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IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第五十三話 ~クロウ、出張する~

Granteedさん

第五十三話です。

とうとう夏休みに突入したクロウ。何もないクロウとは対象的に、千冬はクロウと一緒に過ごす夏休みの為に着々と準備を進めていた。

あれ?でもクロウの様子が……

2012-10-25 20:15:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:8680   閲覧ユーザー数:8153

「暇だ……」

 

自室でそんな事を宣っているのは制服姿のクロウ・ブルーストだった。時間は現在午後5時、クロウはベッドに寝転がりながら、リ・ブラスタの機体データを見て暇を潰している。

 

(こんなに暇だとは、流石に思わなかったぜ)

 

既に夏休み二日目、クロウは丸っきり暇を持て余していた。初日はアリーナを使用して一人で特訓を行っていたのだが、それは新しいリ・ブラスタに体を慣らす意味合いが強かった。幸い、ブラスタを操縦していた時と同じ感覚でリ・ブラスタも使いこなせたため、目的は一日であっさりと達成されてしまった事になる。手首のブレスレットから投影されているディスプレイを消し、天井を見つめていると不意に部屋に備え付けられている電話が鳴り響いた。

 

「うおっ!?」

 

クロウは驚くが、取らないわけにもいかない。枕元の隣に置かれている受話器を取り上げると、耳元に近づけて喋ってみる。

 

「はい」

 

『クロウ・ブルーストくん?あなたにドイツから国際電話が入っているんだけど、繋いでいいかしら?』

 

受話器から聞こえてきた声はIS学園の職員の物だった。確か総合受付にいた人間のはず、そう思い当たったクロウは返事を返す。

 

「ええ、構いません」

 

『それじゃ、繋ぐわね』

 

ブツッと一旦回線が切れる音がクロウの耳に届く。次に聞こえてきたのは、クロウを“教官”と崇めるクラスメイトだった。

 

『おはようございます、クロウ。ラウラ・ボーデヴィッヒです』

 

「おお、ラウラか。どうした?」

 

『はい。その……クロウに相談があるのですが』

 

珍しく歯切れの悪い物言いをするラウラ。クロウは若干不思議に思いつつも、取り敢えず優しい声をかけてやる。

 

「どうした?いいから話してみろ」

 

『クロウは現在、その……予定は空いていますか?』

 

「ああ、恐ろしく暇してるぜ。退屈は人を殺すとはよく言ったもんだ」

 

『あの、それでは……ドイツに旅行などいかがでしょうか?』

 

いきなりのラウラの言葉に呆気に取られるクロウ。しかしすぐに回復するとそのまま疑問を口にする。

 

「何だそりゃ?ラウラ、お前何かあったのか?」

 

『ええと、その……少し困った事態になりまして』

 

「はっきり言ってみろ。別に構わないから」

 

『それでは……クロウは私が、ドイツで軍に所属している事はご存知ですか?』

 

「ああ、知ってるぜ」

 

『それで本日部隊の仲間と一緒に訓練した所、私の技量がIS学園に行く前より段違いになっていると言われまして』

 

「まあ、そりゃな……」

 

ラウラは一夏達に比べて受けていた期間は短いとはいえクロウ監修の下、密度の濃い特訓をほぼ毎日行ってきたのだ。しかも教える側のクロウは元特殊部隊出身、おまけに本物の戦場を知っているときている。これで腕が上がらない方がどうかしているだろう。

 

『それで誰に教わった、と隊員に質問攻めを受けまして……その、ついクロウの名前を……』

 

「おい待てラウラ。まさか俺の事を──」

 

『い、いえ!クロウの過去は言ってません!しかし隊員達が“私達もその特訓を受けてみたい”と……』

 

「……何だと?」

 

クロウが不思議そうな声を上げる中、ラウラは電話越しに悲鳴に近い申し訳なさそうな声で謝罪する。

 

『ほ、本当に申し訳ありません!』

 

「いや、別にいいが……俺が行って大丈夫なのか?その、機密とかは」

 

『こちらがお呼びするのです、その辺りは融通を効かせましょう。それと謝礼の方ですが日本円に換算すると──』

 

ラウラの言葉が静かにクロウの耳に突き刺さる。クロウはその金額を聞いた瞬間、態度を180度変えた。

 

