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真・恋姫†無双 外史の欠片 -刀音†無双- 第9話  彼女達の戦い

ネムラズさん

こんにちは、第9話が完成しましたので投下します。

勤務先が2回連続で無くなったり就活中だったり、
アイマスにはまったり英雄クロニクルにはまったり……けほけほ。

続きを表示

2012-10-25 16:24:54 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:1958   閲覧ユーザー数:1654

 

※注意※

この作品には以下の点が含まれる可能性があります。

 

 

・作者の力量不足によるキャラ崩壊(性格・口調など)の可能性

 

・原作本編からの世界観・世界設定乖離の可能性

 

・本編に登場しないオリジナルキャラ登場の可能性

 

・本編登場キャラの強化or弱体化の可能性

 

・他作品からのパロディ的なネタの引用の可能性

 

・ストーリー中におけるリアリティ追求放棄の可能性(御都合主義の可能性)

 

・ストーリーより派生のバッドエンド掲載(確定、掲載時は注意書きあり)

 

 

これらの点が許せない、と言う方は引き返す事をお勧め致します。

 

もし許せると言う方は……どうぞこの外史を見届けて下さいませ。

 

 

第9話  彼女の戦い

 

 

 

-視点:陳宮-

 

漢中を出発してからはや一週間が過ぎ、もうすぐ天水に到着するとの事なのです。

普通はもっと時間が掛かるそうなのですが、丁原殿を始め騎兵隊の練度が凄まじく、その行軍速度は

神速の如しと言えばいいのでしょうか。中でも先行して天水側に連絡を付けに言っている張遼殿の部隊は、

他の隊よりも抜きんでているとねねには思えます。

 

「ちんきゅー……疲れてない?」

「大丈夫なのです、呂布殿。わざわざ気にかけて頂きありがたいのです。」

「……ん」

後ろからそんな声を掛けてくれたのは呂布殿、何故かと言えば今ねねは呂布殿と同じ馬に乗っているのです。

まだ体が小さく用意された馬に乗る事は出来ても進軍に付いていく事が出来ない状態だったねねを、自分の馬に乗せて

一緒に進もうと言って下さったのです。初めは無口でよく分からない人でしたが……凄く良い人なのだとわかりました。

北郷……いえ、今この場に居ないのならば心の中でだけ名前で呼ばせて頂きましょう。一刀殿よりも先に出会ったならば、

ねねは呂布殿に忠誠を誓って部下になっていたかも知れませぬな。

 

そう、まだ一刀殿に伝えてはおりませぬが……ねねは実を言えばもう仕えたい相手を見出しているのです。

いえ、正確には仕えたいではなく傍にいたい、力になりたい……そんな所ですな。

ねねを助けてくれて、色々な事を教えてくれて、嫌な顔一つせず一緒に居てくれた、初めての友達。

一刀殿の力になりたい、一刀殿の為に己の持てる全ての知恵を、力を振るいたいと思っているのです。

 

けれど今はまだ一刀殿もねねも拠点を持たぬ流浪の身、誰かに仕える事も考えておかねばなりませぬ。

正直な所、一刀殿と一緒に居られるのであればねねは構わないのです。

漢中も居心地が良く稲穂殿に仕えるのも悪くはない、そう思いましたが一つだけを見て決めるのは早計というもの。

一刀殿が進めてくれた董卓殿の事も見ておきたいのです。

 

それにしても、領主や太守は性格は別として劉璋殿や劉表殿と言った有力な者も少なくありませぬ。

なのに一刀殿がわざわざ董卓殿を推した理由……とても気になるのです。天の知識というものなのでしょうか?

技術や文化の話は色々と教えてくれますが、天の国に伝わるというこの時代の者達の話を一刀殿はあまり話しませぬ。

まあ未来から来たという一刀殿の時代に伝わると言う事は既に死んでいると言う事ですし……複雑なのでしょう。

 

と、そんな事を考えていたら先行していた張遼殿が戻ってきたみたいなのです。

ねねも呂布殿や丁原殿と一緒に、張遼殿を迎えに行きます。しかし、何か慌てている様な?

その疑問は張遼殿と合流した時に解決しました、とんでもない事を聞かされたのです。

 

「霧はん、大変な事になっとる。賊共の一部が漢中に向けて進んどるらしい……数は一万五千から二万だそうや」

「なっ……!?」

思わず声が出てしまいました、しかしいくら賊だとは言え少なくとも一万五千となると漢中の守備に就く兵の三倍以上。

更に武官と呼べる人材が居ないとなると……不味いのです、もし母上や一刀殿、稲穂殿に何かあったら……!

