第二章 『三爸爸†無双』 其の五
本城皇帝執務室
【紫一刀turn】
春の日差しが俺を夢の世界に誘うかの様に、ポカポカと身体を柔らかく包み込む。
しかし俺はその誘惑を鉄の意思で跳ね除け、目の前に積まれた書類の山に目を通していった。
ふ、俺にはあと一、二ヶ月で生まれて来る子供達がいるのだ。その子達の存在が俺を強くしてくれる!そう簡単に篭絡されないぜっ!!
春の妖精が例えどんな美少女で・・・あっても・・・・・・・美少女ならちょっとくらい誘惑されてもいいかな?・・・・・・・・・・。
「って!いかんいかん!負けてたまるか!」
「「・・・なんだ紫。お前も眠いのか?」」
俺の両隣の机から赤と緑が声を掛けてきた。
「も、って事はお前らも?」
「そりゃこの暖かさだからな・・・」
「ちょっと一息入れよう。寝ぼけた頭でやってもミスの元だ。」
取り敢えず固まった筋肉をほぐすのに、三人揃って伸びをする。
「おやおや、お兄さんたち。その眠気が春の日差しの所為ではないのを、眠りの達人の風にはお見通しなのです。」
声と共に執務室に入って来た風を、俺たちはアクビで出迎えてしまった。
「お兄さんたちが眠いのは仕事に精を出しているのではなく、毎夜のお勤めに精を出されているからなのです!」
部屋の入口で集中線をバックに俺たちを指差す。まるで半年前のあの夜と同じ様にズビシと。
「・・・・・いや、そんな『今、自分ウマイ事言ったぜ』みたいな顔されても・・・」
「ほほう、足げく後宮に通われているのに?」
「後宮って言ってもみんな妊娠してるし。」
後宮と言えば普通はハーレムの事だけど。
あそこに居るのは現在八ヶ月くらいの華琳、桃香、蓮華、思春、そして四ヶ月くらいの愛紗の五人だ。
華琳たち王様三人は部屋に仕事を運ばせてるし、愛紗と思春は揃って後宮警備の指揮と女の子兵士の訓練に明け暮れている。本来警備される側の二人が指揮を執るのもどうかと思うが・・・。
既に産婦人科病棟の体すら薄れている気がするぞ。
「美しく可愛いみなさんのボテ腹姿を見て、新たな世界に目覚めたともっぱらの評判・・・」
「「「人を妊婦萌みたいに言わないでよっ!!」」」
「そうですねぇ・・・他の武将さん達や軍師の方達と一緒に居る事も多いですしぃ。特に年長組のお姉さん達の猛攻が激しいようですねぇ。というかこの所、夜は必ず誰かとご一緒なのを風は知っているのですよぅ♪」
「「「そんな事どうして・・・」」」
「
「それ前にも聞いたから。後半黄河だったけど。」
俺は憮然とツッコミを入れるが、赤が何かに気が付いた様だ。
「いや、もしかして符丁じゃないか?・・・・・星と明命か?」
「あと思春ちゃんもなのですよ~。」
あっさりと肯定された。
「・・・思春・・・もうお腹もかなり大きくなってるんだから無茶しないで欲しいんだけど・・・・・」
指揮と訓練だけじゃなく、俺たちの身辺調査までしてたのか。
「旦那の浮気は奥さんの妊娠中というのが世の中一番多いので~。」
「「「え!?みんなの相手は浮気じゃないよね!?」」」
「ふ、語るに落ちましたね、お兄さん。やはり眠気はヤリすぎの所為なのです。この種馬野郎~!」
「「「うおおぉーー!しまったああああぁーーーーっ!!」」」
「そうそう、浮気と言えば華琳さまのご懐妊が判った時の稟ちゃんと桂花ちゃんと春蘭ちゃんは中々複雑な顔をしていましたねぇ♪」
どういう話の流れか解らんが、この話題の変更にすぐさま飛びついておく。
「そうかな?普通に恨みの篭った目で俺を見てた気がするけど?」
「「恨みの篭った目が普通なのもどうかと思うけどな。」」
赤、緑、テンプレのツッコミありがとう。
「これだからお兄さんたちは女心に鈍いと言われるのです。あの時の三人の目には、華琳さまとお兄さんの関係はどう映っていたと思いますか?」
「ええと・・・・・恋人を寝取る間男?」
「なかなか自虐的な観察眼ですね~♪ですが少々違うのです。」
