~聖side~
俺が洛陽に入ってから今日で一年…。
つまり、雅の言っていた北と南からの訪問者が来る時となった。
朝、目が覚めると同時にこの事を思い出した俺は、直ぐに支度を整えて朝御飯を食べ、政務をこなす。
せっかく俺を訪ねてくる人がいるのに、寝ていたり、政務中だったりしたら相手に申し訳ないと思ったからだ。
……実はこのとき。
「……聖様が朝早くから政務をしてらっしゃいます~…。」
「……まさか…あのお頭が…。」
「……これは…夢か何かなのです…。」
「……あうぁぅ…朝御飯作れませんでした…。」
執務室の扉が半開きで、中を四人の少女達が覗き込んで呟いていたのを聖はまったく知らない。
普段はずぼらで、朝は寝坊し、政務に取り掛かるのが遅い聖が、起きて政務をしていたことで、四人の少女達は何かあったのでは……と心底心配しているのであった。
朝早くから政務を片付け始めると、昼前には全ての案件が片付いた。
今執務室には目の前でうんうん唸っている一刀がいるだけ…。まぁ、一刀頑張れ…。
俺は終わった書簡を纏めて詠の所に持って行くことにした。
コンコン!!
「はい? 開いてるわよ?」
「じゃあ、失礼するよ。」
「まったく何事? 扉を叩くんだもん、何かあったのかと思ったわ。」
「あぁ、あれは『ノック』と言ってな。俺の世界ではあれを入る前にすることで、相手に『今から入りますけど入って良いですか?』って意味を伝えるんだ。それで、良ければ良いって言うし、悪ければ待ってもらえるってわけ。」
「なんかややこしいわね…。」
「そう? 俺は簡便だと思うけどね。相手に訪問の意を伝えることが直ぐに出来るし。」
「別にそんなの口で言えば良いだけじゃない。」
「まぁ、普通はそうなんだけどさ。例えば、伝令の兵が急いでやってきて息も絶え絶えのときだと、声をかけれないから扉の前で呼吸が整うのを待つわけだ。それに比べ、ノックをして訪問の意を伝えるのではやっぱりノックのほうが効率的じゃない?」
「うっ…。まぁ、それはその時だけじゃない。それに、呼吸が乱れてたら報告も何も出来ないわ!!」
「報告なんて竹簡か何かにでも書かせれば良いじゃないか。そうすれば息が整うのを待つ時間も要らない。」
「字が書けない人も居るわ!!」
「……そんな兵を伝令として雇っている時点でどうかと思うぞ…。」
「……でっ…でも、足の速さを見込んで雇っているのだからそれぐらい……。」
「今言う様な状況になったとき、対処が一秒遅れるだけで被害は数百となる。ならば、少しでも早く伝令が出来るようにしておくのは大事なことだと思うが??」
「……。」
「……所でなんだが…。」
「……何よ…。」
「何で俺達はこんなことで激論を交わさないといけないんだ?」
「アンタが突っかかってきたからでしょ!!」
「えっ!!俺が悪いのか!?」
「そうよ。アンタが初めから『はい、そうですね。』って言っていればこんなことになってないわよ。」
「むぅ…。そりゃ悪かったな。すまん、詠。」
「……謝んないでよ。ボクだって少し突っかかったところはあるんだから…。」
「お前にも非があんじゃん!!」
「だから少しって言ってるでしょ!!大々的にアンタの方に非があるのよ!!」
「あ~…はいはい。分かった分かった。」
「ったく…。で?何の用?」
「あぁ、今日の俺の分の書簡が片付いたから持ってきた。」
「もう終わったの!! いくらなんでも早すぎない!? アンタ、適当にやったんじゃないでしょうね!!」
「適当になんてやるかよ。まぁ、内容は詠が読んで確認して使えるものは使ってくれ。俺は今日は用事があるんだ。」
「用事? アンタ、午後は非番だっけ?」
「あぁ、どうやら俺を訪ねてくる人間が二人来るらしくてね。」
「何でそんなこと分かるのよ?」
「さぁ、俺の勘ってことにしといてよ。」
「天の御使いの勘…ね…。 何だかとてつもなく当たりそうな勘ね。」
「ははっ…。果たしてどうなるかな。」
「まぁ良いわ。アンタの分の仕事は終わったんだし、好きなようにしなさい。」
「おう。ありがとな。詠も頑張れよ!!」
俺は詠に向かって微笑み、その後部屋を出て行く。
部屋の中では…。
「……( ///)……はっ!!いけないいけない。何、ぼ~っとしてるのよ…。 あぁ~もう、顔が熱い…。こんなんじゃ集中できないじゃない!! もう!!全部アイツのせいなんだから!!!!」
