

 

「よっしゃー、俺たちの勝ちだな」

「えへへ、やったねロイド」

 

これで見事、逆転勝利を決めたと思ったのだが。

 

「ベルカの、……騎士を、なめるな」

 

「あたしは、まだ……戦えるぞ」

 

ベルカの騎士の不屈の闘志はまだ健在だった。

身体中ボロボロになっているにもかかわらずその瞳の中の戦気は些かも衰えてなどいない。

体力もすでに限界だろうが騎士としての意地だけで立っているようなものだ。

足を引きずってでもこちらに向かって這ってくる姿は恐怖を抱いてしまう。

こちらも体力など残ってなどいない。

意地の第2Rなど御免こうむりたいと思う。

 

「げっ、もういい加減にしてくれよ、そのまま気を失ってくれればいいのに……

……気を失う? そうだ!!おいコレット“アレ”やるぞ」

 

「うん、わかった。“アレ”だね」

 

ロイドとコレットが横に並んで武器を天高く掲げると。

何やら妙な物が天から大量に降ってきた。

 

―ユニゾンアタック―

 

「ピコレイン!!!」

 

突如、どこからともなく現れた無数のピコハンにより頭をうたれたシグナムとヴィータは。

 

「はぅっ!?」

 

「ぐわっぱっ!!?」

 

後頭部にハンマーがピコピコとヒットしてしまい、完全に気を失った。

気を失い倒れた2人はそのまま振り続けたピコハンの山の中に消えていく。

 

「ここまで、勝者ロイドとコレット」

 

なのはのコールによりロイドとコレットの勝利で模擬戦は終わった。

そしてモニターの前にいた六課の隊員達はこの試合に大いに沸く事になる。

まさかのロイド組の勝利により裏で行われていた賭けがすごい事になったのだ。

スバルがニコニコとしていたのは友人達が勝ったのがうれしいのか財布の中身が肥えたからなのかは誰にもわからない。

 

 

「なかなか強かったぜ。アンタ」

 

ロイドは激闘を繰り広げたシグナムに声をかける。

シグナムの後頭部には大きなバッテンの絆創膏が貼られている。

あのピコレインのピコハンは見た目はアレだが意外となかなか固いらしい。

ヴィータも頭にタンコブができており「痛たたっ」と摩っている。

 

「ふっ、そういうお前もな。まさかここまでやるとは思ってもいなかった。ぜひまた戦ってほしい。その時は私が勝ってみせる」

 

「いいぜ。アンタと戦っているとオレも更に強くなれそうだ」

 

ロイドはこの戦いの中でさらに自分の力をあげることができると確信した。

そしてシグナムは自分より剣の実力は上だ。

クラトスとも引けを取らないかもしれない。

今回は勝ったが次の勝負も勝てるとは言えない。

ロイドの今の目的は世界に散らばっているエクスフィアの回収だ。

だがコレもなかなか大変な仕事である。

エクスフィアというのは人に普通ならありえない程の莫大な力を約束してくれる品物だ。

それ故に回収したエクスフィアを狙ってロイドを狙ってくる強盗までいる始末。

中にはロイドも苦戦するような強敵もいるのだ。

目的を達成するためにも更なる強さはロイドには必要である。

もっと強くなるためには自分以上の実力の人と戦うのが手っ取り早い。

低いレベルの相手と戦うよりも高レベルを相手にして戦うほうが経験値は多く得られる。

それに相手は剣士だ。

相手の技術を戦いの中で吸収できる。ロイドにとってもシグナムとの模擬戦は得られることが多いのだ。

 

「ところでロイド。お前の剣技は我流なのか?何故ニ刀流なのだ?」

 

ロイドの剣からは誰かに整えられたような感じはしたが恐らく長年我流で鍛えた物だろう。

どことなく動きに癖のある技が多かった気がする。

だがロイドは何故二刀流を選んだのだろう。

普通なら剣1本での方が二刀流よりも剣を覚えるうえで習得しやすい筈なのだが。

 

「ああ、それは……」

 

 

 

 

 

【ロイド少年時代、学校にて】

 

教壇でリフィル先生が両手に持った2つのリンゴを持って算数の基礎を教えている時。

 

「―――と、このようにリンゴ1個にもう1個を足すと2個になります」

 

うつらうつらと舟を漕いでいるロイドだったがある閃きが突如水面に一滴の水を落としたかのごとくロイドの脳内に浮かんでいく。

 

「(―――てことは、剣2本にしたら強さも2個!?)」

 

ロイド少年は閃いてしまった!!