『どうでしょうか?もちろん、クロウが嫌と言うのならば断っていただいて──』

 

「いや、行く。というか行かせてください、お願いします」

 

『ク、クロウ!?どうしたのですか??』

 

クロウの媚びる様な声色に戸惑うラウラ。先程までそこまで乗り気では無かった人物がいきなり自分の意見を変えたのだ、戸惑うのもおかしな事では無いだろう。

 

『そ、それではいつから大丈夫でしょうか?クロウの予定に合わせるので遠慮なく仰って下さい』

 

「今日から。これから飛行機に乗ってそっちに行くぜ」

 

元々前の世界では期間は短かったとはいえ、世界を股にかけたサラリーマン生活を送っていたのだ。フットワークは軽い方だと自負している。話している間にも制服を脱いで私服に着替え始める。

 

『大丈夫なのですか?いきなりというのは流石にクロウに迷惑では……こちらに気を使う必要はないのですよ?』

 

「いや、ただ単純に暇なだけだ」

 

『そうですか、分かりました。チケットの方は私の方で手配しておきます。明日の朝、空港でお待ちしています』

 

「ああ、じゃあな」

 

そう言って受話器を戻す。クロウは自分の鞄に、制服の替えを含めた数着の私服等を詰め込む。自分でも予想外な程あっさりと支度を済ませると、クロウは手早く部屋の中を確認して何か忘れ物が無いか確認すると部屋を出た。部屋を出て鍵を閉めて廊下を歩いて寮を出る。そのまま最寄りの駅から電車を使って空港を目指した。ふと疑問が心の中に湧き上がったクロウは電車に揺られながら頭を捻る。

 

(ん?何か忘れているような……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロウが電車に乗り、飛行機に乗り、雲の上を飛ぶこと約半日。現地時間で午前9時、クロウは無事ドイツへと入国した。現在は空港のターミナルで人探しの真っ最中である。

 

(あいつ、どこにいるんだ?)

 

「おい、貴様」

 

クロウがラウラを探していると、不意に背中から声をかけられる。クロウが振り向くと、そこには凛々しい雰囲気と軍服を纏った妙齢の女性が立っていた。頭には軍帽を、ラウラと同じく左目には黒い眼帯を着けている。

 

「貴様、クロウ・ブルーストか?」

 

「……失礼だが、初対面だよな?」

 

「もう一度言う。貴様、クロウ・ブルーストか?」

 

「……ああ、そうだ。それがどうかしたか?」

 

クロウが返答すると、女性は懐から携帯電話を取り出して何処かと連絡を取り始めた。不審に思ったクロウは何時でも逃げ出せる体勢を作って相手の動きを待つ。十数秒後、女性は携帯電話を懐にしまい込むと、クロウと相対する。

 

「今、隊長が来る。そのまま大人しくしていろ」

 

「は?おいアンタ、隊長ってのは──」

 

「クロウ!!」

 

クロウが女性に質問しようとしたその時、ターミナルに聞き覚えのある声が響く。クロウがその声に振り向くと、人ごみで誰も見えない。

 

「……?」

 

「こちらです!」

 

声と共に人ごみの中から手が上がった。クロウが荷物を持って人ごみをかき分けながらその手に近づいていくと、見知った人物が現れる。

 

「ようこそ我が祖国、ドイツへ!」

 

「よおラウラ。済まなかったな、手間取らせて」

 

クロウの目の前には軍服に身を包んだラウラがいた。黒を基調として所々に赤のラインが入っている軍服は、妙に彼女に似合っていた。

 

「おお、似合ってるじゃねえか」

 

「そ、そうですか?」

 

「ああ、後で写真でも取って一夏に送ってやるか。きっとあいつも喜ぶぜ」

 

「そ、それでしたら──」

 

「隊長」

 

ラウラとクロウが会話している所に先程クロウに問いかけた女性が割り込んでくる。ラウラは一瞬で軍人の顔に戻ると、その女性の言葉に耳を傾ける。

 

「私は先に戻っています。流石に隊の仲間をいつまでも放っておく訳には参りませんので」

 

「ああ、ご苦労だった。戻っていいぞ」

 

「では」

 

女性は敬礼すると、足早に走り去って人ごみの中に消えていった。疑問に思ったクロウが思わずラウラに問いかける。

 

