No.498558

SAO~菖蒲の瞳~ 第七話

bambambooさん

遅くなりましたが七話目更新です!

アスナが半空気なのは個人的に許せないところがあるので早速救済します。

ところで、自身の《嫁》もしくは《嫁候補》に対して発生する、異性を惹き付ける圧倒的カリスマ性のことを《主人公補正》といいます。(私が勝手に言っている)

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2012-10-21 09:02:32 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1614   閲覧ユーザー数:1493

 

第七話 ~ 第一層攻略・幕間 ~

 

 

【アヤメside】

 

フィールドに出た俺たち三人は、先ずそれぞれの実力がどれくらいなのかを見ることにした。

 

これは、その人の得手不得手を知るためであり、それに応じたポジションを考えるためでもある。

 

順番は適当にジャンケンで決め、《キリト→アスナ→俺》の順になった。

 

その結果、実力的にはキリトが頭一つ分上回っており、俺とアスナはどっこいくらいだった。

 

そして今は、パーティでの戦闘の時のポジション決めをしているところだ。

 

今居る場所は、草原に生えている一際大きい木の根元で、理由はここが安全圏だからと、気持ちよさそうだったからだ。

 

個人的には後者がメインの理由だったりする。

 

「それでポジションだけど、基本的には俺とアスナが交互、もしくは同じに前衛をやって、アヤメは後方待機で《スイッチ》を狙う、でいいか?」

 

「問題ない」

 

「良く分からないけど、二人がそう言うなら」

 

「じゃ、そういうことで」

 

あっと言う間にポジションが決まった。驚くべき早さである。

 

「もう少し、討論みたいなのを期待していたんだが……」

 

「じゃあ反論しろよ」

 

「俺もキリトと同じ事を考えてた」

 

「パーティ組んだばっかなのに息ピッタリだな……」

 

このポジションの理由は、この三人の中で俺が一番《敏捷値》を上げているため最も速く《スイッチ》で交代に移れるからと、俺の戦闘スタイルがヒットアンドアウェイで、積極的に攻撃を仕掛けて後衛をモンスターを狙わせないようにする前衛にはあまり向いていないという理由からだ。

 

モンスターから離れた瞬間に、前衛が抜かれちゃ意味がないからな。

 

もう少し人数がいれば、俺が遊撃するというのも考えられたんだが……無い物ねだりはするだけ無駄か。

 

「取り敢えずポジションは決まった。普通ならフィールドに出るところだけど、折角来たんだから休憩するか?」

 

「…え? でも…」

 

「賛成。全員安全マージンは確保出来てるみたいだし、今更焦ってレベル上げする必要もないからな」

 

「アスナはどうする? 俺は休憩したい」

 

「……私も、それでいいです」

 

少し不満みたいだが、頷いた。

 

 

【アスナside】

 

ポジションを決めたついでに休憩することになった私たち。

 

キリト君は芝生に寝転がってお昼寝していて、アヤメさんは木の枝に腰掛けて、幹に体を預けながらフィールドをぼんやりと眺めていた。

 

私は芝生に座り、木に(もた)れながらそんな二人の様子を見て、暢気な人たちだな、と思った。

 

そう思う反面、《うらやましい》という気持ちがあった。

 

「……どうしてなんだろ?」

 

こんな事している暇があったら、早く現実に帰るためにどんどんレベルを上げるべきなのに、と思いつつ、ずっとこのままいたい、という思いも感じていた。

 

この世界に囚われてから一か月。私は文字通り、死に物狂いで攻略に勤めていた。食事も寝る間も、何もかもを押し殺して攻略することだけを考えて生活してきた。

 

それは、ここから脱出するまで変えるつもりは無かったのに、どうしてそんなことを思ったのか分からなかった。

 

今私とパーティを組んでいる、この二人の影響なのだろうか?