かたかたと体が震えていたのに気付かずにいたねねを呂布殿がぎゅっと抱きしめてくれました。

大丈夫という小さな言葉と共に伝わってくる温もりが、ねねを落ち着かせてくれます。

 

「霞ちゃん、進行しているのはあくまでも一部なのね~?」

「ああ、それは間違いあらへん。見張りに出とったのは天水の兵らしいし、討伐が決まった時からずっと監視しとったそうやから」

「それで本拠地の方にはどれくらい残っているの~?一部でそれだけというなら本拠地にも結構居そうだけれど~」

「方々に散ってた賊共も集まって来とるらしゅうて随分な数になっとるそうや、六万は下らんらしいで。殆どは歩兵らしいけど」

「六万……別働隊を併せて七万五千から八万ね。随分と数を集めたこと」

張遼殿に対して丁原殿や張衡殿が冷静に敵の規模を問うていきます。この辺りは流石に歴戦の将と言うべきでしょうか、

ねねにはまだこれほど落ち着いていることは出来ませぬ。まだまだ未熟者だと思い知らされるのです。

 

「こちらの戦力は騎兵が主力、西涼の側も騎兵が主と見て良いかしらね~。後は天水の方々だけれど……」

丁原殿が頬に手を当ててそう呟いた時、伝令が駆け込んできたのです。天水の部隊が到着した、との報告でした。

また西涼の部隊もこちらに間もなく到着と言う事らしく、丁原殿は華陀殿と張衡殿を西涼の部隊の迎えに出し、

天水の部隊を自分たちで出迎える事にした様です。

 

 

 

「お主等が洛陽から来たという者達か?五千にも満たぬ様だが……その程度の数で戦力となるのか?」

「ちょっ……この馬鹿、いきなり失礼な事を言ってんじゃないわよっ!申し訳ありません、私は賈駆と申します。

我らが将の無礼、なにとぞお許し下さい……ほら、アンタも謝るっ!」

「うおっ!?いきなり何をするのだ!?私はただ本当の事をだな……分かった、分かった!

失礼した、我が名は華雄、天水一の将だ!」

「あらまあそんなに気にしなくて大丈夫よ~。けれど私じゃなくて他の者が相手ならちょっと困るかもしれないから、気をつけてね~?」

目の前では華雄と名乗った銀髪の将が、賈駆と名乗る眼鏡を掛けた緑の髪の女性に頭を押さえつけられています。

突然のあの様な発言にはねねも少し驚いたのです。最も丁原殿は気にしていないようですが……。

 

「そんなに堅苦しくしなくても大丈夫よ~。それで天水から来たのは二人だけで良いのかしら~?」

「いえ、そう言う訳には……こちらからはもう一人、徐栄という者が偵察に出ています。彼女ももうじき戻ると思います」

「弓使いで背の高い金髪の女だ、こちらに近づいてくればすぐに分かると思う」

丁原殿と賈駆殿、華雄殿が人員の確認をしています。天水からは将が三名……これは多いのか少ないのか。

君主である董卓殿が出てきていないのも気になるところです……と、こちらの思惑を見透かした様に賈駆殿が口を開きます。

 

「北方の異民族が賊と組んでいる可能性もあります。その警戒の為、天水に我らが君主董仲穎を残してきております。

自分もそちらへ向かいたいが状況がそれを赦してくれない。なので討伐が終わった後、改めて挨拶したいと言付かっております」

「わかったわ~……それじゃあ早く片を付けて挨拶に行かないと行けないわね~」

「せやなー……「お伝えします、西涼軍の方々が到着なさいました!」と、西涼かも来たみたいや。自己紹介は顔合わせした後でええか?」

伝令の報告を受けた張遼殿が賈駆殿にそう訪ねると、頷いて同意しました。それを合図として西涼の方々と合流に向かう事にしました。

 

 

「では改めて。私は洛陽より参りました丁原と申します~。今回の討伐軍の総指揮官になるのかしら~」

「ウチは張遼。霧はんの副官や、よろしゅうな。こっちは呂布っちゅうんや。恋、挨拶しぃ」

「ん……恋は、恋……」

まずは洛陽からの丁原殿達から自己紹介を行います。そして次に口を開くのはねね達です。

 

「私は張衡。漢中太守張魯の名代よ。最もうちは武将が少ないから丁原殿の部隊に組み込まれているんだけれど」

「俺は華陀、今回の討伐には医者として参加している。傷の手当てや病気の治療は任せてくれ!」

「陳宮と申します。軍師見習いとして未熟者ながら、漢中にて客将としてしばし仕えております。どうぞお見知りおきを」

少し緊張したせいか普段とは違い固い声が出ましたが、何とか自己紹介は終えられました。

洛陽からの官軍と張衡殿を中心とした漢中軍、総兵力は合わせて五千程。

騎兵を中心に歩兵が二割程、そして一割程が衛生兵となっています。

 

「ボクは賈駆と申します、天水にて軍師を務めております」

「私は華雄、天水の将だ」

「わたくしは徐栄と申します、そちらの華雄と同じく天水にて武将を務めております」

次に声を上げたのは天水の方々。先程居なかった徐栄という将も加わりこちらも将は3名です。

天水も騎兵が中心なのか、部隊の殆どが騎兵となっています。

また攻城兵器を運ぶ工兵とおぼしき者の姿も幾らか見えます……総兵力は二万程でしょうか。

 

「それじゃ、うちが最後かな……あたしは馬超。我が母馬騰の命を受け今回の討伐に参加した。

母様は北方の連中を抑えないといけないから、あたしが西涼騎馬隊の代表になるのかな」

「あたしは馬超お姉様の従妹、馬岱と言います。お姉様の副官として参戦しましたっ。それから……」

 

最後に自己紹介を始めたのは西涼の武将達、しかしなんだか歯切れの悪い様子で視線を彷徨わせています?

何でしょう、馬岱殿と名乗った将がねねの方に……正確にはねねの背後に視線を向けているのですが……。

「そっちで陳宮ちゃんを今にも捕まえかねない様子の人が、うちのもう一人の将・韓遂さんです……」

慌てて振り返ると、はあはあと荒い息を必死に抑えつつ手を広げてこちらににじり寄る人影が……!?

