No.494917

■30話 軍議!軍議!軍議!おーっほっほっほ!■ 真・恋姫†無双~旅の始まり~

竜胆 霧さん

編集して再投稿している為以前と内容が違う場合がありますのでご了承お願いします

2012-10-11 12:02:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2258   閲覧ユーザー数:2106

■30話 軍議!軍議!軍議!おーっほっほっほ!

―――――――――――――――――――

 

最初はちょっと貧相な男なんて思っていましたけれど……なかなかどうして私のことをわかっていたわ。

 

そしてこの後姿……。

 

背中がなんだか大きく見えてしまって、何故か鼓動も早くなってきて、その顔を見ると頭が真っ白になってしまう。

 

私いったいどうしてしまったの? まさか……これが恋?

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

華琳について反董卓連合に参加したんだがここに来る際に桂花に呪いをかけられてしまった。そのおかげだろうか黒猫の家族を見たり、靴が大破したりしたのは。

 

これは幸先がよくない……時雨のことも心配だが、果たしてその前に俺は大丈夫なのだろうかと不安がよぎる。

 

いや、俺にはやらなければならないことがあるんだ! 絶対に、だから大丈夫でなくともやらなくちゃいけない……はずだ。

 

「一刀、すぐに軍議があるからあなたも一緒に来なさい。策を行うのだから拒否は許さないわよ?」

「ああ、わかってる」

 

華琳の言葉に気を引き締める。今回の計画で思いを同じくして真名を許してもらえたがそれに見合うだけの成果を見せなければならないだろう。

 

……だがそんな一刀の決意を緊張感の無い無遠慮な声がぶち壊す。

 

「おーっほっほっほ! おーっほっほっほ!」

 

この声を聞いただけで何故かやる気がどんどん削がれていく。これが噂に聞く妖術だろうかと思わず首を傾げてしまう。

 

「華琳あの声は?」

「言わないで……私も本当はかかわりたくないから」

 

何もしていない筈なのに先ほどよりもやつれた感じがしないでもない華琳を見てこれから向かう場所にコレまでに無い種類の不安を抱く。

 

まさかあの華琳を声だけで疲れさせることの出来る人物が居るのか……? だとしたらそれはどれだけ優れているのだろうか? もしそれとは逆の方向だとしたら頭が痛い。

 

少しばかり緊張しながら軍議が開かれる天幕へと歩を進めていく。

 

「華琳さん、よく来てくれましたわ」

 

天幕をくぐって最初に聞こえてきたのは先程の可笑しな笑い声と同じ声。不適に笑うクルクルドリル金髪のいいとこのお嬢様がそこには立っていた。

 

「……」

 

言葉が出ないとはこのことだろうか、全て金色で固めた女がここまで痛々しいとは思わなかった。いや、この女に関してはその金色が合っているのに残念そうな頭なのが痛々しいのかもしれないが。

 

「さーて、これで主要な諸侯は揃ったようですわね。華琳さんがびりっけつですわよ、びりっけつ」

 

ちょ、華琳に何てこと言うんだこいつ、命知らずかなんて思いながらこれからの事態を想像して震える。

 

「はいはい」

 

けれど華琳が激怒する想像は現実のものになる所か軽く流されてしまう。あまりの出来事に驚きながら今の命知らずな暴言を吐いた人物をまじまじと見つめる。

 

あの華琳があんなことを言われても軽く流す相手というと、やっぱり昔からの知り合いなのか。それとも暴言を言っても許されるだけの地位を持ったものなのか?