剣を2本持てば更に強くなれるという事実に。

なんという素晴らしい名案だ。こんな事を思いつくなんて俺って天才?

こうして急いで家に帰ったロイドはダイクに早速お願いをすることにした。

 

「親父!! 剣2本作ってくれ。そしたらオレもっと強くなれるんだ!」

 

「そうかそうか」

 

 

 

 

 

「剣1本が100の力なら2本になって200の力になれる。

2倍強いってわけだ。

だからオレはニ刀流になったんだ」

 

フフンっと鼻息を立てて二刀流になったあの日の事を思い出すロイド。

剣2本持つことで強さも2倍。

あの時の俺は超冴えていたな。

そう思うだろ?シグナムと彼女の顔を見たら。

 

「…………………」

 

シグナムはなんだか……物凄く可哀そうな子を見る目をしていた。

可哀そうな子を見る目……いや、違う。

コレはアレだ。

そう、ものすごく頭の残念な子を見る目だ。

 

「何だよ? そのオレを哀れむような目は!!」

 

ムッとしたのでシグナムに拗ねるような声音で問いかけると彼女は顔を右にそらせてから言った。

 

「……いや、なんというか、……とっても可哀相な奴だと思ってな」

 

確かロイドの年齢は17歳だったな、17歳でコレとは……。

シグナムはシルヴァラントの勉学のレベルを本気で心配し始めていた。

大丈夫です。その子が“特別”アレなだけでシルヴァラントのレベルは低くありません。

 

「? オレのどこが可哀相な奴なんだ?」

 

「……親の顔が見てみたいものだ(ぼそ)」

 

何処かで小さく“スマン、私が育てられなかったばかりに……”と言う声が聞こえた気がした。

 

「いや、まあ……そんなことはいい。

また模擬戦頼むぞ、ロイド」

 

今度、勉学の方はテスタロッサに相談してみるか。

とロイドにとっては不吉な事を思案しながらも再戦の約束をするシグナム。

 

「ああ、頼むぜ」

 

 

 

 

一方、ヴィータの方だがコレットと会話をしているらしい。

 

「痛てて、何だよあの大量のピコハンは。頭がクラクラしやがる」

 

ヴィータの目を覚ました後でも頭の上にヒヨコがピヨピヨと回っている。

ちなみにあのピコハンの雨の7割は何故かヴィータにヒットしたのだ。

どうでもいいことだがヴィータが目を回していたらあの帽子の呪いウサギの目もグルグルと回っていた。

 

「だいじょぶ? 具合悪くない?」

 

コレットはどうもフラフラとしているヴィータに心配しているようだがその原因の半分はアンタです。

「痛いに痛いの飛んでイケー」って言ってもそんなので痛みは飛んでいきませんよ。

 

「ううぅん、だ、大丈夫だ。心配すんな」

 

コレットが心配そうな見るのでヴィータは腰に手を当てて瘦せ我慢をしつつ健気に言い放つ。

もう大丈夫だと。

ちなみにまだ頭のヒヨコはグルグルと回っています。

 

「無理しちゃ駄目だよ。ヴィータちゃんまだ子供なんだから」

 

「子供扱いすんな!アタシは大人だ!」

 

子供扱いされたことに切れるヴィータ。

実年齢だけで言えばヴィータの年齢は六課の中でも上から数えたほうが早いのだ。

見た目は子供、中身は大人。

コレもコレットの仲間のプレセアと同じ特徴だ。

こう見えてもヴィータは“お姉さん”なのだ。

しかし。

 

「そだね、ヴィータちゃん大人だよね。でも無理しちゃ駄目なんだからね」

 

コレットはエヘヘと笑顔を浮かべてそう言った。

コレは小さな子供が「私は大人だ」と言ってるのを微笑ましく見ているのと同じだ。

つまりヴィータの事をまだ子供と見ているという事である。

 

「なんだ、こいつの天然さは。フェイトよりひどいんじゃねえか」

 

