No.501457

神次元ゲイムネプテューヌV CODE:Joker 甲の回 第二話 【予言と少女】

SPEC欠、早く観たいな~と思う今日この頃です。
監督さんによると来年秋を予定しているとか。
長いような短いような……。
気長に待ちますか…。

2012-10-28 21:33:45 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1055   閲覧ユーザー数:993

 

現在未詳

 

「超有名な五木谷代議士先生が、このようなカビ臭い未詳にようこそ。五木谷先生のお姿は、いつもテレビで拝見しております。」

 

応接用のソファーに座りながら、野々村は目の前の人影に向かって温和な声でそう言った。

先ほど左手の薬指から強引に外した指輪は、既にその跡を覆い隠すようにピタリと同じ位置にはめられていた。

 

「私、秘書の脇と申します。」

 

野々村とテーブルを挟んで向き合い、応接用のソファーに腰掛けている眼鏡をかけたスーツ姿の男、”脇 智広”はケースから名刺を取り出すと両手で野々村に名刺を差し出した。

対して脇の隣に座っている控えめの顎髭と口髭を蓄えた男、”五木谷 春樹”は嫌悪感を持った瞳で偉そうに辺りを見回していた。

差し出された名刺を頭を下げながら両手で受け取ると、野々村はそのまま口を開いた。

 

「それで……有名な代議士先生が、私たちにどのようなご相談でしょうか?」

 

3人がやり取りをしている中、瀬文は自分のデスクに座ったまま、パソコンで五木谷のことを調べていた。

パソコンのページを開き、サイトを閲覧しようとマウスに手を添えようとした瞬間、横から割って入ってきた当麻が瞬時に瀬文の手を払いのけてマウスを奪い、高速でスクロールさせた。

行動に腹を立てたのか、瀬文は当麻を睨みつけると低い声で言い放った。

 

「勝手に触るな。」

「もう頭に入りました。」

 

特に気にする様子も無しに、当麻はザザッとページを一番下までスクロールさせると、マウスから手を離して3人の会話に耳を傾け始めた。

同時に瀬文は当麻の態度に込み上げてくるものを感じ、当麻がマウスから手を話した後もしばらく当麻を睨み続けていた。

その頃、五木谷は野々村の言葉に反応してイラついたような口調で呟くように口を開いた。

 

「Whenever it is sent from one place to another, must it explain one by one?(たらい回しにされる度にいちいち説明しなきゃならないのか?)」

「It is a foolish rule in fucker police guys.(それがビチクソ警察野朗たちのファッキンな掟なんで)よろしくお願いします。」

 

当麻の英語に五木谷が鋭い視線を送った。

明らかに馬鹿にしたような口調に五木谷は怒りに震え、右拳を思い切り握り締めた。

それを横目で確認した脇は咳払いを1つすると宥めるように五木谷に話しかけた。

 

「先生、私から。実は、うちの五木谷先生が懇意にしている……冷泉俊明という占いの先生が、嫌な予言をしまして……。」

「予言!?」

 

予言という言葉を耳にした瞬間、当麻は近くにあったボールペンとメモ用紙を右手に持ってその場を離れると脇の方へ向けて急ぎ足で歩き始めた。

当麻がその場を離れたのを見計らって、瀬文は慣れた手つきでキーボードに”冷泉 俊明(れいせん としあき)”という名前を打ち込んだ。

そこに出てきたのは着物姿に似合わないドレッドヘアが特徴的な眼鏡をかけた中年男がレモンを右手に持って突き出しているという、傍から見れば馬鹿げた画像だった。

――何だこいつ

瀬文は心の中でイラつきながら呟いた。

 

「あの、予言ですか!?」

 

当麻はソファーに腰掛けるなり、身を乗り出して脇に顔を近づけ、興味深そうに口を開いた。

 

「……こちらは?」

「当麻君、ご挨拶を。」

 

脇に尋ねられた野々村が当麻に目をやりながら話しかけた。

話を聞いてか聞かずか、当麻は姿勢を元の位置に戻すとそのまま話を続けた。

 

「刑事をやっている、当麻という者です。どんな予言~?」

 