 

いや、あの華琳だからこそ例え幼馴染だろうと容赦するはずは無い。だとしたら後者? それもあまり現実的では無いように思える。何せ目の前の人物は見るからに馬鹿そうだ。

 

「それでは最初の軍議を始めますわ。知らない顔もいるでしょうから、まずはそちらから名乗っていただけますこと? ああ、華琳さんはびりっけつだから、一番最後で結構ですわよ。おーっほっほっほ!」

 

いくら考えても自分の頭ではあの金髪クルクルを理解できる気がしない。

 

「なぁ……あの華琳に言いたい放題のくるくるって誰なんだ?」

「あれが時雨の策に書いてあった袁紹よ、悔しいことに私より今は立場が上ね。それでも近い未来必ず逆にしてみせるけれど……今はとりあえず頑張りなさい」

「まじか……」

 

あんな性格で馬鹿っぽそうなのに華琳よりも立場が上というとやっぱり凄い人なのだろうか? 馬鹿を装ってるというならかなり凄いと思う。でもそうするとさすがにあれの好感度を上げるの難しく無いだろうか……。

 

「そこ。なにをくっちゃべってますの!」

「袁紹さんがあまりに綺麗で眩しいのでどうしてそんなに眩しいのか華琳に質問していたとこです」

 

っう……苦しすぎる言い訳をつい言ってしまった。これがやり手だとしたら何か突っ込まれる可能性もある。ああ、何てことだ……これから好かれないといけない相手にいきなり嫌われるようなことをしてしまうとは。

 

「そ、そうですか……それならばいいのですわ」

「ぇえ!?」

「どうかなさいまして?」

「いや、ちょっと心の広さに感銘を受けただけです」

「おーっほっほっほ! それぐらい当然ですわ」

 

まじか……まじなのか。この人まじでお馬鹿さんなのか? 愛すべき馬鹿とはこういう人のことを言うのかもしれない。

 

「おーい、もう名乗ってもいいのか?」

 

唐突に前に出た来た赤っぽい髪を後ろでまとめた普通の女の人。容姿を説明するとしたら『普通』という言葉がもっともしっくり来る様な人だ。

 

「いいですわよ、ええっと……」

「……幽州の公孫賛だ。よろしく頼む」

 

何だか哀愁漂っている。あれが公孫賛か……北方の勇将で聡明で、声が大きく、容姿が優れていたというあの公孫賛か……。

 

やっぱり此処は俺の知っている歴史ではないと再確認できた。

 

そんな目立たない影の薄い公孫賛の隣から女の子が二人前へと出てくる。

 

「平原郡からきた劉備です。こちらは私の軍師の諸葛亮」

「よろしくお願いします」

 

劉備と諸葛亮か……今までの事からもしやとも思っていたけれどやっぱり女の子なんだ。しかも可愛い。

 

それにしても、まだこの時期には三顧の礼は済んでいないはずだけど……公孫賛然り、やはり俺の知っている歴史とだいぶ違う。

 

袁術側のはずの紀霊が今董卓側にいるのもおかしい、まあそれに関しては前世の記憶も関係しているかもしれないが李福までいるしな。

 

自分の知っている歴史との違いを考えている俺をよそに紹介は進んでいく。

 

「涼州の馬超だ。今日は馬騰の名代としてここに参加することになった」

 

それを聞いた袁紹はあからさまに不満げな顔をする。

 

「あら? 馬騰さんはいらっしゃいませんの?」

「最近、西方の五胡の動きが活発でね。袁紹殿にはくれぐれもよろしくと言付かっているよ」

 

五胡の話を聞いて途端に哀れむ顔になる袁紹。

 

「あらあら。あちらの野蛮な連中を相手にしていてはなかなか落ち着く暇がありませんわねぇ……」

「……ああ。すまないがよろしく頼む」

 

馬超の紹介が終わったとたんに元気よく飛び出すちびっ子もとい、ロリ子が一人。

 

「袁術じゃ! 河南を治めておる。まぁ、皆知っておろうがの! ほっほっほ!」

「私は美羽さまの補佐をさせていただいています、張勲と申しますー。こちらは客将の孫策さん」

 

張勲に紹介され立ち上がる孫策。孫策の名を聞いてさすがに思考の海から這い上がって現実に目を向ける。

 