別の意味でまた頭の上にヒヨコがグルグルと回り出すヴィータ。

色々とお疲れ様です。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「すごい……あの2人……シグナムとヴィータに勝っちゃったよ」

 

「まさかあんなに強いなんてな。もしかしてとんでもない拾い物をしてしまったんちゃうか」

 

模擬戦をスクリーンで見ていたなのはとはやては想像以上のロイドとコレットの実力に驚いていた。

最初の2人の予想は善戦すれば良し!位に思っていたのだがロイド達の戦闘力を目の当たりして自分達が彼らの力を過小評価していたことを心の中で静かに恥じた。

 

「これなら文句無しで二人の要望を呑まないといけないね」

 

「そやな。むしろこちらから二人に協力を申し込みたいくらいやわ」

 

1部隊の中で保持できる高ランクの魔導師の数は決められている。そのためどの部隊も戦力を欲しているのが現状だ。それははやてが立ち上げた機動六課にも言える。

少しでも多くの戦力が欲しいというのが本音。

ロイド達が足手まといになるようじゃなければ良いと考えていたが思わぬ拾い物をしてしまった。

だが、この戦闘で2人に話を聞かなければならないことも出てきた。

なのはは“スッ……”と目線を相手にやると同時に相手の目線もこちらに向いた。

どうやら気になることは同じらしい。

はやては首を縦に振って部屋を出ていく。

それに続いてなのはも部屋から出ていく。

ロイドとコレットの元へ向かうために。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「おつかれさま~~ロイドにコレット。凄かったよ~」

 

「なかなかやるじゃない。貴方達」

 

「ホント凄いですよ!僕ビックリしちゃいました」

 

「私も驚いちゃいました~」

 

「キュク~」

 

FW陣に訓練室の出口で迎えられるロイドとコレット。

ティアナはタオルを2人に渡す。

タオルが頭の上にバサッと乗っかり一瞬目の前が真っ暗になって「おっとと……」とふらついたが。

 

「えへへ、ありがと♪」

 

コレットは貰ったタオルで顔のドロを綺麗に取っていく。

コレットも女の子だ。

やっぱり綺麗でいたい。

それも気になる男の子が傍にいるなら……。

その男の子だが。

 

「それにしてもオレ腹減っちまったよ。飯喰いに行こうぜ」

 

そんな事より食い意地らしい。

頑張れ、コレット。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

食堂で山のように空になった皿を積み重ね、満腹になった腹を摩るロイド。

 

「ふー、喰った喰った」

 

コレットも口の周りを紙で拭いて静かに手を合わせた。

 

「ごちそうさま」

 

ちなみに2人の更に何故か残ったトマトとピーマンはモシャモシャとフリードが美味しく食べている。

 

「ほんとアナタ達こうして見ていると普通の人なんだけどな」

 

シグナム達と激闘をしたようには見えない2人にティアナは呟く。

化け物と言われるレベルの高位騎士と互角に渡り合えるほどの強者……。

試合を真にした後でも今の2人を見るととてもじゃないが信じられない。

スバルやエリオと試合の中で使った技とかをワイワイと話す姿はまだ幼さの残る子供のようにしか見えないのだが……2人の強さの秘密とかあるのだろうか?

 

「いたいた。ご飯食べていたんだね」

 

ロイドとコレットを探していたなのはが食堂にやってきた。

スバル達はなのはが入ってきたので慌てて敬礼をするがなのはは別にそんなに畏まなくても良いとフォワードメンバーに言う。

それより。

 

「ロイド君にコレットちゃん、部隊長室に来てくれるかな」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

部隊室にははやて達隊長陣が揃っていた。(ちなみにフォワードメンバーは只今訓練中)

最初に模擬試合の2人の評価がとても高かった事を伝えるとロイドは当然だろ、と言いコレットははにかむように照れて頬を少し掻きながら嬉しそうに「アハハ」と笑った。

なんだか先生に褒められた子供のようだな、とはやてはフフッと笑ってから表情を引き締めて改めて2人に話しかけた。

 

「ロイド君にコレットちゃん、2人に正式に協力を頼みたいんや。2人の力をうちらに貸して欲しい」

 

はやてがそう言うとロイドとコレットは。

 

「もちろんいいぜ。っていうかオレ達が協力したいって言い出したんだしな」

 

「うん。そだね。こちらこそお願いします」

 

