「な、なにを言ってるんですか。私が妖怪ですって?そ、それにあなたは誰ですか?」
「いや見事な演技だよ。実際俺もこの眼で見るまでは、アンタに憑いてるとは思わなかったからな」
「ついてる?何がですか」
「もう演技は止めにしようや。大体おかしいと思ったんだ。世界樹がある場所で妖怪騒ぎなんて」
そう、世界樹―正式名称は『神木・蟠桃』という―がある土地付近は魔力溜まりがある。低級な妖怪程度なら、その魔力に当てられて消滅してしまうのだ。なのにこの妖怪騒ぎ…。これについて俺はある仮説を立てた
「お前、楠根さんに憑依するための魔力を世界樹から引っ張ってきてるだろ?」
「なっ!?…な、何のことやら。わたくし、妖怪や陰陽道などには疎くて」
「それは本当かの?疾風」
「ああ。まず間違いない」
原作では度々関西呪術協会の陰陽師が召喚した鬼などが学園内に侵入していたが、アレは学園結界に世界樹の魔力を使用していたためだ。学園結界は低級妖怪は入れないだけであって、中での活動はある程度可能だ。つまり、学園結界の中で召喚されると結界は意味がほぼ無い。まあ、学園長はそれに気付いてキティの魔力と電力で補うことにしたらしいけど
「クラマ、魔力を遮断する結界を。それであいつの行動を制限できる」
「わかった。ヴァン・オーン・キリキリ・マサラカト・ウン!」
「ま、待て!」
楠根さんがクラマの詠唱を妨害しようと手を伸ばす
しかし、止まる訳が無い
「…封鎖結界、発動完了じゃ」
「ッく!?…ぅぅぅああああぁぁぁあああぁぁあ!!?」
楠根さんが絶叫し、自分の身体を抱く様にして悶える
そして一秒ごとに、楠根さんの外見が変化していった。先ほどと同じように口は耳まで裂け、舌が二股になる
しかし、今回はそれだけにとどまらなかった
肌は鱗状にひび割れ、尻尾が生えてきたのだ
「やはり、な。お前の正体は蛇の妖怪、若しくは蛇神だな?」
「…そのとおりだ。私はこの地の土地神、名も無き蛇神だよ。しかし、何故分かった!」
土地神か…。しかし、土地神ほどの神格を持つ者が何故堕ちた?
「俺がお前を最初に怪しいと思ったのは、握手をしたときだ。あの時の手は、人にしては異常に冷たかった」
「…私の蛇神としての特性が仇となったか」
「次に怪しいと思ったのは、俺が偵察にはなった鼠が何者かに喰われたことだ。鼠なんか喰う人間は居ないからな。よほど腹が減ってる者以外は」
「成る程。あの時に喰らった鼠は貴様の…先ほどの蛙もか」
「ああ、その通りだ。後は異常なほどの酒豪。蛞蝓と蛙への過敏な反応。これら全てを総合して、お前は蛇の化身と結論付けた」
楠根さん…に取り憑いた蛇が納得したように首を振る
「しかし、分からないことがある。土地神としての神格を持っているお前が、何故人を喰らう?」
「先ほどお前は、世界樹のことを引き合いに出したな。あの樹のせいだよ。あの樹に消滅させられた、哀れな妖怪の怨念が私に縋ってくるのだよ」
「…だが妖怪如きに狂わされるほど、神は脆弱ではないと思うが?」
「ああ、確かに十や二十程度ならば直ぐに振り払えたよ。しかしな、あの樹に消されたのはそんな少なくは無い。千、二千。日によっては万を超える時すらあった。そしてそんな事を繰り返して幾千年。ついに私は壊れたよ。今は自分が壊れている事も自覚している。だが…止められないのだよ!!」
蛇は楠根さんに取り憑いたまま目を剥き、声を荒げてそのまま飛びかかってきた
クラマは左に飛んで逃げ、俺は久慈奈ちゃんを抱えて空を飛ぶ
「あの噛み付いた時にほとばしる鮮血!喰らいついた肉の歯ごたえ!!弾力のある筋!あれを知ってしまったら…!もう…もう止められないんだよ!!!」
蛇の目は血走り、鼻息も荒い。久慈奈ちゃんはそんな母親を見ていられなかったのか、懇願する
「疾風さん!お願いです…。あの化物を母上から、引き剥がしてください!」
「言われなくても。それが陰陽師、神鳴流剣士としての仕事ですから」
空に飛んだ俺たちを追ってきたクラマに、久慈奈ちゃんを任せる
「『
「ラファール・ノワール・アヴニール!『
始動キーを唱えて、初心者用の魔法を唱える。勿論この魔法は余り威力は無い。なんせ鉛筆とかを倒すくらいの魔法だからな。しかし俺は写輪眼によってこの魔法を覚え、熟練させてきた。よって…
「おぐぅッ!?」
その威力は充分実戦で使えるものとなっている。俺の魔法により、蛇は数m吹き飛ばされて倒れる。
「ラファール・ノワール・アヴニール!