 

「……早くこの世界から出たいとは思わないんですか?」

 

私は無意識のうちにそうアヤメさんに尋ねていた。

 

私の突然の質問に、アヤメさんは少しだけ驚いた様な顔をした(実際はほとんど変わってなかったけど)あと、直ぐに答えを出した。

 

「当然だな。妹が心配してるだろうから、早く不安を解消させるためにも」

 

「それなら、休憩してる暇なんて無いんじゃないんですか?」

 

「休憩は必要なことだよ」

 

アヤメさんはそう言った。

 

しかし、それは現実の話で、疲れの感じないこの世界には無縁のことのように私には思えた。

 

「仮に、アスナは無尽蔵の体力を持っているとする。その時、お前はゴールの分からない長距離を走り続けることが出来るか?」

 

「え?」

 

私が釈然としない思いでいると、アヤメさんがよく分からない質問をしてきた。

 

「体力に限界が無いなら出来るんじゃないんですか?」

 

「俺は無理だと思う」

 

しかし、アヤメさんは私の答えと真逆の答えを出した。

 

いよいよ意味が分からなくなった。

 

「意味が分からないって顔だな」

 

相変わらずの無表情に、少しだけからかう様な口調で言うアヤメさん。

 

少し、ムッときた。

 

「理由を説明してください!」

 

「俺が無理だと思う理由は、心が折れるからだ」

 

「心…?」

 

「ゴールが分からないレースなんだぞ? いつまで走り続けていいのか分からない。もしかしたらゴールがないかもしれない。そんな思いが生まれてこないか?」

 

そう言われて、私はハッとした。

 

「それが生まれたらもうお終い。走る気力を失い、ペースが落ちて、いずれ諦め立ち止まる。攻略もそれと同じ。いくら元ベータテスターが情報提供したとしても、未知の層は半分以上ある。第百層を攻略するまでどれくらい掛かるかなんて、皆目見当もつかない」

 

「もしかして、今の私って……?」

 

「絶対とは言わないが、十中八九、攻略を諦める。最悪、《自殺》するかもしれない」

 

私は何も言えなくなった。

 

まさか、良かれと思ってやっていた事が、自分が死ぬような結末を手繰り寄せているとは思いもよらなかった。

 

「だから休憩は必要なんだ。体じゃなくて、心のために」

 

「はい…。良く分かりました」

 

私はなんてバカなことをしてきたんだろう……!

 

今までやってきた事が間違いだと言われ少し落ち込んでいると、アヤメさんは私の側に飛び降りてきた。

 

「きゃあ!?」

 

その事に驚くと、

 

「まあそんなに落ち込むな」

 

ぽふっ、と私の頭にアヤメさんの手が置かれた。

 

「攻略のために頑張る事は悪いことじゃない。寧ろ誉められるべき事。元ベータテスターでもないのによく頑張ったな」

 

ほんの少しだけ微笑みながら、アヤメさんは頭を二、三回撫でて手を離した。

 

その手は仮想のモノなのに、現実のあたたかさを感じた。

 

「……そうか。心の休憩なら取り敢えず気分転換になればいいのか」

 

少しだけ呆然としながらアヤメさんの黒い瞳を眺めていると、彼はそんな事を呟いた。

 

「アスナ。楽しいことをしに行こうか」

 

そう言ってから、アヤメさんは私に背を向けてキリト君のところに近づいて行った。

 

その背中を見て私は、お兄さんみたいだな、と思った。

 

 

【sideアヤメ】

 

「なんでわざわざ《ウユ村》まで来たんだ?」

 

楽しいことをやりに行こうと言った俺は、キリトとアスナを引き連れてウユ村にやってきた。

 

ウユ村はトールバーナのすぐ近くにある村であり、牧畜の盛んな中世の農村のような街並みをしていて、牧場のある穏やかな場所だ。

 

「で、キリトはいつまで不機嫌なんだ?」

 

「アヤメがあんな起こし方したからだろ。しかも有無を言わせずここまで連れてくるし」

 

「あれはなかなか起きないキリトが悪い。有無を言わせず連れてきたことは悪かった」

 

因みに、キリトの言う《あんな起こし方》とは、格闘スキル下級技の《パーム・ノック》を喰らわせただけである。

 

喰らわせた時、アスナの表情が引きつっていたように見えたが気のせいだ。

 

「それでアヤメさん。ここで何するんですか?」

 

「クエストだよ。それもなかなか美味しいアイテムが手に入るクエストな」

 

「……?」

 

「……ああ、あれか!」

 

何のことか分からない様子のアスナに対して、キリトは心当たりがあるようだった。

 

「そうと決まれば早速行こうぜ」

 

上機嫌に言うキリトは、クエストを受けられるNPCがいるところに真っ直ぐ向かって行った。

 

