零冶 「・・・盗まれた?」
零冶はユーノと別れた後、報告の為にボースの執務室に来ていた。
ボース 「うむ・・・してやられてしまった。敵をかなり隠密性が高いらしい。警備員に全く気づかれず、保管しているトラックに穴を
開けて行きおった。」
零冶 「・・・ちっ。俺とした事が・・・。」
零冶はこの時、自分が油断していた事を知った。今回は新型のテストが目的だと思ったが、どうやらそれだけじゃ無かったっらしい。
そして何よりも悔しかったのは、この手の事は自分が昔よく使っていたのだから。
零冶 「・・・・・・油断、か。」
昔の零冶では考えられない事だった。
昔は自分の周りは常に敵だらけだし、単独行動で味方がいないのが当たり前だったからだ。
ボース 「まぁ、盗まれた物は今更じたばたしても仕様が無い。」
零冶 「そう・・・だな。」
零冶は軽く落ち込んだ。
ボース 「それと今日、伝えたい事があって本当は私から零冶君を呼ぼうと思っていたのだよ。」
零冶 「・・・良い知らせか?それとも悪い知らせか?」
ボース 「両方だ。」
零冶 「・・・なら良い知らせから。」
零冶は溜息を吐いた。
ボース 「うむ。実は4日後、君たちに護衛任務に就いて貰うことになった。まぁ、護衛といっても君の部隊が交代で務めるから、
実質休暇みたいなものだ。」
零冶 「護衛?何処の?」
ボース 「名前は訳あって今は言えんが、場所は決まっている。・・・地球だ。久々に故郷へ帰って羽を伸ばすといい。」
場所が地球と聞いて、零冶の顔を少し緩んだ。
ジェイル達や部隊の仲間が居るといっても、やっぱり地球は恋しかったのだろう。
零冶 「それは助かる。ここ最近、禄に休んでいないからな。で・・・期間は?」
ボース 「2日間だ。4日後の正午までに地球へと向かってくれ。」
零冶 「了解した。」
そして一つ目の用件を伝え終わると、ボースは真剣な表情になった。
ボース 「・・・で、悪い知らせのほうだが。」
零冶 「・・・何があった?」
ボース 「取りあえず、コレを見てくれ。」
ボースがスクリーンを出して操作すると、映像が映し出された。
零冶 「これは・・・ガジェットⅢ型の残骸か?」
ボース 「そうだ。一見問題が無いように見えるが・・・コレを見てくれ。」
ボースは再び端末を操作して残骸の一部を拡大表示した。
零冶 「これは・・・動力部分だな。これが一体・・・っ!?」
ボース 「気がついたか?ここの部品に名前が彫ってあるだろう?『ジェイル・スカリエッティ』とな。」
零冶 「・・・ジェイルが俺との約束は破らないはずだ。それに、このガジェットは明らかに前のⅢ型の後継機だ。」
ジェイルが作ったⅢ型とこのガジェットの動きを比較すると、明らかに性能に差が出ていた。ジェイルのガジェットは主に
防御とスピードを重視していたが、このガジェットは攻撃面において重視されていたからだ。
ボース 「ああ。私も彼が裏切ったとは思っていない。となれば・・・奴等が新たなスカリエッティを作ったのだろうな。」
零冶 「新型が出てきた事で薄々分かってはいたが・・・面倒だな。」
ボース 「全くだ。あの新型はスカリエッティのガジェットよりタチが悪い。」
ボースは頭を抱えて悩んだ。
零冶 「兎に角、こっちはドゥーエに脳みその居場所を探り出して貰っている。あともう少しで分かるそうだ。」
ボース 「そうか・・・。零冶君・・・もし、最高評議会の居場所が分かったら、君はどうするのだね?」
零冶 「殺す。」
零冶は即答した。その目と零冶から滲み出る威圧感はボースを緊張させた。
零冶 「奴等は一線を越えた。なら、奴等に掛ける温情は一切無い。魂すらも残さずに、殺し尽くすだけだ。」
零冶は薄く笑みを浮かべた。
ボース 「例え、彼女達が止めても・・・かね?」
零冶 「アイツ等は優しい。特になのはは・・・優し過ぎるんだ。なのは達はそれなりの修羅場を見てきたみたいだが・・・ただそれだけだ。
人の醜さを完全に理解していない。それに何より・・・人殺しは出来ないし、させたくない。人殺しは俺だけで十分だ。」
零冶は最後の方は遠い目をして言った。
ボースは零冶の過去を知っている。いや、聞かされた。
聞かされたのは零冶がDOG隊に入って1年後の事だ。
ボース 「そうか・・・。なら、私も止めはしない。いざという時は私が責任を取ろう。」
