No.500246

ソードアート・オンライン―大太刀の十字騎士―

ユウさん

今日はアスナちゃんのおうちで、シチューを食べましたマル

2012-10-25 19:40:41 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1585   閲覧ユーザー数:1514

私たちは六十一層にある城塞都市、セルムブルグに着いた。

 

セルムブルグの規模はそれほど大きくないが、街並みが綺麗で、市場には店がそれなりに豊富である。

 

ここをホームタウンにと願う人は多いんだが、部屋がとんでもなく高価で(私の家の数十倍くらいかな)、よほどのハイレベルに達ないいと入手は不可能に近いだろう。

 

「うーん、広いし人は少ないし、開放感あるなぁ」

「そうだねぇ」

「なら二人とも引っ越せば」

「金が圧倒的に足りません」

「あそこが気に入ったからねぇ」

「そうですね」

 

 私がファリアに笑いながら言うと、丁寧にファリアは答える。

 

 もうちょっと、仲良く話したいのになぁ。

 

 まず、敬語を止めさせなきゃね。

 

「……そりゃそうと、本当に大丈夫なのか?さっきの……」

「…………」

 

 ああ、クランチール(間違い)のことだろうな。

 

「……わたし一人の時に何度か嫌な出来事があったのは確かだけど、護衛なんて行き過ぎだわ。要らないって言ったんだけど……ギルドの方針だから、って参謀職たちに押しきられちゃって……。どうせなら、ヒナのファリアみたいなのがよかったのに」

 

 何!?ファリアはあげませんよ!私の可愛いファリア何ですから!

 

「大丈夫ですよ。私はヒナ様以外には遣えたりはしませんから」

 

 それなら良かった。

 

「昔は、団長が一人ずつ声を掛けて作った小規模ギルドだったのよ。でも人数がどんどん増えて、メンバーが入れ替わったりして……最強ギルドなんて言われ始めた頃から、なんだかおかしくなっちゃった」

 

 確かに、はじめの頃は楽しかったのになぁ。

 

 みんなで小さいギルドホームで騒ぎあって、あのときぐらいかなぁ、たまに休んだりしたのは。

 

「まあ、大したことじゃないから気にしなくてよし!早く行かないと日が暮れちゃうわ」

 

 話を切って歩き出したアスナに続いて、私たちも街路を歩き始めた。

 

 セルムブルグか、ここにも家買って別荘とかにしようかな。

私がそんな別荘計画を考えていると、アスナの家に着いた。

 

 アスナの家は小さいが美しい造りのメゾネットの三階で、何回か来たことがあるが、中もきれいだった。

 

「しかし……いいのか?その……」

「なによ、君がもちかけた話じゃない。他に料理できる場所がないんだから仕方ないでしょ!」

 

 アスナはぷいっとキリトから顔をそむけ、階段を登って行く。

 

 私は当たり前のように、アスナについていく。

 

「おんじゃましまーす!」

「おじゃまします」

「お……おじゃまします」

 

 アスナの部屋は、見たことないほどきれいで、毎回毎回驚かされる。

 

 それでいても、居心地の良さそうな雰囲気をただよわせているのだから、少しの間アスナの部屋に入り浸った私は悪くないと思う。

 

「なあ……これ、いくらかかってるの……?」

 

 キリト君がアスナに質問をする。

 

「んー、部屋と内装をあわせると四千kくらい。着替えてくるからそのへん適当に座ってて」

 

 四千kって、掛けてるなぁ。

 

 ちなみにkとは千をあらわす短縮形なので、四千kとは四百万コルということになる。

 

 私の家なんてベッドとテーブルくらいしかないのに。

 

 まあ、考えるのはよそう。

 

 私は武装を解除してソファーに座る。

 

 少しすると、アスナが簡素な白い短衣(チュニック)と膝上丈のスカートに着替えて奥の部屋から出てくる。

 

 着替えっても、ステータスウインドウの装備フィギュアを操作するだけなのだが、着替え中の数秒だけ下着姿になってしまうため、女プレイヤーは人前で着替えたりはしない。

 

 それにしても、アスなんのお肌きれいだなぁ。

 

 私がそんな変態的なことを考えてると、アスナがキリト君にじろっと視線を投げ、言った。

 

「君もいつまでそんな格好してるのよ」

 

 言われたキリト君は、慌てて武装を解除して、《ラグー・ラビットの肉》をオブジェクトとして実体化させてテーブルに置く。

 

