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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 四十八話

地球ギリギリ! ぶっちぎりのやばい奴等!!

2012-10-02 19:00:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4355   閲覧ユーザー数:4090

「艦長! 応答お願いします! 艦長!」

 

地上ではクロノがインカムでリンディに問い合わせるも返事が無い。

 

アルカンシェルを撃ったであろう光も確認したのだが、目標がどうなったのかが伝わってこない。

 

いつまで経っても来ない応答に不安がよぎる。

 

「クロノくん! アースラは!? 防衛プログラムは!?」

「分からない! それに電波が妨害されてもいる……何か起こったと考えていいだろう」

「そんな……」

 

周りが不安に染まっていく中、インカムの砂嵐の中から微かに声が聞こえてきた。

 

『――ロノ……クロノ―――ん』

「!? このインカム……エイミィか!?」

 

なのはたちもそれに驚いて耳を傾ける。

 

『良かった! 強力な魔力ジャミングだから聞こえづらいだろうけどなんとか大丈夫!』

「そうか! それより何があった!? 艦長は、皆は無事か!?」

『アースラ乗組員なら艦長含めて大丈夫!……だけど、問題が……』

「どうした!? そっちで一体何が……!」

『それは……え? 嘘! そんな、アルカンシェルが効かな……きゃああぁぁ!』

 

突如、インカムの向こう側からエイミィと背後のスタッフの悲鳴と共にけたたましい爆音が聞こえ、アラームが鳴り響いた。

 

「エイミィ! 艦長!」

 

クロノの必死の応答にも何も返ってこない。

 

皆が不安にかられる中、シャマルが夜空の中に何かを見つけた。

 

「皆! クラールヴィントが何かを察知したわ! 何か莫大な魔力がこっちに凄いスピードで……!」

 

そう言っている内に“それ”はやってきた。

 

「ジャネンバー!」

『『『!!』』』

 

突然の声に全員の目は落下してくる巨体に釘付けとなった。

 

巨体は猛スピードで、宇宙から落ちてきたというのに、海上スレスレで浮遊して静かに降り立った。

 

空中に浮かびながら落ちてきた巨体……ジャネンバは手を叩いて喜ぶ。

 

「ジャネンバジャネンバジャネンバー!」

「な、なんだあれ?」

 

ヴィータが困惑し、ジャネンバの対応に困る。

 

他の皆も同じ様だが、リインフォースだけがはやての中で語る。

 

『油断するな! あれが闇の書防衛プログラムに住みついていたバグだ!』

「え!? あれも防衛プログラムなん!?」

『はい……どうやら弱まったプログラムを取りこみ、膨大な魔力を吸って外に出たようです』

 

クロノも続けて聞く。

 

「“あれ”の詳しい情報は?」

『あれは私でも分からん……だが、危険な存在とだけはハッキリ分かる!』

「なら、さっさとあれを封印しましょう」

「! アリア!? それにロッテ!」

 

突如、背後からの新たな声に背後を見るとそこには未だ満身創痍のリーゼ姉妹が体の痛む部位を押さえて現れていた。

 

姉妹はクロノに近付く。

 

「デュランダルを渡して。今からあれを凍らせる」

「だ、だめだ! 君たちのその体では……」

「クロ助のくせに生意気だぞ? それに、今のクロ助じゃあデュランダルを使うのはしんどいんじゃないのか?」

「そ、それは……」

 

アリアの指摘通りだった。

 

デュランダルの氷結魔法はとても強力だったが、その分の魔力も大量に持っていかれてしまった。

 

事実、今さっき全員が残り少ない魔力を酷使したばかり。

 

とてもじゃないが、全力を出しても二戦目は厳しい状況である。

 

クロノや、他の皆もそれを容易く理解できていた。

 

「この中でまともに動けるのは私たちだけ、ここは任せて」

「しかし……」

「大丈夫だっつーの。なんかあれトロそうだからちゃっちゃと終わらせてくるさね」

「……あまり深追いはしないでくれ」

 

自分では何もできない悔しさを含みながらデュランダルを渡す。

 

それを受け取って姉妹はクロノを一瞥した後、すぐにジャネンバに向かい合う。

 

「あれが、防衛プログラム……クライドくんを……」

「いいさ、どの道すぐに封じてやる。行くよアリア!」

「ええ!」

 

二人は勢い良くジャネンバに向かって飛び出した。

 

猛スピードで向かいながら向かってくる姉妹にジャネンバも気付いた。

 

「ジャ?」

「アリアは魔力を溜めてて! 私はあのアホ面を抑える」

「無理しちゃだめよ!」

「分かってる!」

 

ロッテはジャネンバに突貫し、アリアはその場に止まって魔力を溜める。

 

「喰らえ!」

 

ロッテの渾身の一撃がジャネンバの身体に叩きこまれた。

 

だが、分厚い肉に吸い込まれるように食い込むばかりだった。

 

「くっ!」

「ジャネンバ~♪」

 