あっさりとはやての頼みを飲み込んだ。

ロイド達が簡単に受け入れた事でちょっと意外そうな顔をするはやて。

もう少し何だかんだで話がもつれることになるかも……と思っていたのだが2人が良い子だからか思った以上に素直に受け入れてもらえた事が逆に意外だったのだ。

2人に民間協力者として管理局に在籍してもらうための書類にサインを書いてもらった後、なのはが2人に話しかけた。

 

「ところでコレット。あの羽は何かな?見たことのない魔法も使っていたみたいだけど。それにロイド君も普通の人にしては信じられないほどの身体能力だったし」

 

模擬戦の中で違和感を感じたのは2人の戦いの特徴だった。

ロイドは普通の人間にしては尋常ではない身体能力。

コレットに関してはあの透き通った光の羽。

どう考えても2人が唯の人ではないと言うのは解るだろう。

これは話を聞く必要があると判断したのだ。

部屋の中の人間、皆がロイド達を見る。

コレットと話をしていいか?と小声で問いかけるとコレットはコクッと首を縦に振った。

ロイド達の強さの秘密は下手をすれば「人の欲望」という闇を引き寄せる物だ。

エクスフィアは勿論、コレットの身体の秘密はできれば無暗矢鱈と言い触らすものではないのだ。

ロイドは勿論なのは達を信用している。

だが組織に彼女達が属している以上何処で情報が漏れるかなのだわかる筈もない。

だからロイドはコレットに話すかどうかを訊いたのだがコレットは此処に居る人達は信用しても大丈夫だと言う。

ソレを見たロイドが「わかった」と小さくコレットに言ってから皆に話を始める。

 

「俺の身体能力の秘密……それはこのエクスフィアの力だ」

 

ロイドは左手についている青い宝石【エクスフィア】を見せる。

フェイトは前にロイドが戦っている最中もその石が光を灯していたのを思い出す。

この石がロイドの強さの秘密というのはどういう事なのだろうか?

 

「これってどういうものなの?」

 

なのははロイドのエクスフィアをまじまじと見ながら問いかけた。

デバイスのように魔導師や騎士のサポートでもしてくれるようなものなのだろうか?

 

「このエクスフィアを装着していると身体能力を限界以上にまで昇られるんだ」

 

左手のエクスフィアを右手で摩りながらロイドはエクスフィアの能力を簡単に話した。

エクスフィアの装着有りか無しかで装着者の能力は大きく変わる。

ロイド達の世界再生の旅が成し遂げられたのもこの石があったから……というのはやはり覆せない事実である。

 

「へえ、それは便利なものだな」

 

皆はエクスフィアを見る。

この石がロイドの強さの秘密か……。

この石があればロイドのようにずば抜けた身体能力を得られるというならソレは魅力的な話だ。

コレットの胸元に光る赤い石も同じエクスフィアの一種なのだろう。

だが部屋に集まった皆はロイドとコレットがこの石を悲しげに見るのが気になる。

この石にはまだ秘密があると言う事だろう。

恐らく……とても不吉な秘密が。

 

「そういえばロイドはエクスフィアを集める旅をしているんだよね」

 

以前、ロイドはこの石を回収する旅をしている、と言っていたことがあった。

 

「なんでそんな旅をしているんだ?」

 

この石が齎す恩恵は人の生活をより豊かにする物の筈だ。

そんな恩恵を与える石を態々世界中を旅してまで回収するのは何かわけがあるのか。

ロイドとコレットは暗く顔をうつむかせる。

コレットは唇を噛みしめている。何か悲しい、耐えられないことが秘められているというのがコレットの様子を見るだけでわかる。

そしてその事実はロイドの口から皆に打ち明けられた。

 

「この……エクスフィアは、人の命でできているんだ」

 

人の……命。

蒼く美しく光る石が人の命で出来ている。

ロイドのあまりの発言に言葉をなくす全員。

 

「そんな、嘘だろ!?」

 

ヴィータはロイド達の嘘だろ?と2人に問うがロイドもコレットも嘘など言っていない。

コレは本当の真実なのだ。

 

「嘘じゃない。このエクスフィアもオレの母さんの命なんだ……」

 