「なあラウラ、あの女誰だ?」

 

「彼女は私の所属する部隊、“シュヴァルツェ・ハーゼ”の副隊長でクラリッサ・ハルフォーフと言います。関係的には私の副官ですね」

 

「そうか。そんで俺はこれからどこに行けばいいんだ?」

 

流石にいつまでも立ち話をしている訳にもいかないだろう。少年と軍服を着込んだ少女の組み合わせはどう見てもおかしく、先程から通行人の視線を集めていた。

 

「はっ、表に車を待たせてあります。行きましょう」

 

そう言ってラウラがクロウの前に立って先導を始めた。クロウも大人しくついていく。

 

「ラウラ、どうやって俺の事を見つけたんだ?」

 

「クロウが乗っている可能性のある便が来る度に、ターミナル全体に隊員を配置しておりました。クロウの身体的特徴は元々私が彼女らに伝えた物です」

 

「あのよ……俺がこっちに着いたら、お前に一本連絡を入れれば済む事だろうが」

 

「何を仰るのですか。クロウはわざわざ貴重な時間を割いてこちらに来ていただいたのです。礼儀を尽くすのは当然でしょう」

 

(その方向性が少し間違ってる気がするんだが……)

 

クロウとラウラが歩くこと数分、ターミナルを抜けると一台の立派な車が停車していた。ラウラは車のドアを開けて、クロウに先に乗るよう手振りで示す。

 

「さあ、どうぞ」

 

「ああ」

 

クロウもラウラに導かれるまま、車に乗り込む。クロウが乗った後、ラウラも車に乗り込んで運転手に命令を下す。

 

「出してくれ」

 

そのままゆっくりと動き出す車の中で、クロウは難しい顔をして頭に手をやった。IS学園を出てからというもの、ずっとクロウの頭の中から消えない疑念について考える

 

(何だろうな?何かが引っかかる……)

 

「クロウ?どうかしたのですか?」

 

仏頂面をしているクロウを気にかけるラウラ。クロウは己の心の内を悟られまいとラウラに大丈夫だ、と告げると座席に体を預ける。

 

(まあ、思い出さないならそれほど重要じゃないだろ……)

 

 

 

 

クロウがいる場所から約9000km、IS学園の寮の廊下を一人の女性が歩いていた。両手を後ろ手に組んで、その手には何やら二枚の紙切れが握られている。

 

(ふふふ……小娘共のいない今が、絶好のチャンス!)

 

女性は高笑いを抑えつつ、廊下を走らない様気をつけながら一歩一歩目的地まで歩いていく。頭の中で今まで何度も行ってきたシュミレーションをもう一度行う。

 

(まずは平常心だ。そして普通に、ごく普通にアイツと出かける流れに……)

 

数分後、女性は目的とする場所に着いた。廊下に誰もいないのを確認した後、何度か深呼吸をしてからドアをノックする。しかし何度やっても部屋から返事は帰ってこない。しかしこんな事で諦める女性ではなかった。

 

(全く、こんな時間まで寝ているとは。私が直々に起こしてやろう)

 

女性は懐から鍵束を取り出すとドアに書かれている部屋番号と同じ番号が書かれている鍵を見つけて鍵穴に入れる。ガチャッという音がして鍵が開くと、女性はそろそろと部屋に侵入する。人の部屋に不法侵入するとは、どう考えても犯罪だがそんな物では女性の行動を止める事は出来ない。

 

(ふふふ……)

 

笑みを抑える事が出来ずに思わず顔が笑ってしまう女性。しかしその笑顔は部屋の様子を見た途端凍りついてしまった。

 

(い、いない……)

 

部屋には誰もいなかった。既に学園全体を探してどこにもいない事は確認済み、つまりここにいないということは目的の人物は学園内にはいないという事になる。

 

「……クロウゥ!私を謀ったなああああっ!!!」

 

織斑 千冬は猛スピードで部屋から出ていった。主が不在の部屋に、静かにドアが閉まる音だけが響く。

 

 

 

 

 

「何だろうな……やっぱ何か忘れている気が……」

 

「そんな気にしないでも、いつか思い出すと思います」

 

「そうだな、そうするか」

 

 

 

 

「クロウゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

 


 
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