ーーーーふと、目が覚めた。
桂枝
「・・・自室か。」
慣れ親しんだ空気を感じて現状をそう把握する。
身体の氣のめぐりを確認・・・恐ろしく悪い。これだと10日間は身動き一つ取るのにも難儀することになるだろう。
当然だ。一つ使うだけでも尋常ではない疲労が出てくるものを2つ、しかも「身体強化」なんていう一番負担のかかるものに使ったのだ。
実際身動き一つ取れなくか最悪どこかが動かなくなるまで考えていたのだが・・・この程度で済んだと考えれば僥倖だ。
続いて、怪我の状況を確認。
捕獲を目的としていたといっただけあり急所への攻撃は少なく、こちらの自由を奪う類の物が多かったので、今は逆にそれが辛い。
しかし手当は完璧の一言。きっちりと傷口は抑えてあり、折れた右足の添え木もじゃまにならない程度・・・それでも役割を十二分に果たしているものだ。
並の医者ではここまで完璧な処置はできないだろう。何より他人に何かをされたという不快感が全くない。
桂枝
「華佗っぽいな・・・後で礼を言いに行こう。」
私は氣のめぐりの想像以上の悪化のなさと怪我への対応方法から友人の介入を感じた。
桂枝
「さてと、あとは・・・」
最後に私は、起きた時から感じている何か温かいものが触れているような感触。その原因を確認しようと方向に目を向けた。
そこには・・・
桂花
「すぅ・・・すぅ・・・」
寝台に潜り込んでいる姉の姿があった。
桂枝
「ああ・・・だからか」
道理で警戒心が微塵も起きないわけだ。おそらくこまめに見に来ては何かと世話を焼いてくれていたのだろう。いや、きっちり寝巻きできている辺り毎日ここで寝ていたのかもしれない。
桂枝
「ったく・・・髪乱れっぱなしじゃないか。女性としてそれはどうなんだ?」
私はそっと姉の乱れた髪を手櫛でとかし始めた。
桂花
「ん・・・」
とかし始めて数分。数秒ほど身じろいだ後、姉の目がゆっくりと開く。
桂枝
「っと。起こしちゃったか。済まないな姉貴。だけどどうしても気になっ・・・」
姉は全てを言い終わらないうちに・・・
桂花
「・・・っ!!桂枝っっ!!!!」
思いきり抱きついてきた。
桂花
「よかった・・・本当に良かった・・・!」
服に顔を埋めたまま涙声でそういう姉。伝わってくるのは心からの安堵だった。
桂枝
「・・・ごめん、心配したよな。」
桂花
「当たり前でしょうばかぁ!あんたがやられてる間何度飛び出そうとしたとおもってるのよぉ!」
泣き崩れた顔で見上げてくる姉を見てどうしようもなく胸が痛んだ。
桂花
「それに・・・こんなにいっぱい傷も作って。」
そう言われて私は今の格好に気づいた。
桂花
「・・・ずっと前からよね?今できた傷って感じじゃないもの。」
今の服は怪我の手当てができるようにという理由か、薄着1枚というここ数年したことのないような格好をしている。
つまりそれは体にある無数の傷跡を晒しているということだった。
桂枝
「む・・・ごめん。見苦しいよ「いいわよ。隠さなくたって」・・・な」
慌てて隠そうとした私を姉が制止する。そして・・・
桂花
「別に見苦しいなんて思わないわよ。桂枝が今まで頑張ってきたっていう証なんだから。それに・・・
ーーーーいまはもう少し・・・桂枝とこうしていたいから。」
そう言い放ちながら、姉は更に強く私を抱きしめた。
桂枝
「・・・そっか」
姉がそういうのならば私としては何もいうことはない。
それからしばらく・・・私が近づいてくる主人の気配に気がつくまで姉はずっと私に抱きついたままだった。
ーーーー訂正しよう。
姉は主人が来てもずっと私にくっついたままだった。というのも・・・
桂花
「すぅ・・・すぅ・・・」
そのまま二度寝に入ってしまったからだ。
どうやら私が目覚めた安心と今までの看病疲れが吹き出たようで起きる気配がない。
そしてそんな姉を起こすということは私には不可能だった。
華琳
「・・・お邪魔だったかしら?」
そんな様子をみて主人は呆れたようにそう言った。
桂枝
「いえ、問題ありません。このまましばらく起きないでしょうし・・・私も動けませんから。」
そう返しながら軽く苦笑する。もとより傷もひどく氣も回っていない状況。出歩くまでには相当かかるから姉がいようといまいと動けないことには代わりはない。
主人も私の姿を見て納得したようだった。
華琳
「・・・そう。ならば改めて言いましょう。
ーーーーおはよう桂枝。よく目覚めてくれたわ。」
桂枝
「はい。おはようございます華琳さま。早速ですが現状を教えていただけないでしょうか?霞さん達が合流してからの記憶がなくて・・・」
華琳
「あら、桂花は何も説明していないのね。」
そうして私は主人より私が倒れた後の状況を説明してもらうことになった。