ロイドの母親の命……

なのはもはやてもフェイトも……言葉を失う。

エクスフィアは人の命を犠牲によってできる。

このエクスフィアというのは一見美しい宝玉を思わせる外見だが正確に言えばこの石は無機生命体。このエクスフィアを完全に覚醒させるためには人の命を吸わせる必要があるのだ。

ディザイアンという組織が人間牧場というものを何故必要としていたかと言うのはつまりそういう事である。

4000年間という永い時間の中で犠牲になった人の数は計り知れないだろう。

ロイド達の旅もこのエクスフィアがなければおそらく最後まで辿りつけなかった筈だ。

だが、もうこのエクスフィアは必要ない。静かに弔ってやるのがいいのだ。

ロイドが世界を回りエクスフィアを回収しているのは4000年間犠牲になった人を少しでも弔ってあげるためでもある。

 

「ロイド達の世界の話、詳しく聞かせてもらえないかな」

 

なのは達はロイドの、彼らの事をまるで何も知らない。

ロイドやコレットが元の世界に戻る時まで僅かな間の仲。

そう思っていたのだ、が。

その僅かな間でも仲間だ。

仲間の事を少しでも聞いてみたい、知らなくてはいけないのかもしれない。

 

「……わかった、じゃあ世界再生の話から始めようか」

 

ロイドは今までの旅の話を始めた。

この2つの世界は元々一つであったが、4000年前に分断しお互いの世界の“マナ”を搾取し合うという関係の2つの世界へ変わってしまった話。

世界再生の神子として生まれたコレット、彼女がどうして天使の羽を出すようになったかの経緯。

世界樹という大樹を実らせるために精霊と契約をしてきた話。

この理不尽な世界の仕組みを変えるために、世界を本当の再生を始めさせるための戦いの数々。

それらを話し終えた時には湯気の昇っていた紅茶のカップは疾うに冷め切っていた。

 

2つに別れた世界を1つに戻す。マナを生む樹【世界樹】を発芽させる。そうすれば少ないマナを取り合う関係がなくなる。世界が救われる。

言葉にすればただそれだけの話であるがソレを実際に成し遂げるのはどれだけ難しい事か。

次元管理局が全勢力でもってその世界再生の案件を成し遂げようとしたとして果たして目的を達成出来るかどうか。絶対にできないだろう。

しかしロイド達は仲間と共に旅を続け世界再生をやり遂げた。クルシスとの戦い、実父クラトスとの決戦、そして堕ちた英雄ミトスとの最終決戦。どれも楽なものではなかった。4000年間誰もがやり遂げられなかったことをやったのだ。

新たに生まれた大樹。ロイド達が世界を救った証だ。

 

「もう二度と世界樹を枯らしてはいけない。また誰かが犠牲になるような事になってはいけないんだ」

 

ロイドはエクスフィアを見ながらそう呟く。

もう悲しい事が起きないためにも。

 

「4000年間2つに別れていた世界を1つに戻し世界を救った……か」

 

「なんていうかロイド君が英雄みたいに見えてきたわ」

 

はやて達はロイドやコレットが自分達と同年代の少年少女に見えなくなってきた。

まるで神話や伝記に載るような偉大な存在として見えてくる。

 

「おれは英雄なんかじゃないぜ。世界の矛盾を正すためにやっただけだしな」

 

「それにまだまだたくさんやらなきゃならないこともあるしね」

 

シルヴァラントとテセアラ。2つの世界は文化レベルも格段に違うし、今まで交流のなかった世界だ。

世界中で混乱が生じてもいる。

コレを解決することが今の最大の仕事と言えるかもしれない。

 

「そか、なら、尚更はやくロイド君達を元いた世界に戻してあげんとな」

 

ロイドとコレットは彼らの世界にきっとまだまだ必要な存在である筈だ。

ロイド達を早く元の世界に戻してあげなくてはいけないだろう。

やれやれ、例の予言の事といい、大変な事が2つも一気にやってきてしまった。

部隊長としての最初の1年がこんなにキツい物になるとは。と、はやては天を仰ぐ。

 

「まぁ、ええか。

ハードでもマニアでもアンノウンでもかかってこい!!

ノーマルが許されるのは小学生までや。

というわけで、これから短い間かもしれんけど機動六課に歓迎するで。世界再生の英雄さん達」

 

「おう!……よろしくな」

 


 
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