人の心とは、こんなにも変わってしまうものなのだろうか。
音楽にしか――歌うことにしか興味のなかった私が、いつの間にか一人の男性を自然と目で追ってしまう。
歌だけではない。アイドルとして、仲間達との繋がりを強く強く意識させてくれた人。
彼のことを考えるようになってしまっている。彼は私のプロデューサーで事務所の皆からは『おじさん』だなんて呼ばれてたりする。
実際に『おじさん』だから仕方がないことだけど、きちんとプロデューサーと呼んであげればいいと思うわ。
――と、そんなことではなくて彼……プロデューサーの話よね。
仲間達との繋がり。それは勿論、春香を始め色々な仲間達のおかげでもあるけど、私としてはやっぱり彼の存在は外せない。
彼が居るから……彼が居たからこそ、私は今の仕事を楽しいと思えるし、続けることが出来るのだろう。仲間達と一緒に……
「ただいま戻りました」
「ん、千早か。お帰り」
「はい。ところでプロデューサーは今、何をしているのですか?」
普段は営業に行ったり、書類仕事をしていたりするんだけど、イヤホンをつけてパソコンを真剣に見ていた。
ライブや番組のチェックでもしていたのだろうか? そんなことを思いながらパソコンを覗き込むと――
「……譜面、ですか?」
パソコンの画面には譜面が載っていた。
もしかして誰かの新曲だったりするのだろうか?
私の新曲だったらいいな。そんな期待を抱きながら、プロデューサーに問いかけてみる。
「もしかして私の新曲だったりしますか……?」
そんな期待を乗せた私の言葉にプロデューサーは、ポリポリと頭を掻きながら……
「あーいや、これは誰かの新曲って訳じゃないんだ」
「誰のでもないんですか?」
誰のでもないのなら一体……と、いうよりよくよく見てみたら、中途半端な譜面なのね。
短い楽曲……という可能性もあるけど、それでもやっぱり短いと思う。
完成品というよりは、製作途中と言われた方がシックリくる。そんな譜面だ。
「……恥ずかしいから誰にも言わないでくれよ?」
そう言って、プロデューサーはこの譜面の正体を私にコソッと教えてくれました。
「これは俺が趣味でコツコツと作ってる奴なんだよ。完全に趣味だから発表の予定もないし、曲としても微妙だろう」
「そうは思いませんけど……プロデューサーは作曲が出来るんですね」
「まぁ、趣味の範囲からは出ないけどな」
趣味のレベル――それでも私は凄いと思う。歌に拘りがある私としては、そういうのは羨ましいと思う。
そして同時にある一つのことを思ってしまった。
「プロデューサー」
「何だ?」
「その曲を私にいただけないでしょうか? 歌詞は私が作りますので、プロデューサーの曲を歌いたいんです」
「それはさすがに……」
「お願いします!」
頭を下げてプロデューサーにお願いをする。
色々と無茶なことを言っているのは分かっている。それでも、プロデューサーと私の曲を世に出したい。
その想いが強いのだ。
プロデューサーに抱いている想い。それをプロデューサーに直接伝えることが出来ないから。
彼の曲を借りて、そしてそこに私の想いと気持ちを歌詞に乗せる。
そうすることによって、プロデューサーに私の想いを伝えることが出来るの。
“好きです。プロデューサー、あなたが大好きなんです”という私の想いを。
「あのな千早。俺のは素人レベルのモノだぞ」
「それ単体で出したいとは言いません。何かのオマケでもいいですし、HP上の発表だけでも構いません。
プロデューサーの曲で私に一つ歌わせて下さい」
どんな形でもいいから、彼の曲で想いを伝えたい。
二人で一つのモノを作っていきたい。だから――
「どうしても俺の曲じゃないとダメなのか?」
「はい。プロデューサーが作った曲じゃないと意味がありません」
この想いを伝えるには、どうしても彼の曲じゃないと意味がない。
「…………はぁ。分かったよ。売り物としては出すのは難しいかもしれないが、HP上ぐらいでなら大丈夫だろ」
「――ありがとうございます!」
「でもあまり期待するなよ? こっちはプロじゃないんだからな」
「はい。期待して待っていますね♪」
「だからな――はぁ……」
疲れたような呆れたような顔を浮かべるプロデューサー。
我儘を言ってすいません。ですが、これだけはどうしても貫き通したいのです。
あなたを狙っている人がたくさんいますから。皆に遅れないように私も何かしておきたいのです。
「千早のために頑張りますか」
「はい。でも、仕事はきちんとして下さいね」
「分かってるって」
適当な冗談を言って二人で笑いあう。
きっとすぐには完成はしないでしょう。でも、それでも私はこの歌によってプロデューサーに想いを伝えることが出来る。
たくさん、たくさん伝えたい言葉。それを彼の曲に乗せて伝える。
ふふ……っ♪ 今から楽しみだわ。
きっと素敵な曲になると思う。だって、感情を精一杯込めてくる音楽だから。
それを教えてくれた人と一緒に作るのだ、間違いなくいい曲になるに決まっている。
そして、出来上がった時。その時に、私の精一杯の気持ちを聞いて下さい。
あなたを想う、この気持ちを……
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お久しぶりです。今回はちーちゃんです。
若干、変な気もしますが気にしないで下さいな。