まずはあの戦。結果としては私達の勝利だったという。霞さんや風が特に張り切ったらしく劉備軍へ大きな痛手を与えることにも成功。だが惜しくも相手の将を討ち取ることは叶わなかったらしい。
まぁこちらも将も一人としてやられなかったというのだから私としては十分だ。
次に私の状況。話によるとあれから3日間も経っているらしい。城の典医はおそらく回復には半年以上の休養を要する・・・と言っていたらしいのだが、私の予測通り戦があったと聞きつけた華佗が負傷者の治療の一環として私の治療を担当。
氣の循環さえ戻れば日常生活を送ることは出来る程度には回復するという話なので私ならば7~8日もあればなんとかできるだろう。十全な状況だ。
華佗にお礼を・・・と思ったのだが既にここからは出発してしまったらしく、もうここにはいないとのこと。アイツのことだから蜀にも向かったのだろう。そういう奴だ。
ちなみに例の筋肉達磨二人組はいなかったらしい。・・・よかったよかった。
華琳
「本来ならばあなたの処遇も考えなくてはいけないのだけれど・・・身体が動くようになってからでいいわ。どのくらいかかりそうなの?」
桂枝
「そうですね・・・おおよそ7日間といったところでしょうか。」
華琳
「わかったわ。じゃあ7日間はおとなしくしていなさい。その間はこの部屋から一人で出ることを「禁止」するわ。」
桂枝
「この部屋から出ることを・・・ですか?それでは仕事をできないのですが。」
前は「休め」程度だったのだが・・・仕事するなと命令するのは主君としていかがなものなのだろうか。
華琳
「仕事ができないって・・・アナタ忘れているの?あの戦の前に過労で倒れているじゃない。しかもあれから3日、しかも戦準備があったとなればそれすらも休んでいないじゃない。
それでいて動けないほどにボロボロになって帰ってきた人物に対して仕事させるなんて・・・アナタは私が鬼だと思ってるのかしら?」
・・・ああ、そういえば過労で倒れるなんてことがあったな。完全に忘れていた。
華琳
「なんか腑に落ちないって顔をしているけれど・・・まぁいいわ。とにかく桂枝、7日間はちゃんとこの部屋にいること。こまめに様子を見にこさせるからもし用事があるときはその時に頼みなさい。いいわね。」
なるほど。監視にくるから逃げ出すなということか。・・・そこまで言われては仕方ないかな。
桂枝
「承知しました。華琳さま。」
華琳
「よろしい。なら私はそろそろ行くわね、桂枝。桂花は・・・起こさなくてもいいわ。そのかわり起きたら私が呼んでいたと伝えて頂戴。頼んだわよ。」
そう言って主人は私の部屋を去っていった。
あの人も忙しいはずなのにわざわざこちらに様子を見に来てくれた恩を必ず返そうと心に誓う。
そして・・・
桂枝
「さて、それにしても7日間か・・・どうやって過ごそうかな。」
私は未だ眠りについている姉の髪をとかしながらポッカリと空いた時間の使い方に思考をずらしていった・・・・
~一刀side~
俺は早足で廊下を歩いていた。目指しているのは桂枝の部屋だ。
今日の朝、華琳の報告により俺達は桂枝の覚醒を知った。
その時に華琳が言っていたのだ。「今、桂枝には一人で部屋から出ることを禁じている。」と
心配なのは当然のこと、あいつも暇をしているだろうし外に出る口実も欲しいだろうということで様子を見に行く事にしたのだ。
一刀
「それに・・・あいつ放っておくと勝手にどっかに行てそうだしな。」
華琳の命令である以上、まず無いとは思うんだが・・・そういう危ういところがアイツにはある。だからこそこまめに様子を見に行ってやろうと思ったのだ。
そうこうしているうちに桂枝の部屋の前につく。扉越しに聞こえる僅かな声から先客がいることを知った。
一刀
「桂花か霞あたりかな?」
俺は好奇心もありゆっくりと扉をあけて中を覗くそこには・・・
夏候淵
「なぁ姉者。悪いことは言わないからそれは・・・」
夏侯惇
「さぁ!遠慮せずに食べろ!流琉からお前は甘いものが好きだと聞いてな!私が丹誠を込め作ったんだ!」
桂枝
「おや、これは・・・杏仁豆腐ですか?随分量がありますけど。」
せっかく起きたのにまた死にかけている桂枝の姿だった。
一刀
「ちょ・・・ちょっとまったぁぁぁ!!!」
慌てて桂枝と春蘭の間に割り込んで止める。春蘭の料理は俺はまだ食べたことがないが一度秋蘭と流琉が食べて倒れたのを目撃している。
少なくとも絶対安静を言い渡されている人間が食べていいものではないはずだ。
桂枝
「北郷か。どうしたんだ?そんな血相を変えながら」
夏侯惇
「そうだぞ。桂枝だって今日起きたばかりなんだ。病み上がりの人の部屋にいきなり叫びながら入ってくるのは配慮にかけているんじゃないか?」
ええい!こんな時ばっかり正論を言いやがって・・・!