孫策は要注意すべき人物であるはずだ。先程の公孫賛のように平凡でなければ確実に恐ろしい人物だ。

 

じっくりと前と進み出る人物を見る。桃色の髪に褐色の肌がマッチしている、さらにモデル顔負けの恐ろしいスタイル。好戦的な顔つきも魅力的に見える。

 

黙ったまま一同を見据え、座りなおす様は明らかに只者ではない感じだ。

 

「あれが孫策か……」

「次、びりっけつの華琳さん、お願いしますわ」

「典軍校尉の曹操よ。そしてこっちにいるのが」

「天の御使いの北郷一刀だ」

 

やっと俺の出番だと緊張した面持ちで名乗りを上げると天の御使いという言葉にあからさまに周りが反応し、ざわめきが広がっていく。

 

時雨が風評を操作したとか言っていたがどういう風に操作したら此処まで諸侯をざわつかせる事が出来るのだろうか?

 

「あら、あなたが万民を助け、黄巾党1万を一人で蹂躙した北郷ですの? 噂と違ってまた随分と貧相なこと……まぁものわかりはよろしいみたいですけれど」

 

さっきの褒め言葉が効いているのか袁紹には結構好印象の様だ。

 

というか黄巾党1万ってなんだ!? 俺はそんなことしてないぞ、どちらかといえば時雨が……ってそういう風に操作したのか。

 

「いや、1万は大げさすぎる。だが黄巾党と戦ったのは本当だ」

 

大げさなハッタリは場合によってはいいと思うが袁紹に自分の実力以上のことを告げるとよからぬ未来が待ち受けている気がしてならない。

 

時雨には申し訳ないけれど釈明しておく。

 

「そう……まぁどうでもいいわ。さてトリは私、袁本初ですわね!」

「それは皆知っているのだからいいのではなくて?」

 

紹介しようと顔を輝かせて立ち上がった袁紹を華琳が止める……これは間違いなくさっきの仕返しだろうなと見当をつける。

 

「だな、有名人だから皆知っているだろ」

 

そうでもないのか?

 

「そ、それはそうですけど……っ!」

「軍議を円滑に進めるための名乗りだろう? なら、いらないんじゃないか?」

「ぅう、三日御晩考えた名乗りですのに……。まぁ仕方ありませんわね。有名人ですもの、私のことは皆熟知しているということで」

 

効かなくてよかったと心底思える。まだ知り合って短いがきっと馬鹿なことをするであろう事は間違いないと思える。まさか華琳はこの名乗りを予想していたのだろうか?

 

「では、軍議を始めさせていただきますわ! 僭越ながら、進行はこの私! このわ、た、く、し、袁本初が行わせていただきますわ! おーっほっほっほっほ!」

「いいから早く始めなさい」

 

なんだか時雨の策に不安しか残らないのは何故だろう。本来はもっと腹の探りあいとかそういう黒々としたものが渦巻く場だと想定して作戦を練っていたというのに。

 

楽だけど不安で仕方ない。

 

「さて、では最初の議題ですけど……このわ」

「現状と目的の確認だろ?」

 

ナイス公孫賛さんと今だけは褒め称えたい。きっと袁紹の事だから無駄に脱線するに決まっている。この軍議が始まってから関係な事をたまにはさんでくる辺りまず間違いない。

 

「え……ええ、そうですわ。この私が集めた、反董卓連合軍の目的ですけれど」

 

「都で横暴を働いている董卓の討伐、でいいのよね。ただ、董卓という人物を私はよく知らないのだけれど、誰か知っている人間はいるのかしら?」

 

それを聞いた瞬間頭に不覚にも血が上りそうになった。月たちは何もしていないどころか民からの評判もいいぐらいなのだ。

 

なのに何故こんな理不尽な事になっているのかわからない、あるかもしれない未来を知っていた俺でも時折失念していたのに時雨がこうなることを予期していたのが不思議なぐらいだ。

