水着を買いに行ったは良いが、一夏の心はここに有らずだった。と言うのも、この近くには五反田食堂、つまり弾の実家があるのだから・・・・一夏は彼の妹である蘭と連絡を取っているが、弾は会いに行かなかった。
『どうして会いに行かない!?お前、蘭の兄貴だろ?!』
『俺が側にいれば・・・・あいつが傷ついてしまう・・・』
このやり取りは何度もしたが、彼は頑に聞こうとはしなかった。だが、一夏は知っていた。匿名で実家に給料の半分を仕送っている事を。
「ちかさん・・・・一夏さん!」
「ん・・・あ、ああ。似合ってると思うぞ?セシリアはやっぱ青が似合うな。」
現在、試着室から出て来たセシリアが一夏に感想を求めていた。ツーピースのビキニに青いパレオを腰に巻いた姿は、どこか大人っぽい。それに深い青色がセシリアの白い肌のコントラストでよりいっそう色気が引き立っている。
「じゃあ、あたしのはどう?」
隣の試着室から鈴音がタンクビキニタイプの水着を着て出て来た。
「おお。お前らしいと言うか、明るい色はやっぱり似合うな。良いと思うぞ、それ。箒はもう決めたのか・・・?」
「う、うむ・・・・中々合うサイズが見つからなくてな・・・・」
(ああ、確かにコイツ無駄にと言っちゃ失礼だが、胸がデカいからな。)
「そうか。」
「そこで何をしている?」
「千冬姉。水着買いに来たの?山田先生も。」
「そうだ。折角だから弟に選んでもらおうと思ってな。候補は二つある。」
白と黒の水着を見せる。
「黒かな。白も良いけど、やっぱり千冬姉は大人っぽいのが似合うし。」
「そうか。ならばこれにしよう。」
そう言うやいなや、山田先生と一緒にレジに進んだ。
「俺は自分のを選んであるから大丈夫だ。箒、暫く時間が掛かりそうか?」
「ああ・・・・いくつかあるんだが・・・・」
「ほお・・・・」
箒が見せたのは赤で縁取られた白いビキニだった。
「俺はこれが良いと思うな。何と言うか、『和』って感じがあるから。」
「そ、そうか・・・・」
「おう。俺はちょっと用事があるから先に出てるぞ。」
一夏はレゾナンスを出ようとしたが、見ず知らずの女性に呼び止められた。
「ちょっとそこの貴方、これ、戻しといて。」
「断る。大体俺はここでは働いていないし、身も知らぬ奴に指図されるのは嫌いでね。」
「何よその態度。警備員呼ぶわよ?」
「呼びたきゃ呼べ。連行されるのはお前だ。」
「どうかしましたか?」
「この男が」
「勝手に俺に命令して来たのでそれを断っただけです。」
そう言って一夏はポケットから手帳を取り出した。
「これは・・・・あ、IS犯罪対策室・・・織斑一夏?!」
「そう言う事。お前、俺を敵に回して生きていられると思うなよ?一体何人の男を手前勝手な理由で地獄に叩き落とした?ISを使えもしない癖に何を粋がっている?彼女を連れて行って下さい。二度と日の射さない、獄中に。」
「は・・・・はい!大変失礼いたしました!」
(まったく・・・・こう言う場であんまり使いたくないがな・・・・)
五反田食堂の前に向かうと、その近くに弾がフードを被って遠巻きに見ていた。
「おい。会いに行ってやれよ。」
「・・・・俺は・・・・」
「何故恐れている?蘭が傷つくのが怖いからか?」
「そうだ。俺が側にいなければ、これ以上傷つかずに済む。」
「お前がいなくなる方が傷を深めるんじゃないか?蘭が傷つくのが怖いなら、お前が守れ!お前が体と命張ってそいつの楯になれ、それで守れ!お前は只逃げているだけだ!」
一夏は弾の胸ぐらを掴んで怒鳴った。
「ほら、行くぞ。腹が減った。」
力任せに弾を引っ張って行き、店の中に入った。
「いらっしゃ・・・・弾・・・・?!」
「お袋・・・」
「お母さんどうし・・・一夏さん!それに・・・・お兄!?」
「よう蘭、蓮さん。今日はちょっと会わせたい人がいるんでね。」
「・・・・今まで、心配かけてすまない。蘭、俺は」
「馬鹿!お兄のバカ!!」
あろう事か蘭は号泣しながらタックル+ハグをかまして来た。一夏はそれを見て弾の肩を叩き、後はお前次第だと呟いて静かにその場を後にした。一夏はレゾナンスに戻ると、司狼達と合流した。
「さてと・・・買う物はもう無いし、それぞれ自由行動と言う事で。社員の皆は自己防衛の武器持ってるよな?」
「「「「はい。」」」」
一夏は両腰と左腿に銃を携行しており、シャルロットも右腰にIS犯罪対策室支給のビームガンとカートリッジ数個、更には射程距離を伸ばす為のアタッチメントパーツを装備していた。ラウラは元より軍人なので、当然武器はある程度携行している。
「さてと・・・・散開して。自由時間だから。あ、シュヴァルツェア・ハーゼの皆は俺と一緒に本社に来る様に言っといてくれる?オルタナティブ・ゼロが幾つか完成したから。」
「後、眼帯外す様に言っておいてくれ。
「え・・・・」
「隊長命令だ。お前のプロファイルは知っている。だが、それはお前と隊の者しか持っていない力だ。もっと誇れよ。」
「はい!」
ラウラは年頃の少女の様にぱっと顔が明るくなった。
「ラウラ、いこ?ラウラの服も買わなきゃ行けないし。」
「し、しかし私は」
「行って来い。隊長命令だ。軍服と制服の二着だけなんて味気無さ過ぎるぞ?」
「右に同じく。上司命令だ。シャルロット、連れて行け。」
「はーい♪」
全員が散開した後、残っていたのは一夏と司狼だけだった。
「オーディン、聞いていたな?」
『大方は。だが、良いのか?あの様に言ってしまって。ミラーワールドの開閉は自由に出来るのだぞ。』
「開いておいた方が良い。永遠に閉じるには、コアミラーを破壊しなきゃならない。そうだろ?」
『そうだ。ミラーワールドは私の世界だ。どうするかは私が決める。』
「まあ、好きにするが良いさ。どうせ俺達は勝てないんだからさ。所で、二つ頼みが有るんだけど。一つは篠ノ之箒の監視。一夏に負けた程度で専用機を諦めるとは到底思えないからな。もう一つは、その姉、束の次の行動。恐らくもうあいつは妹の機体を作ってる筈だ。その為のお膳立てにも必ず何かデカい事をやらかす。それを止めて欲しい。いざとなればガルド達を使っても構わない。封印のカードを渡したのは失敗だったか・・・・?」
『良いだろう。だが、こちらの言う事も聞いてもらうぞ。アビスのデッキを学園の者に渡せ。誰にするかはお前に任せる。』
「アビスのデッキを?・・・・・分かった。一応相手の目星はついてる。問題は無い。」
オーディンは頷き、姿を消した。
「で、誰に渡すつもりなんですか?」
「それはまだ秘密だ。帰るぞ。」
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ショッピング編パート2です。福音戦まであと少し・・・・