一刀
「ってあれ?春蘭、さっき桂枝のこと真名で呼んでなかったか?」
桂枝
「ああ。さっき預けた。あの戦ではこの二人に助けられたからな。その恩に私が返せる物といったら・・・これくらいなものだ」
秋蘭
「何、桂枝には今までもさんざん世話になっているしお前の真名へのこだわりは知っている。充分さ。」
春蘭
「そうだぞ!それに貴様のことは我らも前々から認めていたのだ!真名を交換することに何の異存もない!」
桂枝
「そういってもらえればありがたいですよ。・・・で、どうしたんだ北郷?さっき血相を変えて飛び込んできたみたいだが・・・仕事でなにか問題でもあったか?」
一刀
「え?・・・あっ、そうだ!春蘭の料理!」
桂枝に言われて気づく。そうだ。桂枝が真名を呼ばれるなんて珍しいことに気を取られてたが俺は桂枝を魔の手から救うために割り込んだのだった。
春蘭
「ん?私の杏仁豆腐がどうかしたのか?」
一刀
「いやさ、ほら!桂枝も起きて間もないだろう?もっと消化の良いものじゃないとダメだと思うんだけど・・・」
春蘭
「何をいう。豆腐は消化にいいものではないか。お前そんなことも知らないのか?」
ええい!そんなことばっかり無駄に知ってやがって!
一刀
「ほ・・・ほら、それじゃなくても杏仁豆腐って食後に食べるものだろう?とりあえず桂枝に普通の食事を取らせてやってから・・・」
春蘭
「心配せずとも桂枝は秋蘭が作った粥をもう食べた。まだ食べられるっていってたし貴様が心配することではない。」
秋蘭が作ったおかゆ・・・か。もしかしたらこの杏仁豆腐(?)も秋蘭が作っていないかなと思い俺はつい秋蘭に向かってアイコンタクトを送る。
しかし・・・帰ってきたのは気まずく視線をそらす秋蘭の姿だけだった。
桂枝
「そんなにきついものなのか?見た目だけなら案外普通そのものなのだが・・・」
小さな声で桂枝がそう訪ねてきた。俺の様相から何かを察してくれたのだろう。
一刀
「ああ。一度秋蘭と流琉がそれを食べて倒れているんだ。流石に病み上がりのお前に・・・いや。誰であろうと食べていいものでは・・・」
春蘭
「北郷!さっきから何をコソコソと話しているんだ!早くしないと杏仁豆腐がぬるくなって美味しくなくなってしまうではないか!」
春蘭がしびれを切らしたようだ。その顔は「今すぐ会話を止めないとお前の首を跳ねる」とありありと物語っていた。
春蘭
「せっかく私が手ずから桂枝のために作ってやったんだぞ!これ以上無駄な時間を取るならば・・・貴様の首をはねる!」
一刀
「結局言うのかよ!」
桂枝
「・・・まぁそうだな。せっかくの好意だ。ありがたく頂いておこう。」
そういって桂枝は机の上にあった杏仁豆腐(?)をレンゲで一口分すくった。
一刀
「おい!馬鹿やめろ!せっかく起きてこられたのにまた倒れる気か!」
春蘭
「北郷・・・それはどういう意味だ?」
一刀
「あ・・・いや、それは・・・」
桂枝
「・・・まぁ大丈夫だろう。腹を下す程度ならばまぁどうにかなるし。」
そういって桂枝は・・・
一刀
「あーーーーっ!」
ーーーー春蘭の杏仁豆腐(?)を口に運び・・・
春蘭
「どうだ?前のことを反省して更に工夫を重ねてみたんだ。・・・うまいか?」
その余計な工夫(?)の働きによって・・・
桂枝
「・・・あま苦酸っぱい」
ーーーーそのまま倒れてしまった。
一刀・秋蘭
「「桂枝ーーーーーーーーーー!!!」」
不幸中の幸いか、寝台に腰掛けている状況だったので運ぶ必要はないのだが顔は真っ青でなにやらプルプルしている。どう考えても安心できる状況ではない。
春蘭
「そうかそうか!倒れるほどにうまかったか!」
なにやら勘違いをしている春蘭をよそに秋蘭は桂枝にかけよって行った。
秋蘭
「おい桂枝!しっかりしろ!今すぐ医者を呼ぶからそれまで死んでくれるなよ!」
桂枝
「・・・いや、心配せずとも死にはしませんって。」