 

「妾も知らんのじゃ。どこぞの新参者か小領主だと思うておったが、聞いた覚えのある者はおるか?」

「私も同じだ、本初は?」

「わ……っ、わたくし!? そんなどこの身分かも知らぬ者を、私がいちいち知っているとお思いですの?」

 

袁術と公孫賛の言葉に慌てる袁紹を見て自分の中で苛立ちが増すのが分かる。

 

袁紹からの召集で反董卓連合軍は結成されたのになぜ董卓を知らない? それをなぜ誰も疑問に思わないのか? あまりにも可笑しな話だがここではまかり通ってしまっている。

 

いや、裏から殿下を操っているという情報こそが重要で董卓という人物は特に興味の対象になりえないのかもしれない。その事実さえあれば後はどうでもいいのだろう、今のままではそれなりの地位しか手に出来ないからそれぞれ行動を起こしたいのかもしれない。

 

「知らないんだな。ならそいつのことは逐次情報を集めるって事で。異議のある奴は?」

 

「……特にない様ね」

 

お飾りと化している袁紹を置いて公孫賛が手際よく進め、華琳を含めた場の空気を読める手合いがさっさと話を進めていく。

 

時雨は今回の策を董卓側の負けで終わらせるには理由があるといっていた。たとえ今回退けられても第二の袁紹が現れる……これはそういうことなのか?

 

諸侯が殿下の傍にいる董卓を気に入らず必ず打って出る。そしてそれに乗っかるように他の諸侯も集まる……董卓は押し付けられただけだというのに理不尽極まりない状況だ。

 

なぜこんな理不尽がまかり通るんだ。これが乱世? 群雄割拠? こんな時代いかれている。

 

「つっ、次は……」

「都までどうやって行くかじゃな」

 

珍しくまともに発言する袁術、腹黒い考えが透けて見えるような子だが頭は悪くないらしい。

 

「そ、そうですわっ。この大軍を私がどうやって率いるのかですけど」

 

「後でくじか何かで順番を決めようぜ。その順で行軍すればいい。どうせ戦闘になれば配置を変えるんだから、問題ないだろ?」

 

馬超が馬鹿丸出し発言をしてしまったが誰も賛同しないだろう。行軍する順は重要だ。罠の確認、後の戦闘での配置のことも考えなくてはならない。たとえ相手が篭城を選んでいるといえど何が待ち受けているかわからないのだからここを疎かにする訳にはいかない。

 

何の考えもなく進めばいい的すぎる。

 

「……よいのではなくて? 経路は?」

 

なんて思っていたのにいきなり華琳に裏切られた様な気持ちになる。

 

「これでいいのよ」驚いた俺にそう小声で話す華琳を見て何か考えがあるのだろうと黙る。

 

「っけ……経路は……」

「七乃。どういう道程になるのじゃ。皆に説明してたもれ」

「……」

「はいっ。この大人数ですから、街道に沿った移動になりますねー」

 

袁術の求めに応じて説明を始める張勲。袁紹はさっきから無視されっぱなしである。地位が最も高いはずなのに此処まで無視されるのは才能としか思えない。

 

「道中大きな関所が2つ、汜水関と虎牢関がありますから、大きな戦闘は関所で行われますねー。小競り合い程度ならその前後の広い土地で戦闘が起こると予想されまーす」

 

確かに……でもそれは敵も読んでいると普通考えそうなものだし対策されてると考えているのだろうか? どうもノリが軽くて今一緊張感に欠ける。

 

「そ、そうですわね。きっと、その辺りで戦闘になるはずですわ! それで……」

「関所の将は?」

 

わざわざ袁紹のセリフを遮る辺り、皆面倒なんだろうか? 華琳なんか特に容赦ない。

 

「汜水関は華雄、虎牢関は呂布と張遼と報告が入っていますね。ただ、この連合が出来る前の調査ですから、間者を放って改めて調べる必要があるとは思いますけど……」

 

