No.494844

裏庭物語 第10箱

笈月忠志さん

原作キャラと原作には出てこない箱庭生たちによるスピンアウト風物語。

にじファンから転載しました。
駄文ですがよろしくです。

2012-10-11 02:17:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:559   閲覧ユーザー数:549

第10箱「『豊富な果樹園』」

 

『異常な遭遇のその後・後編』

 

今回の語り部:杵築(きつき) (いつき)

 

 

 

 『(性格|キャラクター))』――それは、とある一人の人間を、特定の“その人”へと限定付ける象徴であり特徴であり本質(そのもの)だ。言うまでもなく人の数だけ存在し、語るまでもなく唯一無二。多種多様で十人十色で千差万別。

 

 ある人の性格を『ツンデレ』という属性に分類しようとも、そこへ分類された者同士を比べればみな確実に異なっている。

 

 平たく言えば、一言にツンデレと言っても様々な性格があると言うことだ。

 

 そして彼女、勝本 諦の場合は―――……

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 おう。杵築 樹だ。

 

 阿久根先輩に助けてもらったお礼を言いに行くはずが、暴走して逆に頭部を殴打してしまった勝本先輩を、なんとか宥め落ち着かせた、

 

 その後。

 

 さすがにもうこれ以上用はないだろうと思った俺は、勝本先輩に別れを告げて報道部の部室へ行こうとしたのだが、

『えっ……もうお別れなんてヤダ! もっと……いや、ずっと一緒にいたいの!』

 という勝本先輩のギャルゲーのヒロインのような甘い台詞に負け、結果、現在俺は勝本先輩と二人揃って報道部の部室へ向かっているのだった。

 

 ガン! ガンガンガン!

 

 なぜか知らないが、いきなり勝本先輩からゴルフクラブで数発殴られた。

 

「痛いですやめてください」

 

「……いつ私がそんな気色悪い台詞言ったのよ? ブッ殺すわよ? 地の文(モノローグ)だからなに言ってもバレないとでも思ってるわけ!?」

 

 勝本先輩が今世紀最大級の睨みで睨んでくる。怖い怖い。せっかく人が気を遣っていいキャラに仕立て上げようとしているのに、なんて嫌われようだ。

 

「あんたが『どうしても部室までついてきて』って言うから、忙しい中わざわざ仕方なくしょうがなく、ついてきてやってんのよ」

 

 先輩は両手でやれやれのポーズをとりつつ溜め息を吐きながら言ったが、俺はそんなこと言った覚えはない。この人、ガセをガセによって否定しやがった。

 だがこの戦況、俺の方が優勢だ。

 

「先輩、そんなこと言うなら別に帰ってもいいんですよ? なんだったら校門まで見送りますし」

 

「うぐっ……分かったわ……。私から『部室を見たい』って言ったことだけは認める。だ、だから引き続きついていくわよ……?」

 

 先輩はばつが悪そうな表情をしてそう言った。

 

 ほら勝った。やったぜ!

 三年のしかも十三組(ジュウサン)に口論で勝って喜ぶ虚しい男子高校生がここにいた。というか俺だ。

 

 つーかあれ? 負けず嫌いなのに潔いな。てっきりムキになって帰るフリくらいはすると思っていたんだが。

 まあ何でもいいか。

 

 

 

 そんな感じで報道部の部室に到着。扉をカラカラと開けた。

 

「あ、こんにちは杵築くん」

 

「こんにちは、樹さん」

 

 俺を見つけた内牧さんと開聞部長が挨拶をしてきた。他の部員もそれに続き、俺も挨拶を返す。

 ここまでは毎日(いつも)通りなのだが、しかしそのあと、部室を見渡した俺の目に文字通り『場違い』なやつが入ってきた。

 

「オッス! 遅かったじゃねーか樹~! 待ちくたびれたぜ」

 

「寄田!? 何でこの時間にお前がここに? 部活(からて)はどうしたんだよ?」

 