全力を出したロッテの一撃はジャネンバをくすぐる程度にしかならなかった。

 

手を叩いて喜ぶジャネンバはロッテの神経を逆なでる。

 

「この! デブ野郎!」

 

ロッテの魔力の込められた拳と蹴りのラッシュを叩きこむ。

 

だが、ジャネンバは効いた様子も無く笑いながら腕を振り上げて……

 

「ジャ……ネンバ!」

「あがっ!」

 

ロッテに叩きこんだ。

 

ジャネンバの重い一撃を叩きこまれたロッテはそのまま海に叩きつけられ、高い水柱を作り出した。

 

だが、時間稼ぎもこれで充分だった。

 

「これで終わらせる! エターナルコフィン!」

「ジャネンバ?」

 

アリアはジャネンバに絶対零度の一撃を繰り出し

 

 

 

海が銀世界へと変わった。

 

 

 

ジャネンバ内部

 

まるで肉でできているような脈動するピンクの壁と床が広がっていた。

 

先程よりは色鮮やかな世界の中に二人はいた。

 

「温かい……どうやら生物の中に閉じ込められたっぽいな……」

「あぁ、ここは間違いなく奴の腹の中だろうな」

「奴……か。そういえば言葉も普通になったんじゃねえか?」

 

そこにはカリフと全裸のクライドしかいなかった。

 

「奴と結合していた時は少しでも力を封じたくて言語機能さえも犠牲にする必要があったからね。だけどこうして身体、言葉、感覚が戻ったということは……」

「完全復活……ということか」

「あぁ」

 

マイペースなカリフとは違ってクライドは酷く気落ちしているようだった。

 

「……そしてもっと厄介なことになった」

「?」

「奴と長年混ざり合っていたのが功を奏したのか、奴の力の大元……防衛プログラムを抑えることは今でもできている……この状態で封印できればもう活動はできない」

 

だが、とクライドは続ける。

 

「今やこいつはアルカンシェルさえも喰らうほどの力を要している……まず人では太刀打ちなどできない……」

「……」

「しかも、封印状態でこの強さだ……もし、防衛プログラムが本格的に暴れ出したら……」

 

悔しさ

 

クライドは今、自分の非力さを悔やみ、嘆いている。

 

あの日、闇の書が暴走した時、クライドは船と共にアルカンシェルで蒸発させられたとなっている。

 

だが、本当は違った。

 

蒸発させられる直前、当時のリインフォースにそのまま闇の書に吸収させられた。

 

その時、肉体は分解させられ、シグナムたちと同じデータ体となったのだが……

 

「くそ! 私は……どこまでも無力、無力無力っ!」

 

その時、闇の書の一部となったクライドは全ての真実、そしてジャネンバの恐ろしさを直感的に理解してしまった。

 

「これを倒す術は?」

「……完全に覚醒した防衛プログラムごと破壊する……その際にこいつは本気になってしまう……!」

 

答えは残酷、悲惨、絶望だった。

 

全てにおいて実現は不可能

 

近代兵器の最先端を担うアルカンシェルでさえも太刀打ちできない。

 

なら、どうすれば……

 

 

 

 

 

「なんだ、案外単純で分かりやすくていいじゃないか」

 

そんな考えを一蹴するような声が耳に響いた。

 

クライドは目の前で拳をポキポキと鳴らすカリフを見上げた。

 

「無駄だ……君がある程度腕に自信があってもこの化物には……」

「何もせずに負けるのか? クロノは外で生きているぞ?」

「!……だが……それでも……!」

 

希望は持ちたい、だけどそんな勇気さえも忘れてしまった。

 

もう『勇気』という感情さえも忘れてしまった。

 

「オレはお前みたいにハナから諦める奴が嫌いだ。お前がやらないというならどうぞ勝手にしてくれ。一生ここで死んでろ」

「だが、もう私には何もないんだ……! 『希望』も、『勇気』も……息子と妻を抱きしめる『暖かさ』も体と共に捨ててしまった……!」

「……」

 

カリフは少し間を置いて、クライドに背を向けた。

 

「これ以上は時間の無駄だ。オレはもう行く」

「破滅の運命を迎えるというのか……?」

「違う」

 

その一言にカリフは不敵に笑う。

 

「未来を創るためにだ」

 

カリフは光が一筋漏れる天井を見上げる。

 

「そこで見ていろ。そして決めろ。お前自身の『未来』を」

 

そう言いながらカリフは紅いオーラを発しながら一筋の光に向かって飛び立った。

 

『運命』を迎えるためではない。

 

 

 

 

 

『未来』を創るために

 

一筋の光に手を伸ばす。

 

 

 

外では激戦の一途を辿っていた。

 

ロッテとアリアは互いにボロボロになりながらもなんとか肩を支え合っていた。

 

「がっ……げほ!」

「はぁ……はぁ……」

「ジャ~ネンバ!」

 

息の上がる二人に再び拳を振り降ろす。

 

何とか避ける二人だが、そう思ったのも束の間だった。

 

