No.502354

そらのおとしもの ハロウィン

水曜定期更新

智蔵おじいちゃんが敵として現れたわけなのですが……
果たして彼は唯一絶対の敵なのか問題を自ら投げかける作品。
別におじいちゃんがいようがいまいが……

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2012-10-31 00:33:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2000   閲覧ユーザー数:1957

そらのおとしもの はろうぃん

 

 10月も末日が近付いた日曜日の午後。

 私は家でアルファとそはらと一緒にテレビを見ていた。

 テレビの画面では何とも理解し難い謎のイベントに関する報道がなされていた。

 大きなオレンジ色のかぼちゃをくり抜いて人の顔を掘ったり、仮装して街を歩く子ども達が画面に映し出されている。

「結局何なの、ハロウィンって?」

 人間のイベントは私には理解できないものも多い。中でもこのハロウィンという行事は謎を極めていた。

 イベントの主旨がよく見えて来ない。

「ハロウィンが何かって聞かれてると、確かに困るよね。わたしもよく分からないし」

「そはらも知らないの?」

「うん。元々はヨーロッパの方の行事で、日本にはつい最近入って来て、しかも部分的にしか取り入れてないから……よく分からない行事になっているかな?」

 そはらは困ったように首を傾げた。

「アルファは何か知ってるの?」

 話を振った所、無表情にお茶を飲んでいたアルファの瞳が赤くなった。

「……情報弱者のチビッチと一緒にしないで下さい」

「誰が情報弱者のチビッチよ!」

 誇り高き電子戦用エンジェロイドを捕まえて何たる侮辱を。

「……年がら年中エロいことばかり考えてこの世界を生きていく為の情報収集を怠っているニンフはチビッチで十分です。貧弱な身体の癖にビッチとか……プッ」

 かつて人形みたいだと思った空女王はとても歪んだ方向に感情豊かになっていた。

「で、結局アルファはハロウィンについて何を知っているのよ?」

 アルファの安い挑発には乗らずに話を元に戻す。この女が私をドサクサに紛れて亡き者にして智樹を独占しようとしている野望が透けて見えたから。

「……チッ!」

 アルファは大きく舌打ちを奏でてからごく澄ました表情に切り替えた。

「……ハロウィンとは創作活動をする際の重要なイベントです」

「創作活動?」

「……はい」

 そはらの問いにコクンと頷いて答えるアルファ。

「……仮装は正義。イベントは正義。この時期、イラスト系サイトはハロウィン画像でいっぱいなのです」

 アルファは自信満々だった。

「で、結局ハロウィンって何なの?」

「……仮装させたイラストをインターネット上、または同人誌即売会でお披露目するイベント」

「それは何か本末転倒でしょうが」

 アルファ的には正しいのかも知れないけれど、それは絶対にイベントのあり方としてはおかしい。

 

「そはらは何かもっと知っていることはないの?」

「えっと……」

 そはらはしばらく考え込んで手をパンッと叩いた。

「ハロウィンでよく見かけるあの人の顔を彫ったかぼちゃは魔除けの意味が込められているんだって」

「魔除け。日本の御札と似たようなものなわけね」

「魔をもって魔を制す的なものらしいけどね」

「ふ~ん」

 悪霊が出たらあのかぼちゃを吊るせば立ち去るというわけね。

 悪霊……霊ね。

 

「他にはないの?」

「後ね、仮装した人たちが家々を回ってトリック・オア・トリートって聞いて行くんだよ」

「トリック・オワ・トリート?」

 聞いたことがない単語だった。

「お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞってのが一般的な和訳なのかな?」

「えっ? お菓子をもらえるの!?」

 私の目がキラキラと光り輝いた。

「うん。そういう行事みたい。お化けや魔女に扮した子ども達がその家に災いをもたらさない代わりにお菓子を頂戴っていう」

「脅迫が合法的に許される行事なのね!」

「いや、そこまで大げさな物じゃないと思うけど……」

 そはらは苦笑した。

「でも、智ちゃんだったらお菓子あげても悪戯しそうだけどね」

「そう言えば悪戯ってどんなことをされるの?」

「さあ? 具体的に決まっている訳じゃないと思うけど。でも子供の悪戯だから……」

「でも、相手が智樹だったら……」

 考える。

 智樹だったらハロウィンにかこつけてどんな悪戯をしてくるかを。

 