 そう。そこにいたのは空手道部の寄田 頼、そこにいるはずのない人物だ。我が物顔で部員愛用のソファーに座り、我が物顔で部員の大切な茶菓子を頬張り、我が物顔で部員の大好きな紅茶を飲んでいる。

 こいつには血も涙もないのだろうか。

 

「いや~、今日さ、上無津呂部長が委員会の仕事があるとかで休みでさ、だからサボって遊びに来ちゃった♪

 あと人を悪人みたいに演出するなよ!!」

 

 寄田に表情(こころ)を読まれたが、スルーしよう。

 

 茶菓子やお菓子が散乱したテーブルを、内牧さん、開聞部長、寄田が囲んでいる。他の部員を差し置いて、今の今まで三人で談笑していたようだ。

 

「樹~、突っ立ってないでお前も食えよ。この開聞せんぱい一押しの羊羹、目が回るくらいメガうめーぞ!」

 

 目が回るの使い方が間違ってるぞ、と寄田に突っ込もうとしたのだが、不意に背中から制服をぎゅっと握られる感覚を覚え、俺の意識はそちらへ傾いた。

 

「……あんた友達多いのね」

 

 俺の制服を掴みつつ顔を半分だけ出して部室内を観察していた勝本先輩が、あの勝ち気な勝本が、寂しそうにそう言った……。

 

 この人は『異常』と呼ばれて育ってきた。もしかしたら友達は少ないのかもしれない。

 

 そう考えると、病院に移らずに結局全快するまで第壱保健室に居座り続けたのも、お見舞いに来る俺や阿久根先輩、またはリハビリなどのお世話をしてくれる赤先輩といった、『話し相手』が欲しかったのだとすれば辻褄が合う。

 

 勝ち気だったりプライドが高かったり急に甘えたりツンデレだったり、感謝するのに慣れてなかったりするのも、そもそも人とあまり接し慣れてなくて人との距離感が掴めないからだとすればやはり辻褄が合う。

 

 俺に生徒会室まで同行するよう言ったのも、『見張るため』ではなく単に『寂しかったから』。今こうして本当は用もないのに部室までついてきたのも、『部室を見たいから』ではなくただ『寂しくて』、『別れたくなかったから』……。

 

 正直言えば、俺は勝本先輩の『キャラクター性』について腑に落ちない部分がいくつもあった。強かかと思えば儚かったり、図太いかと思えば繊細だったり、どこか一貫性に欠けているように思えていた。

 

 しかし、『対人関係不足』――そして『寂しがり屋』という点で、ちゃんと全てが一つに繋がってたのか……。

 

 急にこの2つ上の先輩がとても愛おしく感じられた。ギューッと抱き締めてやりたい。

 ……さすがにそれは我慢だな。

 

 そうだ。

 いいこと思い付いた。

 

「今日はこないだ知り合った勝本先輩って人を本人が来たいっていうからここへ連れてきた。いい人だから“みんな是非友達になってくれ”!」

 

 友達が少ないのなら、作ればいいではないか。『普通』のことだ。

 『異常』である彼女にはそんな機会はなかったのだろうが、それなら機会ごと作ってやればいい。

 

「え? ちょっと、樹!?」

 

 驚いている勝本先輩を俺の背後から引き離して部室の中へ押し出した。

 

 内牧さんたち3人は「かわいー!」などと口々に騒ぎ出す。

 

「……ど、どういうつもりなの!?」

 

 クルッとこちらへ向き返ると、真っ赤になっている顔で睨めつけてくる勝本先輩だが、その顔は怒りではなく戸惑いで埋め尽くされていた。

 

「『部室見たい』って言い出したのは先輩ですよ? 中へ入らないと見れないじゃないですか」

 

「そ、そっちじゃなくて! その…みんなに友達になってくれとか……言ったじゃない……。そ、そんなこと急に言われてもごにょごにょ…………」

 

 言いながらさらにどんどん赤くなっていき俯いてしまう先輩。最後の方は聞きとれなかったが、聞き返さない方がいいだろう。

 ……俺と二人の時のテンションなら「あんたたち全員、私の友達(パシリ)にしてやってもいいわよ」とか言い出しそうなこのお方が、大勢の初対面を前にすると、このしおらしさ。俺の推測はやはり当たっているようだ。

 

 

 

「うーむ、それにしても……」

 

 登場済みのオリキャラが全員集ってしまった。

 

「樹さん、諦さん、こっちへいらっしゃい。今3人でお茶してたの。アナタたちも参加して? 自己紹介し合うわよ」

 

 と言う開聞部長。

 

 

 

 ってなわけで、第一回オリキャラ親睦会開催!