――その瞬間、辺りの空気は一瞬にして凍りついた。

変な節をつけた当麻の口調に脇を含め、この場にいる全員が固まった。

場の空気を完全に無視した発言をした当麻本人は、特に気にもしない様子で脇を見つめていた。

脇は呆然としながら当麻を見つめ、これ以上場の空気を乱さぬように、当麻の先ほどの発言は無かったと自分に言い聞かせながら話し始めた。

 

「……実は明日、五木谷グループ創立15周年を記念してパーティーを開く事になっているんですが、冷泉先生によりますと、その時に…『私が殺されると言うんですよ。』」

「「え!?」」

 

五木谷が俯きながら脇の言葉に口を挟むと、野々村と当麻は一斉に五木谷の方に顔を向けた。

対して瀬文は特に反応せず、パソコンに表示されているウィキ○ディアに良く似たネプペディアの冷泉に関するページを無表情で見つめていた。

少し間を空けて五木谷は顔を上げると、そのまま続けた。

 

「殺されたくなければ2億払えと言ってるんだ。」

「2億も!? 何で占い師に?」

 

額が額なだけに、当麻は目を見開きながら驚きの声を上げた。

 

「そうすれば、未来を変える方法を教えるとか。」

 

野々村を見つめながら脇が冷静な口調で言葉を紡ぐ。

当麻の方を見なかったのは先ほどの行為で信用が薄れたからであろう。

 

「随分とインチキな占い師ですな。」

 

目を細めながら言う野々村は脇の言葉に占い師への反感を抱いた。

 

「それが困った事に、冷泉は本物なんだよ。……これまで何度あいつの言う通りにして助かったか。」

 

五木谷はそう言うと目線を2人からはずし、脇のほうに目配せをした。

脇は軽く頷くと、野々村に向けて声を上げた。

 

「そこで、明日のパーティーで先生にSPをつけていただきたいんです。」

「いやぁ、いささか大げさかと。」

 

野々村は首を傾げながら脇に答えた。

すると先ほどまで視線を逸らしていた五木谷が野々村に視線を送り、興奮した様子で口を開いた。

 

「私が毎年、いくら税金を納めてると思ってるんだ。4億だよ4億!」

 

五木谷は目を見開いて手の平の4本の指を天井にむけ、そのまま野々村の方へと見せ付けた。

いきなりの行為に野々村は少し身を引くと、嫌悪感を込めた瞳で五木谷の指を見つめた。

 

「プッ、お気の毒。」

 

その行為を横目で見ていた当麻は思わず右手にペンを持ったままの右手を口に当てて吹き出し、その笑みを崩さずに、テーブルに置かれているメモに何かを書き込んだ。

 

「何だと!!」

 

馬鹿にされたと思い、腹を立てたのか、五木谷の怒号が響き渡った。

五木谷は激しい剣幕で当麻を睨みつけ、今にもテーブル越しに当麻に殴りかかりそうな勢いでソファーから身を乗り出した。

 

「当麻君!」

 

さすがにまずいと思ったのか、野々村も当麻にしょうがなさそうな声を上げながらペンを走らせている当麻の右腕を掴んだ。

その瞬間、当麻は自分の体重をソファーの背もたれに預け、奇妙なうめき声を上げながら天井を見つめると同時に気絶した振りをした。

 

「秘書の私が言うのもなんですが、先生にもしものことがあったらプラネテューヌの損失ですよ!! いっそ、警視総監に直接お願いした方がいいですかね?」

 

五木谷のほうを見つめながら脇が真剣な口調で話しかけた。

――この2人、本当にやりかねない。

野々村は咄嗟に心の中でそう呟いた。

 

「いやー! 大丈夫! 分かりました。男野々村、身を賭して善処いたします。」

 

話を大事にしようとする脇に、野々村が口を挟んだ。

野々村は膝に手を当てて深く頭を下げると、二人に向かって重い声を上げた。

脇は軽くため息を吐くとソファーに座りなおして背筋を伸ばし、野々村に向けて口を開いた。

 

「それでは、私たちはこれで。明日はくれぐれもお願いしますよ。」

 

その言葉を残し、脇と五木谷はソファーから腰を上げた。

2人は当麻たちには目もくれず、一目散にエレベーターに向かって歩みを進めた。

エレベーターに乗り込み、スイッチを操作して下りていく2人を、野々村は敬礼をしながら見送っていた。

すると突然、3人の後ろから嫌悪感をぶつけるように2つの声が上がった。

 

