「頭痛い」
隣の家に住む幼なじみ、梦雅紅姫(ユメミヤ コウキ)がそう言い出したのは昨日の夜。
しかも俺の家で。
「菊ー」
「………」
「斑菊(マダラ キク)君ー」
「………」
「菊ちゃーん」
「やめてぇっ!菊ちゃんって大喜利じゃないんだからっ!」
「無視する菊が悪い。そして寒い…ッゴホッゴホッ…」
少し呆れたので少し無視をしていたら、精神が少しどころじゃない打撃を食らった。
「菊ー…」
「何?毛布がいい?それとも何か暖かいもの?」
「暖かい人」
体が弱ると、とても心が弱くなる彼女。
普段は無気力無関心。
そのせいもあって、酷く愛しくなる。
枕に顔を埋めながら手を伸ばす彼女。
その手を握り、布団の上から抱き締めた。
何時もより暖かい手。
それでも俺より冷たい手。
ピーンポーン
「………」
「菊、誰か来た」
「…うん。そうだね、じゃぁちょっと行ってくるから安静にしててね?」
少し名残惜しくて、呼び鈴を無視しかけた。
「おはよー」
扉を開くと、外に居たのは流暢に日本語を話す金髪碧目の美女
ではなく、
それに変幻した宗教違いな〈死神〉。
元は元で金髪碧目の美青年。
「あ、烏深さんでしたか。えっと…女性だから…」
「楼姫ちゃんでーす」
烏深楼姫(カラスミ ロウキ)。
本名は…いや、偽名らしいが楼鬼(ロキ)
男性の時は楼鬼と名乗っているらしい。
現在隣の家で紅姫と一緒に暮らしてる。
決して二人暮らしなわけではない
「縁李さんは?」
「あー、あのクソ眼鏡はクソ閻魔の所に行ってる」
「成る程…。あ、寒いですよね、どうぞ上がって下さい」
「んじゃぁお邪魔しまーす」
クソ眼鏡と言われたのは縁李鍵已(ヘリイ キイ)。
もう一人の紅姫の同居人で、黒髪で眼鏡の美青年なのだが、爺臭い口調で喋る変わった人だ。
リビングへ通し、彼の好きなメーカーの珈琲を淹れている間に彼女(楼姫)は彼(楼鬼)に戻っていて少し吃驚した。
頭の頂から重力に逆らって触覚のような毛を携えた彼。
女性時の長髪ならそれもありだが、男性時の短髪だと確かに触覚にも見える。
「あ、そうそう。あの眼鏡に紅(ベニ)を引き取るように言われて来たんだけど…」
「ああ…紅姫ならもう少し俺が看ますよ。動いたら頭に響くらしいし、熱も少しあって、咳も出てて寒がってたから多分風邪だと思いますけど」
「……。じゃぁお願いするよ。ふふ、やっぱり菊君面白いよね。」
彼の口癖の〈面白い〉は、昔移ったものらしい。
一瞬俺を見据えた瞳に全て見透かされた気がした。
「仕事の事は俺からあのチビ閻魔に言っとくって伝えといて」
珈琲を飲み干し、カタンと机にカップを置いて立ち上がる楼鬼。
「あ、もう帰られるんですか?」
「うん。カフェインが脳に作用してくる前に帰って寝ようと思ってねー」
歩き始める彼を、玄関まで見送ろうと俺も後を追った。
「それじゃ、お見舞いは苺のショート持ってくるって言っといてね」
「あはは、甘い生クリームたっぷりで」
甘過ぎる物が嫌いな彼女へのちょっとした嫌がらせ。
いつの間にか顎に宛てられていた指に気付き、笑うのを止めた。
「……怖いのだね、少年。彼女を失うのが。」
「ッ………」
深く澄んだ碧色の瞳に飲み込まれる。
脳内信号は全て停止。
数秒後には逆回転。
目の前に居る妖艶な死神の不敵な笑みに狂わされそうだ。
「大丈夫、もう紅姫は離れないよ。これから離れるのは君のほうだ…〈人間〉。」
最後に「じゃね」と無邪気に笑うと彼は玄関を出た。
「……人間…。」
それからスグに階段をかけ上がって、部屋に行って、布団に丸まる彼女を抱き締めた。
「風邪を移されに来たの?」
「移しても良いよ」
悪玉French kiss。
「風邪菌攻撃」
俺can anything for紅姫。
「紅姫からなら何でも許す。クリスマスプレゼントが風邪菌とか…」
「じゃぁ後で緑に移しときなさい。ゴホッ…、きっと喜ぶわ」
「えーっ、柱本君可哀想…」
「じゃぁあの触覚」
「烏深さんとか縁李さんに移したら大変な事になりそうだから嫌」
「…要らないんでしょ?風邪菌のプレゼント」
「君が苦しそうだから全部貰ってあげるよ」
その代わり、生クリームたっぷりの苺のショートをプレゼントしてあげる。
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