 

「ひっ、く、来るなですーーーー!?」

思わず繰り出した蹴りで相手を吹き飛ばしてしまったねねは、きっと悪くないと思うのです。

 

余談ですがこの時の韓遂殿の行動は、殆ど唯一と言って良い見知らぬ存在だったねねの事を調べる為で、

話し合いが終わった後に良い戦闘訓練を積んでいるだとか武将としてもそこそこ良い線だと言われましたです。

 

 

「痛たた……いやあ、怖がらせてごめんなさいねえ。私は韓遂、この子達のお目付役……かな?

それから霧ちゃんは相変わらず元気そうねえ」

蹴りが決まった脇腹をさすりながら笑ってそう述べたのは青い髪をした一人の少女でした。

どう見てもあちらの馬岱殿と同じ年頃にしか見えないのですが、丁原殿と同い年なのだそうです。

ともあれ、西涼からも武将3名と騎兵が一万五千程。全軍合わせれば四万程の兵力です。

 

 

 

「それじゃあ自己紹介も終わった所で、作戦会議と行こうかしら~?」

丁原殿の言葉に緩みかけていた空気も引き締まります。普段は緩い雰囲気の丁原殿さえ、

その言葉を切欠とした様に鋭いと表現するしかない雰囲気を出しています。

 

「偵察に向かっていたのは徐栄さんだったわね~、どんな状況かしら~?」

「は、賊はこの先二十里程の場所にある小城を本拠地として籠もっております。打ち捨てられていた小城らしく、

城壁や城門も無いよりはましと言った代物ですが……それでも城に違いはありません。

人数は六万ほど、どうやら流れの兵士崩れが頭目を務めているらしく統率はそこそこ取れています。

兵の内訳としてはその殆どが刀で武装した歩兵ですが、弓兵や槍兵、騎兵も存在している様です。

ただし人数的には歩兵が五万以上で、騎兵は三千も居ないと言う事ですが……」

 

「漢中への別働隊については?」

「こちらはその殆どが騎兵でありますが行軍速度は遅く漢中へ到達するには多少の余裕があると思われます。

しかしどうやら奴らは第三陣らしく、三日程前に先発隊として五千、それから一昨日一万四千が漢中へ向かったとの事です」

「なら……今から追いかけても、漢中は攻撃に晒されるって事かしら」

「……そうね。増援の部隊を叩く事は出来るでしょうけれど、最低五千の攻撃を凌ぎきらなければならないわ。

もし漢中が落とされるようなことになれば……厄介ね。漢中に伝令を飛ばそうにも相手の方が早い、か」

「大丈夫よ~。同数なら城壁がある分有利なのは漢中側だわ~。ららちゃんも居るし逸って打って出る事も無いでしょう」

「そうねえ。陳夕殿が残って指揮を執られるなら、五千程度は凌げるでしょうねえ」

徐栄殿の報告に賈駆殿が顔を顰めながらそう呟けば、張衡殿も溜息を吐きました。

しかし重くなりかけた空気は丁原殿と韓遂殿の言葉で多少軽くなります。とはいえ母上の事を知らない者も多いのでしょう。

張衡殿や韓遂殿は安堵の様子を見せていますが、賈駆殿や華雄殿、馬超殿や馬岱殿は顔を顰めたままです。

 

「なあ、漢中に五千の兵が居るのは分かったけど、兵を纏められる奴はその人以外に誰か居るのか?

太守がいるのはさっき聞いたけど、幾ら何でも一人で抑えるとなれば大変なんじゃないか?」

そう訪ねてきたのは馬超殿、その後ろには同じ様な疑問の表情を浮かべる馬岱殿も居ます。

確かに一人が全体の指揮に当たり一人が前線を、更に後方の支援や攻撃を受けている方向以外の見張り。

防衛線に必要であろう事を考えれば二人では少々厳しいと危惧するのも分かります。しかし……。

 

「大丈夫です。漢中にはもう一人、頼りになる人が残っているのですから」

「そうね~、一刀君も残っているし大丈夫だと思うわ~」

「一刀?聞いた事のない名前だな……そいつは強いのか?」

「まだ荒削りだけれど、あの子は間違いなく強くなるわよ~」

思い浮かぶのは一刀殿の顔。何故だか彼ならば母上も稲穂も守りきってくれると、そう思えます。

と、丁原殿と華雄殿がそんなやりとりを幾人かは興味深げに、残りは興味なさげに聞いていました。

 

 

「じゃあ漢中はしばらく大丈夫、という前提で作戦を決めましょう。余り時間も掛けていられないわ」

賈駆殿が一つ手を打って場の注目を自分に集めてからそう述べました。確かに、長引けば長引く程厄介な事になりそうです。

 

「定石通りならば相手の補給を断ち干上がらせる、城に火を掛ける……というのが確実ではありますが」

「そんな時間は掛けていられないわね、城も今後の事を考えれば余り傷つけたくないし」

「ふん、ならば正面から粉砕してやれば良いだけではないか。所詮賊など物の数ではあるまい」

「あんたね、相手が城の中に籠もってたらぶつかる以前の問題でしょうが!」

「せやけど正面から当たるのが一番確実ちゃうんか?」

「……出てきたら、倒せる」

意見が飛び交い、方針としては正面から粉砕。ただ城に籠もる可能性の高い相手をどうおびき出すか、

という点で議論が交わされています。幾ら少数の部隊と見せかけても官軍や各国の軍相手では警戒するでしょうし……。

 

「……軍勢で無ければ襲ってくるでしょうか。隊商に見せかけて……」

ぽつりと呟いたねねの言葉に場が静まり、思わず焦って顔を上げれば……皆がこちらをじっと見つめているのです!?