零冶 「アホ。言ったろ?人殺しは俺だけで十分だって。お前がそれを背負う事は無い。」
ボース 「ぬかせ小童。これでもお前よりは年上だ。それくらい背負わせろ。」
ボースは笑って言って見せた。
零冶 「物好きな奴め。」
ボース 「それはお互い様だ。」
2人は互いに笑い合った。
ボース 「ああそうだ。一つ言い忘れてた。」
零冶が執務室を出ようとしたとき、ボースが思い出したように言った。
ボース 「君の部隊に新しく人員を増やそうと思ってな。これがそのリストだ。好きに選ぶといい。」
そう言ってボースはリストを投げ渡した。
零冶 「それは助かる。人が少なくて困ってたところだ。」
ボース 「それと、先日言ったヘリは君が地球から帰る頃には搬入されているはずだ。戻ったら確認してくれ。」
零冶 「ああ、分かった。」
そう言って零冶は部屋から出た。
零冶 「さて、一度ジェイルの所へ行ってから六課に向かうか。」
零冶は先ほどのボースが言っていた事をジェイルに告げに行った。
零冶 「ただいま。」
クイント「あら、おかえりなさい。」
クイントは昼食を作ってロビーに持って行くところで鉢合わせした。
零冶 「ん?ムサシ達はどうしたんだ?」
クイント「ああ、あの2匹ね。それなら・・・。」
クイントが視線をロビーのソファの所に移す。
零冶も釣られてみると・・・
ルーテシア「はぅ~・・・猫さん、可愛いよぉ~!」
ムサシ 「ニャ~・・・そんなに強く抱きしめないで欲しいニャ!」
コジロー 「く、苦しいニャ~~。そろそろ離してニャ~。」
ルーテシア「んー・・・もうちょっと。」
2匹 「ニャー!(ニャ~!)」
どうやらルーが捕獲していたようだ。
クイント「お分かり?」
零冶 「あー・・・・うん。なるほどね。」
クイント「それで、零冶君は博士に会いに来たの?」
零冶 「ああ、そうだった。・・・・・。」
クイント「・・・?どうしたの?」
零冶は一度考えた。
零冶 「母さん。全員、ここに居る?」
クイント「え?ええ。ドゥーエさんも今日は帰ってるし、他の皆は訓練や自分の部屋で過ごしてるけれど?」
零冶 「よかった。それなら、全員をすぐに集めてくれる?もちろん、ジェイルも。」
クイント「ええ・・・分かったわ。」
クイントは零冶が真剣な表情で招集を掛けようとしたので、すぐに全員をロビーへ呼んだ。
ジェイル「ふむ。どうやら私で最後のようだね。」
招集を掛けてから数分で全員が集まった。
因みに、ルーも立派な仲間なのでこの招集に参加している。
チンク 「零冶、一体どうしたのだ?お前から招集を掛けるなんて珍しいな?」
トーレ 「何か問題でも起きたのか?」
零冶 「ああ・・・・大問題だ。」
零冶が重々しく言うと、全員に緊張が走った。
ジェイル「ふむ・・・それで、その問題とは?」
ジェイルが先を促す。
零冶 「俺達はつい先ほど、ホテルアグスタの警備に参加した。そしてガジェットの襲撃があった。そして、新型と思われるタンク型を撃破した。」
すでにガジェットのコピーが製造されているのは全員知っているので、大して驚かない。
零冶 「これを見て欲しい。これはその新型ではないが、コピーと思われるⅢ型の動力部だ。」
零冶はボースに貰ったデータを見せると、
ジェイル「っ!?」
他の皆は気付かなかったが、ジェイルはすぐに気付いた。
零冶 「ジェイルは分かったみたいだな。問題はここを拡大してみると分かる。」
全員 「なっ!?」
拡大すると、全員も分かったようだ。
ゼスト 「これは・・・。」
ウーノ 「やってくれますね。」
チンク 「・・・許せん。」
クイント「ちょっと・・さすがにこれは頭に来るわね。」
メガーヌ「どこまで腐っているのかしら?」
ジェイル「・・・・巫山戯た事を。」
全員があまりにも卑劣な行いに激怒する。
零冶 「お前達の気持ちはわかる。だが、それよりも今後をどうするか選択するべきだと俺は思う。」
ジェイル「・・・そういうことか。」
ウェンディ「・・・?あの・・・さっきから聞いてるんッスけど、その・・・よく分からないッス。」
ジェイルや他の皆はすぐに理解したが、ウェンディだけが空気を読まずに発言したので、空気が固まった。
ウーノ 「この子はまったくもう・・・。」
トーレ 「・・・はぁ。」
ドゥーエ「・・・ふぅ。」
クアットロ「・・・ダメね、コレ。」
チンク 「・・・戯けが。」
セイン 「アホ。」
セッテ 「アホの子だわ。」