「おい、もういいのか?」

 

グレーのスーツを身にまとった、年齢にして50歳ぐらいの体格の良い男が腕を組みながら野々村に鋭い視線を送った。

石を見下すような眼つきだった。

 

「おーそーいー、待ちくたびれちゃった。」

 

対して先ほど、かなり年齢差のある男達に囲まれながらも、場の空気を無視した能天気な声を上げて自己紹介をした少女、ネプテューヌは空いているデスクに添えられているオフィスチェアに背中を預け、椅子を軸に足をバタつかせながら弧を描いていた。

 

「あぁ、これは秋本課長代理。ご無沙汰しております。それで、今日はどんなご用件で?」

 

右手を下ろしながら野々村は秋本の下へ早足で駆け寄り、頭を低くしながら秋本の顔を覗き込んだ。

秋本は自分を覗く野々村には目を合わせず、妙に苛立ちを込めた口調で正面を向きながら口を開いた。

 

「突然だが、お前達にはこの小娘を預かってもらいたい。」

「「「……はぁ?」」」

 

3人が惚けた声を上げるのはほぼ同時の出来事だった。

唐突かつ意外すぎる命令に3人は顔を見合わせ、一斉に視線を秋本へと向けた。

 

「あの~、秋本課長代理? こういった事は我々未詳には管轄外なのでは?」

「こいつが”普通”の小娘ならな。」

 

野々村の言葉を耳に入れながら、秋本は両手を腰に当ててネプテューヌの方に目を向けた。

その視線は少女に向けられるには、あまりにも不快の色を込めた眼つきだった。

だがとうの本人は怯える様子も無く、椅子に座りながら興味深そうに辺りを見回していた。

――こいつは緊張感って物を知らないのか

その様子を見た瀬文がそう思ったのはもはや言うまでもない。

 

「こいつは3時間ほど前、警視庁の屋外駐車場に駐車してあったパトカーのボンネットの上で発見された。ボンネットの損傷からしてかなり高所から落下したと思われ、当初は飛び降り自殺未遂者かと言われていたが、付近に飛び降りられそうな建物は無く、とてもそうは見えない。おまけに話す事は支離滅裂、自分が女神だとか、ふざけた御託を並べ続けていた。」

「だーかーら、私はプラネテューヌの女神なんだってば!!」

 

焦らしたネプテューヌが思わず高らかに声を上げた。

言葉に反応してその場に居た当麻を抜く全員が呆れたような顔つきでネプテューヌに目を向けた。

 

「確か……プラネテューヌの女神って言ったら…。」

「アイリスハート様ですよ。顔知らないですけど。」

 

瀬文の言葉に当麻が付け加える。

一呼吸置いて、秋本は両手を腰に添えたまま軽くため息を吐いた。

誰が見ても明らかなほど、人を見下したような態度だった。

 

「そう言う事だ。お前達にはこの小娘が何故あんな場所にいて、何処から来たのか。それが分かるまで、この小娘を預かってもらいたい。以上だ。」

「御意。」

 

早足でエレベーターへ向かう秋本の背中に野々村が深く頭を下げる。

エレベーターが迷惑な機械音を立てつつ秋本を運んでいく様を見届けると、3人は揃って同じ位置に目を向けた。

そこには惚けたような表情で首を傾けているネプテューヌの姿があった。

この時、ネプテューヌを除く全員の瞳にこもっていた色はただ1つ。

”疑い”の色のみだった。

 

 

 

 

 

 

  ◆◆◆

 

 

 

 

 

「で? 君は何処から来たの?」

 

野々村が出来る限りの優しい口調で目の前に座っているネプテューヌに問いかける。

その表情には呆れの色が濃厚に出ていた。

――これで何度目だっけ?