「・・・・・・じゃあどうなんだ?」
「華琳さまは主。つまり旦那様の様な存在。そしてお兄さんたちの事も好きなのですよ、あの三人は。」
「そ、そうかな♪だとしたら・・・」
華琳と俺の両方に嫉妬していたって事だよな♪
「旦那を寝取ったのが好意を寄せた男性という衝撃の事実!!」
思わず三人で目が点になった。
「「「風・・・・・・・・・・・朱里と雛里から薄い本を借りてないか?」」」
「じつはこの間お借りしました~。まぁ、冗談はさて置き。」
「「「何処から何処までが?」」」
「あの三人は嫉妬を怒りという形に変え、全てお兄さんに向けたわけですよ。」
「まあ、あの三人が華琳に恨みを言えるはず無いもんな。拗ねて見せる事は有っても。」
「ですがお兄さん。稟ちゃん達みたいに騒ぐのはまだいい方ですよ。こういう時に大人しい女の方が何を考えてるか分からないモノなのです~。」
「こ、怖いこと言うなぁ・・・・・秋蘭や霞がそうだって事?」
「曹魏に限らず皆さんです。お兄さんたちの眠気の原因がその結果なのです。」
「「「まあ・・・確かにみんなが積極的だな~とは思っていたけど・・・・・」」」
「そんな訳で仕事の遅れがちなお兄さんたちを馬車馬のように働かせる為に、冥琳ちゃんは女の子がこの部屋に入るには特別な許可証が無ければ入れないようにしたのでした~♪」
童話の出だしみたいな言い回しだけど、言ってる事は面会謝絶の監禁強制労働だよな。
「それで兄ぃがお茶を淹れてくれたり、取次を追っかけがしてたのか・・・」
「あれ?じゃあ風も入って来れないはずじゃないの?」
今度は緑が指摘した。
すると風は袂をゴソゴソやり始め、何やら取り出す。
「控えおろう~!この紋所が目に入らぬか~!」
「「「はは~~~」」」
お約束に従って頭を下げるが、
「・・・・・って、紋じゃなくて普通に通行許可証って書いてあるけど・・・・・」
「お兄さんたちが風に教えてくれたんじゃないですかぁ。こういうものを見せるときはこう言うのがお約束だって~。」
「そういやそうだな・・・・・で、仕事の報告?」
「そんなモンであのおっぱいメガネが許可出すわけねぇだろ。」
これまで一言も喋らなかった宝譿が口を開いた。口ないけど。
「これ宝譿、そんな言い方をしてはいけないのです。」
「「「・・・宝譿、お前度胸あるな・・・でもそれじゃあ穏と区別がつかないぞ。」」」
「じゃあおっぱいさどメガネで。」
「「「・・・・・・・・・聞かなかった事にしておくから要件教えて・・・・・」」」
「お兄さんたちはまだ解らないのですか~?」
風は実に不満そうだ。
「今までの会話の中にそんな要素あったか?」
「しょうがないですねぇ。特別に一つ情報をあげるのです。」
「「「うんうん。」」」
「風は先程定期検診を受けて来たのです。」
俺たちはその言葉に固まった。
いくら鈍いと言われた俺たちでも定期検診を受けた後、ここへの入室を許された理由は察しがつく。
「「「・・・・・・・・・・・そ、それじゃあ・・・・・」」」
俺たちの心に春の日差し以上に温かな思いが込上げてくる。
「はい、見事に命中したとの・・・」
俺たちは椅子が倒れるのも無視して駆け出し、風が言い切るまえに抱きしめていた。
「「「ありがとう!風!」」」
「いえいえ~♪」
「すぐに気が付かなくてゴメンな。」
「ホント、お兄さんたち鈍すぎなのです。お兄さんの親衛隊さん達は風が許可証見せたらすぐに気が付きましたよぅ。」
口を尖らせて拗ねてみせる。
「う・・・みんな察しがいいな・・・」
「そういえば『いんてり』さんでしたか?あの人は稟ちゃんと似た癖があるのでしょうか?許可証を見せたら突然血の涙を流し始めましたよ。」
・・・・・・・・・これはまたみんなに奢らないとダメだな。
尻好きも蓮華の時に荒れたけど、宴会での大騒ぎで和解しできたし。
だけどインテリの奴、風でこれなら朱里や雛里の時は剣抜いて追いかけて来るんじゃないか・・・・?