意識は保っていたようだが桂枝の声はとても小さい。後に聞いた話だが桂枝は体力的な限界が近づくとまず声がでなくなるようだ。
秋蘭
「すまない。私が姉者を止めることができていればこんなことには・・・」
桂枝
「いえ、構いませんよ。好意で作ってくれたものですしそれに・・・」
ーーーーこれでしばらくは寝て過ごせそうです。
そう言い残して桂枝は今度こそ気絶した。
医者に見せた所、幸いにも気絶しているだけだということだったので命に別状はなかったがそれからも桂枝は大変だった。
李典
「そしてこれが!ウチが改良を加えてついに完全全自動に成功した「全自動カゴ編み装置」や!」
桂枝
「へぇ・・・取っ手を回すだけでカゴが編めるのか。」
李典
「せや!前に作ったのとは違って今度は底と枠も作れる完全全自動型や!まぁそれは試作機やけど爆発なんてせぇへんはずや・・・
ーーーーあ。」
真桜の珍発明の爆風を受けていたり。
風
「暖かそうな寝床をみるとついこう入りたくなるんですよねー」
稟
「風!寝台にもぐりこむなんてそんな破廉恥なことを!」
風
「一緒に寝るだけならいいじゃないですか。一体稟ちゃんは風達がいったい何をすると思っていたるのですか?」
稟
「そ・・・それはその、男女が同じ寝台で・・・夜を・・・桂枝さんと風が・・・ぶはっ!」
桂枝
「・・・風、俺いま動けないからさ。よけられないんだよね。これ」
風
「・・・ぐー」
戦場でもないのに赤く染まっていたり
霞
「早ぅ怪我を治すためには酒が一番や!ホレ!桂枝もジャンジャン飲みぃ!」
桂枝
「・・・あれ?霞さん今は勤務中では?」
霞に酒のお供をさせられているとおもったら・・・
楽進
「あの・・・何か差し入れをと思ってお作りしました。よろしければこれ、召し上がってください。」
桂枝
「おぉ。なんというか・・・赤いな。すごく。」
于禁
「凪ちゃん・・・沙和はね、これは断じて差し入れとしてもってくるものじゃないと思うの。」
また死にそうになっていた。
桂花
「いいかげんに・・・しなさーーーーーーーいっ!」
一刀
「と、言うわけでだ。とりあえずここには俺と桂花と華琳と流琉、それに秋蘭しか来ないことになったから。」
桂枝
「そうか。俺は気にしていないと春蘭さん達には伝えておいてくれ。」
あれから凪の激辛料理を一口食べたところでまた倒れたという報告を聞き、桂花が激怒した。
医者が言うにはどうやら先に食べていた杏仁豆腐(?)とお酒との食べ合わせが非常によくなかったらしく、胃が荒れてしまったそうだ。
おかげで今は流琉が作ったおかゆですら食べると胃が痛む状況になっているとか。
その報告を聞いて華琳はため息とともに一部の人間に対する面会制限を決定。
結果、先の五名以外は何を起こすかわからないという簡単にして明快な理由で面会謝絶となった。
一刀
「ああ、わかったよ。春蘭達も気にしていたみたいだからさ。そう言ってくれると助かる。」
実際あの二人は桂花と華琳に説教を食らってシュンとしていたからな・・・霞は桂枝との面会禁止の方に落ち込んでいたが。
桂枝
「好意でやってくれたことを怒るわけにもいかないだろうさ。それにしても・・・なぁ北郷。お前の仕事ってわざわざここでやらなければならないほどにあるのか?」
そういって桂枝は机の上にある山のような書簡に目を向けた。
そう。俺は現在、今日中に片づけなければいけない大量の仕事を桂枝の監視がてらこいつの机を借りてやっているのだ。
ちなみに桂枝は本を読んでいる。
一刀
「まぁね。あの戦でうちの部隊からもずいぶん犠牲が出ちゃったし・・・」
戦死した兵士たちの代わりのシフトを埋めていく作業・・・進んでやりたい仕事ではないが放っておけば当然支障がでる。
桂枝
「ああ、そっか。あの時は城にいた見回りの兵士たちもほとんど狩り出してたもんな」