野々村の心の呟きはそのままその顔色に表れていた。

 

「だーかーらー、プラネテューヌだってば! でもって私はプラネテューヌの女神で、変な黒い塊に吸い込まれたらいつの間にか落っこちてて、そしたらここにいたの!!」

「はぁ、駄目だこりゃ……全然会話になってない…。」

 

叫びながら訴えるネプテューヌに野々村は頭を抱えながら深くため息を吐いた。

先ほどからこのやり取りが始まってから、何一つ前進してはいなかった。

自分を女神だと言い張るネプテューヌにそれを信じようとしない野々村、繰り返される尋問のループは一向に解決の気配を見出せないでいた。

野々村は自身の座るオフィスチェアから重い腰を上げると、少し離れたデスクの上に置かれている緑茶に手を伸ばし、そのペットボトルの口を自らの口と重ね合わせた。

ゴクッゴクッと喉仏が上下し、生ぬるい緑茶は野々村の喉の渇きを潤した。

野々村がそうしている間、瀬文は部署の隅に置かれている冷蔵庫に手を掛けていた。

近くに重ねて置いてあるガラスのコップを2つ取ると、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを注ぎ、両手にそれを持ったままネプテューヌの方へと歩き出した。

 

「どうせ頭でも打ってまだ錯乱してるんだろ。」

 

ネプテューヌの近くのデスクに水を入れたコップを置きながら、瀬文が呟くように吐き捨てる。

それが聞こえていたのか、ネプテューヌはムッと顔をしかめながら

 

「頭なんか打ってないよ! 本当の本当にプラネテューヌの女神だもん!!」

 

と、瀬文に向かって大声を上げた。

耳を押さえながら瀬文はうんざりした顔で立ちながらネプテューヌを見下す。

そしてただ一言、

 

「なら証拠を見せろ。お前が女神だって証拠はあるのか?」

 

それだけ言うと再び瀬文はネプテューヌに厳しい視線を送った。

言葉を受けたネプテューヌは”そう来たか!”と言いたそうな顔をしながら、両手で頭を抱えて俯いた。

それからしばらく、頭を抱えながらブツブツ独り言を呟くネプテューヌを瀬文は先ほどまで野々村が腰掛けていたオフィスチェアに体重を乗せ、ミネラルウォーターの入ったコップを傾けた。

途中、視線は向かい側のデスクでパソコンを弄っている当麻に向いたりもしていたが、特にそちらは気にする様子もなく、視線はネプテューヌの方へと向いていた。

 

「……! あーーーー!!!」

 

腹の底から大声を上げながら、ネプテューヌは俯いていた頭を上げると、座っていた椅子を倒す勢いでその場に立ち上がった。

突然の出来事に、正面に座っていた瀬文の口に含まれていたミネラルウォーターが音と飛沫を立てて床に散らばった。

同様に、他ごとをしていた二人の体も、ネプテューヌの大声によって大きく跳ね上がった。

その場に居た全員の視線がネプテューヌに移ると同時に、先ほどとは打って変わった自信満々の表情を浮かべながら、ネプテューヌが口を開く。

 

「そうだよー! 気付いちゃったよ! いやー、今日は冴えてるねぇネプ子さん!!」

「……何がだ?」

 

口についた水を袖で乱暴に拭きながら、眉間にしわを寄せた瀬文がネプテューヌに話しかけた。

瀬文の中にある苛立ちが、そのまま声となって表れたような口調だった。

そんな瀬文を目の前にしても、ネプテューヌの自信が陰りを見せる事はなかった。

瀬文を見つめる瞳も、自信に満ち溢れて輝いていた。

 

「変身だよ変身! それで全部解決じゃん!!」

「……はぁ?」

「行っくよー! はああぁぁぁああああああ!!」

 

周りからの痛い視線をもろともせず、ネプテューヌは声を張り上げながら腕を胸の前でクロスさせ、威勢よく開いた。

 

「「「……。」」」

「……あれ?」

 

……ネプテューヌにとって、この瞬間の一秒は一時間に匹敵する長さに感じられた。

辺りに張り上げた大声が残響となって響き渡る中、少女は1人、目蓋を何度も上下させながら目の前を呆然と見つめていた。

と同時に、それを見つめる6つの目は明らかに先ほどよりも軽蔑の色が濃さを増していた。

理由はいたって簡単だ。

6つの目には、変身すると啖呵を切ったネプテューヌのその時のままの姿が、変わらずに映っていたのだから…。

 