 

『ニンフ~。トリック・オア・トリートだぁ』

 狼男に扮した智樹は私にお菓子か悪戯かを尋ねて来た。

『お菓子は全部食べちゃったから残ってないわよ』

 エンジェロイド一のお菓子好きである私に人様に配れるようなお菓子の余りがある筈がなかった。

『なら、悪戯するしかないようだな。ぐっへっへっへ』

『悪戯って壁に世露死苦とでも書くつもり?』

 私は智樹の言う悪戯にほとんど関心を寄せていなかった。

 でも、それが大間違いだった。

『俺は狼男だぜ。ケダモノらしい悪戯をするに決まってるじゃねえか。グゲゲゲゲゲ』

 下品な笑い声を上げるなり智樹は私に向かって体当たりを仕掛けて来た。

『えっ?』

 智樹の予想外の行動に私の対応は遅れた。

『きゃぁああああああああぁっ!?』

 気付いた時には私は智樹に押し倒されていた。

『ちょっと? 一体、何をするつもりなのよっ!?』

 必死に抵抗する。けれど、智樹に両手両足を完全に封じられてしまっており全く動けない。

『げっへっへっへ。男が可愛い女にする悪戯なんて1つに決まっているだろうが』

 智樹の視線が私の顔から胸に掛けてをグルグル行き交う。

『まっ、まさか……』

 智樹の視線の意味に気付いて全身が震え出す。

『じょ、冗談よね?』

『お菓子くれなかったんだから、悪戯するに決まっているだろうがぁっ!』

 智樹が私の両肩を掴んで一気に服を左右に切り裂いた。

『嫌ぁああああああああぁっ!!』

 必死に全身を動かしながら抵抗する。

 けれど、本物の狼男と化した智樹に対して私の抵抗はよりそそる存在に映っただけだった。

『へっへっへ。いっただっきま~~す♪』

 私の肌へと伸びて来るケダモノの魔の手。

 ひ弱な私にそれを払いのける手段はなかった。

『うっうっうっ』

 それからの悪夢のようなひと時を私は泣いて過ごすしかなかった。

 

 それから1年の月日が過ぎた。

『智樹パパ~。今日もお仕事頑張ってね~~♪』

 仕事に出掛ける愛する夫を生まれて1ヶ月と少しの子供と共に見送る。

 まだまだ新米ママだけど、愛する夫と子供がいるおかげで毎日を幸せに充実して過ごしている。

 全ては私の腕の中にいるこのベイビーのおかげだった。

『あっ、そうだ。言い忘れていたことがあった』

 夫が歩く足を止めて振り返った。

『どうしたの?』

『明日はハロウィンだな』

 夫は少し照れ臭そうに言った。

『そうね。お菓子を沢山準備して待っておくわね』

『いや。お菓子は準備しなくて良いぞ』

 夫は首を横に振った。

『えっ? どうして?』

『ニンフは2人目の子供……欲しくないか?』

『あ……っ』

 夫の言葉の意味を理解して顔が赤くなる。

『貴方も……弟か妹か欲しい?』

 まだ言葉を解していない筈の子供はタイミング良く首を振ってみせた。

『し、仕方ないから……明日はお菓子を用意しないで智樹を待ってあげるんだから』

 顔中真っ赤にして返答する。

『また、忘れられない1日になりそうだな』

『今度は……ちゃんと幸せに浸れる1日にしてよね♪』

 こうして私と夫のハロウィンはまた物語を綴ることになった。

 

 

「ニンフさん。その悪戯は幾ら何でも過激すぎるよぉ~」

 私の独り言を聞いていたらしいそはらが顔を真っ赤にした。

「………………やはりチビッチ」

 アルファは無口無表情に私を見ている。

「幾ら智ちゃんがエッチでも、ニンフさんに子供を産ませる様な悪戯をする筈が……」

「そうかしら? 私の頭の中だと智樹って、隙あらば私を押し倒そうとするイメージがあるのだけど」

「それはニンフさんのエッチな妄想の中にだけ存在する智ちゃんだよぉ」

 そはらは顔から湯気を噴出しながら私を見ている。

 エッチな女扱いされるのは心外だ。ちょっとムッとしながら意見を述べる。

「じゃあ、そはらだったらどんな悪戯をされると思うのよ?」

「わたしだったら……」

 しばらく悩むそはら。

「やっぱり、エッチな悪戯だとは思うけど、ニンフさんほど結果は酷くならない筈だよぉ」

 そはらは照れ臭そうに答えた。

 