「彼らの事は大丈夫だから。それより風は後宮に行くんだろ?俺たちが送って行くよ。」
「あ~、それには及びませんよ。別にまだつわりも来てないですし、風一人で行けるのです。」
「「「それでも送って行きたいんだけど・・・・」」」
食い下がる俺たちを風は手で制した。
「何やら色々とお話があるそうですので、お兄さんたちは今日のお仕事を終わらせて下さい。丁度その頃にはこちらのお話も終わっているでしょうから~♪」
「理屈は判るけど・・・・・」
「お兄さんたちがそう言ってくれたので風は満足なのです♪それにここで風がお兄さんたちを連れ出すと、今後は仕事が終わるまで教えてもらえなくなるかもですよ?」
そう返されると納得するしか無いじゃないか。
「・・・・・わかった・・・じゃあ、誰か護衛を付ける。それくらいはいいだろ?」
「そうですね♪では曹魏の追っかけくんをお借りしますです♪」
俺たちは渋々風を送り出し、その背中が見えなくなるまで見送る。
曲がり角で俺たちを見た風は、ニッコリと笑って小さく手を振ってくれた。
夕方 後宮個室
【風turn】
後宮へと入った風に待っていたのは、様々な興味惹かれる情報でした。
紫苑ちゃんの語ってくれた妊婦の心得などはもちろん、三国の王の熱い歓迎も大変楽しかったのです。
どんな話をしたのかは、思春ちゃんと愛紗ちゃんが真っ赤な顔をしてたということでお察ししていただきましょう。
(さすがのオレも稟みたいに鼻血が出るかと思ったぜ。)
男の子の宝譿には刺激が強すぎましたねぇ♪
それよりも気になったのは、華琳さまがお話してくださったお兄さんたちのお話です。
定陶で紫のお兄さんと再会してからずっと、三人の天の御遣いさんに風の好奇心は刺激されまくりでした。
(一刀たちがいたら、いつも目で追ってたよな。)
お兄さんたちを観察していく内に、気が付けばすっかりお兄さんの虜になっていて、風は自分でも驚きなのです。
(見てて飽きないからなぁ、あの三人は。)
まあ、結果として子供を身ごもり、後宮に入ったわけですが、このままでは何か悔しいので、お兄さんたちの研究をこの後宮で更に進めていくのですよ。
(木乃伊取りが木乃伊・・・ってか、ドツボにハマってんじゃね?)
それは風だけでは無いでしょう♪華琳さまは特に♪
華琳さまからお兄さんたちの話を聞いている時、風の研究も華琳さまにお話して、中々面白い白熱した討論となりましたねぇ。
(引き出しに仕舞った『孟徳外史考』は、かなり面白そうだったな♪)
宝譿、風も負けていられませんよ。
風がお兄さんたちから教えてもらう『天の国の風習』というのを使ってみるのも研究と実験、更にお兄さんたちの気持ちを知りたいという欲求からなのです。
(そうなのか?ただ面白がってるだけかと思ってたぜ。)
ですがお兄さんたちの説明を上手く理解できない所為か、どうも失敗が多いようです。
まあ、失敗を繰り返し、修正をしていくのが実験というものですから気にせず行きましょう♪
(風、お前やっぱり面白がってるだけだろ。)
お兄さんたちがいた天の国を本当は『正史』と呼ぶそうですが、『せいしのくにからきたおとこ』と言うと、とても納得が行くのは風だけでは無いと思うのですがいかがでしょうか?
(そんなイカ臭そうな国は御免こうむるぜ!)
冗談はこのくらいにして・・・・・・実際のところお兄さんたちはどんな想いでここに居るのでしょうか?
