今日も私は門番をしている。
「ふぁわ……」
基本、やることはない。
何故なら門番だからだ。
たとえるならば門番とは庭先の犬。
庭先の犬が忙しそうにしている所を見たことがあるだろうか。いやない。
やることさえやってしまえば、有り余る時間を持て余すしかなくなる。
しかし、門番であるが故にここから動くことは出来ない。
つまり、私は暇なのだ。
そう、私は暇なのだ。
このままだと、春のうららかさに毒されて、門番の仕事を放棄してしまいそうだ。
いや、休息を取ることは作業効率の上昇につながる。この無駄な時間を有効利用するにはむしろ、これ以上はないと言っていいほど妙案ではないか!
よし、そうと決まれば、木陰の方へ移動して、ゴザを引いて、安眠枕を用意すれば…!
さあ…………おやすみなさ
「「なにしてるのかしら美鈴?」」
「咲夜さん、今日も美しい御姿、拝見させていただいております。」
「……枕持ったままよ。」
「いやいや、これは今からサンドバックにしようと思いましてね。ちょっと最近腕がなまっちゃって」
「あらそう、じゃあ、私がちょっとお相手して差し上げますわ。人間、妖怪、関係なしに、痛みを伴う修練は効果的であると、文々。新聞の河童のコラムにも書いてありましたし。」
「いやいや、咲夜さん。それは違いますよ。私のところでは、この枕を使う修練方法は一般的でしてね。この鍛錬を極めたもの、一手で千人を眠らせ、一歩で万人をも起こすことができるだろうと言われているのです。」
「へぇそれはすごいわね。是非私にも見せて欲しいものですね。じゃあいきますよ?」
「いやいや、咲夜さん、私はこれから、花壇のミステリーサークルの調査に参らなくてはいけないので」
「時間は取りませんわ。そうですね。精々、5秒と言ったところでしょうか」
「ちょ、咲夜さんちょ、ま」
ピチューンッ
咲夜さんは今日はイライラしていたようだ。きっと枕に何か恨みでもあったのだろう。
私の枕が安眠枕から原材料へと、マイナーチェンジしてしまった。
まあとりあえず、これでめでたく、私のパフォーマンス上昇計画は頓挫してしまった訳であるが…
ふぅ…どうしたものか。
…ん?見慣れないものが見える。
何かの箱、結構な大きさのダンボールのようだ。
それがいそいそと移動している。
移動方向からして、紅魔館に侵入しようとしているらしい。
いや、なに心配することはない。あれはただのダンボールだ。ダンボールはいつも、なにかを安全に運んでくれるし、邪魔になることはあっても、攻撃してくることはない。
しかし、どんな善良なダンボールであれど、この紅魔館に無断で入ることは許されない。許されるのはさわやかな笑みをたたえた黒猫の使者や大和人だけだ。
私はそして庭先にいる犬として、ここぞというときのその期待に応えるのだった。
私は無礼なダンボールに近付きガッシリとホールドを掛ける。
? おや、中から何か聞こえる。
「チ、チルノちゃん」
「大丈夫よ!大ちゃん!こんなもの…ていっ」
ボッ!
突如、前方が吹っ飛んだ。
前方とは、つまり、私紅美鈴がいる場所であり…
「痛ぁぁぁーーー!!!! 」
痛さに転げ回る。
痛い痛い痛いいたい
よく私はやられるキャラなので、痛みには強いとは思われがちだが、痛みには普通の妖怪並に弱いのである。ただ単に頑丈なだけなのだ。
「あれ、チルノちゃん。門番さんがいないよ」
「さすがあたいね!今のうちに潜入よ!」
「「ちょっと待てコラアアアア!!」」
「ひいっ」
頭を伏せる大妖精。
「うわぁ門番、どこから現れた!」
そりゃ門番が門に居なきゃどこにいるというのだ。
「 紅魔館に用があるのなら、私が伺いますよー?内容によって然るべき対応を取らせてもらいますが。」
ゆらりゆらりと、侵入未遂らに近付く。
「うわぁあいつやべぇよ大ちゃん!?」
「チルノちゃん逃げよう!!」
わーっと蜘蛛の子を散らすように飛んでいく二人。
「おらーここは通さんぞー!」
…ふぅ。やれやれ、紅霧異変があってから、大分、ここの敷居も低くなったようだ。まあそれがいいのか悪いのか、一概の門番には計りかねるけど。そんなことを考えていると
「よう。お務めご苦労さん。」
振り向くとそこにいたのは、箒にまたがった、大きな帽子を被った全身黒づくめの少女。
「じゃあな。頑張れよ。」
「ちょ、まっ、」
手を出す暇もなく、びゅんっ、という音を響かせながら、目にも止まらぬ速さで門の向こうへ飛び去っていった。
数秒の沈黙。
空では鳶が鳴いている 。
足元を見れば、名もなき花がひっそりと咲いている。
「はぁ……」
私は肩を落とした。
「…また咲夜さんにどやされるよ……」
今日もいい天気である。
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今見るとわりとはっちゃけてる作品