No.503799

踊る双月7

ましさん

デルフリンガーの試し斬りとフーケとの取り引き


前話に本文追加しています。

2012-11-03 06:52:48 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1358   閲覧ユーザー数:1319

「買い物に行くわよ、すぐ用意しなさい」

ある日ルイズは才人に命じる。

「急なお召しですね。わかりました用意しますので正門でお待ち下さい。

 すみませんマルトーさん、外出の用が入りました、後お願いします!」

才人は一言断りを入れると厩舎に向かった。

現代日本であれば自動車をまわすところ。才人も普通自動車免許をとっており、買出しに重宝していた。

しかし、ハルケギニアには馬と馬車となる。

空を飛ぶ船や籠もあるが学生には手が出ない。

才人は厩舎で馬を借りるとルイズが待つ正門に向かう。

そこで、ルイズの怒気に直面することになる。

「アンタ、何で一頭しか借りてこないのよ!」

「はい。私は乗馬の経験がありませんので、自分で走って付いていこうかと…

 何で、頭たたくんですか」

「ア・ン・タ・ね。何のために買い物に行くと思ってんのよ!?」

 才人の頑丈な身体のせいで逆に傷めた手を痛そうにさすりながらルイズが怒声をあげる。

「買い物といえば気晴らしでしょう?心置きなくお楽しみを。荷物もちはお任せ下さい」

 ここでルイズは才人に顔を近づけて小声で、しかし、怒気はさらに増して言う。

「アンタのためよ!アンタの!!

 素手でドットとはいえメイジを寄せ付けないような召使い、目立ってしょうがないのよ!

 せめて剣でも持たせれば、剣を持ってるからって誤魔化せるでしょ!

 それだって言うのに、走って馬についてったらやっぱり目立つでしょうが!」

「えーと、ごめん?」

「さっさと借りてきなさい!」

漫才を切り上げて厩舎に戻った才人。

だが、結局乗馬は断念せざるを得なかった。

才人(死徒)が乗ると馬が怯えて走ってくれないのだ。

頭を抱えたルイズだが、キュルケが足の提供を申し出た。

正確にはキュルケが引っ張ってきたタバサの使い魔、風竜の幼生シルフィードだ。

ルイズは天敵の、才人は胃の仇敵のキュルケが加わる事に難色を示したが、結局押し切られてしまった。

 