追撃に威力を弱めた雷の矢を撃ち出し、スタンガンの要領で痺れさせる
狙い通りに四肢に六本づつ当たり、残りの五本は胴体に直撃する
「『
最後に無詠唱で光の矢を放ち、地面に縫い付けるように拘束する
そして無言で地面に降り立って近づく
「楠根さん。少し痛いかもしれませんが、我慢してください。『神鳴流奥義・
謝罪を告げながら気を練り上げ、掌を楠根さんの丹田に当て奥義を使う
魔を討ち払う、神鳴流の奥義『斬魔衝』。その効果は直接気の衝撃を当て、魔を追い出す物
楠根さんから追い出された蛇は、その醜悪な身体を晒していた
青い蛇と言った外見だが、大きさが尋常ではない
かつて大蛇丸師匠が口寄せした『マンダ』には遠く及ばないものの、それでも蛇の大きさの範疇をゆうに超えていた。クラマが降りてきて、楠根さんを回収する
「くふっ。まさか、追い出されるとは思わなかったぞ…!」
「追い出すために奥義を使ったからな。その結果は当然だ」
軽口を叩きながら瞬動を使い、蛇の後ろに回る
長い間瞬身と瞬動を使い続けた結果、面白いことが分かった
それは瞬身はコントロール…制動力に優れ、瞬動は瞬発力に優れるという事だ
今回は後ろに回るだけだったので、縮地を使った
「さて、余り時間はかけたくないからな。早めに終わらせてもらおう。『神鳴流奥義・斬魔剣』!!」
草薙を抜きながら言い放つ。そしてそのまま、魔を討ち祓う奥義を放つ
その太刀筋は蛇の胴体を真っ二つに
―――するはずだった
ガギャァン!!
金属と金属がぶつかったような耳障りな音を立てながら、草薙が俺の手から弾かれた
「…な」
『何故』そう言い切る前に吹き飛ばされた。何か重いものが横から来たような衝撃
ふと、転生する前に車に撥ねられた事を思い出す
俺はまるでゴムボールのように弾んで、地面に沈んだ
久方ぶりに味わう泥の味、顔にめり込む小石。ジャリッとした感触が不快感を増す
草薙を杖代わりに何とか立ち上がり蛇のほうを見てみると、その尻尾を誇示するように揺らしていた
恐らく尻尾に妖力を集める事で即席の盾代わりとして斬魔剣を防ぎ、そのまま俺を薙ぎ払ったのだろう。まったく、自分の油断に腹が立つ。この世界にきて三百と二十年。その間俺は敗北してこなかった。その間、知らぬ内に天狗になっていたのか。なら押し負けたのがこの程度の相手でよかったと思わなくては。もし今押し負けたのがかのジャック・ラカンだったら俺は死んでいた、と
「ふっ…」
無意識のうちに笑いが漏れた。ああ、ここで負けたのなら俺はまだ強くなれる
この負けを糧として、もっと高みへ昇らなくては
もう油断はしない。そう心に刻み込み、草薙を鞘に収める
「
懐からクナイや手裏剣をありったけ取り出して、蛇へ投げつける
俺の手裏剣術はイタチさん仕込みだ。百発百中とまではいかないが、それなりの命中率はある
何発かは外れてしまったが、大多数が蛇の身体へと突き刺さった
「ぐぎゃああぁあぁぁぁああ!!!!」
思わず耳を覆いたくなる蛇の絶叫を無視して、奥義の構えを取る
その構えはかつて神鳴流最強だった泰春を打ち破った、左足を前に構えての抜刀術。しかし、今回は草薙の剣に気を込める
数秒間の間精神を集中し、一瞬にして蛇の背後に現れる
それはマーキングクナイを目印にした神速の移動『飛雷神の術』
「飛天御剣流・神鳴流複合奥義『
静かに奥義の名前を告げた後、草薙を丁寧に鞘に収める
『チン』という音がやけに大きく響いた
「あ………?」
蛇は頭から尻尾まで真っ二つになって、消滅した。自分がやられた、ということも理解できていないだろう。しかし、ここで油断してはいけない
―残心―
蛇が本当に消滅したかを白眼で見る
数分使い、完全に消滅したことを確認したのでクラマたちを呼ぶ
油断をしてはいけないという事を思い出した
そのツケが俺の怪我だけなら安いものだ
とりあえず今は般若の顔をして迫ってくる狐っ娘と、泣きそうな顔をしてこっちに来る娘を諫める方法を考えないとな
更新遅れて申し訳ありません
正体が蛇と分かった方は居たでしょうか?
さりげなく前々話の疾風が感じた『背中を舐められるような感じ』もヒントになっておりました
これは名前は言いませんがどっかの大蛇がいつもそんな視線を疾風に送っていたからです
これによって疾風は、誰得な蛇の感知能力を手に入れましたwww
さて分かっている方も居るとは思いますが、ここでオリキャラたちの名前の由来をご紹介します。
龍宮楠根 苗字は龍宮神社から。楠根は蛇の英訳スネークのアナグラム スネーク→すねく→くすね
龍宮久慈奈 苗字は上に同じく。久慈奈は蛞蝓のアナグラム 蛞蝓→なめくじ→くじな
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第十話です。遅れてしまい申し訳ありません