意識を切り替えて書簡に向かう。
だが、まだほのかに頬は赤く染まっているのだった。
「ふふふっ。詠ちゃんは素直じゃないなぁ~…。」
そして、その姿をしっかりと月に見られていたのだった。
執務室から自分の部屋へと戻る。が、そわそわとして落ち着かない。
訪問者が二人来るのは知っているが、何時来るかまでは分からない。
もしかすると今すぐにでもやってくるかもしれない。
もしかすると今日の夜にならないと来ないのかもしれない。
そんな気持ちで待っていれば、そわそわするのも至極当然なわけで…。
すると、廊下を誰かが走る音が聞こえる。
その音は俺の部屋の前まで来ると急に静かになり、
「徳種殿。お部屋に居られますか? 尋ね人が南門に来ていらっしゃいますが…。」
と、はつらつとした若い男の声が扉の向こうから聞こえてきた。多分董卓軍の兵士の人だろう。
「分かりました。直ぐに行きます。」
はやる気持ちを抑えながら、俺は兵士とともに南門へと向かった。
そこにいたのは…。
「お頭!! 聖のお頭!!!!」
「勇!!! どうして…お前、何でここに…? 街は…。県令の職はどうしたんだよ!!」
「へぇ、それなんですが…。」
「それは私が説明いたしますわ。」
声がしたのは勇の後ろ側。
そこから現れたのは、白眉の似合う見覚えのある美女で…。
「君は………馬良ちゃん!! …どうして…。」
「ご説明いたしますわ。私達は徳種さんが水鏡塾を出た後、皆で話し合って、広陵の県令をお尋ねしました。今は勇さんの代わりに簡擁ちゃんが県令をしております。」
「姉さん達のお陰で町はより一層発展してやす。そんな中、聖のお頭が洛陽に居るって言う情報が入りやして…。」
「少しでも役に立てればと言うことで、兵を率いて参上した次第でございます。」
後ろを見ると約五百程の兵が勢ぞろいしている。
中には町で自警団をしていたやつらもいる。
「……どうか、徳種さん。私達があなた様のお役に立てるかは分かりませんが、是非お仲間に加えていただきたく存じます。」
「それは皆で話し合ったことなのかい?」
「はい。」
「……まぁ、知った仲だしな…。無碍には出来んよ。」
「では…よろしいのですか?」
「あぁ、よろしく頼む。」
「聖のお頭。俺達纏めて使ってくだせぇ!!」
「……それは…今は出来ない。」
「なっ!! どうして!!!?」
「……やはりですか…。」
「馬良ちゃんは分かってたのかい?」
「……ここは洛陽。董卓さんが統括していらっしゃる地ですので…。」
「どういうことだか…俺っちには全然わかんねぇんですけど…。」
「つまりだな…。ここは董卓さんの地。俺ら他所者が兵を引き連れて闊歩して良い場所じゃないってことだ。」
「…なるほど…。分かりやした…。俺っち達は邪魔だってことですね…。」
「いやっ…。これが良い機会かもな…。 洛陽に来て一年…大体町の構造は分かったし…そろそろ次に行かないととも思っていたしな…。」
「それじゃあ……。」
「あぁ…。さっきのは取り消しだ。勇、馬良ちゃん、良く来たね、歓迎するよ。兵の皆も、良く来てくれた!! 我々はこれから数日ここ洛陽に泊まり、その後、黄巾賊討伐の旅に出る。皆のもの、存分に手柄を上げてくれ!!」
「「「「おおおおおぉぉ~~~~!!!!!!!」」」」
大地に響き渡るような大きな声。そのどれもがやる気に満ちた戦士の雄たけびとなっていた。
「さて、勇、馬r『朱熹でございます。』えっ??良いの?」
「はい。勇さんにも渡してありますし、これからはお仲間として迎えていただくのですから。」
「俺っちなんかと真名を交換してくれる朱熹姉さんの優しさ…。くあぁ~嬉しすぎるぜ~!!」
「はいはい…。勇はちょっと落ち着こうか…。さて、朱熹。これからはよろしくね。」
「はい、ご主人様。」
「……。」
あれっ?? 何か耳を疑う言葉が……。
「どうかなさいましたか? ご主人様。」
「いや…。何故ご主人様なのか…。」
「ご主人様は仲間と言う意識でいらっしゃいますが、私としましては立場はあなた様のほうが遥かに上…。ならば従うものとしてこの呼び名が普通かと思うのですが…。」
「……。まぁ、呼びたいように呼んでくれれば良いから…。」
「はい、ご主人様。」
「ふぅ~……。さて、話を戻すが『あっ、ご主人様。』……何?」
ポスッ
背中に何かが当たった感触があり、振り向く。