「あのね、白蓮ちゃん。調査くらいなら、私達がやるよ? 朱里ちゃんが、まずはこの辺りの小さな任務を引き受けて、様子を見た方がいいって言ってるし……」

 

さっきまで黙っていた劉備が公孫賛に向かって進言する。彼女らの立場は雇われらしいが明らかに公孫賛よりも目立つ。悲しいほどに。

 

「そうか? じゃあ汜水関の偵察は私の所でやろう。機動力の高い兵もいるしな」

「なら、汜水関の調査は公孫賛達でいいわね。さしあたり必要なものは、そんなものかしら」

「まっ! まだ、大事な議題が残っていますわ!」

 

軍議の締めに入ろうとする華琳を慌てて袁紹が止める。

 

無理もないとうんうんと頷く。連合軍は烏合の衆だからこそある程度ルールも作らねば破綻するのは目に見えている。ここで軍議をやめてしまえば取り返しが付かないことぐらいわかるのだろう。

 

「何だ?」

「汜水関を誰が攻めるのか、かの?」

 

あれ……? 俺って間違ってるんだろうか。まさかさっきまで俺が色々考えていたことも間違い?

 

いや、皆きっと矢面に立たなければどうでもいいと思ってるんだなとそれぞれの表情を見て思う。協調性の無い部隊、しかも船頭が多すぎるから被害を抑えて要所要所で自分勝手に動こうと大方思っているのだろう。

 

「それは白蓮さんが調査のついでに攻め落とせばいいんですわ」

 

おいおい、そんな無茶なとは思うが誰もフォローしない。

 

「おいおい、そんな無茶な」

 

呆れながらいう公孫賛と心の中の声が見事にシンクロしてしまった。

 

「あら。白馬長史の白馬軍団は、砦の一つも落とせないとおっしゃいますの?」

 

どこか見下した風に言う袁紹。安い挑発だ、誰がそんな挑発に引っかかってくれるのだろうか。それで引っかかってたら早死に確定だろと内心突っ込みを入れる。

 

「所詮、蛮族を相手に野原を駆けるのが精一杯なのですわねぇ……。雪が降れば犬だって元気に駆け回りますのに。おーっほっほっほ!」

 

挑発に反応して明らかに怒る公孫賛を劉備が止める。この程度の挑発に乗ったらダメだろと思うが自分の陣営では無いし、劉備が抑えているのでさして問題は無いだろう。

 

「白蓮ちゃん、落ち着いて……」

「……むー! わかった! やればいいんだろう、やればっ!」

 

いやいや、出来ないでしょと声を大にして言いたいがそんなの後の祭りな上に無駄に注目を集めるだけなのでやりはしない。

 

それにしてもこのの軍議、なんというか袁紹に喋らせたくないのはなんとなく分かるけれどむちゃくちゃだよな。

 

「なら決定ですわね。白蓮さん、せいぜい頑張ってちょうだいな。というか、そんなことはどうでもいいんですわ」

 

どうでもいいものじゃないと思うんだが、というかさっき話をそらされたせいかずっとソワソワしていたが……悪い予感しかしない。

 

「……で、何」

「この連合を誰がとりまとめ、仕切るかですわ!」

 

ッドーーン! と凄まじいオーラが出ていると錯覚するほどに尊大に思い切りふんぞり返って言い放つ袁紹。確かに大事だとは思うがここまで協調性のない連合軍の総大将を誰がやるんだろうか。

 

「「「……」」」

 

案の定誰も立候補しない。

 

「私はする気はないのですけど……ただ、家柄と地位を考えた場合、候補はおのずと絞られるのではないかしら、と思ったりもしなくないのですけれど……けれど、わーたーくーしーは、あくまでも……」

「なら、妾が……っ!」

「それなら袁紹さんがやればいいんじゃないか?」

 