「え? あれ? えええぇぇぇぇえええええ!!? ちょっ、待って! なっ、何で!?」

「……頭がおかしいとしか思えない。」

 

瀬文は椅子から立ち上がると、両手足をバタつかせながら慌てるネプテューヌを見下しながら低く小さい声で毒突いた。

立ち上がったまま瀬文はその場で反転すると、先ほどこぼしたミネラルウォーターの不足分を補おうと、数メートル先の冷蔵庫に向けて足を踏み出した。

その間、声が耳に入っていたのか、ネプテューヌは頬を目一杯膨らませながら瀬文の背中を睨みつけていた。

誰がどう見ても一触即発なこの雰囲気に、野々村が割って空気を和ませようと口を開きかけた時だった。

 

「案外、その子が言ってる事は本当の事かもしれませんよ?」

 

ずっと片手でパソコンを操作していた当麻が突然、その手を止めるとぶっきら棒な声を上げた。

視線だけは未だにパソコンの画面を向いたままだった。

特に関心がある素振りも見せず、表情は無に限りなく近い物だった。

いつの間にか全員の視線が当麻に集中していたころ、瀬文が細い目つきを向けながら口を開いた。

 

「お前、こいつの何を知ってんだ?」

「あたしは何も知りませんよ。ただ、この()が嘘を吐いてる可能性は限りなくゼロに近い、ってことはハッキリしてますけどね。」

 

当麻は言いながらパソコンから目を離すと、椅子から腰を上げて瀬文のほうへと歩み寄った。

のんびりとした足取りで一歩一歩瀬文に近づき、瀬文が手を掛けようとしていた冷蔵庫の中のミネラルウォーターをいきなり鷲掴みにすると、そのままその口をペットボトルの口へと重ね合わせ、ゴックンゴックンと一度も休みを入れることなく飲み干した。

 

「何故そんな事が言える?」

 

横目に当麻を睨みながら、瀬文が錆を含んだ声で問いかけた。

その声に動揺する事もなく、当麻は口を袖で拭うと空のペットボトルを足元に置き、瀬文を軸に周囲を回りながら口を開いた。

 

「この娘は最初に会ったとき、自分の名前でプラネテューヌの女神って言ったんですよ? おかしくないっすか? なりすますなら、あたしは絶対”自分はアイリスハートだ”って言いますよ? だってこの国で女神様の名前を知らないのなんて赤ん坊ぐらいのもんですよ? この娘にわざわざここまで来てこんな嘘を吐くメリットなんて何処にもないんすよ。」

「……じゃあやっぱり頭でも打ったんだろ。」

「通常、脳が記憶障害を引き起こすほどの強い衝撃を受けた場合、その前後の記憶は抜け落ちてることが当たり前です。でもこの娘はその前後の事をしっかりと覚えてましたよね? それに付近には飛び降りられそうな建物は1つもなかったとか。 頭を打ったからこうなった可能性もゼロではありませんが、その可能性も低いかと。」

「……何が言いたい?」

「つまり、この娘は時間旅行者(タイムトラベラー)、あるいは平行世界(パラレルワールド)から来たって可能性が考えられるわけです。」

 

得意気に言うその顔は笑っていたが、どこかその中に真面目さも垣間見えた。

そこから感じられる雰囲気は、先ほど瀬文に極僅かな間だけ見せた真剣な表情の時の物と同じように瀬文には感じられた。

瀬文も当麻も互いに目を合わせようとはしなかった。

ただ前だけを見つめ、まるでそう話すと脚本でもあったかのように淡々と声を上げていた。

 

「さっきからオカルト染みた根拠も無い発言ばっかり言いやがって。タイムトラベルだとか、時空を超えるだとか、ふざるのもいい加減にしろ。ンな事あるはずがない。」

「あり得ない? じゃあ一体それは誰が証明したんですか? そもそもこんな奇怪な事件に常識を当てはめる事こそが大きなミステイクです。こう言う事には発想を飛躍させる事が重要なんです。」

「……俺はそんなふざけた事は信じない。御託を並べて満足か?」

 