 

 

「討伐軍として出てきている以上、そのまま賛同は出来ないけれど……」

「悪くないんじゃないのお?そのやり方だったら簡単よねえ、張衡さんに陳宮ちゃん。商人になればいいわ?

護衛に官軍の一部隊でもくっつけてねえ」

賈駆殿が呟いた言葉を引き継ぐ様に韓遂殿がこちらを見つめてそう言いました。まるで悪戯を思い付いた様な笑顔で……。

 

「徐栄さん、賊はこちらの到着には気付いているのかしら~?」

「いえ、予定より早い到着でしたので恐らくまだ気付いていないと思われます。動きがありませんもの」

「だったら、そうね~……霞ちゃん、恋ちゃん。良いかしら?」

「ん?ウチらか?」

「……?」

「他の皆も良いかしら、こういう策で行こうと思うのだけれど~……」

この時に丁原殿が述べた作戦に、少し難色を示していたものの張遼殿は了解を返し、呂布殿も頷きました。

西涼勢や天水勢も一部を除き頷いています。まどろっこしい、突撃だと叫ぶ人もおりましたが……。

 

 

 

 

「それでは呂布殿、よろしくお願いするのです」

「ん、ちんきゅー、任せる」

作戦を決行する為、ねねは今呂布殿と共に馬上の人となっています。

商人を装う為に多数の積み荷(実は積んである木箱の中には千程の兵が乗っています)を乗せた馬車を駆り、

護衛を連れている、およそ千人ほどの大規模な隊商を装いました。

護衛の部隊を率いるのは張遼殿。

ねね達の役割は囮となり賊を西涼、天水勢の伏せてある場所まで逃げるふりをして誘導するというもの。

非常に危険ではありますが、上手く誘導できればこの上なく有効な策です。

 

「……ちんきゅー、捕まる……来た」

呂布殿の言葉に顔を上げると城の方からこちら目がけて多数の人影が迫ってきています。

数名の騎兵を先頭に、手に手に武器を持ち駆け寄ってくる賊の群……。

 

「引っかかったみたいやな……ほな恋、陳宮。上手くやるんやで!」

「……任せて」

「分かっているのです、張遼殿こそ……皆を頼むのです!」

「おう、任しとき。『神速』の異名が伊達やない事見せたるわ!ほなまた後でなっ!」

張遼殿がさっと馬首の向きを変え、漢中の方へ駆け出します。

それを追う様に護衛と見せかけた張遼隊の騎兵も駆け出し……残ったのは恋殿の部下である兵のみ。

更に半数は馬車の積み荷として隠してありますので少人数に見えているでしょう。

その証拠という様に、顔が見える程に近づいてきた賊共の表情は欲望でぎらついていたのです。

 

「皆、走るです!積み荷の重要性は分かっているでしょう!?」

いかにも積み荷が価値ある物だと思わせる為に必死の様子を演じて声を上げ馬車を走らせます。

ねね達の様子を見てか賊も執拗に追跡を始め……不味いですね、思ったよりもあちらの足が早いのです。

このままでは合流の予定地点より手前で戦闘になる可能性が……「任せる……大丈夫」

そう考えた時、呂布殿がねねの頭にぽんと手を置いてそう呟いたのです。

まっすぐに前を見つめたままのその言葉、最初は聞き間違いかも知れないと思いましたが……。

何故だかこの時、一刀殿と一緒に居る時の様な安堵感を覚えたのでした。

 

 

 

「お前達……弱い。恋一人で十分」

ねねを予備の馬へ移し賊へ突撃した呂布殿が手にした方天画戟を振るう度に賊が吹き飛ばされ、蹴散らされていきます。

あれからしばらく走っていましたが、結局合流地点に辿り着く前に追い付かれ賊との戦闘になったのです。

しかし呂布殿の武勇は想像を遙かに超えた物で、自分の中の常識という物が覆されていくのを感じます。

未だ無傷の呂布殿を見ればこのまま戦っていても負ける事は無さそうかとも思うのですが……。

問題は周囲で戦う呂布殿配下の兵達です、皆どことなく動きに精彩を欠いています。

まるで呂布殿に任せておけば良いとでも言う様な……これは、不味いのです。

 

「呂布殿、ここは一端下がるのです、このまま戦っていれば被害が大きくなってしまいます。

当初の作戦通りに合流地点まで逃げると見せかけて誘導するのです!」

「このまま戦っても、勝てる……」

「いいえ、それではいけませぬ。今回勝ててもこれでは……周りの兵の顔が見えますか?