「ぐあ!」

「きゃあ!」

 

突如、二人の動きを先回りしたかのように異空間が先回りする。

 

そして、異空間を通したジャネンバの拳が二人に突き刺さる。

 

だが、アリアは再びデュランダルを起動させる。

 

「エターナルコフィン!」

「ジャネンバ~」

 

ジャネンバの全身が凍りつき、動きを封じる。

 

だが、そんな中でもジャネンバは止まることも無く、力を解放する。

 

「ジャネンバ!」

「くそっ! またかよ!」

 

ロッテが毒づくのも無理は無い。

 

さっきから繰り返している強力な氷結魔法も一瞬で瓦解されてしまう。

 

要は、これまでに何度も奥の手を突破されているということになる。

 

「ゲラゲラゲラ~♪」

「参ったわね……あっちはただ遊んでいるだけのようね……」

「この化物め……!」

 

腹を抱えて楽しむジャネンバに心さえも折れそうになる。

 

そして、この時、なのはたちの方にも戦いは及んでいた。

 

 

 

「くそ! 何だこいつ等ぁ!」

 

ヴィータは痛む体に鞭を打ってアイゼンを振り回す。

 

相手は……小柄なジャネンバだった。

 

急に本体のジャネンバが出した分身がなのはたちに襲いかかってきたのだ。

 

しかも、一体だけでなく何十、百体もの数が徐々に迫って来ている。

 

「紫電一閃!」

「ギガントシュラーク!」

 

特大の一撃と烈火の一撃が分身たちを飲みこんでいく。

 

 

「ジャネンバ~」

「ジャネンバ!」

「ゲラゲラ♪」

 

だが、その合間にも数が増えていく。

 

「くっ! 数が多すぎる!」

「しかもさっき奴等も一体として倒せねえ! しぶてえ!」

 

隣で数匹相手に組み合うザフィーラが忌々しげに吐き捨てる。

 

「しぶといだけじゃない……! こいつ等、強い! がっ!」

 

スピード、パワーでさえも一体一体それぞれがザフィーラに打ち勝つような強さを有している。

 

奮闘する三人の他にユーノたちサポート班は強力な結界でありったけの数のジャネンバをぎゅうぎゅうに詰めて抑える。

 

「ジャネンバー!」

「ジャネンバジャネンバ!」

「くそー! こっちも数が多すぎる!」

「だめ、もうこれ以上は……」

「なのは……そっちは……」

 

全力で抑え、疲労困憊のサポート班のすぐ近くでなのは、フェイト、はやて、プレシア、クロノの攻防が続いていた。

 

「スナイプショット!」

「スプライトザンバー!」

 

クロノの砲撃とフェイトの斬撃がジャネンバたちにヒットするが、斬られて箇所や撃ち抜かれた部分はすぐに修復されてしまう。

 

「なんて奴等だ……!」

「だめ……そろそろ……」

 

息が上がり、呼吸さえままならない二人に背後からジャネンバが迫る。

 

「ジャネンバ!」

「ぐあ!」

「クロ……あぁ!」

 

勢い良く殴られたクロノに注意が散漫したフェイトに新たな一匹に同じ様に殴り飛ばされる。

 

二人はそれぞれ反対方向の石柱に叩きつけられた。

 

「あ……ぐ……」

「ジャネンバー!」

 

薄いバリアジャケットで喰らってしまったフェイトはその場から動けなくなり、ジャネンバも襲ってくる。

 

「止め……」

「娘に手を出すな!」

 

プレシアが横から入ってプロテクションを展開する。

 

『『『ジャネンバー!』』』

 

急に現れた障壁に前の分身がぶつかると連鎖的に後ろの方のジャネンバたちも突っ込んできた。

 

「うぐぅ……!」

「か、かあさ……」

「大丈夫!? 動けそう!?」

 

必死に呼びかけてくる母にフェイトも涙を流す。

 

「私は大丈夫! でも母さんが……!」

「いいの、だってこれくらいしかあなたにしてやれることなんて……あぅ!」

「母さん!」

 

既に限界が近いというのにプレシアは優しげな頬笑みを娘に送る。

 

「本当はね……あなたと一緒にいたかった」

「!!」

「あなたは今までに私を想っていたのに……何もしてあげられなくてごめんね……」

「ううん……ううん!」

 

フェイトは涙を流しながら首を横に振る。

 

「元々は死ぬはずだった命……あなたのために使えて良かった……」

「やだよ! そんなこと言わないで一緒に暮らそうよ! アルフと、アリシアと……!」

 

遺言とも取れる言葉にフェイトが喉が痛むほど叫ぶ。

 

だが、そんな気持ちさえも踏みにじるようにジャネンバの大群がプロテクションを破ってきた。

 

「ジャネンバー♪」

「あぁ!」

「母さん!? 母さんっ!」

 

無理矢理ジャネンバたちに目の前で母が羽交い締めにされて連れ去られていく。

 

