No.496098 とある科学の自由選択《Freedom Select》 第 七 話 費える事のない物2012-10-14 13:34:03 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:870 閲覧ユーザー数:857 |
第 七 話 費える事のない物
異様な光景だった。
数十分前、ある研究所に一人の侵入者が入った。何十ものセキュリティが張り巡らされ通常なら蟻一匹たりとも通さない筈なのに、その侵入者はいとも簡単に入ってきた。しかも現在は昼の二時頃、とても正気とは思えない条件だった。
異様、とにかく異様。
研究員達はすぐにその異常に気づいた。そしてそれに抵抗した。ある者は銃を撃ち、またある者は爆薬を投げつけた。
しかし当たらない。別に手が震えていたとか、狙いが雑だったとか、徹夜明けだった訳ではない。
しかし当たらない。侵入者は近づいて来る。フードを被り全身が黒で包まれた人間が。
そいつは次々と研究員達を捕まえ、顔を確認していく。何が基準なのだろうか?ある者は気絶させられた。そしてその他の人間は全員何の能力かは分からないが地面の中に消えて行く。
消えていった後に悲鳴は無い、そんな暇は無かった。そして最後の一人。
「た、助けてくれ……頼む……」
声が聞こえる。恐怖に怯え死を覚悟し切実に助けを乞う声が。侵入者は答える。
「いや、それは無理な相談だな。この研究に参加していたって事は、お前は既に人としての道を外れている。生かしておいたら死んでいった奴らが可愛そうだろう?」
「何が目的だ……お前がこんな事をして何の得がある?」
「別に損得の問題じゃねぇよ。俺はただ自分の目的のものを漁りにきた。そしてここでそれを達成し気に食わない奴を消そうとしているだけだ。何か問題があるか?」
「あんな模造品の……『妹達』についての情報が目的か?それならもっと情報を教えてやる。だから他の奴のように俺を消すのだけは……」
「『妹達』?そういえばここはそれを研究してたんだったな。だが俺にとってそんなものただのおまけに過ぎないな。俺が欲しい情報はそんな程度のものじゃない。お前が聞いたことも無いような、この街のシステムを根底から覆すアレ……そして俺と同じ境遇に置かれ苦しんでいる仲間の情報だ」
「『妹達』に関する情報がその程度だと?お前何を……」
「まぁお前程度が知っている訳が無い。無駄話が過ぎた、そろそろ時間だ……今日はまだ後一箇所寄らなければならないからな。お前には文字通り人間、いや既存の存在から外れてもらおうか」
「や、やめろ……た、助け……消えたくな……」
そしてその研究員の一人もまた他の研究員達と同じ様に地面の中に消えていった。もちろん悲鳴を上げる暇は無かった。
神命 選は、第七学区の通りを歩いていた。
空には昨日昼、複数の研究所が立て続けに襲撃され一部研究員が行方不明になっており、施設や設備の損傷が激しく再び研究を始めるには時間が掛かると言う内容のニュースが流れている飛行船が飛んでいるが彼は気にも留めない。
彼は今日既に一度第二十二学区不良に絡まれていた。そのせいで彼はとても苛ついている。何か面白い物は無いものか、そう思っていた彼のすぐ脇を一台のステーションワゴンが猛スピードで通り過ぎていった。後ろには沢山の警備員(アンチスキル)の車両を引き連れている。
一瞬しか見ることが出来なかったがその中には見知った顔があった。駒場利徳———ここ第七学区のスキルアウトを取り纏める男だ。破壊の権化のような人相をしているが情に厚く、冷静沈着で不要な争いを好まない。
神命が彼と知り合ったのは一ヶ月程前のことだ。
神命 選は、パソコンのモニターを見つめていた。彼が今見ているのは掲示板だった。そこにはこう書かれている。
『バカ校発見。生徒はみんな無能力者揃い。こういう学校があるから治安が悪くなる。悪の権化に鉄槌を。ゴミ掃除の参加者求む』
掲示されたのはどこにでもあるような小学校。
何の目的で書き込まれたかは、一目で分かる。リスクのない暴力ほど楽しいものは無い。そして一部の書き込んだ人間、参加する人間は報復としてそれを行う。別に小学校に通う生徒達が何かした訳ではない。