 

(二回目以降があるかどうかは謎。)

 

 

 

「さっきは自己紹介って言ったけど、やっぱり『他者紹介』をしてもらおうかしら。そっちの方が盛り上がりそうだしね」

 

 部長が俺と勝本先輩の分のお茶を淹れながらいいことを言った。

 

「じゃあまずは俺が勝本先輩について紹介しますね」

 

 やっぱり紹介される側の人を先に紹介するのが普通だろう、と思った俺が説明を開始する。

 

「三年十三組『負けず嫌い(ネバーギブアップ)』の勝本(かつもと) (あきら)先輩だ」

 

「どうもはじめまして」

 

 ペコッと頭を下げる先輩。十三組と聞いて、内牧さんと寄田が驚いている。

 

「異常性は『撲殺衝動』(嘘)。好きなアイテムはゴルフクラブ、特技はゴルフクラブで人を殴ること、趣味はゴルフクラブで人を殴ること、職業はゴルフクラブで人を殴る仕事だ」

 

 ガン!

 

 当然殴られるわな。

 

「人を悪魔みたいに言ってんじゃないわよ!!」

 

 第8箱の俺のあの発言、まだ気にしてたのか(汗)。

 

 殴られた俺を見て寄田と部長は笑い、内牧さんは口に手を当てて目を丸くして驚いている。

 

「だ、大丈夫……?」

 

「全然大丈夫。『勝本(おに)ゴルフクラブ(かなぼう)』とは言うけれど、彼女筋力はないからさ。

 

 じゃ、勝本先輩のために、続けてみんなの紹介だ」

 

 友好の仲立ちをするんだから仲間たちをしっかりと紹介してやらねば。報道部員だけに、今からは冗談やガセは抜きで、正確な情報をお届けしよう。

 

「はい、じゃあまずこちらの、俺のことを殴る勝本先輩と違って今俺のことを心配してくれたこのやさし~い彼女は、一年三組 内牧(うちのまき) (まき)

 

「は、はじめまして……!」

 

「『誤り』と『謝り』の天才で、業界ではそれなりに名を馳せている。髪型から分かるように、国民的アニメ『ドラ○もん』のしずかちゃんの大ファンだ」

 

「はわっ!? ちちち違うよぉおぉお……!」

 

 真っ赤になって手をブンブン振りながら否定する内牧さん。それ以外のメンバーはみんなジト目でこっちを見てくる。そうか、冗談やガセは抜きだったな。次から気を付けよう。

 

「次。この我が物顔でマスコミ部にいるが実は空手道部の、そして俺の中学からの親友、俺と同じく一年二組 寄田(よりた) (たより)

 

「ナイストミーチュー♪」

 

「一目見て分かるだろうが、変態だ。三度の飯より美人好き。今日もどうせ開聞部長に会いに来たんだろう」

 

「ちょっ、ちげーよ! 根も歯もねーこと言うなよ! 自分がモテたいからってネガティブキャンペーンやってんじゃねー!! ……え? なにそのみんなの目?」

 

 今度はみんなで寄田をジト目で見る。一人焦る寄田。

 

「最後は、我らが報道部部長、ニ年十組『情報基地(データベース)』の開聞(かいもん) いらえ先輩」

 

「どうもはじめまして。樹さんとは結婚を大前提にお付き合いさせていただいているわ♪」

 

「「「「!!?」」」」

 

 俺も含めその場の全員が驚く。

 

冗句(ジョーク)よ。フフフ♪」

 

 …………。

 この人が言えば冗句(ジョーク)じゃすまないからな……。思わずため息が出た。胸に手を当ててホッとしてる人もいる。

 