半日後、トリスタニアで買い物終えて魔法学院に戻った才人はルイズに買ってもらった剣を改める。

「まったくエライ奴に買われちまったな。お日様吸血鬼 ( ハイ・デイライトウォーカー)たぁね」

ぼやくのは剣から響く男の声、インテリジェンスソードのデルフリンガー。

本人は強力な魔剣だと主張する。

実際、虚無 ( ゼロ)の使い魔ガンダールヴの左手であり魔法吸収能力などを持っている。

しかし能力を隠した上、具体的な事を覚えていないので信用されていない。

見た目も赤鰯で、お世辞にもよろしくない。

しかし頑丈そうではあり、それが購入の決め手だった。

「あの高い大剣も悪くないけど、デルフリンガーの方がいいな。

 お手ごろ価格で、何より俺の力で振り回してもすぐに壊れそうにない所が特に」

「まて相棒! 今、聞き捨てならん事言わんかったか!?」

「大丈夫だって。我慢してくれよ」

「イヤ~~~~!?」

才人はデルフリンガーを構え、切り下ろす。

その一撃で固定化のかかっている筈の建物の石壁に深い鮮やかな切り跡が走る。

「ほら。見ての通り業物だよ。デルフには刃こぼれ一つない」

その常識外の威力に一同は声もない。

ただしデルフリンガーは折れなかった安堵で声が出ないのだが。

しかしルイズは自分の使い魔が学院の施設を損壊した事実に思い当たる。

「ちょっと!? アンタなに壊してんのーー!!」

「あ、ゴメン。つい」

「『つい』じゃないわよ!?」

二人が騒いでいると少し離れた地面が盛り上がる。

それは見る間に巨大ゴーレムと化しルイズ達の方に歩み寄ってきた。

「何だよこれ!?」 「何でゴーレムが!?」

踏み潰されてはたまらないので一同はゴーレムの進路から退避する。

しかしゴーレムは彼らには頓着せず拳を振り上げると壁に叩きつける。

打撃を幾度か繰り返すと才人がつけた傷が徐々に拡がり壁は崩壊してしまう。

崩壊して中に通じた部分から黒ずくめの人物が侵入する。

「誰か入ったわね」

「宝物庫」

「盗賊で土メイジ。『土くれのフーケが壁を壊して』宝物庫に侵入したわ!」

「盗賊? 捕まえたほうがいいのかな?」

「アレも斬るのかよ。相棒」

突発事だが誰もとり乱しておらずルイズなどは壁の損壊をフーケに押し付ける積りだ。

とりあえず目前のゴーレムを攻撃する一同。

しかし確固とした質量をもつゴーレムにタバサの風やキュルケの炎は相性が悪い。

ルイズも失敗魔法で攻撃するがやはり表面を削るだけで効果が薄い。

才人の斬撃も多少ゴーレムの体を崩すが傍から再生してしまう。

一度は才人がルイズを庇って蹴り飛ばされ壁に叩きつけられもした。

ただしこちらも直ぐに再生して戦列に復帰する。

「ちょっと全然効かないわよ。どうするの?」

「これじゃ駄目だわ。サイト。ゴーレムを引きつけておきなさい。 三人と風竜で術者の方を何とかした方が早いわ」

「おいおい一人でかよ。まあ何とかするけど」

「……手遅れ」 「手遅れだぜ嬢ちゃん」

一同がゴーレムに釘付けにされている内に侵入者は仕事を済ませてしまっており、

棒状の荷物を抱え宝物庫から出て逃走にかかっていた。

侵入者はフライで学院の壁を越えようとする。

それを才人はゴーレムの体を足場に素早く城壁まで跳び上がり、斬撃を加えるが皮一枚の浅手でかわされる。

侵入者はそのまま森の暗がりの中に逃れていった。

“追うか?” 才人は迷う。

速度だけなら走ろうがフライを使おうが人間を逃すことはない。

夜の闇も苦にならないどころか、それこそが死徒の本領だ。

浅手を負わせたことで血の匂いも覚えた。

逃す要素はない - が、しかし……。

「狡兎死して走狗煮らる。盗品を取り戻して賊は逃がす。

 できれば学院にも盗賊にも恩なり貸しなり作っておきたいな」

「相棒、黒ぇなぁ」

「まあ、いろいろあってね。 あー、何か照り焼きバーガー食いたくなってきた」

「なんだよ、そりゃ」

平凡な日常が一番という、才人なりの希望の表明だが、当人以外にはわからない。

才人はデルフリンガーに応えると追跡を始めた。

 

「くそ、離しな!なんて力だい!」 追跡は10分かけず終了した。

「あんたは……学院長秘書でセクハラされてた……。下着の色が白で名前は……」

「ロングビルだよ! 下着は関係ないだろ!? あんたエロジジイの同類かい!!」

「相棒、何で目ぇそらすんだよ?」

オスマンに何か通じるものを感じていた才人は一瞬言葉に詰まるがすぐ気を取り直す。

「今日はいろいろあったんで少し疲れてるんだ」

トリスタニアへ行く途中キュルケが才人をダシにルイズをからかうのを仲裁したり、

買い物中キュルケが才人をダシにルイズをからかうのを仲裁したり、

学院に帰る途中キュルケが才人をダシにルイズをからかうのを仲裁したり。

「とりあえず原因の一つのあんたから取り立てるとしようか。

 ゴーレムに蹴っ飛ばされるのは結構痛いんだ。ついでに胃も痛いし」 

半ば八つ当たり気味に言うとロングビルの首筋に牙を立てる。

「な、何を? あ、あんた吸血鬼……! や、止め……! やあぁ、あぁ…」

「ふう、ご馳走様でした」 

才人は吸血のショックで気絶したロングビル - 

フーケを地面に寝かせると彼女が盗んだ物を改める。

「は? ブローパイプ携行地対空ミサイル? 何でこんなもんが?」

出てきた物の意外さに驚く才人。

しかし考えても答えは出ないので後でオスマンに聞くことにする。

才人はフーケを正気に戻し取引を持ちかける。

「俺はあんたの正体を明かさない。盗品を取り戻した功績も山分けしよう。

 その代わり情報を融通してくれ。俺はトリスティンの情勢に疎いんでね」

才人の言葉にフーケは考える。

学院の給料は大仕事に比べれば見劣りする。

しかし故郷の大家族を支えるに一応は足り、何より安定的だ。

それに断れば才人は自分を官憲に突き出して手柄とするだけ。

フーケは一つだけ条件を出して妥協することにした。

 

フーケによる盗難の顛末を報告した後、才人はオスマンとだけの話を求めた。

「……儂を助けた時には彼は既に重傷を負っていてな。

 すぐ学院に運んだのじゃが看護の甲斐無く亡くなってしもうた。

 その後、飛竜倒すのにを使った『破壊の杖』は彼と一緒に埋葬して、

 残りの1本はを恩人の形見として宝物庫で保管していたんじゃ」

語り終えると、恩人を思い出してかしみじみとなるオスマン。

「そうでしたか。俺の故郷のことが何か分かるかと思ったんですが……」

「済まんのう。代りと言っては何じゃが儂の手持ちから少しばかり報酬を出そう」

「それではコレ ( ・・)をお願いします」

そういう才人の手にはオスマンの使い魔モートソグニルが握られている。

「実は相談を受けまして。学院長室にネズミが出て困っていると。では失礼します」

「ま、待てサイト君! 儂の使い魔をどうするつもりじゃ!?」

もがくモートソグニルをつれて部屋を出ようとする才人。

それを慌ててオスマンが呼び止める。

「質の悪い覗きネズミ。汚物は消毒だと言います。燃やしてしまいましょう。

 それとも重しをつけた袋に詰めて川に放り込むか、生き埋めにするか。

 オスマン殿はどれが宜しいですか?」

ロングビルが才人と取引した際に出した条件。

それは学院長のセクハラをどうにかすることだった。

結局この一件は図書室の閲覧許可を得て才人がネズミ ( モートソグニル)を解放し学院長は胸を撫で下ろす。

そして尻を撫でられる事が無くなった秘書にとっても満足が行く結果となった。

 


 
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