事の発端はスキルアウトにあった。スキルアウトとは無能力者の事を指す。学園都市には潜在的に一万人程のスキルアウトが存在しているが、その大半は寮に住んではいるが学校には通わない者や、学校には通っているが夜になると行動を開始する者で、簡単に言えば不良やチンピラの様なものでごく一部だが武装した輩もいる。
そんな彼らがいつも社会から馬鹿にされる腹いせとして最初に手を出した。殴りあった訳ではない。それは単なる口論だった。偶々スキルアウト側が複数人いたため優勢に立ったのだ。
しかしその報復はスキルアウトだけに留まらなかった。気に食わない無能力者ならすぐにその矛先を向けられた。また、被害に遭っていた人間は武装したスキルアウトではなかった。
下は小学生から、上は大学生まで標的の種類に区別はなかった。
そしてネットで呼びかけられた『正当なる報復』には面白半分のレスポンスが集中した。
ただ暴れたい、ただ殴りたい、リスクも罪悪感もなくストレスを解消したい。そんな目的のために大勢の人間が闇討ちを始めた。そんな中で生まれたのものの一つがこの書き込み。
「面白そうだから参加しようかなぁ……」
神命は呟く。勿論彼に無能力者を狩る趣味はない(よくスキルアウトに絡まれ返り討ちにはするが)。彼はその日暇を飽かしていた。よってこの非常に面白そうな企画に参加する能力者を退治してやろう、そう思ったのだ。
その後その小学校で四人のレベル2を再起不能にしたところで駒場利徳と言う男が出てきた訳だ。駒場も無能力者狩りを行う能力者を快く思ってなかったらしく、その時から神命と駒場はしばしば連絡をとってはそんな能力者を止めてきたのだ。
そんな男が何故猛スピードのステーションワゴンに乗って警備員と壮絶な鬼ごっこを演じているのかは神命には簡単に想像がついた。
「わおわお。これ一台で二千万位入ってんだって?」
そのステーションワゴンには三人の少年が乗っていた。駒場利徳、そして半蔵、浜面仕上である。また彼らの乗っているステーションワゴンの後部座席には重機で拾ったATMが無造作に突っ込んである。
「ああ、でもこの前は黄泉川の奴にしょっぴかれたからな。今回は成功させてやろうぜ」
半蔵の質問に答える浜面。
黄泉川とは語尾に「じゃん」をつけ警備員でもあるとある高校の巨乳体育教師のことである。
「やっぱお前がいると仕事がはかどるなあ。耐震補強具毟り取って機材盗むには、建設重機動かせるヤツが必要だし、それを運ぶにも車が必要だから車盗まないといけないし」
因みにこのステーションワゴンはやはり盗難車である。
「まあ、この俺に掛かればこんなこと朝飯前よ。にしても今日もまた沢山の警備員に追われてるな」
「ああ、このままだとあんときの二の舞だぞ。まあ、それでもいいけど……」
「半蔵、お前……あんな女の何処が良いんだよ。会うために捕まるとかは勘弁してくれよな。やるなら一人でやってくれ」
「分かってるよそんなこと。それより今日もしつけえな、やつらは。振り切れるか?」
「分かねえ。でも黄泉川のやつも来てねえみたいだし多分大丈夫なんじゃ———」
会話が途切れた。何故なら少年達の車の後ろからなんか超でかい特殊車両が飛び出してきたからだ。そんな車両の窓から顔を出しメガホンみたいな拡声器を片手になんか言ってくる。
『あっ、あー。こちらは警備員第七三支部の黄泉川愛穂。テメェら盗難と器物損壊と殺人未遂その他もろもろで地獄行きだくそったれじゃんよー』
「くそっ、結局来んのかよあの巨乳。何でそんなに仕事熱心なんだよ……まあその態度は評価できるようなもんじゃないけどな」
もの凄い勢いで迫ってくる大型車両を振り切る為ハンドルを懸命に操る浜面。しかしその途中別に壁に当たった訳でもないのに急に乗っていた車体が揺れ、後ろを走っていた大型車両との距離が大きく開いていく。
「何だ何だ?」
そう言った直後その原因がフロントガラスから顔を覗かせる。
「よお、久しぶりだな」
「なんだ神命かよ、驚かせんなよ。とりあえず中に入れ。前が見にくい」
「悪い悪い。じゃあ遠慮なく」
