「まったく、疾風は油断しすぎじゃ!」
「そうですよ!疾風様が尻尾で刎ね飛ばされた時、すごく心配したんですからね!?」
「す、すまないね。少し天狗になってたみたいだ。以後、気をつけるよ」
「「当たり前じゃ!!(です!!)」」
…どうも、説教は回避し切れなかった疾風です
屋敷の中で、正座を強要されています
「いいじゃないか。怪我をしたのは俺一人。それも左腕の骨折とアバラが何本か逝っただけだよ」
「それでも、見てるほうは心配です…」
「うう、ん…。ここ、は…?」
急に楠根さんが身じろぎをして呻いたかと思うと、目を覚ました
「龍宮楠根さんですね?意識はしっかりしていますね。記憶はどうですか?なぜ此処に居るか、なぜこのような状況になったか分かりますか?」
「………あ、あああ。わた、し人をころ、殺し、て…?」
「落ち着いてください。大丈夫です。久慈奈ちゃん手を握ってあげて」
「は、はい!」
楠根さんに質問をすると、顔を青ざめて身を抱くようにしながらガタガタ震えだした
落ち着くように声をかけて久慈奈ちゃんに指示を出す
「母上、大丈夫。母上の中の妖怪は疾風様が滅してくれました。だからもう、大丈夫」
久慈奈ちゃんは自らの母親を、子をあやすように抱き寄せながら頭を撫ぜた
慈しみながら何度も、何度も。落ち着くまで何時までも、何時までも…
「…もう大丈夫です。ありがとう、久慈奈」
「では、ある程度の事態は把握しているという事で?」
「はい。私の中にいた蛇神が人を殺して、喰らっていた事。その蛇神が私の夫を殺した事。そして、その蛇神を疾風さんが退治てくれた事も」
楠根さんが俺の眼をまっすぐに見据える
「龍宮家現頭主として、神鳴流剣士波風疾風殿にお礼を申し上げます。本当にありがとうございました」
楠根さんが頭を下げてとても丁寧に礼を告げる
「いえ、別に構わないですよ。頭を上げてください。こちらも仕事ですので」
と、言いこのまま京都に帰ろうとしたのだが…
「待て疾風。このまま京に戻るとまた泰春から小言を食らうぞ?」
その言葉に身体が石になったようにピシッと動かなくなった
「え?どういうことですか?妖怪は倒したじゃないですか」
「ああそうじゃな。そこに問題は無い。問題なのはいつもこの
み、耳が痛い…。確かに依頼料を受け取った事は殆ど無いけども…
「しょ、しょうがないじゃないか。妖怪に傷付けられた人たちから、さらに毟り取るなんて出来ないよ」
「それで泰春から小言を食らうのは主にわしなんじゃが?」
「…わかりました」
俺とクラマが言い争っていると、急に楠根さんが声を上げた
何事だろうと全員が目を向ける
「ではこの麻帆良の土地を関西呪術協会、いえ波風疾風さんにお譲りします」
「…はい?」
ちょっと、よく聞こえなかったんだけどな…(汗)
も、もう一度言ってもらえますかね?
「ですから麻帆良の土地を疾風さんにお譲り申し上げます、と」
「…何故、そんな結論に?」
「いえ、正直この妖怪が度々攻め込んでくる土地は持て余しているんですよ。特にあの世界樹…でしたか?がある地域は。私は娘と長年仕えてくれた使用人の方々と住める場所があればいいんですよ。でしたらこの麻帆良の土地を、妖怪を撃退できる疾風さんに貰っていただければ、こちらとしては渡りに船なんですよ」
ふむ、確かにメリットはでかいな
だったら…
「でしたら、土地はありがたく貰い受けます。ですが、出来れば龍宮家には社を建てていただきたいのですが」
「蛇神を祀るのですか?」
楠根さんが露骨な嫌悪を顔に浮かべてこちらを見る
「いえ、確かに対外的には祀ってもらいますが、その実態は監視です。今回のように蛇神が暴走しないように見張っていて欲しいのです」
「ふむ…分かりました。では、早速土地の手続きを」
「あ、待ってください」
「何か?」
「ええ。できれば土地の代表者は『波風疾風』ではなく『風見手華』として欲しいのです。一応陰陽師として、それなりの知名度がある故に」
「ああ成る程。ではそのように」
楠根さんが使用人の方に何事かを耳打ちする
耳打ちされた方はかなり驚いていたが、楠根さんの眼を見て静かに立ち去った
「これで、麻帆良の代表者は『風見手華』さんです。ですが、社が完成するまでは住まわせて下さいね?」
「ええ勿論です。と言うか、自分達はこれから報告のために京都へ戻るので、恐らく社が出来るまで戻っては来れないと思いますので」
「分かりました。改めて、今回の件では私たちと麻帆良の民を救ってくださり、ありがとうございました」
そして俺たちは京都への帰路に着いた
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第十一話です。楽しんで頂ければ幸いです