「なに赤くなってるの樹さん? よくある冗句(ジョーク)でしょ? まさか本気にしたのかしらね♪」

 

「……という感じの、正体が掴めない幻影のような、もしくはは正体を偽る詐欺師のような、或いは正体など最初からない虚体のような、そんなお人だ。ちなみに決め台詞は『ワタシが持っているのは知識ではなく情報よ♪』だ。頭のいい俺にも違いはよく分からない」

 

「まあ、あまり賢くない樹さんには一生かけても分からないわね」

 

 あれ? 頑張って貶したつもりだったのに、一瞬にしてひっくり返されたぞ? 部長カウンター上手いな。

 

「以上だ。冗談もガセもない真面目な俺の他者紹介を終える。勝本先輩、だいたい分かりましたか?」

 

「ぅ~ん、そうね、だいたい分かったわ。しずかちゃんに、変態に、婚約者ね」

 

「「「全部違う!」」」

 

 おお。内牧さん・寄田・開聞部長の息ピッタリなトリプルツッコミだ。

 

「次はこの俺! この世で最も頼り甲斐がある男(ガイ)にして、箱庭学園の人気者! 寄田 頼がみんなを紹介するぜぇ!!」

 

 

 割愛。

 

 

 理由:無駄に長いし、他者紹介なのに自分の話をし出したから。

 

「じゃ次、内牧さん行ってみようか」

 

「あっ、はい……。えっと……まず、杵築くんから……」

 

 

 割愛。

 

 

 理由:言葉と言葉の間が長すぎて、時間がとてつもなくかかったから(でも内容は寄田より断然面白かった)。

 

 しかしよく喋るな内牧さんは。内気だからか、自分のことになるとなにも言えなくなるのに、他人のこととなればペラペラ喋る。あ、部長はそれを見越して『他者紹介』にしたのか。さすが部長だ、敵わない。

 

「じゃ、次はお待ちかね! ワタシこと開聞 いらえが紹介(おおくり)するわ♪」

 

 まあこれを割愛したら気絶させられそうだから割愛はしない。

 

「紹介は他の三人がもうだいたい出し尽くしたから、ワタシは少し変えて、みんなの『二つ名』を考えてみるわね。こう見えても趣味は『二つ名付け』だから☆」

 

 おいおい、部長がまた何か変なこと企みだしたぞ……。

 まあ確かに、初めて会った日に『趣味:二つ名付け』とか言ってたような。そのときはスルーしたがな。

 

 二つ名って、要は『情報基地(データベース)』や『負けず嫌い(ネバーギブアップ)』のような『通称』みたいなものだよな。カッコいいのを頼むぞ。

 

「樹さんは……う~ん、そうねぇ……。

 

 『豊富な果樹園(フルフルーツ)』ってところかしら」

 

「………………。」

 

 ダサっ!

 

 寄田と勝本先輩が大爆笑してやがる。内牧さんまでプッと吹き出しているとか、もう終わりだ。

 

「……開聞部長、いったいどんな悪意(いみ)が込められているんでしょうか?(怒)」

 

「そう怒らないで樹さん。いろいろ掛かっているんだから。たとえば

 その①、樹さんの『樹』って文字が入っている。

 その②、豊富な果樹園では果実(フルーツ)豊富(フル)に『収穫』できる、つまりスクープがたくさん『収穫』できるってこと。

 その③、……………。

 まあその2つかしら」

 

「2つしか掛かってないじゃないですか!」

 

「お次、薪さんの二つ名」

 

 スルーされた。

 

「う~む……。

 

 『誤り謝り(ミスソーリー)』ってところね」

 

 ダサっ! でも似合ってる!