2人の深い黒瞳が重なり合った。

もはや何時、両者が殴りかかってもおかしくない雰囲気が辺りに漂い始めた。

ネプテューヌは自身の背筋に冷たい物が走るのを、椅子に座ったまま二人を見つめ、ひしひしと感じていた。

二人を見つめるその瞳も、いつの間にか興味から恐怖へと色を変えていた。

そんな中、その空気を引き裂くようにネプテューヌの後ろの方から温和な声が上がった。

 

「ほらほら、2人とも。この娘怖がってるよ? まぁまぁ、平和(ピンフ)平和(ピンフ)。」

 

声を上げたのは野々村だった。

直後に2人は一瞬互いを強く睨みながらも、その視線を互いに別方向へと向けた。

あくまで2人は刑事、犯罪者でもない民間人を怖がらせてしまう事はタブーにあたる。

2人が視線を外して雰囲気を和らげたのは、その部分に当たることが大きいのであろう。

その性質をうまく利用した野々村の言葉は、ある意味この状況における模範解答のようなものだった。

そして当麻が視線を外した先、そこにいたのは他でもない、ネプテューヌだった。

 

「サーセンね、怖がらせちゃって。改めまして、刑事をやっている当麻です。」

 

三角巾に包まれた左腕を額に押し当てて敬礼しながら、当麻は椅子に座っているネプテューヌの方へゆっくりと歩み寄り、目の前の椅子に腰掛けた。

その時、既にネプテューヌの瞳から恐怖の色は消えていた。

変わりにネプテューヌは――

 

「はいはーい! 私はネプテューヌ。 よろしくね、当麻さん!」

 

満面の笑みでそう答えた。

思わずそれを正面から見ていた当麻が貰い笑いをしてしまうような、そんな笑顔だった。

 

「んでもって、ネプテューヌの後ろに居るのが野々村係長、あそこに居るハゲが瀬文。」

 

言いながら当麻が2人を右手で指差した。

野々村が笑顔でそれに答え、ネプテューヌに視線を合わせながら敬礼したのに対し、瀬文は冷ややかな視線をネプテューヌではなく、当麻に送っていた。

どうやら”ハゲ”と言う発言が癪に障ったようだ。

とは言え、睨みつけられている本人の視線はネプテューヌに向いているが故に、その視線に本人が気付く事は無かった。

 

「当麻さんに野々村さん、それに瀬文君か~。よろしくね!」

「プッ、瀬文”君”だって。」

 

ぐるりと辺りを見回して2人の顔を再度確認した後、ネプテューヌの好奇に満ちた笑顔とよく通る声が二人を釘付けにした。

いや、瀬文の場合は違う意味も含まれているだろう。

ネプテューヌの傍で吹き出す当麻を殺気すら感じられる視線で睨みつけると、瀬文は不機嫌そうな表情のまま唇を上下させた。

 

「……なんで”君”なんだ。せめて”さん”にしろ。」

「あれ? 嫌だった? 瀬文君って意外に繊細なんだね~。」

「ブフゥッ、アッハハハハハハ!!!」

「だから”君”付けするな! そしてお前は腹抱えて笑うな!!」

 

ネプテューヌの気の抜けた発言に瀬文の怒号が未詳の閉鎖空間内に響き渡った。

そしてその怒りの矛先の7割はネプテューヌの発言がツボにはまったらしく、先ほどから右腕を激しく膝の上に叩き落しながら俯いて爆笑している当麻に向けられていた。

しばらくして当麻は顔を上げると、正面にいるネプテューヌと互いに顔を見合わせた。

2人の微笑みに溢れる表情を見るからに、先ほどの瀬文の怒号は2人には一切届いていないようにも思われた。

 

「いや~、笑った笑った。何かあたしとネプテューヌは気が合いそうっすね。」

「うんうん、私も当麻さんとは気が合いそう!!」

 

2人は互いに右手の平を出し合うと、イエーイと掛け声を上げながらハイタッチした。

能天気な笑みを浮かべる2人を尻目に、瀬文の心境は暗い色に染まっていた。

――これからこいつらと付き合って行かなきゃいけないのか…。

胸のうちで瀬文はそう呟くと、軽いため息を吐きながら自分のデスクへと歩み寄った。

だが瀬文はまだ知らない。

この2人が後に瀬文にとってかけがえの無い存在になることに。

この出会いが、その存在が、どれ程瀬文を助け、支えていくのかと言う事に。

そしてふざけた仕事だと思って受けたこの依頼が、後に始まる悲劇の第一歩だという事さえも知りはしない。

 