お兄さんは様々な外史を渡り歩き、辛い思いをしているのでしょう。
もしくは今この時も、他の外史では悲しい思いをしているのかもしれません。
(華琳の姉ちゃんの推測ではそうだな。)
ですが、神ならぬ風には、身近にいるお兄さんたちしか相手にできないのです。
(『二兎を追う者は一兎をも得ず』だ。夢の中みたいな所にいる奴より目の前の一刀をまずどうにかしようや。それでも三人も居るんだからよ。)
それもそうですね。華琳様が言われた様に、風もお兄さんたちを少しでも幸せにしてあげたいと思うのですよ。
お兄さんたちは自分の意志でここに来たのではないと言っていました。
それでも三国のために『天の御遣い』を演じて皇帝にまでなりました。
華琳さまの言う通り、「帰りたい」とも「逃げたい」とも言わずに。
元居た世界の話でお兄さんのご家族の話をあまり聞いたことが有りません。
あの優しいお兄さんですから、ご家族と不仲だったとは思えないのです。
風には引き離されてしまったご家族に逢わせてあげる術はありません。
ですからお兄さんに新たな幸せを・・・新たな家族を作ること・・・・・それが風にもできたのですから。
子供・・・・・赤ちゃんを・・・・・・そう言えば子供の前で『お兄さん』と呼ぶのも変ですねぇ♪
(子供が物心ついたら混乱するな。確実に。)
思春ちゃんも『北郷』から『一刀』に変えてましたし、風も『一刀さん』と呼ぶべきでしょうか?
(悪くねぇんじゃねえか?)
ですが今まで、風が『一刀さん』と呼ぶはアノ時ばかり。
普段は照れくささもあって呼ぶことができなかったのです。
今では逆に『一刀さん』と呼ぶと、アノ時を連想してしまって・・・・・。
「「「風っ!!やっと来れたよ♪」」」
「一刀さんっ!!」
突然部屋に入ってきたので、つい声に出して驚いてしまいました。
「・・・・・風?・・・・・なんか風がそんなに驚いたり・・・・・顔を赤くしてるの初めて見たなあ♪」
不意打ちなのです!これは何か仕返ししなければ・・・・・。
「か、一刀さん・・・・・」
「「「何かな?風♪」」」
三人とも余裕の表情で、とても悔しいのです。ですがここはもう少し我慢。
「・・・・・やはりしっくり来ないので、ここは爸爸と呼ぶことにいたしましょう♪」
「「「えっ!?パパ!?」」」
さっきの余裕もどこへやら。すっかり狼狽えているのです♪
「うふふ~♪『お兄さん』改め『爸爸さん』なのです♪『お兄さん』のままでは子供が父親なのか兄なのか判らなくなってしまうじゃありませんか~♪」
「そりゃ解るけど・・・・・」
「「ぱ、パパかぁ・・・・・」」
「ぱぱぱ?そう呼んで欲しいのですか?」
「「「・・・・・パパでお願いします・・・」」」
ふむ、なし崩しではありますが良い結果に落ち着けたようです。
「それでは今後、爸爸さんとお呼びいたしますねぇ♪」
一ヶ月後 後宮個室
【紫一刀turn】
つわりの始まった風をベッドに寝かせ、俺はその横で椅子に座った。
午前の涼しげな空気が残る時間に、今日は俺ひとりでここに来ている。
緑と赤は現在仕事中で、俺は午後からと冥琳に許可も貰った。
その目的は。
「風、これが炙叉に占ってもらった真名の候補一覧だ。」
「ほほう、では早速拝見させて頂きますぅ♪」
俺の差し出した書簡を風が紐解いて嬉しそうに見始めた。
その様子がとても平和で微笑ましく、俺は黙って見守る。
「どうしたのですか、爸爸さん?ニヤニヤして。」
「ニヤニヤって・・・・・俺的には和んでるんだけど・・・」
あの日以来、風は本当に俺たちの事を爸爸さんと呼んでいる。
華琳達も面白がってたまにそう呼ぶんだけど、大抵俺たちをイジる時なので油断ができない。
呼ばれるたびに照れるのが顔に出る所為なのだろうが、それでも爸爸と呼ばれる度に『自分は父親になったのだ』という気持ちが強くなっていく。