対抗馬として袁術が名乗りをあげる前にフォローを入れる。ここでアピールしていれば好感度アップするんじゃという考えと、腹黒いがまだまだお子様な袁術にやらせると何もしないうちに董卓側が買ってしまうような気がしたのでなるべく大きな声で言い放つ。

 

「もうなんでもいいよ。ほかにやりたい奴いるか?」

「妾が……っ!」

「なら決まりね。麗羽、あなたがやれば?」

 

どこか投げやりになっている公孫賛の問いかけに袁術が反応しようとすると俺の意図を察したのか、はたまた自分の考えなのかは分からないが華琳がのっかってくる。

 

「いっ……いいんですのっ?」

「わら……」

 

「な、なら……仕方ありませんわね。皆がそこまで言うのであれば、不肖この袁本初めがお引き受けさせていただきますわ! おーっほっほっほ!」

 

なんだろうこのやらせ感は。

 

「なら大事な議題とやらも終わったし、これで解散ということでいいわね」

「そうですわね、なら、かい……」

 

やっと喋ったかと思った孫策は面倒そうにしている。やる気がでないのは分かるがそこまであからさまなのはどうなのだろう、というか総大将になっても無視される袁紹に少し同情してしまう。

 

「孫策、話があるのだけれどよろしいかしら?」

 

「……陳留の曹操?」

「私の名、知ってもらえているのね。光栄だわ」

「黄巾の首謀者の首を討った曹操の名くらいは、さすがに知っているわよ」

 

初耳の情報が飛び込んできて驚く。黄巾党の者達はリーダーである人物の情報を一切話さなかった、ある意味董卓よりも謎な人物とされていた人だけど、まさか華琳が討っていたとは。

 

「なら、話は早いわ、この前はうちの部下が随分と借りを作ってしまったようね」

 

いつの話だろうか? 何か俺がいない間に色々あったみたいだ。

 

「借りねぇ……盗賊退治も手伝ってもらったし、楽させてもらったから別にいいんだけど」

「そうもいかないわ。この借りは折りを見て、必ず変えさせてもらうわ。よく覚えておいて」

「……この戦いで?」

「さあ。この戦いか、この先の別の機会か……」

「そ、まぁ期待しないで待っておくわ」

 

華琳の言葉にそう返して叫ぶ袁術の下へと戻っていく。

 

歩きながら「っち、うるさいわねぇ……」なんて聞こえて気がしたが聞こえなかったことにしよう。

 

 

「さすが江東の虎の娘ね。この前春蘭がいっていた通りの人物ね。いい目をしていたわ……」

「確かに……」

 

その後孫策の感想を華琳と言い合う、こうすることによって俺を成長の一つしようという華琳らしい行動である。今だけは袁紹のことを忘れていたいから俺は文句も無くそれに付き合った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

俺達が来たのが最後ということもあり、出発まであっと言う間だった。

 

おかげで陣の展開もままならないまま都を目指している。本当にこの連合軍不安しか感じない。

 

「汜水関の先鋒は公孫賛と劉備ですか……」

 

どこか春蘭が残念そうに言うのを見て相変わらずだと感心する。時雨と一緒に戦場を駆け、死を身近に感じたからこそ春蘭がどれだけ凄い発言をしているのか分かる。

 

最前線なんて死ににいくようなものだ。

 

「ええ、時雨の策だとそうした方が私達の被害が少なくてすむのだけれど。今後のことを間がると我々で引き受けた方がよかったかしら?」

「いえ、お父様の策どおりいけば先鋒は多大な被害を受けます。春蘭は無視しましょう、我らは一番乗りをしなくてはいけませんがそれなら尚更のこと貴重な戦力を失う必要はないでしょう」

 

桂花が華琳の問いにそう答えるのを見て策の内容を今一度思い出す。

 

「俺にも役割があるんだよな……」

「そうね、一刀の役割も重要だわ。一刀が成功しなければ私の覇道も一歩遠ざかるわ」

「だが時雨は本当にあの策を実行できるのか?」

 

