「おーい、風~」
男が彼女の名を呼ぶ。
「あーい♪」
名を呼ばれた風いう女性は、男の前へ笑顔で現れた。
「………」
途端、男は硬直する。正確にいえば噴火の手前。
「……欲しい?」
風は指先で、自分を指す。
「欲しいね。そして、ずっと離さない」
男は懐から指輪を取り出して、風の指にはめてあげた。
「……一刀♪」
恋は笑顔をみせながら、男に抱き寄せる。
「今日から、お前は俺の物で、俺の妻だ!」
そして、男は風を押し倒した。
寒い。
最初に、意識が戻った時にそう感じた。やがて言葉は真実となって、身体全体に寒さが走る。しかし男は疑問に思う。
―――なんで、寒い?
その瞬間、男はがばっと身体を起す。目先には荒野が広がっていた。
「………」
男はその荒野を見渡して、こう言った。
「くそっ! またかよ……」
男の名は北郷一刀。
聖フランチェスカ学園の二年生。所属は剣道部。
つまり、日本のどこにでもいるような普通の学生………だった。
今は、この三国志に登場する英雄たちが女性になっている世界で「天の遣い」という役割を演じて天下統一するということをしている。
ただし、やっかいなことに天下統一や大陸が平和になってしまうと役目を終えたと言わんばかりに新しい三国志に登場する英雄たちが女性になっている世界に飛ばされてしまっていた。
「はぁ……」
こう見えて北郷の精神年齢は百歳を超えている……が、肉体が飛ばされた直後に現れた若い北郷なので一種の不老不死化になっていた。もちろんこの世界で『死』ねば役目を終えたと言わんばかりに、また別の世界に飛ばされるだけだ。
「……風」
北郷は『過去の妻』を思い返す。でも、それは『過去』であり、二度と自分が好きだった『風』には会えない。実際に彼はこれまでに幾度となく風以外の女性とも結婚したが、別の世界に飛ばされば姿、性格が同じでもまったく違うため、結婚までには至っていない。
「気持ち切り替えないとね……」
さすがに何度も繰り返されるこの流れに慣れ、最初の方くらべ彼は大人になった。
「よし、決めた。今度はあれにしよう!」
だからこそ、なのかもしれない。
彼が『彼』でなくってしまっているのは………。
Tweet |
|
|
14
|
0
|
追加するフォルダを選択
プロローグ