まるで呂布殿に頼り切っている様にしか見えませぬ。頼りにするのと頼り切るのは別物です。

このまま頼り切っている様であれば、いずれ必ず呂布殿の命取りとなるでしょう」

そう、頼り切り寄りかかってしまえば楽ではあるが、自身を高めると言う事が出来なくなってしまい、

ひいては頼り切っている相手の足を引っ張る事になりかねない。

そうなれば幾ら呂布殿が強いとは言え……きっと命取りとなるだろう。

ならば新参とはいえ、ねねがそれを防がねばなりません。

 

「ねねはこれでも軍師の端くれ、少しは先を読む事が出来ます。

今の呂布殿の部隊の者達は、はっきり言ってしまえば危険なのです。

危険だと分かっていて、ねねには見過ごす事が出来ませぬ。

いかに呂布殿が強くても、いずれ必ず守りきれなくなる時が来るです」

じっと呂布殿の目を見据えてそう告げれば呂布殿はしばし俯いた後、一つ頷いて。

「……わかった。一度、下がる」

そう告げると馬首を返し、当初予定していた地点へと撤退を始めました。

呂布殿の部下達も面食らった様子でしたがすぐに反転し、続いてきます。

賊の群れもそれを見てこちらを追撃に掛かってきていますが……呂布殿が暴れ回ったせいか、

その動きはどこか先程よりも腰が引けている感じがします。

 

「このまま進めば……見えましたぞ、此処ですっ」

走った先には数騎の騎兵、ねね達の姿を見るとすぐに走り去りました。

西涼・天水の両軍にこちらの到着を伝えに走る彼らを見送り、足を止めます。

後は包囲が完成するまで賊をこちらに引きつけて足止めするのみ。

その為に必要なのは士気を高める事でしょう。しかし呂布殿は口数が少なく、

余り長い演説も出来そうにありませぬ。更に賊ももうすぐ追い付いてきそうです……ならば。

 

「皆聞くのですっ、皆が仕える呂布殿の武勇はまさに天下無双と呼ぶにふさわしい!

ならば答えよ、その天下無双たる呂布殿に、仕える皆はどうなのかっ!

天下無双の将に並んで敵を蹴散らす精兵か、天下無双の威を借るだけの下らぬ弱卒か!

精兵ならば胸を張れ、これまで通りに天下無双を支える揺るぎなき柱となるのです!

弱卒ならば恥を知れ、惰弱な兵など毒にしかならぬ、他人を巻き込む前に疾く去るが良い!

先程の無様な戦い振り、この目で見た以上言い訳は聞きませぬぞ!

己が弱卒でないと言い張るならば、武勲を持って証明して見せよ!

こんな小娘如きに良いように言われるがまま、まさかその様な事はありますまいな!

さあ、間もなく賊が追い付いてくるのです!策が成るまで奴らを足止めするのが我らの役目!

あんな雑魚共相手に天下無双に頼り切るなどと無様な真似をしてはなりませぬぞっ!

天下無双の将の元には天下無双の兵が居る、それを見せつけてやるのですっ!!」

思い付く限りの言葉を紡ぎ、声を張り上げて半分以上挑発も混じった鼓舞を行います。

官軍の兵が、同じ官軍でもないねねの様な小娘の言葉にどう反応するかが心配でしたが……。

幸い、どの兵も声を張り上げ武器を手に気炎を吹き上げています。

特に他の兵よりも少し年上の、見るからに古参と言った兵にその傾向が強いような……?

まあ動きが良くなり士気が上がるのならば問題はありませぬ。さあ、ここからが本番なのです!

 

 

 

……官軍相手に喧嘩を売ったと取られかねない発言なのはこの際考えないでおくのです……。

 

 

 

 

―視点:名も無き兵士―

 

「舐めるなよ賊共、我ら呂布隊は天下無双の兵団ぞっ!」

「数に任せただけの突撃で俺達に敵うと思っているのかっ!」

我らは口々に叫びを上げながら、賊目がけて突撃し手にした武器をを振るう。

士気はこれまでになく高い、体が軽く力が漲る。今なら誰にも負ける気がしない。

奇声を上げて斬り付けてきた賊の刃を矛の柄で跳ね上げ、がら空きの胴に石突きを叩き込む。

怯んだ相手の胸に隣を走る同僚がすかさず矛の切っ先を突き刺しトドメを刺していく。

この程度の芸当ならば容易く出来る。そう、我らはあの天下無双の将に仕える兵なのだ。

 

官軍として働いていた我らの前にある日現れた一人の少女は、化け物じみた力を持っていた。

だが我らはその強さに恐れをなすより憧れを覚えた物だ。あの高みに手が届かずとも、

少しでも、僅かでも近くに……!そんな気持ちで我らは一心に己を鍛え上げていた。

そんな我らを置き去りにするかの様に、呂布様もより高みへと上り詰めていったが……。

それでも、我らの中にはあの少女と共に強くあるのだという誇りが、想いがあった。

 

だがそれもいつの間にか歪んでいたのだと、先程の鼓舞にて気付かされる。

呂布様は強い、だがそれ故に新しく呂布隊に配属された兵達はその強さに溺れた。

 

――――呂布様に従っていれば、呂布様に任せていれば勝てる。無駄に危険な事はしなくてよい。

見ろ、あの方だって自分に任せろと言っているし何より一人で片付けて来るはないか――――

 

そんな声が周囲に増えるにつれ、我らはだんだんと己を高みに置く事をしなくなっていった。

我らが幾ら追おうともあの高みへは至れない、そしてあの方も恐らく我らが追い付くなど考えていない。

ならばもう良いのではないか?そんな己の心の内から湧き出た甘言を言い訳として。

 

 

されどそんな生温い場所に居る事など最早望まない。そうだ思い出せ、我らの願い、それは。

あの方と共に在り共に進む事だったではないか!