フェイトの伸ばした手は届くこと無く、果てしない闇へと消えていく。

 

「プレシアぁ!」

 

遠くでアルフも叫ぶが、その瞬間に結界が爆発と共に砕け散った。

 

「うあぁ!」

「きゃあぁぁぁぁ!」

「うわぁ!」

 

アルフ、シャマル、ユーノは爆発と共に海に叩きつけられ、そこへ群がる大群

 

「スターライトブレイカー!」

「ラグナロク!」

「ブラッディダガー・ジェノサイドシフト!」

 

桃色と白光の閃光、紅の刃がジャネンバの大群に向けられて発せられるが、ジャネンバたちは大きく口を開ける。

 

「ア~ン」

 

それぞれがなのはたちの魔力を口へと吸い込み、遂には極太の砲撃と刃までもが吸い込まれてしまった。

 

「ジャネンバ~♪」

「ネンバネンバ!」

 

満足そうに腹を押さえるジャネンバたちになのはたちは息を上げるしかできない。

 

「だめ……もう魔力が……」

「主! お逃げください! ユニゾンを解かれた今の状態では……!」

「せやけど、どうすれば……!? なのはちゃん! リインフォース! 避けて!」

 

二人が前を見ると、ジャネンバたちは体の穴から砲撃を繰り出していた。

 

「きゃあ!」

「いやあ!」

「主ー!」

 

なんとか避けるも、数十体単位で繰りだされた砲撃の余波に三人はバラバラに散らされた。

 

三人それぞれに大群が襲いかかる。

 

「レイジングハート!」

 

吹き飛ばされながらもプロテクションを張るが、その直後に追いつかれて数匹に囲まれる。

 

「ジャネンバ!」

「ジャネンバ!」

「くっ……あぁ……」

 

四方から繰り出される強力なパンチになのははプロテクションを固めることしかできない。

 

徐々に魔力も体力も減らされていく。

 

「なのはちゃん! 待ってて! 今……!」

「ジャネンバ~」

「なっ!」

 

援護しようとするはやての足を一匹のジャネンバが掴む。

 

そして、はやては抗うこともできずに振り回される。

 

「あ……うぅ……」

 

勢い良く振り回されて声さえも出せないはやてをジャネンバはそのまま力強く投げる。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!」

 

はやては石柱に叩きつけられたのを見て手を叩いて喜ぶジャネンバ

 

「主!! そこをどけえぇぇぇぇ!」

 

はやての元へ向かおうとするリインフォースは立ちはだかるジャネンバたちを殴り飛ばして行く。

 

だが、それも膨大な物量の前では一瞬にして無力となった。

 

群がるジャネンバに押しつぶされ、リインフォースは飲みこまれていく。

 

「主! 主ぃぃぃ!」

 

リインフォースの姿も全て消えてしまった。

 

疲労と魔力の枯渇によって誰一人抵抗もできない。

 

フェイトは痛みで動けないからかジャネンバに相手にされずにただ目の前の蹂躙を見ていることしかできない。

 

「止めて……」

 

―――崩れ落ちる騎士たち……

 

「止めてよ……」

 

―――倒れ伏す家族たち……

 

「止めてってば……」

 

―――墜ちる親友たち

 

フェイトは涙で霞む世界に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

戦場の一帯を

 

鬼の威圧が襲った。

 

『『『!?』』』

 

一瞬だけ感じた鬼の幻想がジャネンバ全員の動きを止めた。

 

まるで、地の底から這い上がるような重い重圧

 

だが、なのはたちにとってはそれは見知ったような波長だった。

 

「い、今のは……」

 

止まったジャネンバたちと一緒に同じ方向を見ると、そこには巨大な本体のジャネンバがいた。

 

しかし、様子があまりにおかしい。

 

「ジャ……ジャネン……バ……」

 

口を抑えて苦しそうに苦しがっている様子だった。

 

すぐ近くで満身創痍のリーゼ姉妹もさっきの威圧を感じて様子のおかしくなったジャネンバを見上げた。

 

その様子はまるで餅を喉に詰まらせた人間のようだった。

 

「ジャネンバーー!」

 

そして、ヤケになったジャネンバが体を広げて力を解放しようとした時だった。

 

 

 

 

 

「残念だが、もう遅い」

 

突如、声と共にジャネンバの口の中から紅いオーラが飛び出した。

 

「ジャナン……!」

 

ジャネンバもそれには耐えきれず、下あごを吹っ飛ばされてしまった。

 

そして、その紅いオーラはまるで隕石のように勢い良くコピージャネンバたちの元へ向かってくる。

 

「ジャ、ジャネンバー!」

 

紅い隕石は一体、また一体とジャネンバのコピーを貫きながら縦横無尽に飛び回る。

 

「な、なんやこれ……」

 

はやてが体を起こして見上げていた時、すぐ近くのジャネンバが一瞬で消えた。

 

そして良く見ると、なのはたちには全く当たらず近くのジャネンバだけを攻撃している。

 

「ま、まさか……この感じは……」

 

