No.504201

踊る双月8

ましさん

蝶の羽ばたき~疾風と炎蛇と、主に土くれ

2012-11-04 06:32:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1391   閲覧ユーザー数:1351

私はギトー。トリスティン魔法学院の教師をしている。

現在生徒相手に講義の最中だ。

「良いかね諸君。魔法は使い手のイメージに左右される。

 ドット、ラインと言ったランクは勿論重要だ。

 が、如何に使いこなすかでメイジの真価が問われる。

 例えば……ミス・ツェルプストー。最強の系統は何だと思うね?」

「虚無じゃありませんか」

授業にあまり興味がなさそうな生徒に質問を振ると、メイジとしては常識的な答えが返ってくる。

「うむ。それも間違いではないが虚無は失伝状態だ。 この際それは省いて考えたまえ。」

「ならば火ですわ。火の本分は破壊と情熱。全てを焼き尽くしますわ」

即答するミス・ツェルプストー。 自らの系統に誇りを持つのはかまわないが、過信は感心しないな。

「フムそう考えるか。ならば君の炎で私を攻撃してみたまえ」

私の言葉に一瞬驚いた彼女は気を取り直すと昂然と応じる。

「火傷ではすみませんわよ?」

「構わない。全力できたまえ。その赤毛が飾りでないのなら」

殊更に挑発するように言ってやる。

私の答えに彼女は目を細めると呪文を唱える。

前方の席の生徒が慌てて横に退く。

そして彼女から巨大な炎球 ( フレイムボール)が飛んでくる。

私はそれを風を纏わせた杖で窓の外に弾き飛ばすと、彼女が再び呪文を唱えるより先に近づいて杖をその肩に置く。

「これで君は討ち取られた。

 実戦では火球を本人に打ち返してそれを盾にすれば、より安全に距離を詰められる。覚えておくように」

彼女に背を向けて教壇に戻りながら講釈を垂れる。

ここで不意打ちをしてくれば加点してやるのだが……。

と思っていると別の方から風刃 ( ウインドカッター)が飛んできた。

今度は杖でそれを絡め取って教壇につく。

「うむ。油断した相手に背後から一撃を加える。 中々良い判断だ。ミス・タバサに5点プラス」

一連のやり取りに唖然とする生徒達と、悔しげにしているミス・ツェルプストー。

そして表情を動かすミス・タバサ。

まあ「誇り高い」トリスティン貴族の、それも学院教師が不意打ちを肯定すれば珍獣扱いにもなるだろう。

「攻撃力においては確かに火は風に勝るだろう。

 が、それならば今のようにいなして直撃を避ければよい。

 繰り返すが魔法は使い方次第だ。心得ておくように。

 後、最後にモノを言うのは体力だ。

 行軍で消耗して実戦で満足に魔法を使えないでは話にならん。各自その辺りも鍛えておくように」

決まったな。と、内心自己満足していると急にドアが開かれる。

年長の同僚のコルベールだ。随分興奮している。

着飾っているのはいいがその鬘は何のつもりか。

「授業中です。

 それにそんなに慌てていると鬘が滑りますぞ、ミスタ・コッパゲール」

「だまらっしゃい!?

 モット伯とつるんでるのに、いつも一言多いから君は女性と疎遠なのです!」

私の指摘に普段の温厚さをかなぐり捨てて怒鳴るコルベール。

ところで今なんつったよ、このハゲ。

「ほほう? 独り身が人生経験と同等のミスタ・コルベールが仰るものですな。

 お礼によい毛生え薬を作る水メイジを紹介致しましょうか?

 ミス・モンモランシーの父上がその道の大家とか」

「私を巻き込まないで下さい!?」

何か涙声が聞こえるが無視。

「ははは……ミスタ・ギトー。

 君とは常々話し合わないといけないと思っていたのですよ。」

「ふふふ、それは奇遇ですな。私もそう考えていたましたよ」

互いにハイライトの消えた瞳で低い笑い声を交わす。

生徒達が何故か引いているが何かあったのかな? ふふふ。

「あ、あのコルベール先生。何か御用があったのでは?」

そこにミス・ヴァリエールの使い魔の青年が割り入ってくる。

モット伯は死徒と言っていたが良くは知らない。

確か、お日様吸血鬼 ( ハイデイライトウォーカー)などと主張する中々に人を舐めた存在だ。

「おお、そうでしたな。 皆さん授業は中止です。

 畏れ多くも王女殿下がこの学院に御幸されます。直ぐに歓迎の準備をしなさい!」

気を取り直して本題を告げるコルベール。

……小娘の考えなしの行動なら傍迷惑ではあるが、可愛げもある。

しかしあの ( ・・)王女に限ってそれはまずない。

何を企んでるのかは知らんが、マザリーニ枢機卿は気苦労が絶えんな。

「諸君聞いての通りだ。本日の授業はこれまでとする。

 部屋に戻って準備をしたまえ。ただし鬘はいらんぞ」

私の言葉にコルベールが杖を向けてきたので応戦しようとする。

が、気がつくと杖が無い。コルベールも同様だ。

「だあぁ!アンタはもう喋るな!!

 コルベールさんも何で今日はそんな沸点が低いんですか!?」

仲裁する使い魔の青年の手の中に二人の杖がある。いつの間に。

「「サイト/使い魔 君。

  人には許容し難い存在がある。

  そしてそれこそこの男だ」」

同時に答えを返し、互いに嫌悪の視線を交わす。

「サイト。放っときなさい。

 二人揃ってミス・ロングビルに振られてムキになってるだけよ」

「「ミス・ヴァリエールそれは違う。

  この男がミス・ロングビルにまとわり付くのを注意しているだけだ」」

また答えが重なり睨みあう私とコルベール。

それを見た使い魔の青年は一つため息をつくと杖を教壇に置き教室から出て行く。

気がつくと他の生徒もいなくなっている。

こうしてはいられない。早く歓迎の準備をせねば。

ハゲなぞどうでもよい。

杖を取り戻すと直ぐに部屋に向かう。

 

「アンタも大変なんだな。学院長だけじゃなかったのか」

「お願いだから言わないでおくれ」

通りがかったミス・ロングビルが頭痛を堪える様子でこちらを見ていたのを

使い魔の青年が肩を叩いて慰めていたが、急いでいた私達は気がつかなかった。

 


 
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