才人は避けていた。
何から?
「フハハハッ!踊れっ!踊れえっ!!オォ踊れえええぇぇぇっっっ!!!」
凶雄しく叫ぶギトーと五体の偏在から繰出される無数の
「のおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!???」
コルベールはいつもの温和な声と笑みを湛えた表情と
いつもはないハイライトの消えた瞳で才人に語りかける。
「サイト君。君はいけない魔法に掛かってしまった様だ。
私が全力を以って解除してあげよう。遠慮することはない」
その間にも炎の蛇が弾幕の届かない地面間際を這って弾幕を避ける才人を妨害するように絡み付こうとする。
「熱っ!あ痛っ!?ちょっとアンタ等なにすんのコレ!?」
無数の疾風と複数の炎蛇から身を躱しながら ―
いや避けきれず裂傷と火傷を作りながら唐突な猛撃に晒された才人が叫ぶ。
復元呪詛で多少の傷は問題ないとはいえ痛いものは痛い。
「アンタがミス・ロングビルに手を出したのがバレたのよ」
離れた所から才人の疑問にルイズが応える。
その冷たい眼差しと声から察するに助ける気は無い様だ。
「先生方。お邪魔になりますから私は手を出しませんわ」
「誤解だ!だって俺ロングビルさんに手を出してないよ!?」
「「「昨夜はミス・ロングビルの部屋でお楽しみでしたね」」」
「え!?そっそれは……。違うんだ! ただアレは一寸頼みごとをしようと……っ!」
破壊の杖盗難事件で知ったフーケの正体がロングビルであることを隠す事と、彼女から受けたオスマンのセクハラを掣肘する依頼。
その対価として血を少し頂いていたのだが正体については言えない。
「「「艶めかしいミス・ロングビルの声。
彼女にそんな声を出させるなんて
このエロ使い魔は何をしていたのやら」」」
吸血時の喘ぎ声を聞かれていたらしい。
「いやっ!なんでっ!聞いっ!てたのっ!アンタ等っ!?
そもそもっ!どこでっ!聞いっ!てたんだっ!?」
攻撃を躱しながら ― 時々掠りながらツッコむ才人。
「ドアの外にいた
人それをストーキングという。
結局才人が二人から逃げ切れたのは日が暮れて
死徒の能力を十全に発揮できるようになってからだった。
武器を取ってガンダールヴの力を発揮する隙などなかった。
無駄にチート化した嫉妬団であった。
「恋文の奪還にアルビオン行きですか。大変結構。
学院から離れられるというのが特に素晴しい。
王女殿下。我が主ルイズの守りはこの私めにお任せ下さい」
「随分乗り気なのですね?」
あの嫉妬団から逃れる為に才人は乗り気も乗り気だった。
「道案内には最適の人物がいます。
貴方が仲良くされている学院長秘書のミス・ロングビル。
いえ土くれのフーケといったほうがよろしいかしら。
彼女はアルビオン出身のようですし」
「何で知ってんの?」アンリエッタの言葉に噴き出す才人。
「調べごとは父様の得意分野なのよ。
母様、父様はアンタのことを警戒してる。
フーケ襲撃がアンタ絡みと聞いて徹底的に裏を洗ったそうなの。
本名マチルダ・オブ・サウスゴーダ。
粛清されたモード大公の臣下の娘。
モード大公の娘への仕送りから足が付いたの」
才人の疑問に何でもない事の様に話すルイズ。
ロングビル - いやマチルダか? - と同行する。
これがあの嫉妬団にバレたら?
「俺レコンキスタに亡命しようかな……」
「レコンキスタはガリアの傀儡よ?」
「だから何でそんな事知ってんだよ?」
「私の方から出す護衛のワルド子爵が二重スパイだからですわ
彼は少し怪しげな行動をとるかもしれません。
でも気づかない振りをしてあげて下さい。
彼はレコンキスタに対する埋伏の毒ですので」
「……せめてルイズは留守番にしてくれ。
ロングビルはご存知の通り隠密はお手の物だし、
ワルドとやらも腕が立つんだろ?
俺も腕っ節は自信があるし夜陰にまぎれるのも苦手じゃない。
素人がいないほうが潜入工作は成功率が高い」
逃げられないならせめて条件を良くしようとする才人。
「ダメよ。恋文よりも王子の亡命の説得の方が本命なんだから。
それなりの身分の者が大使役をやらないと失礼でしょ?」
薄い胸を張って引き受ける旨を宣言するルイズ。
「宮廷貴族に誰かいないのか。学生にやらせることじゃあない。
何とか粘る才人。
「私が学院に参りました時にマザリーニ枢機卿を見たでしょう?
宮廷に人材がいましたら“鳥の骨”と呼ばれるような外見になりませんわ
伯爵夫妻達には既に国内の押さえとガリア対策で動いてもらっています」
ため息混じりのアンリエッタの返答に才人は諦観した。
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使い魔は猶予が欲しい