 

『と、智ちゃん。わたしが許したのはスカートを捲るまでだよっ』

『うっせぇっ! 本物の狼男と化した俺がスカート捲りなんぞで満足するわけがねえだろうがっ!』

 智ちゃんはわたしの服を掴むとビリビリと引き裂いてしまいます。

『きゃぁあああああああぁっ!!』

 これでスカートに続いて服もという結果になりました。わたしは智ちゃんに下着姿を曝す羽目になっています。

 元々、お菓子が丁度切れてしまっていたタイミングに狼男に扮した智ちゃんがやって来ました。

 だからわたしは智ちゃんのエッチな悪戯を受け入れるしかありませんでした。

 でも、智ちゃんの悪戯はわたしのスカートを捲って愉しむ。そこまでの約束の筈でした。

 だけど智ちゃんはわたしの下着を見てエッチな心に火が灯ってしまったのです。

『ぐっへっへっへっへ。そはらぁ~~~~~~♪』

『だっ、駄目ぇええええええええええぇっ!!』

 わたしは智ちゃんに抱きつかれ姿勢を崩して押し倒されてしまいました。

『やっぱりそはらのおっぱいは最高だぁ~~~~♪』

 ブラジャーの上からべたべたとわたしの胸を揉みしだく智ちゃん。

『だ、駄目だって智ちゃん。わたし達は恋人じゃなくて幼馴染なんだからぁ~~っ!』

『なら、俺達さ……』

 智ちゃんは急に凛々しい表情に変わりました。

 その精悍さに思わず抵抗を止めて見惚れてしまいます。

『幼馴染を卒業して、男と女の仲に……そして夫婦関係に進展しようぜ』

『えっ? 夫婦って?』

 智ちゃんの使う言葉の意味を考えていると脳内が麻痺していきます。

 そしてその麻痺こそがわたしにとっては取り返しの付かない事態を生んだのでした。

『夫婦ってのは……子供を作る仲ってことさっ!』

 智ちゃんはわたしのブラジャーを荒々しく掴み……力で無理やり引き千切ったのでした。

『嫌ぁあああああああああぁっ!!』

 それからの悪夢のようなひと時をわたしは泣いて過ごすしかありませんでした。

 

 それから1年の月日が過ぎました。

『智ちゃんパパ~。今日もお仕事頑張ってね~~♪』

 仕事に出掛ける愛する旦那様を生まれて1ヶ月と少しの子供と共に見送ります。

 まだまだ新米ママだけど、愛する旦那様と子供がいるおかげで毎日を幸せに充実して過ごしています。

 全てはわたしの腕の中にいるこのベイビーのおかげでした。

『あっ、そうだ。言い忘れていたことがあった』

 旦那様が歩く足を止めて振り返ります。

『どうしたの?』

『明日はハロウィンだな』

 旦那様は少し照れ臭そうに言いました。

『そうだね。お菓子を沢山準備して待っておくね』

『いや。お菓子は準備しなくて良いぞ』

 旦那様は首を横に振った。

『えっ? どうして?』

『そはらは2人目の子供……欲しくないか?』

『あ……っ』

 旦那様の言葉の意味を理解して顔が赤くなります。

『貴方も……弟か妹か欲しい?』

 まだ言葉を解していない筈の子供はタイミング良く首を振ってみせました。

『し、仕方ないから……明日はお菓子を用意しないで智ちゃんを待っているね』

 顔中真っ赤にして返答します。

『また、忘れられない1日になりそうだな』

『今度は……ちゃんと幸せに浸れる1日にしてね♪』

 こうしてわたしと旦那様のハロウィンはまた物語を綴ることになったのでした。

 

 