クロノもやっとの思いで口にした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

なのはたちの近くのジャネンバだけを一掃した紅い閃光は空中で止まり、光を弱めた。

 

「何をボサっとしてやがる。さっさとさがれ」

 

声と共に姿を見せたのは、いつも通りの自信満々な表情だった。

 

「さて、オレも出るか」

 

カリフの参戦が決定づけられた時だった。

 

そんな彼の姿を皆が驚愕した。

 

「カ、カリフ!? な、なんであんな所から……!」

 

偶々近くにいたユーノに同意するようにシャマルたちも何か言おうとするが、言葉が出てこない。

 

そんなサポート班にカリフは頭を掻いた。

 

「後にしろ。今は街に戻って退却でもしてろ。空を飛ぶのでやっとだろお前等」

「え?」

「ちょっ!」

「うげっ!」

 

呆れながら三人の首根っこを掴んで後ろへと飛んでいく。

 

「あ、あの……」

 

近くまで行くと、なのはたちがカリフを見つめていたが、カリフは同様に言い聞かせた。

 

「後で話す。今は退け」

「あ、あぁ……」

 

突然の超展開に一同は付いてこれていないのだが、カリフはユーノたちを離してフェイトの元へと向かった。

 

ある程度近付いてきてカリフはフェイトの体を引き寄せて抱っこした。

 

「カ、カリ……」

「今はあまり喋るな。一時的に肺が機能してないから辛いだろう?」

 

そう言いながら運んでいく。

 

その間、ジャネンバたちは全く襲って来ず、まるで観察するかのように眺めていただけだった。

 

「ま、待って……母さん……」

「プレシアはさっき回収してアリサたちのとこに置いてきた。今は四身の拳で誘導しているからもう合流はしている」

「……」

 

これ以上何を言うでもないカリフはすぐに合流地点のビルに辿りついた。

 

その内、三人のカリフはフェイトを連れてきた最後の一人と重なるようにして元に戻った。

 

再び一人に戻ったカリフを息を上げる魔導師たちやアリサ、すずか、アリシアたちもカリフを見ていた。

 

「カリフ……」

「よ、お懐かしや」

 

呑気に挨拶を交わすと、すぐに真顔になって遠くのジャネンバを見つめる。

 

「なるほど、あれが『今の』防衛プログラムって訳か……」

「あ、あぁ……なぜそれを……!」

 

リインフォースがそう言うと、遠くでジャネンバたちが突出してくるのが見えた。

 

「ジャネンバー!」

「ジャネンバジャネンバ!」

 

その数はカリフによって減らされたとはいえ驚異的であった。

 

「お、おい! また来やがったぞ!」

「くそ! しつこい!」

 

崩れかけたデバイスを構えて戦闘態勢に入っていた。

 

だが、それでもカリフは何食わぬ顔で大群を見据える。

 

「おいおい、あのまま静かにしていたら見逃してやろうと思っていたんだがな……」

 

そして、一呼吸置いた後、鬼の形相へと変えて凄んだ。

 

 

―――るっせえぞデブ共がっ! 食い殺してやろうか!?

 

『『『ジャ!?』』』

 

再びの驚異的な威圧、初めて見る狂暴な威嚇によってジャネンバの大群は動きを再び止めた。

 

だが、さっきのように止まっただけでなく、まるで母に叱られた子供のようにカリフを恐れた。

 

そして、その威圧は向けられていないなのはたちにも戦慄を与えた。

 

「カリ……フくん……」

 

すずかがなんとか喋ろうとするも、カリフはその声も聞かずにビルの縁に足をかけた。

 

「どうやら、遊んで欲しいようだなぁ……オイ」

 

カリフはすぐにジャネンバの大群に向かい合って構える。

 

どう見ても臨戦態勢のカリフに皆が気を取り直して制止を呼び掛ける。

 

「駄目! いくらカリフくんでもこの数は無茶やって!」

「邪魔者は潰すだけだ」

 

そう言うと、その場から瞬時に飛び出して猛スピードでジャネンバの群れへと向かっていく。

 

そして、その途中でスーパーサイヤ人2へと変化すると、瞬間移動でジャネンバの大群のど真ん中に現れる。

 

「ジャネンバ?」

 

一体のジャネンバがカリフに気付いた瞬間、周りのジャネンバの体が縦に裂けた。

 

周りのジャネンバたちの視線を釘づけにした瞬間、カリフは手招きして挑発した。

 

「来なよ。遊んでやる」

 

その言葉を皮切りに大量のジャネンバが襲いかかってきた。

 

「ジャネンバ!」

 

背後からの一撃を勘で避けて振り返り、腕で一閃した。

 

その直後にジャネンバの大群の首が数十単位の個体が海へと落ちていった。

 

「ジャ……」

「ネンバ!」

 

両サイドからのパンチもカリフは柔術で互いの拳を当てるように綺麗にいなした。

 

「はっ!」

 