「意外と食い意地張ってるんだな……」

 

この村に着いた時とは大違いだ。

 

「キリト君嬉しそう。一体どんなクエストなんですか?」

 

「牛の乳搾りの手伝いだよ」

 

「……は?」

 

「ま、やってクリアすれば分かるよ」

 

アスナにそれだけ言ってキリトの後を追う。当然、アスナも付いて来た。

 

しばらく歩くと、こっちに向かって手を振るキリトを見つけた。

 

「キリト。受注はすませたか?」

 

「当然。ほら、二人とも」

 

キリトから木製のバケツを手渡される。

 

手渡されたアスナはどうしていいか分からないようで、俺とキリトの顔を不安そうに見た。

 

「クエスト内容はこのバケツいっぱいの乳を搾ることだ」

 

「本当に乳搾りなんだ」

 

少し驚いたように呟くアスナ。

 

「期限は日没までだからあと二、三時間ってところか。時間との勝負だな」

 

「でも私、乳搾りなんて……」

 

「初めてならチュートリアルが表示されるから大丈夫だよ。それに、この村で一番最初に受注出来るクエストだからそんな難しくない」

 

まだ不安そんなアスナに、キリトが優しく説明した。

 

「それなら…大丈夫かな?」

 

「よし、じゃあ早速クエスト開始。さっきも言ったが、時間との勝負だからな」

 

俺の掛け声で、それぞれ別の牛のところへ向かった。

 

「よろしくな」

 

牛の体を声を掛けながら優しく撫でると、牛はそれに答えるかのように鳴いた。

 

牛のストレスにならないよう、丁寧に作業を開始した。

 

 

「……半分」

 

バケツの半分くらいまで搾り終えた頃、何気なく二人の様子を少しだけ観察してみた。

 

《視覚強化》スキルの《スキル強化オプション》に含まれる《遠見》のお陰で、離れた位置に居てもそれなりに鮮明に見ることが出来た。

 

キリトの方はやり慣れている様で、かなり滑らかな動きだ。それに、楽しそうでもある。

 

「アスナの方は……」

 

アスナは初めてなので少しぎこちない動きをしていたが、初めて会った時よりも活き活きとしてるように見えた。

 

「誘った甲斐はあったな。さて、作業に戻るか」

 

一気に終わらせてしまおう。

 

俺は自分の作業に没頭した。

 

その後、十五分くらいでノルマを達成した。別れた場所に行ってみると、既にキリトとアスナが戻っていた。

 

「驚いた。まさか一番最後になるとは」

 

「全然驚いてるようには見えないけどな……」

 

「驚いてるのは本当なんだがな」

 

この無表情はどうにかならないのか。

 

「楽しかったかアスナ?」

 

「はい!」

 

まあ、現実世界じゃなかなか出来る事じゃないからな。

 

「こんなクエストもあったんですね……」

 

「SAOにはモンスターの討伐から要人警護まで多種多様のクエストが存在している。いつ出れるか分からないんだから、現実世界で出来ない事をやって楽しむのもいいもんだろ?」

 

「そうだねキリト君」

 

いつの間にか自然体で会話するようになった二人。特に、キリトは顕著だった。

 

さっきまで俺が仲介みたいな事しないと会話すらしなかったのに、俺がいない間に何があったんだか。

 

「まあ。何はともあれクエストクリアか」

 

 

オリジナル剣技

《パーム・ノック》

・格闘スキル下級技

・単純な掌底打ちだが、ステータスによって威力も速度も大きく変わる

 

 

オリジナルスキル

《視覚強化》

・視覚に関するモノ(解像度など)に影響を与えるスキル

 

 

オリジナル強化オプション

《遠見》

・その名の通り遠くにあるものを拡大して見るスキル

・見たいものを数秒間見続けると自動で発動

 

 

オリジナル設定

《ウユ村》

・中世的な農村で、広い牧場があるのが特徴。

 

 

オリジナルクエスト

《乳搾りの手伝い》

依頼人:村人

内容:上質な乳が取れる時期なのに、妻が風邪で寝込んじまった。誰か手伝ってくれねえか?

条件

成功:バケツいっぱいの乳を夕暮れまでに集める

失敗:時間切れ

報酬

・700コル

・クリーム×1

 


 
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