それを思い出させてくれたのがかつて同じ誓いを抱いた仲間ではなく官軍ですらない少女であったのは、

複雑な部分もあるが……感謝しよう。漢中の陳宮殿と言ったか、その名を我らは忘れぬだろう。

この恩を返す為に、いずれ我らの力が必要となったのであれば……。

そんな事を考えながら眼前に迫る賊をまた一つ仕留め、また一人屠っていく。

 

我らの眼前にて天下無双の武勇を振るう呂布様に続けと、これまでに培った技の全てを注ぎ込んで。

矛を振るい、声を張り上げ、獲物を確実に仕留めんが為に己の力を振るっていく。

五人斬り、十人斬り……数十を超えたあたりで周囲の様子が変わり始めた。

 

……そろそろ頃合いか。気がつけば丁原様の部隊が合流してきている。

策が次の段階へ移ったのだろう、我らもまた遅れぬようにと配置につき始める。

 

 

―視点:丁原―

 

「二人とも、怪我はしていないみたいね~。霞ちゃんも無事に行けたのね~?」

「丁原殿!」

「おかーさん」

賊と呂布隊がぶつかり合っている場所へ到達すると、ねねちゃんを見つけた。

彼女は後方で指揮を執っていたらしく今も矢継ぎ早に命令を下していた。

そこに指示を受けたのか恋ちゃんも戻ってきて、陣形を組み直しているに声をかけた為か、

二人とも驚いたようにこちらを見ている……なんだか和むわね~。

 

(それになんだか兵の皆の動きも良い様な気がするわ~?

何かあったのかしら~……でも、何にせよ良い事よね~)

恋ちゃんが居るし大丈夫だとは思っていたけれど実際に目にして安心し、

自分もまた賊の討伐に集中する事にした。

 

跨っていた馬から下りると従者を呼びつけ武器を運ばせる。

長年愛用している武器……双錘をしっかりと握り直して、私は二人へ微笑みかけた。

 

「それじゃ、おかーさんもちょっと行ってくるわね~」

ぐ、と手に力を入れながら近づいてきた賊へ向き直り、右手を一振り。

大きく宙を飛んで吹き飛ばされた仲間を見て賊の群れが固まっていたけれど……だめだめね~。

 

「立ち止まってたら、殴って下さいと言っている様な物よ~?」

錘を横薙ぎに叩き込み纏めて殴り飛ばす。天水の華雄ちゃんが持っていたあの斧も強そうだったけれど……。

(多分打撃力ならこの妖雲砕も負けてないわ~。後で戦果を比べてみるのも楽しそうね~♪)

駆け寄ってくる賊を5,6人纏めて突きで吹き飛ばし、左手を大きく薙ぎ払って相手を押し止める。

どん、という手応えが伝わってくるのがなんだか楽しく、攻撃の速度が上がっていくのを感じる。

でもまだ我慢、合図があるまではあくまでも控えめに叩かないとね~。

 

 

……そしてしばらく戦い続けている内に、合図の銅鑼が鳴った。ここからは本気ね~。

ならばとこれまで左右に薙ぎ払うのを主体とした攻撃から振り下ろし主体に切り替える。

両手を掲げて双錘を振り下ろせば轟音と共に地面が凹んだ気さえした。

……実際、犠牲となった賊十数名と共に地面が陥没しているのは見ないふり。

直接見ちゃうと気持ち悪いもの~。

 

部下達も慣れた物で、私の攻撃が届かないぎりぎりの位置を保ちながら賊を抑えにかかっていた。

吹き飛んだ賊にトドメを刺しに行ったり、攻撃で空いた側の賊を足止めしたりという感じね~。

 

(これならそんなにかからず制圧できそうね~)

予想に違わず、包囲はどんどん狭まり後は仕上げを待つばかりの状況になっていく。

各将の優秀さもあるのかしらね~。

 

 

―視点:賈駆―

 

――――来たっ!

 

遠方からこちらへ近づいてくる土煙、予定より少し遅いが間違いない。

囮役を買って出た呂布隊が戻ってきたのだろう。

ボクは段々近づいてくる一団を確認すると、待機している面々に視線を向ける。

 

「手筈通りに行くわよ、準備は良いわね?」

見回せば一斉に頷き返してくる面々。

再度の確認と、気持ちを引き締める為にボクは敢えて作戦を繰り返す。

 

「丁原殿は呂布隊と合流し、正面からの賊を押さえて下さい。

側面、後方からの包囲が完了次第殲滅に移って頂きます」

「わかったわ~、しばらくはやりすぎない様に押さえておくわね~」

おっとりとした声ながらもその内容は自信に満ち溢れている。

気負いも無く恐れや油断もないその声に安堵を覚えつつ、更に言葉を紡ぐ。

 

「右側面からはボク達が包囲にかかるわ、華雄隊が前衛で相手を押し込み、

徐栄隊は弓で援護して。細かな指示はその都度ボクから伝令を出すわ」

「わかった」

「了解しました」

二人も落ち着いた様子で返答してくる。

だがここでボクは少しだけ、作戦を変更しようと思った。

 

「それから華雄。今回だけは突っ込んできて良いわよ」

「ああ、突撃して良いんだな……何!?どういう事だ!?」

「何で驚いてんのよ、いつも突撃突撃ってうるさいくせに。

包囲が進んで焦っている所に突っ込んで、将を討ち取ってって言ってるの。

あいつら統率がそれほど取れてないし、間違いなく混乱するはずよ」

ただし包囲が失敗しては元も子も無い、突撃の指示はこちらから出すとも告げる。

それに了解と告げた華雄の表情が一瞬安堵していた気がするのは気のせいかしら?