「結局、私の物語とほとんど変わらないじゃない! やっぱり智樹は生粋のエッチなのよ!」

「あっ、あれ? おかしいな。現実的な路線に合わせた筈なのに何でこうなっちゃんだろう?」

「………………ビッチがもう1人。さすが生粋のエロい人達はぶれませんね」

 そはらの独り言を聞いて私は息巻いていた。

 智樹はエッチじゃないと言い張るそはらの空想は、私の空想とほとんど差異がないものだった。

 これはもう智樹が際限なしのエッチ男であると語っているようなものだろう。

「……メス豚2匹、いえ、2人とも前提条件が間違っています」

 アルファが何か聞き捨てならない不穏当なことを言ったような気がした。でも、それよりも大きな問題がある。

「私達の何が前提条件を間違えていると言うのよ?」

 間違いを指摘されるのは頭脳戦担当の私としては我慢ならないものがある。

「……そんなことも分からないとは所詮はチビッチですね。エロいことにしか頭が回らないから気付けない」

「チビッチチビッチ言うなっ!」

 BLと百合に目覚めて感情豊かになった最近のアルファは本当にムカつく。

 昔の無口無表情の方が可愛かったと思うのは私だけではない筈だ。

「で、私達の何が間違っているというのよ?」

「……簡単なことです」

 イカロスは鼻から息を大きく吐き出した。

「……面倒臭がりなマスターは仮装してお菓子をねだって回ったりしません。精々お菓子を配る側に嫌々参加するぐらいです」

「「あっ!!」」

 そはらと2人で声を上げてしまう。

 確かにアルファの言う通りだった。

 智樹の面倒臭がりやの性格上、仮装なんてするわけがなかった。

「となると、わたし達が仮装して智ちゃんにお菓子か悪戯か尋ねないといけないってことになるんだ。ううう。エッチな仮装なんて恥ずかしいよう」

「と、智樹の為に仮装するなんてあり得ないわよ! あのエッチ魔神、どんなに欲情しちゃうか分からないじゃないの!」

「……さすがはモースト・ビッチコンビ。エロいことにしか結び付けないことで徹底しています」

 恥ずかしがる私とそはらの横で何故かアルファが白い目を向けてくる。

「で、でも、智ちゃんに悪戯ってどんなことをすれば良いのかなあ?」

「それは智樹の野獣を覚ますことがない健全な悪戯に決まってるでしょ」

「健全な悪戯? 一体どんなの?」

 そはらが首を捻る。

 私は智樹に執行する健全な悪戯というものを考えてみることにした。

 

 

『智樹~♪ しっかり荷物持ちなさいよね。お菓子落としたら許さないんだから♪』

『分かってるっての』

 両手にお菓子の袋を沢山抱えながら智樹が私の横を付いてくる。

 ハロウィンだというのに智樹はお菓子を準備していなかった。

 だから魔女に扮していた私は智樹に悪戯を実行することにした。

 その悪戯というのが、智樹に私とお揃いの首輪をしてもらい買い物に付き合ってもらうというもの。

 首輪をした智樹に街の人々が驚きながら振り返る。

 フフ。悪戯の効果はばっちりね。

 それにこれ、ペア・アクセサリでもあるし♪

『買い物はまだ終わらないのかよ?』

『まだまだよ。ま~だまだ♪』

 私はその後も智樹を連れ回した。

 

 そして私は最終目的地、夕日の綺麗な湖のある公園に到着した。

『何もここまでポッチーを買いに来る必要はなかったんじゃないか?』

 1日中歩き回されて疲労困憊の智樹。

 でも私は智樹と最後にどうしてもここを訪れたかった。

『ここで智樹と食べるポッチーだから意味があるのよ』

 私はポッチーを1本取り出す。

『智樹、ポッチーゲームしよう♪』

 チョコレートがついた方を加えて智樹の口に向かって突き出す。

『しょうがねえなあ』

 智樹は荷物をベンチに置いて反対側の端を齧った。

 少しずつ齧り合いながら段々と短くなっていくポッチー。

 そして……

『『あ…………っ』』

 ポッチーは最後まで折れることがなく私達の唇は重なった。

 智樹は私の背中に両手を回し、私は智樹の首へと両手を回した。

 そのままずっと私達は互いの唇に付着しているポッチーを堪能しあった。

『もう1回……ポッチーゲームする?』

『今度はポッチーなしでニンフとキスがしたい』

『もぉ……智樹のエッチ♪』

 私達は抱き合ったまま更に熱いキスを交わした。

 