そう言って車内にすり抜けて入ってくる選。
「いやぁ悪いな突然で」
「本当だぜ。でも来たって事は助けてくれるんだろ?」
「面白そうだから来たんだけどな。まあ助けてやってもいいんだけど」
「お前がいたら警備員なんか敵じゃねえしな。で突然なんだけど目の前にバリケードが迫ってるんだよね」
彼らの走っている道路の先にはバリケードが張られている。警備員の使うバリケードはあくまで『子供を保護するための』のものでありコンクリートブロックのように衝突=即死と言うほどの強度は無い。よって力押しでなんとか行けるものもあるが『車体を潰してでも止める』タイプや、『わざと通過させてタイヤをパンクさせる』タイプなど逆効果となるものもある。今回はこのタイプであった。
「どうすんの?」
「こんなくらいなら簡単かな。どうせすり抜けても追いかけて来るし空にでも逃げるか。浜面、思いっきりスピード出してみ」
「いいのか?既に100キロオーバーなんだが」
そんなスピードを出している車に飛び乗ってくるこいつはどういう神経してんだよと心の中で突っ込む三人。
「大丈夫大丈夫。そんくらい出さないと飛べないから」
「飛ぶ?」
半蔵の質問に答える前にバリケードが迫ってくる。しかしその前に何故か車体がまるで見えない坂道を走っているかのようにゆっくりと浮いていく。それをぽかーん見つめる警備員達。
「うわっ本当に飛んでるよ。どういう原理?」
「単にこの車体の下にある空気を固定して車体をその上に乗せて走ってるだけだ」
「なんかさらっと凄い事言っちゃってるよこの人。お前が駒場のリーダーと知り合いでよかった。やっぱレベル5ってすげえよな」
「お褒めに預かり光栄です。そんなことより早くしないとヘリとかが飛んでくるぞ?流石にあの『六枚羽』が来ないにしてもこのままだと目立ちすぎる。ここは第七学区だろ、どこか隠れ家とか無いのか?」
「隠れ家ならあるぞ。すぐその先だ」
そう言って浜面はハンドルを回し始める。
「そう言えば駒場は何で一言も喋らないままPDAをずっと見つめちゃってる訳?」
「あー。この前小学校に侵入しようとしたボウガン男を、駒場のリーダーがコブシで5mほど吹っ飛ばしたの。ガラにもない事して小っちゃな女の子から懐かれて激しく照れてんじゃね?」
「えっ?でも駒場PDAでネット通販サイト見てるっぽいけど。XLサイズのサンタ衣装と白ひげセット見たまま、かれこれ十五分は固まってるぞ」
「あれだろー。言われちゃったもんなリーダー。サンタクロースってホントにいるんんだよね……?とか何とかさー。だからよー、今年の年末には来るんじゃね?暴れん坊のサンタクロースがさーっ!!」
ぎゃははないわそれーっ!!と三人が大笑いしていると、不意に駒場は手の中にあるPDAを雑巾のように絞り上げて、
「ふがァァああああああああああああああああああああああああッ!!」
「ひっ、ひぃぃ!!駒場のリーダーが羞恥心から御乱心!?」
そして前しか見ていなかった神命の頭部に振り上げられた駒場利徳の拳が襲い掛かる。そしてその拳は神命の後頭部にクリーンヒットし、その衝撃でフロントガラスにおでこを勢いよくぶつける選。ぴくぴくと動いているものの意識はないらしい。
「駒場のリーダーちょっとやりすぎじゃね?ほら神命のヤツが頭ぶつけて動かなくなってんじゃん」
その直後急に車体が降下を始めた。
「あれ?なんかこの車ものすごい勢いで落ち始めてる気がするんだけど」
「おいどうなってんだ神命?っておい、こいつ気絶してるぞ!!おい起きろ、早く起きろって」
ゆさゆさと半蔵が揺するものの選は起きない。
「ここ地上20mだからこのままだとやべえぞ。って言うかもう無理だ、落ちる〜」
「駒場のリーダーは恨みで呪い殺してやる〜」
「ふがァァあああああああああああああああああああッ!!」
「………」
その後、四人の乗るステーションワゴンは幸いにも近くにあったある程度の深さのある実験用のプールの中に思いっきり突っ込んだ。そしてその後四人がどうなったかは言うまでもない。
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