まあいいわ、次に西涼勢へと視線を巡らせる。

 

「左側面からの包囲は馬超殿と馬岱殿にお願いするわ。

そちらも包囲完了までは適度に押さえておいて欲しいんだけど。

それから後方は韓遂殿に……本当に一部隊で大丈夫ですか?」

この策を取ると決めた際に、彼女は一人後方からの包囲を行うと告げた。

元々は後方だけを空けて賊をある程度仕留め、後方へ下がった賊を追撃する……。

そんな策だったのだが。

 

「ええ、任せてえ。それより翠に蒲公英、しくじらないのよお?」

「わかってるって、なあ蒲公英!」

「うん、お姉様が暴走しないようにしっかり見張ってるから安心して!」

……ぎゃあぎゃあと言い争いが始まったけれど、あれも彼女らなりのやり方かしら。

にやにやと笑っている韓遂殿も含めて誰の顔にも余計な力は入っていない。

 

さあ、そろそろ頃合いね。

 

「それじゃ、準備は良いわね?包囲の合図は銅鑼を4回。それじゃ全軍行動開始っ!」

さあ賊どもに、ボク達の力を見せてあげよう。

 

 

 

 

華雄隊、徐栄隊と右側面へと兵を動かし包囲にかかる。

まず徐栄隊が弓で賊の足を止めた所へ華雄隊が突撃を敢行する。

陣形は鶴翼、左右に大きく広がった隊の先頭を走るのは華雄だ。

彼女は愛用の大斧を振り回し賊をばたばたと薙ぎ倒していく。

 

(……どうやら指示はしっかり守れてるみたいね)

頭は良いのに頭に血が上りやすいと言う性質がボクとしては少し不安だったが、

あの調子ならしっかりと働いてくれるだろう。

 

徐栄隊も左右に展開しながら弓で支援を続けている。

こちらの方は問題なさそうだし後は、左方と後方ね。

 

合図の銅鑼を打ち鳴らせ、と命を下すとほぼ同時に銅鑼が4回鳴らされる。

 

(まるで図った様に包囲できたわね……でもこれで、行ける)

後は賊を押し潰すだけ、華雄に将を討ち取れと伝令を走らせた。

 

 

―視点:華雄―

 

まさか突撃が承認されるとは思わなかったが、納得した。

ついいつもの癖で今回も突撃案を出したが……結果的には良かったか。

配下の兵達に作戦を――包囲が完成したら敵将に突撃――を伝えると、

私も愛用の斧・金剛爆斧を手に取り騎乗する。

 

包囲完成までは前線で適度に暴れつつ部下の手綱も取らねばならない。

私の部隊には血の気の多い連中が多く、放っておけば危険だろうからな。

おまけに自分達の力に自信があるのは構わんがそれが少々強すぎ……いや。

これは私が言えた事でもないのだが。

 

兎も角、そんな連中だからこそ私も多少は頭を働かせねばならぬし、

詠達の立てた策をわかりやすく部下に伝える為にもまずは突撃だと言い張り、

それを否定させ、かつ策を噛み砕いて説明して貰わねばならぬ。

その為に毎回怒らせてしまうのは申し訳ないが、こちらを猪と呼んでいるのだからおあいこだろう。

……よし、そろそろ賊どもとぶつかるな。

 

「お前達、包囲が終わるまではくれぐれも突出するな、わかったな!

迂闊に飛び出せば徐栄隊の矢が自分達の頭上に降り注ぐと思えっ!」

「「「「了解っ!」」」」

隊長こそ飛び出さないで下さいよという声も聞こえたが一睨みする事で返答する。

徐栄隊の準備も出来たようだ……いざ、参るっ!!

 

 

 

予測通り、賊の練度は大した物ではなくあっさりと切り崩していける。

これならば突撃しても打ち破れるとは思う、思うのだが……。

 

「相手がいくら弱兵とはいえ足並みを乱すな、作戦通りに動けっ!」

此処で自分勝手な動きをしてしまえば他の部隊との連携が崩れる。

今回の目的は殲滅なのだから相手に逃げる機会を与えてはならないのだ。

故に適度に力を抜きつつ金剛爆斧で賊を切り伏せる。

ふと目をやれば徐栄隊も展開を終えたらしい、そろそろ頃合いか。

気を引き締めようと金剛爆斧を握り直した瞬間、包囲完成の合図である銅鑼が4回鳴り響いた。

 

 

 

「おおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

横薙ぎに振るわれた金剛爆斧によって賊が纏めて数人吹き飛んでいく。

両手持ちの為に振るった後に隙が出来ると踏んだのだろう、何名かの賊が私に走り寄るが……。

私は慌てる事などしない。この隙もわざと大振りにして作った物であり……。

 