 それから1年後……。

『智樹パパ~。今日もお仕事頑張ってね~』

 私は子供と共に愛する夫の出勤を見送っていた。

 今年のハロウィンもまた夫とデートしようと密かにプランを練りながら。

 

 

「って、ニンフさんの想像。それ何かがおかしいよぉ。何でお揃いの首輪を嵌めて一緒に歩くだけの筈が子供まで出来ちゃってるのお?」

 そはらは私の仕掛ける悪戯を聞いて目を丸くして驚いていた。

「そりゃあ……男女が雰囲気の良い場所で盛り上がっちゃえば……きっと色んなことが起こるに違いないんだから。智樹はどうしようもなくエッチなんだし」

 全ては智樹がエッチだから悪い。そういうことなのだ。

「……チビッチうぜぇ」

 アルファが白い目で私を見ているがとりあえず無視する。

「智ちゃんから悪戯を仕掛けてもニンフさんから悪戯を仕掛けても結末が同じだなんて…」

「だから智樹がエッチだからどうしても同じ結果になっちゃうの」

「……テメェがビッチなだけだ」

 そはらは尚も顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。

「じゃあ、そはらも智樹に悪戯する場面を想像して御覧なさいよ。きっと私と同じになる筈だから」

「そんなこと、ないと思うけどなあ」

 そはらは首を捻りながら考え込み始めた。

 

 

『智ちゃん。今夜はカレーで良い?』

『おうっ。目玉焼き以外なら大歓迎だ』

 台所で後ろからわたしを眺めている智ちゃんがご機嫌な声で答えます。

 お菓子を準備していなかった智ちゃんには悪戯として今日1日わたし以外の女の子が目に入らなくなる魔法に掛かってもらいました。

 だから今日はわたしが智ちゃんのお世話をします。

『それにしてもそはらのそのナースコス。よく似合ってるな。ゲヘゲヘ』

 智ちゃんがエッチな瞳でわたしを見ているのが笑い声から分かります。

『そはらは将来ナースになるつもりなのか?』

『わたしは……その、子供と一緒に愛する旦那様の帰りを待っている生活を送りたいなあって思ってるけど』

『愛する旦那様だと?』

 背後の智ちゃんの声が鋭く尖りました。

『まさか旦那候補がもういるってんじゃないだろうな?』

『候補じゃないけど……旦那様になって欲しい人ならいるよ』

『そんな奴……俺が認めねえっ!』

 激しく速い足音が聞こえ、そして──

『そはらは俺のもんだあっ!!』

 わたしは肩を掴まれて体を半回転させられ強引に唇を奪われました。

 そうです。わたしは智ちゃんにキスさせられていたのです。

『そはらは誰にも渡せねえからな』

 30秒以上も続いた長いキスの果てにようやく唇を離してくれた智ちゃんの最初の一言がこれでした。

『もぉ。智ちゃんは完全に勘違いしているよぉ』

 荒々しい瞳でわたしを見ている智ちゃんの頭を軽く小突きます。

『わたしが旦那様になって欲しいのは……昔も今もそして未来も…智ちゃんだけなんだから』

 ちょっと恥ずかしかったですが最後まで言い切りました。

『なら……今度はちゃんとキスさせてくれないか?』

『うん。今度からキスする時は強引にじゃなくて、ちゃんとわたしと合意の上でお願いね♪』

 わたし達は再び熱いキスを交わしました。

 

 そして1年が過ぎました。

『智ちゃんパパ~。今日もお仕事頑張ってね~』

 わたしは子供と共に愛する旦那様の出勤を見送っていました。

 今年のハロウィンもまた旦那様とデートしようと密かにプランを練りながら。

 

 

「ほらっ! 私と同じ結果になったじゃない。やっぱり智樹はどうしようもなくエッチなのよ!」

「あれぇ? えっと、おかしいなあ?」

 そはらの想像は結局私と同じ結末を迎えていた。これは即ち誰が想像しても智樹はハロウィンを通じてエッチな行動を取ることを示している。

「……巨乳ビッチもまじウゼェ」

 アルファは相変わらず白い目を私達に向けている。

「とにかく、智樹をハロウィンに関わらせるとろくな結果にならないわ」

「そっ、そうだね。仕掛ける側でも仕掛けられる側でも大変な結果になっちゃうもんね」

「……では、ハロウィン当日は悪戯がどうやっても仕掛けられないようにお菓子を大量に準備して迎え撃ちましょう」

「「それは駄目っ!!」」

 私とそはらの声が揃った。

 