「今欲情されても風はお相手できないのですよ。」
「俺のモノローグ台無しかよ!」
「?・・・ものろーぐって何ですか?」
「いや・・・・・とにかく俺は欲情してた訳じゃ無いから!」
風は首を傾けて何か思案いている様で・・・・・。
「なるほど、風のお腹がまだ膨らんでいないので欲情できないという訳ですね。」
「ひと月もそのネタ引っ張らないでくれ・・・・・」
あの後、兄ぃ達親衛隊のみんなにそんな噂が本当に有るのか訊いたら、みんな目を逸らして口を濁していた。
どうやら本当らしい・・・・・。
「親衛隊のみなさんが噂を流した訳ではないのですから、責めてはダメですよぅ~」
「それもそうだな・・・って!しっかり俺のモノローグ読んでるよねっ!!」
「まぁまぁ、そんな細かいことは気にしないで。それより風はこの子の真名をこれにしたいと思います♪爸爸さん♪」
全然細かいことでは無いはずだが、笑顔で書簡を差し出す風を見ると全て許してしまえた。
「うん?どれどれ・・・・・
「はい。風は気に入ったのですが、爸爸さんは何か気に掛かるご様子。できましたらその辺りの忌憚ないご意見を伺いたいのですねぇ~」
一瞬ジャニーズのアイドルグループを連想したが、言うべき事はそこじゃない。
「嵐って荒々しいイメージ・・・感じがするよね。それに嵐は乱に通じて良くないとされ、漢王朝の頃は謀反の兆し有りと難癖つけられるから避けたんだろ?戦乱の頃の武将なら敢えて名付ける人も居たらしいけど。」
「ほほう、よく勉強されてますねぇ♪」
「華琳に教えて貰ったよ。風も当然知ってた事だろうけど・・・・・それじゃあ今度は風の意見を聞かせて貰おうかな?」
俺は少し身を乗り出して風の顔を見た。
「そうですね~、ご存知のように風が普段はのんびり者ですから、荒々しいくらいの方が丁度良いと思ったのと・・・・・」
風が書簡に書かれた『嵐』の文字を指でなぞる。
「山の下に風、母を越えて頂に至って欲しいという願いも込めてみました。」
華琳という日輪を支えるため、名を『立』から『昱』と変えた風らしい理由だなと、感心してしまった。
「いかがでしょう?」
書簡から俺の顔に視線を移し、小首を傾げて問う風が可愛くて少し返答に遅れる。
「・・・・・あ、あぁ・・・そう聞くと納得だ。何かそれしかないって感じがする。」
「うふふ~♪では今日からこの子は嵐ちゃんなのです。元気で爸爸さんを困らせる子になるのですよ~♪」
「困らせるの前提なの!?」
風はお腹をさすって笑っている。
まあいいか♪最初から困らせるって言われてれば覚悟ができるってもんだ♪
季節が春から初夏に移り行く。
その温かい日差しの中で、俺と風が眠気に誘われなかった事に、俺は仕事に戻るまで気が付かなかった。
おまけ
風の長女 程武 真名『
五歳
【紫一刀turn】
春のよく晴れた日のこと。
緑の提案で庭に造られた桃園が満開を迎え、全員でお花見をしようという事になった。
宴会が始まってすぐに、俺たちは甘えてくる子供達にモミクチャにされてしまう。
「爸爸、これたべて♪」
「ちちうえもあーんして!」
「これも!これも!」
「とうさま、おんぶ~♪」
「爸爸、だっこ!だっこ♪」
桃の花を見ている余裕なんかこれっぽっちも無い程だったが、とても幸せな時間を俺たちは満喫していた。
母親達もそんな俺たちと子供達を見て笑って酒を呑んでいる。
そんな中、嵐はちゃっかり俺の膝の上を確保してご満悦の様子だ。
「爸爸ぁ、おねがいがあるのですぅ。」
「うん♪何かな?嵐。」
身体を捻って見上げてくる嵐を見つめ、笑って答えた。
「嵐は爸爸のおヨメさんになりたいのです♪」
おおっ!いつかは来てくれると信じていた『パパのお嫁さんイベント』がここで発動とはっ!!