両方のジャネンバは互いに殴られる形で弾け飛び、カリフは両手を左右に突き出して気弾を撃ち込む。

 

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

二体は塵となり、カリフはすぐ近くのジャネンバの頭を掴んで大群にぶつける。

 

そして昔に教わった気円斬を両手に宿し、投げる。

 

まるで生きているかのように気円斬はジャネンバたちを容赦なく切り捨てながら飛びまわる。

 

気円斬に気を取られているジャネンバたちのど真ん中に急に現れ、あとはがむしゃらに暴れ回る。

 

「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

カリフの拳、足、肘、膝がジャネンバを破壊し、頭を掴んでは投げつける。

 

時には噛みつき、肉を引きちぎる。

 

迫ってくる攻撃も柔術で全ていなし、よろけた所で首をねじ切る。

 

暗殺術、武術を駆使してまさに無双を繰り広げていく。

 

力無く海へと落ちていくジャネンバはすぐに消滅し、無に還る。

 

「オレが攻めに入った時点で貴様等は……」

「ジャネンバぁ!」

 

一匹がカリフに渾身のパンチを繰り出すも、カリフは難なく避けて腹に手を置く。

 

「一方通行ってハナシだ」

「ジャネンバアァァァァ!」

 

カリフがジャネンバに撃ちこんだ気が内部で膨張し、腹部を肥大化させて爆発させる。

 

もう何匹も残っていないジャネンバはカリフから背を向けて逃げ出そうとする。

 

だが、カリフは笑いながら二本指を立てた瞬間だった。

 

「ジャ!」

「ジャネン……!」

 

残りのジャネンバ全てを包むくらいの大きさの光が海の中から爆ぜ、ジャネンバたちは光に成すすべなく包まれた。

 

光は極太のエネルギー弾と化し……

 

 

海の真ん中に

 

 

 

円系の滝を創ったのだった。

 

 

 

 

 

『『『……』』』

 

遠くで見ていた面子は唖然としていた。

 

ある程度は強いと分かっていたのだが、正直ここまで強いとは思っていなかった。

 

一匹一匹が出鱈目に強い軍団をカリフは一人で葬ってしまった。

 

「な、なんて無茶苦茶な……」

 

これ以上の表現など疲れきっているクロノたちには思い浮かばなかった。

 

「でも、これならあいつなんてイチコロ……」

「そう簡単にいけばいいがな」

「うお!? おまっ、いつの間に……!」

 

いつの間にか自分たちの背後でいつもの黒髪に戻って、腕と足を組んで宙に浮いているカリフに一同も驚いた。

 

一同の反応を面白がりながらも遠くのジャネンバに目を凝らす。

 

「さっきまで腹の中にいたから分かる。奴はさっきまでのコピーなどとは違う……こりゃオレも本腰入れねえとな」

「そこまでの程なのか……」

 

予想はできていたが、あのコピー体を一蹴する程の力を合わせ持つカリフですらそこまで言わしめる存在だった。

 

「今はまだ出ない。奴等が消え次第すぐに出る」

「え、でも……」

 

なのはが何か言おうとした時、復旧したインカムから声が届いた。

 

『クロ……くん……クロノくん!?』

「エイミィ?……エイミィか!?」

 

急いで呼びかけると、あっちも気付いたようだった。

 

『良かった! やっと繋がった!』

「僕たちはなんとか無事だが、そっちは何があったんだ!?」

『うん、覚醒した闇の書にアルカンシェルを撃ったんだけど、あのバケモノに吸収されて反撃を受けたの』

「! アースラはどうなったんだ!?」

『ギリギリでアースラを次元世界に送ったけど予備魔力炉がやられて復旧に三十分はかかる!』

「そうか……こっちの様子は分かるかい?」

『ずっと見てた……艦長がカリフくんと話したいって』

 

クロノから手渡しでインカムを受け取り、カリフに代わる。

 

「なんだ?」

『申し訳ございませんが、今は動けるのはあなただけです……心苦しいですが……少し時間を稼いでもらえれば新たに封印法を……』

「無駄だ。こいつは魔力を食って成長する対魔導師用プログラムだ。魔力しか脳の無いお前等では逆に奴を調子づかせることになる」

『ですが、それ以外に道が……』

「ある。こいつを本気にさせた所を潰せばいいだけのこと」

『ですが、個人の力だけでは……それに子供のあなたにそんな危険なことを……』

 

リンディの言葉にカリフは鼻で笑った。

 

「いいよ。どの道、闘争こそがオレの意義。そのために“創られた”んだからな」

「え?」

 

カリフの“創られた”というワードにフェイトは引っ掛かったが、カリフは続ける。

 

「それに、なんでクロノたちをここまで誘導したか分かるか?」

『それはどういう……』

「これはオレと奴の因縁であり……必然であり、オレの真価が問われる“飛躍の時”だ。だれにも邪魔はさせない」

『邪魔とかそんなこと言ってる場合じゃあ……』

「オレの問題だ。自分のケツくらい自分で拭くさ……無関係な命を巻き込むのはオレの流儀に反する」

 