 

 そしてハロウィン当日。

 私はお菓子を全く用意せずに仮装した智樹が部屋にやって来てくれるのを待っていた。

 ハンガーには魔女コスプレ衣装も準備している。

 下着は智樹の趣向を考えて一番可愛いのを身に着けている。

 アルファは同人原稿を描きにパピ美とパピ子の所に行っているので今家にいない。

 準備は全て万端だった。

「さあ、智樹。どっからでも掛かってらっしゃい!」

 部屋の片隅に置いた、半分目が描かれたダルマを見る。

 大願成就はもうすぐそこの筈だった。

 玄関の扉が開く音が大きく鳴った。

 きっと智樹が演出の為に一度家を出て入り直したに違いなかった。

「桜井智樹~~っ。とりっく・おあ・とりーとめんと~」

 馬鹿の声がした。どうしようもなく馬鹿の声が。

「アストレアか。何でお前、ゴミ袋を頭からかぶってんだ?」

「私、お金持ってないから仮装っていっても妖怪ゴミ袋にしかなれなかったのよ」

 妖怪ゴミ袋って一体何よ?

「で、智樹。お菓子頂戴」

「お菓子頂戴って……ああ、今日はハロウィンってやつか」

「そうよ。守形に聞いたのよ。今日はお菓子を色んな人からもらって回れる日だって」

 守形は馬鹿を調子に乗らせることを吹き込まないで欲しい。

「その認識はどうかと思うが……悪いが菓子なら準備してないぞ」

「ええ~~っ!? だったら、智樹に悪戯するっ!」

 ちょっ!?

 あの馬鹿が智樹に悪戯するって!

 あの馬鹿、馬鹿な癖にスタイルだけはエンジェロイド最高なんだから。そんなあの子に悪戯なんてされたら智樹は、智樹は……。

「額に肉と書いて馬鹿にしてやるんだから~」

 ……チッ! ガキが。そこで体張らなくてどうするのよ。

 でも、私より先に智樹に悪戯を仕掛けたその罪は万死に値する。

「うわっ? 止めろ、アストレアっ! あ~面倒臭え。ハロウィンほんと面倒臭えっ! 俺はこんな行事まっぴらごめんだぁ~~っ!」

 智樹の心底嫌そうな叫び。

 ハンガーを見る。今日の為にわざわざ用意した魔女っ子服が掛かっている。

 窓の外を見る。そはらの家から尋常でないオーラが立ち上っている。

 どうやら智樹の大声がそはらにも聞こえているらしい。

 なら、やることは一つだった。

 

 

 その日、空美町では少年1人と少女1人が殺される凄惨な事件が発生した。

 ううん、ただの不幸な事故が起きて少年1人と翼の生えた少女1人が逝ってしまった。

 

 

(まったく、ニンフとそはらの奴。いきなり俺達を殺すことねえじゃねえか。まあ良いや。これからは霊としてエロ本を読み漁る毎日を送ることにしよう。ぐっひょっひょっひょ)

(って、何だ? 俺の家に入れないぞ!? このオレンジのかぼちゃが、俺が家に侵入することを拒んでいると言うのか? ガッデム! エロ本が自由に読めないなんて……)

(智樹~。アンタもそんな地上にばっかりこだわってないで、大空から空美町のみんなを見守ってあげる役目を果たしなさいよ)

(そうかっ! 大空からならこの町中にあるエロ本が全て俺の目に入って来るからな。ムッヒョッヒョッヒョ。今行くぜ、アストレア)

(うん? 智樹ではないか。お前も誰かに殺されたのか?)

(ええ、ちょっとニンフとそはらに。で、守形先輩も殺されたんですか?)

(ああ。ハロウィンということでアストレアとカオスにお菓子をあげたのだが、それが何故か分からんが美香子と智子の逆鱗に触れたらしくてな。このざまだ)

(本当、女ってのはよく分かんないっすよね)

(まったくだ)

 

 智樹とデルタと守形が空美町の大空から私達を優しく見守っていた。

 

 了

 

 

 


 
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