少年はいつものようにエプロン姿で台所に立ちながら
いつもと違う表情でなにかを考えていた。
長年の恋の悩みも解決して何を悩むことがあろうかという話だが
ここは少年の考えも聞いてやってほしい。
学校でこんな話があったのだ。
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「高須君、ちょっといい?」
放課後になり特売に乗り込もうとしていた少年に話しかけてきたのは
担任の独神(恋ヶ窪ゆり30歳独身)だった。
「今日のHRで進路の話をしたわよね
高須君は真面目だし成績いいから国立の選抜コースに推薦しようと思うんだけどいいかしら?」
この時点まで少年の頭の進路表は「就職」の一本道だった。
家庭が苦しいことは理解しているし
母親に反対はされているがそれも説得すれば何とかなるだろう。
そう考えていた少年にとって担任の言葉は深く突き刺さった。
「就職か……確かに高須君の考えも分かります。
だけど大学受験ってのは一生を左右するものだから焦って決めて得なんてことはないの」
もう一度じっくり考えてみてね、と言い残し独神は職員室へと戻っていった。
たしかに担任の言っていることも分かる、しかし自分が大学に行くとしてそのお金はどこから出るのか。
母親にこれ以上負担をかけることはできない。
その狭間で苦しむ少年に答えはなかなか見つからなかった。
「ん?こんな時に誰だ?」
そんな時ふと鳴った携帯電話。
呼びだし人は最近できたばかりの愛する彼女。
実をいうとクラスが同じこともあり、メールは頻繁によくしているのだが
電話でわざわざ話すという機会はすくなかった。
なんか初々しいなと多少顔を赤くしつつも待たせてはいけないので電話に出る。
『あ、もしもし。いま時間とか大丈夫?』
「おう、大丈夫だぞ。それにしても電話とか珍しいな、急ぎの用事か?」
『そういうわけじゃないんだけど電話しろってうるさくて」
「え?誰がうるさいんだ?」
『い、いやいや、いいの、今のは気にしないで。
それよりも本題なんだけど、竜児君今週末って暇かな?」
「今週末か?うーん、特にこれといった用事ははいってないな」
『じゃ、じゃあ一緒にらくーじゃとか行かない?……もちろん二人で』
そういう彼女の声は少し恥ずかしそうだった。
竜児は自然と顔がにやけてしまうのを感じた。
自分に彼女が出来たばかりでなく、その彼女がデートに誘ってくれたのだ。
これがにやけずにいられるかという話だ。
「おう!もちろんいいぞ、行こう行こう。待ち合わせは10時頃駅でいいか?」
『ほんとっ!?ありがとう。私もそれくらいにしようと思ってたからちょうどいいわ』
こうして竜児は生まれて初めてデートなるものの約束をしたのだった。
しかし返事を待たせておいて、デートまで相手から誘われるまで待ってたなんて
我ながら情けないと竜児はにやけっぱなしの自分に喝を入れるのだった。
その日高須家の食卓にはいつもより若干焦げ臭い料理が並ぶことになったとさ。
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