 ちなみに、ファリアはいつの間にか部屋着に着替えている。夜狩りするってのに。

 

「これが伝説のS級食材かー。……でも、これ四人で食べるには少なくない?」

「確かにそうだな。ヒナ、どうするんだ?」

「ああ、はい」

 

 私はアイテムウインドウから、《ラグー・ラビットの肉》をテーブル置く。

 

「これ使っていいよー」

「これどうしたの……?」

「ん?ああ、たまたま見つけたからとっといた」

「そ、そう」

 

 アスナはぶつくさ何かを呟きながら、キッチンに向かい、料理を始める。

 

 こっちからは見えないので、料理過程は省略して。

 

 わずか五分ほどで食卓が整えられ、私たちも席に着いた。

ちなみに、私側の三つの椅子に右からアスナ、私、ファリアの順で、向こう側にキリト君が座ってる。

 

 私たちの前には、湯気を上げるブラウンシチューが大皿に盛り付けられている。

 

 うーん、いいにおいだな。さすがアスナの料理。

 

 なんだか、知らぬ間にアスナたちが、いただきますも言わずに食べ始めてる。

 

 ずるーいと思いながら、私もシチューを口に運ぶ。

 

 美味しい。

 

 お肉に歯を立てると、肉汁が迸って、シチューと一緒に口の中に消えていく。

 

 まあ、実際には食べてないんだけど。

 

 SAO内での食事は、《味覚再生エンジン》という様々な《物を食べる》感覚を脳に送り込んで、実際に食事しているように感じさせるプログラムを使っている。

 

 なので、現実の私が何も食べてなくても、脳は《食べた》と錯覚しているわけで、お腹は膨れる。

 

 それにしても、うーん、美味しい。

 

 私たちの前の大皿にあったシチューは、きれいさっぱりなくなった。

 

 その皿を前に、アスナが深く長いため息をついた。

 

「ああ……いままでがんばって生き残っててよかった……」

 

 そんなに美味しかったのか。

 

 まあ、私も同感だけど。

 

 そんなことを考えながらお茶を啜ってると、アスナがぽつりと呟いた。

 

「不思議ね……。なんだか、この世界で生まれて今までずっと暮らしてきたみたいな、そんな気がする」

「……俺も最近、あっちの世界のことをまるで思い出さない日がある。俺だけじゃないな……この頃は、クリアだ脱出だって血眼になるやつが少なくなった」

「攻略のペース自体落ちたとも聞きます。ヒナ様のおかげで今のペースを保ってられてますが……」

「そうだね。今最前線で戦ってるプレイヤーなんて、五百人もいないでしょ。危険度のせいだけじゃないと思う……みんな、この世界に馴染んできてる……」

 

 私だってそうだもん。

 

 そう思いながら、私は考える。

 

 みんなを脱出させるために、と思っているが、最近私も迷宮に籠ることが少なくなってきた。

 

 はぁ、馴れって怖いねぇ。

 

 これが、茅場さんのやりたかったことなのかな。

 

 現実世界と違う、もうひとつの世界の創造。

 

 でも、私は帰したい。

 

「でも、わたしは帰りたい」

 

 アスナのように思ってる人もいるから。

 

 私がそう考えてると、アスナは微笑み、続けた。

 

「だって、あっちでやり残したこと、いっぱいあるから」

 

 その言葉に頷いた、キリト君が続ける。

 

「そうだな。俺たちががんばらなきゃ、サポートしてくれる職人クラスの連中に申し訳が立たないもんな……」

 

 確かにそうだな。それもある。

 

 それに、現実のシリカに会いたいもんね。

 

 最後の本音だろ、って?

やだなぁ。そんなわけないじゃん。

 

 そんなことを考えてると、アスナが顔の目の前で手を降り、

 

「あ……あ、やめて」

 

 と言った。

 

 どうしたんだ?

 

「な、なんだよ」

「今までそういうカオした男プレイヤーから、何度か結婚を申し込まれたわ」

「なっ……」

 

 なるほど、確かにあるな。

 

 私もファリアと一緒にいると、結婚してくれって男がいっぱいいるんだよね。

 

 私は経験があるから、頷いたりしているが、そういうのに経験がないキリト君は口をぱくぱくさせている。

 

 そのキリト君を見て、私とアスナは笑った。

 

「その様子じゃ、他に仲のいい子とかいないでしょ君」

「そうだね。仲いいのなんて、エギルとクラインさんぐらいだもんね」

「悪かったな……いいんだよソロなんだから」

「せっかくMMORPGやってるんだから、もっと友達作ればいいのに」

「無理だよ。キリト君は対人スキルゼロだから」

 