オットー「・・・アホ。」
ノーヴェ「アホだろ?」
ディエチ「・・・アホ。」
ディード「ダメだわこの子何とかしないと。」
ルーテシア「・・・??? ウェンディお姉ちゃん、アホなの?」
ナンバーズ全員がウェンディに呆れていた。
因みに、ゼスト隊とジェイルは黙秘を貫いている。
ウェンディ「ううぅ・・・・ぐすんっ。皆、酷いッス!そこまで言うこと無いじゃないッスか!?」
ウェンディは目に涙を溜めて訴える。
零冶 「ま、まぁ簡単に言うとだな?最高評議会が罪をジェイルに擦り付けているってことだ。」
ジェイル「それだけでは無い。恐らく、私を始末するのも理由の一つだろうね。」
ジェイルが目頭を押さえながら言った。
零冶 「そういうことだ。このまま放っておくと、いずれ管理局と敵対することになるだろう。多分、このデータは六課や勘の良い部隊や人
間なら気付いているはずだ。」
ウェンディ「じゃ、じゃあ!クイントさんの子達や関係の無い人達と戦う事になるッスか!?」
零冶 「・・・ああ。」
ウェンディ「そ、そんな・・・・。」
ウェンディは事の重大さを理解したようだ。
零冶 「それで、だ。今後の事で全員の意見を聞こうと思ってな。選択は2つある。一つ目、ナンバーズを含めたゼストが管理局に務める。
二つ目、最悪、管理局と敵対しても隠れ続け、最高評議会を消す。」
主にこの2つである。
ジェイル「どっちも厳しいね。」
ゼスト 「・・・そうだな。一つ目は絶対に最高評議会が手を回して正体を明かすなり、何らかの罪を着せて拘留もしくは始末しに掛かるだろう。
二つ目は、管理局全員を敵に回すことになる。恐らく、精鋭である機動六課も・・・な。」
零冶 「・・・・・。」
こっちとて素直に捕まる訳に行かない。一つ目の選択肢をとっても、拘留されそうになったら抵抗する。そうすればなのは達も出てくるだろう。
なのは達は先ず話を聞こうとするが、それにしても一度拘束されなければならない。捕まればなのは達と話す間も無く、
そのまま監獄直通の片道切符がもれなく付いてくる。
零冶達にとって捕まる=死、なのだから。
そして、下手をすればなのは達も巻き添えになりかねない。だから、零冶はなのは達には真実を伝えていない。
ジェイル「・・・少し、時間が必要だな。そうだな・・・1週間後にまた皆で集まろう。」
零冶 「分かった。全員、それで異論は無いな?」
零冶の言葉に全員が頷いた。
零冶 「それじゃ、俺は向こうに戻る。」
零冶は隠れ家を出て、六課へと向かった。
零冶が席を立ったとき、全員の表情は何とも言えない感じだった。
零冶が六課へと着いたのが午後6時ほどだ。
六課隊舎に行くと、廊下を通りがかったフェイトと会った。
フェイト「あ、零冶!どうしたの?」
零冶 「ちょっと今朝の事が気になってね。」
フェイト「ああー、あの事ね。なのはがちゃんと言ったから多分、大丈夫だと思うよ?」
零冶 「だと良いがな。」
フェイトが何か思いついたように言う。
フェイト「あ、そうだ!零冶、明後日・・・暇?」
零冶 「ん?まぁその日は午後からなら暇だが?」
フェイト「良かった!ちょっと内の部隊の訓練を見て欲しいんだ。私、事務処理で忙しくて・・・。」
フェイトは執務官も兼任しているので、事務処理や他の仕事が立て込んでいるようだ。
零冶 「ああ、それなら構わんよ。」
フェイト「ありがと!あの・・・それとね、零冶。」
零冶 「ん?どうした?」
フェイト「その出来れば明日・・・・・ううん。やっぱり何でも無いよ!」
零冶 「え?何か用があったんじゃないのか?」
フェイト「何でも無いって!それじゃあね!明後日の訓練、よろしくね!」
零冶 「あ、おい!?・・・はぁ。・・・何だったんだ?」
フェイトはそう言って走り去った。
フェイトは廊下を曲がり、零冶が追ってきてないのを確認すると息を吐いた。
フェイト「・・・はぁぁ。ダメだなぁ、私。こんなんじゃ、いつまで経っても・・・・。」
あの日、零冶が生きていると知った日に誓った言葉を思い出す。
だが・・・いざ言おうとすると顔が真っ赤になり、緊張して言えなかったのだ。
フェイト「・・・次こそはちゃんと言わなきゃ!」
今度こそと心に決めてフェイトは事務処理をしに、自室へ向かった。
Tweet |
|
|
15
|
3
|
追加するフォルダを選択
今日、スピード違反で白バイに捕獲されましたw