 

運命は終着駅に向けて動き出す。

――ファティマ第三の予言という名の運命に向けて。

 

 

 

 

~未詳ジャーナル~

 

当麻「は~い、今回もダラダラと始まりました、未詳ジャーナルの時間です。今回の司会は当麻と――」

ネプテューヌ「みんなの主人公! ネプテューヌがお送りしまーす!!」

当麻「初っ端からテンション高っけーなオイ。前回のテンションの低さが際立つわ~。」

ネプテューヌ「ふっふ~ん、私が来たからにはこれからはずっとテンションMAXで行くよー!!」

当麻「まぁ1人で盛り上がってるとこ悪いんですけど、早速人物データ、どうぞ。」

 

《人物データ》

 

名前:野々村 光太郎

身長:179cm

容姿:黒い瞳に白髪交じりのグレーの髪。歳の割には相当体格はガッシリとしている。

服装:グレーのスーツの下に赤紫のカーディガンと白のYシャツ。ネクタイの色は日によって変わる。

 

未詳事件特別対策係係長で、元捜査一課弐係(通称:ケイゾク)係長。定年を迎えた後、嘱託として未詳の係長に就任した。

激しやすい部下たちをなだめる温厚な老刑事で、ギャグやボケをかましては瀬文にたしなめられるとぼけた人物。

不倫相手である正汽雅からは結婚を迫られているが、弁護士の現妻とは離婚調停が進まず板ばさみ状態。弐係時代から現在に至るまで、雅という名前の何人もの女性と結婚不倫を繰り返している。糖尿病を患っている。

未詳の部屋でミジンコを飼い、常に好物の柿ピー入りのビンを肌身離さず持ち歩く昼行灯で、いまひとつ頼りないが、ここぞという時に刑事としての厳格な一面を見せることもある。

多数の後輩たちを世話してきた人望の厚さから密かに慕われており、その時代からの愛称としてゴリさんと呼ばれることがある。

 

 

当麻「野々村係長は凄腕の刑事だったらしいっすからね。あたし達だけじゃなくて他の警察関係者からの信頼も厚いんですよ。」

ネプテューヌ「でもいまひとつ頼りないよね~。」

当麻「やる時はやる人なんすけどね。普段はお調子者の老人ですから。」

ネプテューヌ「ま、そんなわけで今回も無事、お終いだね!」

当麻「無事じゃねーよ。この小説、第一話からぶっちぎりの不人気っすからね。下手したら十話もたないっすよ。」

ネプテューヌ「えええぇぇぇええええ! ちょ、まだ始まったばっかりじゃん!!」

当麻「”戦いはこれからも続く”みたいな終わり方は漫画なんかじゃ定番なんすよねー……。」

ネプテューヌ「むむむ……大丈夫!! 私が出たからには人気もコメントも大幅に上げちゃうよー!!!」

当麻「ネプテューヌじゃ無理無理…。」

ネプテューヌ「むっ、当麻さんは私の力を知らないなー。私にかかれば簡単だよー!!」

当麻「ほっほ~う。んじゃ、あたしと1つ賭けをしませんか?」

ネプテューヌ「? 賭け?」

当麻「そっ、もしコメント欄のコメントが3つ以下なら、ネプテューヌはこの超激辛のジョロキア入り味噌餃子を食してもらいましょうか。」

ネプテューヌ「ねぷっ!?」

当麻「んで、コメントが4つ以上なら……ノワールにこの濃度10倍の激苦センブリ茶を飲んでもらいましょうか(黒笑)」

ネプテューヌ「あー! 当麻さんズルイ!!」

当麻「シャラップ! あたしがのた打ち回っても面白くないっしょ? 配慮配慮。」

ネプテューヌ「ふふん、ノワールには悪いけどこの勝負、私の勝ちは確定的だよ!!」

当麻「じゃあ次回、ネプテューヌが激辛に泣くのか、それともノワールが初登場でのた打ち回るのか、お楽しみに~!」

ネプテューヌ「あれ? 次回予告……。」

 

 


 
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