 アスナは「そうね」と言ったあと、笑みを消して、姉や先生のような口調でキリト君に問いかけた。

 

「君は、ギルドに入る気はないの?」

「え……」

「ベータ出身者がヒナ以外集団に馴染まないのは解ってる。でもね」

 

 アスナの表情が更に真剣なものになる。

 

「七十層を越えたあたりから、モンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきてるような気がするんだ」

 

 確かに、私もそう思う。

 

 でも、それは気がするじゃなく、実際にイレギュラー性は増している。

 

 どうせ、後半になったら敵が強くなるのは普通とか、試練だとかの考えだろうな。

 

「ソロだと、想定外の事態に対処できないことがあるわ。いつでも緊急脱出できるわけじゃないのよ。パーティーを組んでいれば安全性がずいぶん違う」

「安全マージンは十分取ってるよ。それに、パーティーが安全なのは、ヒナと組んでるから解ってるけど……ギルドはちょっとな。それに……」

 

 なに言うんだろう?

 

「パーティーメンバーってのは、助けよりも邪魔になることのほうが多いし、俺の場合」

「あら」

 

 はぁ、まったく、そんな強がり言わなければ、アスナの《リニアー》は出ないよ。

 

 それにしても、アスナまた早くなったなぁ。

 

 ちなみにキリト君は、ひきつった笑いとともに、両手を上げて降参のポーズを取っている。

 

「……解ったよ。あんたも例外だ」

「わたし『も』って、どういう意味よ」

「ヒナがいるだろ」

「そうね」

 

 納得するの早っ!?

 

 まあ、私とパーティー組んだ人はみんなそう言うよね。

「ヒナは例外だ」って、何でだろう?

 

「なら、しばらくわたしとコンビ組みなさい。ボス攻略パーティーの構成責任者として、君がウワサほど強いヒトなのか確かめたいと思ってたところだし。わたしの実力もちゃんと教えて差し上げたいし。あと今週のラッキーカラー黒だし」

「な、なんだそりゃ!」

 

 最後のはなんだ?理不尽だろ。

 

「んな……こと言ったってお前、ギルドはどうするんだよ」

「うちは別にレベル上げノルマとかないし」

「じゃ、じゃああの護衛二人は」

「置いてくるし」

「じゃあヒナはどうするんだよ」

「「(何で私(ヒナ様)?)」」

「連れていけばいいし。ファリアもいいわよ」

 

 あ、いいんだ。

 

 てか、キリト君、私を反対材料に使うなよ。

 

 それと、時間稼ぎにカップ持っても、中身空だぞ。

 

 それにしても、なんでキリト君はそんなに嫌がるの?

 

「最前線は危ないぞ」

 

 あー、バカだ。そういう強がり言うから、アスナのナイフが出るんだよ。

 

「わ、解った。じゃあ……明日朝九時、七十四層のゲートで待ってる」

 

 キリト君の言葉に満足したアスナは、ナイフを降ろし、ふんふんと強気な笑みを浮かべ、言った。

 

「ヒナとファリアも来なさいよ」

 

 はいはい、解りましたよ。

 

 はぁ、夜狩りは止めとくか、明日起きられなくなるし。

 

 

 

 

 

 

 

 キリト君が食事が終わるや否や、帰宅すると言ったので、私も帰ることにした。

 

 階段の下まで見送ってくれたアスナが、ほんの少し頭を動かして言った。

 

「今日は……まあ、一応お礼を言っておくわ。ご馳走様」

「こ、こっちこそ。また頼む……と言いたいけど、もうあんな食材アイテムは手に入らないだろうな」

「私はまだあるから、食べたかったら言ってね」

「「まだあるの(かよ)!?」」

 

 わお、息があったツッコミだこと。

 

「まあ、普通の食材だって腕次第だわ」

 

 そう言ってから、アスナは上を降り仰いだ。

 

 つられて見上げながら、同じようにつられたキリト君が言った。

 

「……今のこの状態、この世界が、本当に茅場晶彦の作りたかったものなのかな……」

「うん。そうだと思う。いや、この世界を創ったときから、こうなることを予測してたんだと思う」

 

 予測して私たちに、茅場さんは、現実も仮想世界も変わらない。そう言いたかったんだと私は思う。

 

 でも、帰りたいと望んでる人もいる。

 

 だから私は、前に向かって進むだけだ。


 
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