「甘いです」

冷静な声が聞こえると同時に、駆け寄る賊の額に悉く矢が突き刺さる。

私の後方で援護を行っている徐栄の援護だ。

武器を振り切った姿勢の隙間を縫う様に矢を放った徐栄に賊は怯んだらしく足が止まる。

その様子を見て賊の一人が大声で怯むな、進めと喚いている……なるほど。

 

「わざわざ足を止めてくれた上、誰が指揮官かまで教えてくれるとはな!」

その隙を見逃してはならない。足が止まった賊の群れへと飛び込んで再び私は金剛爆斧を振るった。

斜めに振り下ろし、手首を捻って横薙ぎに斧を振るい、勢いのまま回転し手近な賊を蹴り飛ばす。

目指すは指揮官、おそらく先程喚いていた男だ。あそこまで切り込めば我らの勝ちとなる。

ならばひたすら前進するのみよ!

 

「どけぇぇぇぇ!!」

ひたすらに斧を振るい道を塞ぐ賊どもを切り払う。更に徐栄の援護もあり、

着実に指揮官へと近づいていく。

指揮官も自分が標的と気づいたのか逃げようとしているが、既に包囲が完了しているのだ。

「逃げ道など存在せん、覚悟しろっ!!」

 

 

そうして私の振り抜いた斧が敵指揮官の首を狩り、戦いは決着した。

 

 

 

―視点:張遼―

 

 

ウチらは皆と別れてから全速力で馬を走らせとった。

伊達や酔狂で神速を名乗ったりはしとらん、必ず追い付いてみせる。

そう心に決めて、最小限の休息だけを取り馬を走らせる事丸一日。

 

「見えたっ、お前らまだ動けるやろなっ!?行くで!!」

前方に、小走りに道を急ぐ集団を見つけた。どいつも武器を持っとるし恐らく賊や。

殆どは騎兵……なら先手必勝、気付かれる前に掻き回したる!

 

「うらあああああああっ!」

「「「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」」」

ウチが叫びを上げつつ突撃するのに合わせ、部下も手に手に武器を抱えて突撃する。

賊共は慌てふためいて逃げとる、なら一人でも多く仕留めるのが優先やな。

敵が逃げるを幸い、追い立てて追い立てて、切り裂き、仕留める。

奇襲かつ騎兵による蹂躙だからこそ正確な人数は把握されていないだろうと思うがこちらは小勢、

落ち着く暇を与えとったら危険や、だからこそ今の内に人数を削っておく。

部下達も考えを汲み取ったのか声を張り上げながら賊共を討ち取り……。

 

「ここまでや、下がれっ!」

ウチの命令に従ってさっと退いていく。後に残ったのは賊共の血で真っ赤に染まった大地と、

混乱と恐怖で必死に漢中の方へ走り去る賊の群れ。

連中の一部は聞くにも耐えん罵詈雑言を叫びながらこっちに向かって来よるけど、

その程度の連中じゃ話にもならん。後退するついでに切り伏せておく。

 

「よしお前らもひとまず休息取りい、半分は少し休んだらまた行くで。

連中が落ち着きを取り戻すぎりぎりで仕掛ける。弓を持っとるもんは援護せえ。

残りの半分は仮眠取った後で追いかけて来い」

今混乱に陥っとるあの連中が落ち着きを取り戻すまで大体半刻、警戒解くまで一刻ってとこか。

なら警戒や緊張を解いて落ち着きかけた所を狙う。

 

「いつ襲われるか分からない恐怖と緊張で動きがガタガタになってくれればええんやけどな。

一番の狙い時は食事時やし、その辺の観察はしっかり頼むで」

「はっ!」

斥候役を任せた部下の肩を叩きそう言えばしっかりとした声が帰ってくる。

指揮も高いし疲労もそれほどじゃない、これならまだまだ行けそうやな。

 

「よし、そんじゃもう一回や、お前ら行くでぇ!」

そして予定していた時間が過ぎ、斥候の報告で賊の群れに油断が生まれ始めたと知り。

その隙を狙いウチらは攻撃を仕掛けに行った。

これを時間を変え、場所を変え、何度も何度も繰り返す。

数がある程度減って来たのを見て取った後は連中を無視して先へ進む。

先発隊が居ると聞いた以上は無視も出来変からな。

 

 

そして、殆どが歩兵で構成されていた先発隊の賊共にも同じように仕掛けていく。

最も人数差があまりに大きく数が減ったとは言え後方の騎兵も侮れんから二、三回で終いやな。

賊を蹂躙した後は残してきた半数の兵と合流し、行路を変えて天水の方へと退く。

自分達にできることはやった、後は騎兵共を休ませんように追い立てるだけや。

漢中まで休み無しで走れば連中もガタガタになっとる筈。

だから北郷の奴や張魯が何とか出来る様に、追い立てるんや。

 

 

 

そして数日後、ウチらは漢中へ辿り着いた。

目論見通りに賊を追い立て、ウチらも疲れきってたけど此処で働かな、将やない。

必死に逃げる連中の背後に何度目かもわからん突撃を仕掛けて、切り伏せる。

その動きに呼応したように漢中の兵も攻撃に勢いが乗って……。

 

そして敵将を北郷が討ち取り、この戦いの結果は決まった。

ウチらの……勝ちやっ!!

 

 

 

 
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