 

 みんなで爆笑するが、内牧さんだけは気に入らないらしい。

 

「……酷いですよ部長ぉ……。もっとカワイイのがいいです……!」

 

「ダーメ。これで決定よ」

 

「そんなぁ……」

 

「人に考えてもらっといて文句言わないの!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 開聞部長は内牧さんを言いくるめてしまった。内牧さんが可哀想だ。だいたい自分が勝手に考えといてなに言ってんだよ(汗)

 

「それにこれもいろいろ掛かっているんだから。

 その①、ミスってのは失敗の『ミス』と、未婚女性の『ミス』とを掛けているのよ」

 

 1掛かりかよ。俺のより少ないな。内牧さんが可哀想だ。

 

「そうだったんですね……! 部長ありがとうございます……!」

 

 訂正しよう。喜んでいた。

 

「最後は頼さんね。……。

 

 『関知外』って感じね」

 

 関知外って(笑)

 

「ぐおぅお!? そりゃ酷いよ開聞せんぱーい! どうせ『勘違い』と掛けたんでしょ? しかもルビもないし雑!」

 

 立ち上がって『Why?』のポーズをとりつつ部長に抗議する寄田。もちろんそれ以外のメンバーは大爆笑。

 

「アハハハ! よかったじゃない変態! カッコいい二つ名付けてもらって!」

 

「ちょっ、勝本先輩、カッコいいは絶対嘘ですよね!?」

 

「ふふっ、寄田くんよかったね!」

 

「ちょっ、内牧さんまで!」

 

「いやいや寄田、ここはむしろ『変態』と名付けられなかったことに喜ぶべきだろ(笑) よかったじゃないか、おめでとう!」

 

「ちょっ、樹! なんでお前はそんなに余裕なんだよ!?

 

 “開聞先輩に付けられた二つ名は学園中に広まるんだぜ”!? お前分かってんのか!?」

 

 

 

「「……へ?」」

 

 

 

 今驚いたのは、寄田同様に変な二つ名を付けられた俺と内牧さん。俺らの頭上の疑問符に答えるように、勝本先輩が口を開いた。

 

「報道部現部長、『情報基地(データベース)』の開聞 いらえって言うと、その情報収集能力の高さも去ることながら、“情報伝達能力の高さ”でも有名ね。彼女が本気を出せば、10分と経たずに箱庭学園の“全校生徒”へ情報を広めることも可能だとか。実際この学園で定着している二つ名や通称は、特待生(チームトクタイ)を中心に相当数存在するけれど、そのおよそ半分は彼女が考えて彼女が広めたのよ」

 

 ……なんてことだ。

 普段登校していない生徒がいる学園で、何をどうしたら全校生徒に情報を伝達できるのだろうか。よく分からないが、そのことが凄いということだけは分かった。つまりこれから俺は、学園のみんなからさっきのダサい二つ名で呼ばれつつ学園生活を送ることになる……?

 

 ……嫌だ!

 

 なんとしても阻止、少なくとももう少しマシな二つ名に変えてもらおうと、隣に腰かけている開聞部長を見たのだが、時すでに遅し。ちょうどスマホをポケットへ戻しているところだった。

 

 

「ワタシは二つ名を名付けたら忘れないようにすぐに『Twitter』にメモる癖があるのよ。『二つ名付け、行う』ってね。

 

たった今、樹さんと薪さんと頼さんの二つ名をツイートしたわ。“箱庭生の中で半袖さんの次にフォローが多い”ワタシの『つぶやき』。止める手だてはもうないわ♪」

 

 

 

 …………。

 箱庭生のほとんどがツイートしているあの不知火ちゃんの次……?

 つまり“詰み”。

 

 杵築(おれ)はガックリと肩を落とし、内牧さんは俺を慰め、寄田は「どちくしょおおおお―――――!!」と叫び、勝本先輩は寄田を笑い、

 

 そして開聞部長はというと。

 

「フフフ♪ まあ善は急げってところかしら。

 

 今回のお茶会はこれにて終了。次回もお楽しみに☆」

 

 

 ――どこまでも通常運転だった。

 

 やっぱり開聞部長(このひと)には敵わない。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 勝本先輩の親御さんが学校に迎えに来た(と勝本先輩のケータイにかかってきた)ので、部室を出て二人で雑談しながら校門へと向かう。お見送りだ。

 