「あー!嵐ちゃんズルい!眞琳も爸爸のおヨメさんになるうっ!!」
「蓮紅もとうさまのおヨメさんだもん!!」
「烈夏も!烈夏も爸爸のおヨメさん!」
「あ~ん!香斗もだよ~!!」
後から後からすがりついてくる子供達。
小さい子達もなんだか分からないけどお姉ちゃん達の真似をしてしがみ付いて楽しそうに笑っていた。
俺、緑、赤の三人は当然デレデレになっている。
「「「よぉし♪みんなまとめて爸爸たちのお嫁さんに・・・・・」」」
言いかけた所で背筋にゾクリと氷をぶつけられた様な痛いほどの寒気を感じた。
そうそう、戦乱の頃にも何度か経験したよね。
これはそう・・・・・・・・・・・・・・・・殺気だ!
固まった笑顔のまま、俺たちが振り返るとそこには。
「一刀♪お話が有るからこっちに来なさい♪」
華琳を筆頭に三十人近い媽媽達が笑顔に青筋のトッピングをして立っていた。
「媽媽?爸爸たちとお話なの?」
「ええ、今からお仕事の話をしなくちゃ
「きょうはお仕事ないって言ってたのに・・・・・」
眞琳は不満というより寂しいという顔で抗議した。
が、頑張れ眞琳っ!!爸爸たちの命運はお前にかかっているぞっ!!
「ごめんね、眞琳。たった今出来た仕事だから・・・・それに直ぐ
「そうなの?じゃあ、眞琳たちガマンするね・・・。」
ま、まりいいいいぃぃぃん!!聞き分け良すぎっ!子供はもっと我侭言っていいんだぞっ!!
ほ、他の子は!?おお!不満そうにしている♪中には泣き出しそうなのも居るぞ!!
「はいは~い。チビちゃんたち~♪爸爸さんたちはすぐに戻るからガマンなのですよ~♪」
風!?しまった!風は柔らかい物腰と、宝譿の存在で子供達に人気がある!勝てる気がしねぇ!
「それまであっちで貂蝉ちゃんと卑弥呼ちゃんが遊んでくれるのです♪」
子供達が喜んで貂蝉と卑弥呼に向かって走っていく・・・・・・・。
俺たちは未だ嘗て無い程の敗北感を味わっていた。
だが、ただ一人。嵐だけが俺の膝の上で、事態を理解出来ていないのかキョロキョロしていた。
「嵐ちゃん。爸爸さんたちはこれからお仕事なので、いってらっしゃいするのです。」
「は~い。」
「「「ちょ、ちょっと嵐・・・」」」
俺の膝からよいしょっと降りた嵐が素敵な笑顔で手を振った。
「爸爸、いってらっしゃ~い♪」
最後の希望の糸が断ち切られ、俺たちは上着の襟を掴まれてズルズルと引きずられ始めた。
「爸爸さんたち~。嵐は元気で爸爸さんたちを困らせる子に育っているのですよ♪」
嵐と一緒に手を振る風の言葉で思い出した。
嵐の真名を決めるとき確かにそう言ったが、まさかこういう天然系の困らせ方をしてくる子に育つとは・・・・・。
「一刀ぉ~・・・さっきの発言、あなたたちでは洒落にならないわよぉ♪」
困らせられる覚悟は出来てたはずなんだけどなぁ・・・・・。
あとがき
今回のお話、
実はかなり難産でした。
風というキャラクターは普通に登場するだけなら
扱いやすいのですが、
内面に踏み込もうとすると
途端に彼女の真意が掴めなくなるのです。
これはいかんと思い、真と萌将伝の風を再チェックして
自分なりの答えを出したのが
風のモノローグです。
風のモノローグと取るか
宝譿との会話と取るかは
読者のみなさんの判断にお任せしますw
貂蝉と卑弥呼
実は子供たちに大人気です。
認識がゴジラやクッキーモンスターの類であってもw
《次回のお話&現在の得票数》
☆祭 6票
という事で次回は祭に決定しました。
以下、現在の得票数です。
恋 4票
思春 4票
蓮華 2票
凪 2票
雪蓮+冥琳2票
蒲公英 2票
美羽 2票
紫苑 1票
翠 1票
そのほか 0票
※雪蓮と冥琳は一つの話となりますのでセットとさせて頂きます。
引き続き、皆様からのリクエストを募集しておりますので
よろしくお願い申し上げます。
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得票数5の風のお話です。
懐妊確認直後とその一ヶ月後の一幕+おまけです。
引き続き、どの恋姫メインの話が読みたいのかリクエストを募集しております。
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