ついこの前まで一緒に働いていた兵士が次の日にきてみればもういない。戦が起きる度に体験していて何時まで経ってもなれない感覚だ。
一刀
「ああ。だからなるべく早く穴を埋めないといけないからさ・・・元々今日はずっとこれやってたんだ。それでもまだこれだけあるんだけどさ。」
桂枝
「そういやウチの部隊もそれやらないといけないんだよな・・・どれ、見せてみな。」
そう言って桂枝は俺の終わらせた書類に手を伸ばす。一応今やっている中では俺が考えに考えたものだから穴はないはず・・・
桂枝
「ふむ・・・北郷。この部分はこっちにして・・・これをあっちに移したほうが効率がいいのではないか?」
一刀
「え?・・・あ。本当だ。」
・・・訂正。どうやらこいつに言わせればまだ穴があるものだったらしい。
一刀
「じゃあ、これはどうだ?かなり練りに練って作ったんだけど・・・」
桂枝
「どれ。良くはできているが・・・ここはなんでこうなってるんだ?ここをこうしたほうが効率がよく回りそうなものだが。」
一刀
「・・・確かにそうだな。そうさせてもらうよ。」
その後もいくつかの自分で出せる最上の案を書いたものを「けいし」に見せてみたが、こいつは悉くさらに一歩先を行った提案を繰り出してきた。
一刀
「かなり自信があったし計算とか関係ない書類なのになぁ・・・」
桂枝
「見せてもらった書類はよくできていた。実際俺では絶対に考え付かないような物も何個かあったしな。ただ・・・悪いな。たたき台になるものがあるものを改良するのが得意なんだ。」
・・・そうだった。今まで他もそうだが真名で呼んでいるとそいつが歴史上の偉人だったということをつい忘れがちになる。
俺はこいつが三国志に出てくるあの荀攸本人だったんだということを今更ながらに思い出した。
この世界でこそ他の軍師から一歩引いているが正史においては荀彧や郭嘉と並び称された超一流の軍師の一人。
計算が得意なイメージしかなかったが・・・それでもその辺の文官では足元にも及ばないほどの智略をもった人物なのだ。
桂枝
「どうした?そんな感慨深いとでも言いたそうな目で見て。」
一刀
「いやな・・・俺はすごい人たちと一緒にいるんだなぁって今更ながらに実感してたんだ。」
桂枝
「そうだな、確かにすごい人たちが集まってるさ。でもお前だってこの世に二人といない「天の御遣い」なんだ。自信を持てばいい。」
一刀
「・・・そのすごいやつには御前も入ってるんだぞ?」
桂枝
「何を言ってるんだか・・・俺のような新しいモノを作り出せない人間を他の人たちと一緒にしちゃダメだろう。」
そう言い切る桂枝の様子は至って真剣であり、自分が「すごいやつ」に入っているとは微塵も考えていなさそうだった。
一刀
「・・・「その愚鈍さに近づけるものなし」か。」
桂枝
「む?」
一刀
「いや、なんでもない。それよりまだあるんだけど・・・良ければ手伝ってくれないか?」
桂枝
「ああ、構わんよ。草案だけ作ったらこっちに回せ。口頭で助言するから。」
そうして俺は桂枝と何気ない話をしながら仕事を片付けていったのだった・・・・
その後、病み上がりでダメージを負っている桂枝相手に一晩中そんなことをやっていた俺に対して華琳、桂花による強烈なおしおき+俺の面会禁止が待っていたというのはまた別の話である。
あとがき
二週間も時間があったのにもかかわらずこの出来栄えですよ。おかしい・・・桂枝に少しは楽をさせてやる予定だったのにどうしてこうなった・・・?
次回もまた時間が飽きそうです。骨組みができているのに肉付けが全然うまくいかなくて・・・
申し訳ないのですが気長にお待ちくださいませ。
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第四章開始。
時間が取れない+文章が浮かばないの最悪なループからなんとか絞り出した作品。クオリティが低いかと思われますがご了承ください。