断固として考えを改めないカリフの気迫はインカム越しでも充分に伝わってくる。

 

だが、管理局員として、大人としてカリフを戦場に放り込むのには抵抗がある。

 

緊張の沈黙が辺りを包んでいた時だった。

 

「……カリフくん、かな?」

「!!」

「あ、あなたは!?」

 

突然の闖入者の出現に全員が驚いた。

 

なのは、フェイト、ユーノ、アルフ、クロノも見知った顔であるグレアムがそこにいた。

 

リンディを映すモニターが皆の前に現れ、アリサたちはそれに目を見開いた。

 

『グレアム提督! なぜそこへ!?』

「……今更言うのも筋違いだが、もう隠れるのは止めることにしたんだ……」

 

沈痛そうに言うグレアムだが、そんな彼にカリフが嫌悪の表情を隠さずに近付いてくる。

 

「今更ノコノコと何の用だ? 使い魔の最期を看取りに来たか?」

「……君の怒りは尤もだ。だが、失礼を承知でここに来た」

 

グレアムは頭をカリフに下げた。

 

「頼む! 娘たちを助けてくれ!」

「提督……」

「彼女たちは私の指示に従っていただけだ! 真の悪は私だ!」

 

全ての恥さえもかなぐり捨てて必死に頭を下げるグレアムにカリフはゆっくりと近づく。

 

一歩

 

グレアムの鼓動が速くなる。

 

また一歩

 

狂暴な野獣がすぐそこまでやってくる。

 

そして立ち止まった。

 

「頭を垂れろ」

 

その瞬間、グレアムは腹部に強力な一撃を喰らって前につんのめる。

 

「うぐおぉ!」

「それが人に物を頼む……」

 

下がった白髪の頭を無造作に掴んで力強く地面に叩きつける。

 

「態度かぁ?」

『『『!?』』』

「提督!」

 

グレアムの顔面が地面に叩きつけられて鮮血が舞うシーンを全員が驚愕し、クロノが叫ぶ。

 

「うぐぅぅ……!」

「そうそう、額まで地べたに付けてみっともない姿で懇願しろ。まるで粘液を出して這いずりまわるナメクジのようにな」

「止めろ! そんなことしている場合じゃないだろ! ロッテたちがまだ戦っているんだぞ!」

 

クロノが制止の声に、カリフは未だに向かい続けているリーゼ姉妹を見てせせら笑う。

 

「あぁ、後、数分は大丈夫だな。奴等のおかげで防衛プログラムのパターンは把握できた」

「なら!」

「あぁ、倒してやるよ。奴等が死んだ後にな」

「そ、そんな! あがぁ……!」

 

グレアムの頭を踏む足に力を入れて黙らせる。

 

「正直言ってこうしている今でも心の中でお前等が早く死んでくれないかと願っているよ」

「うぐあぁ!」

 

踏みつけていたグレアムの頭を乱暴に掴み、無理矢理跪かせる態勢にする。

 

「ただ、オレの質問に答えて口約を一つ結ぶなら考えなくもない」

「わ、分かった……」

 

皆が戦慄する中、カリフは言った。

 

「では聞かせろ。なぜはやてを選んだ?」

「選んだ……とは?」

「そのまんまの意味だ。貴様、闇の書ごとはやてを封印しようとしただろう?」

「え? それって……どういう……」

 

はやての言葉にカリフはただ真実を告げた。

 

「仮面の男……もとい、変身魔法で姿を変えていた猫の主人がこいつだ」

「なっ!」

「この者が……!」

「はやてを……!」

 

はやてを狙った黒幕の正体……それだけで騎士たちの反応は顕著だった。

 

だが、それでもカリフは顔色一つ変えずにグレアムの目を見つめる。

 

「さあ、答えろ。嘘を言った瞬間はひ・ど・い・ぞ?」

「約束してくれ! 答えたら娘たちは……!」

 

その瞬間、グレアムの右手の小指と薬指が嫌な音を立てて折れた。

 

「ぐあああぁぁぁぁぁ!」

「余計なことは喋るな。決めるのはオレだ」

「あ、あぁぁ……」

「次に余計なこと喋れば次は目を頂く……答えろ」

 

最早我慢の限界が近づいてきたのか、手に力が入るのを感じてグレアムも考えを改める。

 

(この子は本気だ……)

 

痛みを我慢し、グレアムは頭と顔から流れる血を拭いて答える。

 

「……彼女には両親もいなければ友達もいない……彼女を封印しても悲しむ者は少ないと……」

「て、てめえ!」

 

ヴィータがグレアムに跳びかかろうとするのをカリフが手を伸ばして遮る。

 

「なんで止めんだよ! こいつは……!」

「気持ちは分からんでもない……だが、後にしろ。こいつに最後に問いたい」

 

カリフの言葉に渋々と言った感じでさがると、カリフは再び問う。

 