 着くとそこには、いかにも世界のVIPたちが乗っていそうな、数メートルの長さの細長くスマートな車体で、なおかつ光を鋭く反射する漆黒のボディを持つ超高級車があると思っていたのだが、実際はただの薄汚れた薄ピンクの軽自動車だった。

 

 彼女は彼女の才能を利用して俺が一生かけても稼げない額のお金を毎月ガッポガッポと稼いでリッチな生活をしているとばかり思っていたのだが(性格も気高いし)、全くの的外れだったようだ。この車、いかにも『庶民』って感じ。言っちゃ悪いけど。

 

 十三組(ジュウサン)だからと言って、みなが黒神のように裕福(リッチ)なわけじゃないんだな。

 

 運転席から40代くらいの男性が、こちらに微笑みつつ会釈してきた。彼女の父親だろう。

 

「見送りはここまででいいわよ。じゃあね、樹。私はほとぼりがさめるまでしばらくは登校はしないと思うけど、そのうちまた昼寝や散歩をしに来るかもしれないから。見かけたときは声をかけるのよ」

 

 じゃあね、と再び言うと、勝本先輩は車へ近づいてく。俺は最後にどうしても言いたいことがあった。言うチャンスは今しかないだろう。

 

「勝本先輩、『見かけたときに声をかける』くらいじゃ足りません。先輩こそ、“寂しくなったらいつでも部室を訪れてくださいね”!」

 

 俺のそんな言葉(メッセージ)に対して勝本先輩は。

 

 クルリとこちらへ振り向いて顔を一瞬にして赤く染め上げ、キッと俺を睨めつけながら、

 

「だ、誰が寂しくなったりなんか……」

 

 と。言いかけて、止めた。

 そして、俺を睨めつけた目は次第に優しくなり、口元もだんだんと微笑んでゆき、顔からは核心を衝かれた驚きと焦りの色は消えていく。

 

「……フン! “あんたが”寂しくなったら、いつでも私が遊んであげるわ。全く、世話の焼ける後輩ね」

 

 と、完全にいつもの勝ち気で偉そうで余裕の表情に戻してから、そう言った。

 

「まあ、この数日間は楽しかったわ。知り合いも友達もできたし。報道部の人たちも面白かった。私をこんなにも楽しませてくれてありがとう、樹!

 と、感謝してやってもいいわよ♪」

 

 ニッと笑みを浮かべ、胸を張りながらスッと右手を差し出して握手を要求してくる先輩。もちろん笑顔で応じた。

 

 それにしても、今の『感謝』は惜しかったな。最後の一言さえなければ、もう感謝することを克服したと言えただろうに。

 

「それじゃ、先輩、お達者で!」

 

「うん! だけど樹、私の体は丈夫だから大丈夫! 心配無用!」

 

「そうでしたねっ!」

 

 二人でビシッと敬礼し合う。

 

 そして先輩は、車に乗り込み、窓から手を振りながら走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 どこまでも世話の焼ける先輩の話はこれでおしまい。

 

 最後の最後に一言付け加えておくならば、彼女の『勝ち気』は、『寂しがり』の“裏”返しだった、ということだ。

 

 『異常』と呼ばれる彼女の、“素の心”は、しかし限りなく『普通』だった。普通に寂しがる、普通の『寂しがり屋』。

 

 そう。現生徒会長のように―――……。

 

 

 

 

 

 ~おまけ~

 

 

『喜界島れぽーと

 おりきゃらあぶのーまるこれくしょん①』

 

 かつもとあきら

 『ねばーぎぶあっぷ』

 

 じきゅうたいぷ

 

 いじょうなたいりょくが

 かのじょのあぶのーまる。

 こがさんのゆいいつのじゃくてんを

 ぎゃくにとっかしたみたいだね。

 あすりーとのわたしとしては

 つかれないなんてとてもうらやましいかな。

 

 でもそれがげんいんで

 なぜさんにもるもっとにされかけちゃった…。

 もるもっとはごめんだね。

 

 かちきなせいかくは

 さみしがりのうらがえしだとか。

 かってにうらがえさないでってかんじ…。

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
0
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択