春蘭の疑問はもっともだとは思うが時雨ならアレぐらい可能だ。アレよりももっと酷いことが今の時雨ならやろうと思えば出来るはずなのだからまず間違いない。

 

「時雨なら間違いなくやる」

「そうね。それよりも公孫賛と劉備のところにも情報を少し送っておきなさい」

「いいのか?」

「公孫賛は小物だけれど、麗羽と違って借りは借りと理解できるやからよ」

「なるほどね……」

 

小物扱いに可哀想だとは思うけれど納得してしまう自分に気づいて更に公孫賛を哀れに思ってしまう。

 

「しかし劉備というのは良くわからなかったけれど……公孫賛が信用する人物のようだし、汜水関での戦いぶりをみればいいでしょう」

「承知いたしました」

 

俺は劉備のことを知っているがここでも同じ陣営で尚且つ強いのか分からないので無駄な情報は出さない。結局確認しないとこの世界で正確な情報など手に入れることは出来ない。

 

華琳の言葉を聞き届けた後桂花がすぐに出て行き、それと入れ替わりで凪がやってきた。

 

「軍議中、失礼します。華琳さま報告が……」

「何? 麗羽がまた無理難題でも言い出だしたのかしら?」

 

ありえるから嫌だなそれ。

 

「いえ、そうではなくて……袁術殿が先行して勝手に軍を動かしたそうです」

「……」

 

総大将になれなかったことが悔しかったんだな。

 

「先鋒は誰?」

「先鋒は孫の旗、恐らく孫策殿かと……」

「孫策の考えではないでしょうね」

「功を焦ったか、袁紹に張り合った結果と見るべきなのかな?」

「そうね、これは袁術の独走と見るべきね」

「華琳様! 今こそ過日の借りを……!」

 

華琳と意見のすりあわせをしていると春蘭が口を挟んできた。何か熱い、もしかしたら借りというのは春蘭が関係しているのかもしれない。

 

「今はまだ返す時ではないわ。それを孫策も望んではいないでしょう。自制しなさい」

 

焦る春蘭を厳しく戒める華琳、相変わらずだ。

 

「しかし!」

 

「孫策を助けるためには軍を動かすことになるわ、そうなれば時雨の策を上手く遂行できるかもわからないし、袁術と袁紹から不興を孫策と私達が買うことになるわ。それこそ借りの上積みよ」

 

納得できない春蘭にきちんと言い聞かせてやる華琳、前は厳しいだけかと思っていけど一々説明する辺り面倒見いいよなとこのごろ思う。

 

時雨なんか説明もなしに色々やったりするから厳しすぎて辛い。

 

「むぅ……」

「今は自制しなさい。彼女の力が本物ならいずれ十倍……いや、百倍にして返せる時がくるでしょう」

「……承知いたしました」

 

すこしばかり俯く春蘭。

 

「一刀、桂花の後を追って公孫賛たちにこの戦の結果も送ってあげなさい。共有して損のない情報は遠慮なくね」

 

「わかった」

 

華琳の指示に従い場を後にする。やれるだけの準備は速めに済まさなければいけない。

 

それにしてもこれからどうなるんだろうか。

 

何処も彼処もめちゃめちゃなこの連合軍の行く末を案じずに入られない、自分の思考にしつこさを感じつつもそう考えてしまうのくらいだから連合軍の危うさを無駄に感じてしまう。

 

本当は董卓たちの方に気を回したいというのに困ったものだ。

 

そんな事もずっと考えていられない状況である、なので頭を振って頬を叩き、無理やり自分に活を入れてとりあえず戦況を見に行くことにしたのだった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

■あとがき■

地道に編集してきたものを時間がないので連続投稿致します。

 

迷惑だと思う方には大変申し訳ありませんがご了承の程お願いいたします。


 
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