「最後に口約を交わそう。そうすれば奴等は生きたまま回収してやる」

「わ、分かった。なんでもしよう」

「そうだ、オレのパシリとなって死ぬまで何でもしてもらう。単純だろう?」

 

簡単に言ってくれるが、相手が相手だけに途轍もなく困難な道になるだろう。

 

言うなれば、悪魔に魂を売るようなことである。

 

(魂を売る……か。何を今更……)

 

過去に息子同然に可愛がっていた部下をこの手で撃ち抜いた。

 

その時以来、全てのことにも無気力になり、生きているかどうかさえも自分でも分からなくなっていた。

 

だけど、今日まで生きて来れたのは娘たちとクロノたちの励ましがあったからこそだった。

 

そんな娘たちを救えるのは目の前の悪魔だけだった。

 

(老いぼれの命で未来が創れるのなら……)

 

意を決したグレアムが口を開いた。

 

 

 

 

ジャネンバと交戦中のリーゼ姉妹は既に限界が来ていた。

 

最初はノロいとしていた攻撃でさえもう避けられない。

 

見えているのに体が付いていかないという状況だった。

 

「こんな……所で……」

「……けほ……ごほ……」

 

力無くジャネンバの両手にそれぞれ捕まっている姉妹

 

それとは裏腹にジャネンバは手に力を入れて締めつける。

 

「あ……ぁ……」

「が……はぁ……」

「ジャネンバー!」

 

抗えぬ力に成すすべなく意識も遠のいて行く。

 

体からも嫌な音が聞こえ、力も入らない。

 

もうここで終わりか……そのまま目を閉じて闇の中へと意識を沈ませた。

 

 

 

「ジャネンバ~~!」

 

次の瞬間のジャネンバの悲鳴、衝撃、そして解放感が来るまでは。

 

そして一瞬の落下の後に二人は襟元を掴まれてぶら下がる形になった。

 

「まだ生きてるようだな。存外しぶとい」

 

さっきまで自分たちを殺さんとしていた悪魔の声に意識が一気に覚醒した。

 

「あ、あなた……なんで……」

「口約だ。不本意だが、貴様等に死なれてはオレもちと面倒くさくなるからな」

「離せよ……お前の力なんていらない……」

 

ロッテの物言いにカリフは嫌らしく笑って同意した。

 

「もちろん、貴様等がいても足手まといだ。だから……」

「!?」

 

片手でロッテを放り投げた後、拳を握って……

 

「さがってろ。邪魔だ」

 

顔面に突き刺した。

 

「があ!」

「ロッテ!」

「喚くな。一応は加減した……“二発くらいで”」

「え”?」

 

嫌な予感がしたから飛ばされてロッテを見ると、なのはたちのいるビルへと軌道が逸れている。

 

自力で飛ぶ力も残っておらず、このままでは通過してしまう所だろう。

 

―――パァン!

 

急にロッテから破裂に似た音と共にまるで弾かれたようにして例のビルへ軌道修正されて着地……もとい撃墜されたのを見た。

 

それを見たアリアは絶句した。

 

「あ、ああぁぁあぁあぁあなた! 妹にあの高速パンチを……!」

「『釘パンチ』だ。死んでないと思うであろうから気にするな」

「殺す気!?」

 

だが、そんな叫びもカリフの心には響かない。

 

まるで猫の鳴き声と同じような感じでスルーし、今度は同じ様にアリアは少しだけ放り投げる。

 

「え、ちょ……まさか……!」

「お前は“一発”で送ってやる」

「プ、プロテク……!」

 

咄嗟に張ったプロテクションは無残にカリフの蹴りに砕かれ、腹部に強い衝撃を与えられた。

 

「ぐぶぅ!」

 

ここも同じく、勢い良く弾き飛ばされ、またまた例のビルへ猛スピードで突っ込まされていった。

 

それを見送ることも無く、背後で激突音が聞いてから目の前で立ち塞がるジャネンバを見る。

 

「ジャネンバーーーー!」

 

相手はまるでおもちゃを取り上げられたかのように身ぶり手ぶりで暴れて怒りを示す。

 

そんな相手にカリフは腕を交差させながら鋭利な眼光を飛ばす。

 

「次はオレだ……今までのように優しくさせてもらえると思うなよ?……カァーッ!」

 

咆哮と共にカリフの目は碧眼へと変わり、髪も黒から金へと変貌する。

 

「ジャネンバー!」

 

カリフからの突風にジャネンバはクルクル周りながら遠くへ風船のように飛ばされてしまった。

 

だが、それでも金の災害は止むことも無い。

 

黄金のオーラを迸らせ、稲妻を纏いながら構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャネンバーー!」

「さっさと来やがれこのピザ野郎!」

 

悪魔と鬼の全面戦争のゴングがここで幕を開けた。

 

 

 

地球と全ての生命に告ぐ。

 

 

 

 

これが時代の節目であり、分岐点だ。

 

 

 

今すぐに覚悟を決めろ……この二体は待ってはくれないのだから……


 
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