「……直ぐに気付け……馬鹿……。」
「伊籍ちゃん!! 君も参軍してたのかい!?」
「……悪い?」
「いやっ…別に…。」
えらく不機嫌な伊籍ちゃんに少ししどろもどろになる俺…。何かしたかな…。
すると、伊籍ちゃんは少し悲しそうな顔をして、
「……私も…仲間になって良い?」
と言った。
「………ふふふっ。あははっ!!!」
「…何が可笑しい?」
「…勿論だよ。あの時の皆が仲間になってくれたらどんだけ俺が助けられるか…。是非ともお願いしたい。」
「……。(コクン)」
「よろしくね、伊籍ちゃん。」
「……んっ……蛍。」
「……蛍、これからよろしくね。」
「……よろしく、ご主人様。」
「それ定着??」
「……朱熹が呼んでるから。」
「……了解。さて、じゃあ三人は俺に付いてきてくれ。こいつらをここに泊めるために、ここのお偉いさんとお話しないといけないからな。」
「了解でさぁ~。(了解でございます。)『……了解。』」
こうして、仲間とともに一旦城へと戻ることにした。
詠にこのことを話すと難色を示したが、それでも少しの間なら良いということだった。
こうして、着々と俺の勢力が大きくなっているわけだが、果たして北からの訪問者と言うのは…。
勇たちと一刀たちが全員揃ったところで皆が皆、真名の交換をしている。
これで晴れて皆が一つになれたのかな?
麗紗は一年ぶりに会う友達とおしゃべりをしていた。
「蛍ちゃん……久しぶり…。」
「……麗紗も。」
「一年…振りかな…?」
「……。(コクン)」
「何だか…もっと会ってない気がするね…。」
「……それだけ、一緒に居たから。」
「あらあら、私にはないんですか?」
朱熹は少し不満そうな顔をしながら、麗紗に後ろから声をかける。
「ビクッ!!!」
突然後ろから声をかけられて驚く麗紗。
「しゅ…朱熹さん…。いえ…あの…これは…その…あうぁぅ…。」
驚きでテンパッた麗紗は、言葉がまとまらずあわあわしていた。
「おいおい…。麗紗を困らせるなよ、朱熹?」
「困らせてなどいませんわ、ご主人様。ただちょっとからかってみたくなっただけでございます。」
「あの…その…朱熹さんも…!! …お久しぶりです…!!!」
「麗紗。私達はもう仲間なのですから…敬語など不要でございますよ。」
「で…でも…その…。朱熹さんは…私よりも年上だから…。」
「……麗紗。あなた、それは私が年寄りだと言いたいのかしら?」
おぉ…。朱熹の背中からまがまがしいオーラが…。
麗紗を見ると、顔を真っ青にしてガクガク震えている…。
「そっ…そんなこと…一切…思っていません…。(ガクガク)」
「あら…本当にそう思ってますか?(ゴゴゴ)」
「ひぃ~~~…。」
あまりのプレッシャーに勝てなくて、麗紗は俺の背後に回りガクガク震えてる。
「朱熹…いい加減止めとけ。」
「私は何もしておりません。」
「明らかに怒ってるじゃん…。」
「だから、私は怒っておりません!!」
「……明らかに……朱熹、怒ってる。」
「はぁ…。俺よりも若いのに何をそんなに年を気にするのか…。」
「ご主人様は私よりも年上なのですか!?」
「……初耳。」
「まぁ多分だけどね。俺そろそろ30歳だしね…。」
「「「!!!?」」」
「ん?? どうかしたか??」
「いっ…いえ…なんでもありませんわ…。(てっきり同年代かと)」
「何でも…ないです…。(お兄ちゃんって童顔なんですね…。)」
「……意外。」
「まぁ、そんなだから気にすんな!!」
俺は慰めるように朱熹の頭を撫でる。
「……( ///)ずるいです…。(ぼそっ)」
「いいな…朱熹さん…。」
「……。(ムスッ)」
「…ほらほら、怒るなって…。」
「……( ///) もう少しするなら……許さない……訳でもない。」
「あの…お兄ちゃん…私も…。( ///)」
「はいはい、麗紗もね。」
「あうぁぅ。( ///)」
こうして、離れ離れになった仲間はまた一つとなって同じ道を進むようになる。
その道の先にある理想を目指して…。
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どうも、作者のkikkomanです。
前話では一刀の能力が開花しましたが、指輪にはこういう設定を入れてました。
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