No.491067 魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 四十七話2012-10-01 22:16:30 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:3543 閲覧ユーザー数:3390 |
海鳴市海上
至る所から歪な石柱が発生し、世界の崩壊が進んでいる。
だが、そんな中で再び事態は急変した。
突如として戦っていた闇の書の意志が頭を抑え始めた。
無表情で、声を発しはしないが、動きだけで苦しんでいることだけは分かる。
「これって……」
「苦しんでいる……の?」
ボロボロのなのはとフェイトが息を切らせながら目の前の現象に疑問を持つが、プレシアだけは違った。
「いえ、これは多分暴走かもしれないわね……」
「暴走?」
「さっき、カリフが仮想プログラムを壊したって言ったでしょ? その直後にこの反応……無関係とは言えないわね」
警戒しながらも自分なりの結論を述べる。
そんな時だった。
(外の方! 管理局の方! 聞こえますか!?)
「その声、はやてちゃん!?」
(え!? その声、なのはちゃん!?)
突如としてはやてからの念話が届き、なのはたちは動きを止めた。
「今、プレシアさんとフェイトちゃんも一緒にいるんだけど、よかった! 無事だったんだ!」
(あんな、急で悪いんやけどその子止めてもらえへん!? 今表に出てるのは防衛プログラムの方やから!)
「え、でも止めるのはいいけどどうやって……!?」
いきなりのことでどうしていいか分からない。
そんな時、一連の念話を聞いていた人物からさらに念話が届いた。
(今からなのはたちが次に言うことをすればはやてちゃんは外に出られる!)
「え!? ユーノくん!」
(ついでに言えばシグナムたちも元に戻れるんや! 防衛プログラムは守護騎士プログラムをバグとしてはじき出すつもりやからガードが甘かったんや! 私が出られたらプログラムは再起動できる!)
「どうすれば……!」
フェイトが聞くと、応じてきたユーノが念話越しに言った。
(その子に思いっきり魔力ダメージをぶつけるんだ! 全力全開、手加減無しで!)
念話越しの自信気な声になのはたちもやる気が伝わる。
「さっすがユーノ!」
「分かりやすい!」
二人は自身のデバイスを闇の書……防衛プログラムに向け、意志表明する。
そこへ、プレシアも並ぶ。
「母さん?」
「子供を守るのが大人であり、親としての役目よ」
「え、あの……」
思っても無い言葉
フェイトが今まで待っていた言葉
理想への片道切符が目の前に差し出されていた。
「一緒に、頑張りましょう」
その瞬間、フェイトの全てが報われた。
今まで焦がれていた夢がそこにあった。
そして悟る、今がその時だと……
「はい!」
全ての努力はこの日のためにあった。
後は全てに決着を付けるだけだった。
そのために小さな勇者たちは試練に立ち向かうのだった。
◆
そんな中、目の前の肉でできた球体に取りつく一人の男性を覗き見るカリフがいた。
巨大な塊をジロジロと見て周り、観察している。
「生きてることは確かだな……体温もあれば声もあるが、生気というものが無い……」
ふむ、と感心したような声を出したその後に、カリフは拳を握りしめて……
「オラァッ!」
一気に振り切った。
拳が肉に突き刺さったと思われたのだが……
「うげ!」
肉にダメージどころか傷一つ付かずにズブズブとゲルみたいに拳が陥没させられてしまった。
それどころか逆に飲みこまれる気分さえもしたので慌てて拳を引き抜いた。
「くそ、気持ちわりぃな……これは後回しでいいか」
手首を押さえながら再び移動を始め、辿り着いたのは先程のクライド・ハラオウンと名乗る人物の前にまで来た。
そこで色々と触ってみる。
「意識はあるし、体も健在だが中途半端に取り込まれているからこれ以上は分からんな……」
「き……み……は……?」
「言葉は喋れるし、クロノと瓜二つ……なにこれ分からん」
目の前にある奇妙な生命体に頭を悩ませていると、クライドはたどたどしく口を開く。
「クロノ……知っているのか?」
「まあね、今外でドンパチしてると思うけど?」
何気なく言いながら探索を続けるカリフにクライドは続けた。
「止め……るんだ……“これ”には勝てな……い」
「“これ”? この球体か?」
ペチペチ叩きながら確認しているが、ここでカリフは新たに興味を持った。
「それほどの物か?」
「こうして……データと……なった私が………人柱になっ……て力を抑えても……これほどの力……」
「へぇ……」
これはこれで面白そうだ……そう思いながらもカリフは思いを巡らせていた。
「なあ、クライドとやら……あんたがこの世界……闇の書から出たらどうなるんだ?」
「真の闇が……解き放たれる……だが何故……」
なぜそんなことを聞くのか……そう思いながら尋ねた時だった。
(クライド氏! 聞こえるか!?)
「!……管制……プログラ……ムか?」
突如として届いた念話にクライドは弱々しくも驚いたようだった。
カリフが眉を吊り上げる中、話は続く。
(私は今、主に名を付けてもらって権限を主はやてに移してもらった。守護騎士プログラムも復帰して外に出ている!)
「そうか……それは……よかった。なら管制プロ……いや、名を……貰ったのだった……な。なんて……言うんだい?」
(今はそんな時では……!)
「頼む……」
(……リインフォース……)
言葉足らずでもクライドの真摯な願いに念話で名乗った。
その時、クライドのほとんど動かなかった顔の表情が変わった。
「良い……名……だ」
(それよりも速くあなたもそこから脱出を! これからアルカンシェルで防衛プログラムを破壊することになっている! 速くしないとあなたまで……!)
「いや……ここで……いい」
(なっ!)
リインフォースの提案をクライドは提案を断った。
念話越しで驚愕しているのが分かる。
「私がこれを抑える……その隙……にアルカンシェ……ルで……」
(そんなこと……できるわけがない!……私はあなたに……!)
「いいんだ……自分で望んだ……こと……」
(でも……! あなたは私の代わりに今まで……!)
「それで……君をまもれ……たのだからそ……れなら本望……さ」
(しかし……しかし!)
クライドの決意は固かった。
この“真の闇”と一体化し、力を抑え続けていたからこそ分かる。
これの底力、恐ろしさを……
だからこそ自分は残って封印し続けなければならない。
最初にこれを見た時から覚悟を決めていた。
これ以上、この少女を苦しめてはいけないと……
二人が念話越しに口論する中、そこで意外な方法で口を挟む者がいた。
(よぉ、お前……さっき戦った奴だな?)
(お、お前は! カリフ……なのか!? なぜお前が念話を!?)
どうやって魔力無しで念話に割り込めるのか!? そう思っていたのを見透かしたように続けた。
(気というのはあらゆる力に変換されるまえの生命エネルギーそのもの。謂わば種みたいなものさ)
少しノイズが入るも、声はハッキリと聞こえる。
(オレがやったのはただ気で念話をジャミングしただけだ。お前等念話するときに電波のように魔力を飛ばしてるっぽかったからちょいとな)
(そんなことが……)
(簡単に言えばジャミングだ。そんなことよりもそっちはどうなっている?)
会話を引きのばさず、要点だけを聞くとあちらも応じてきた。
(今、主たちがこの防衛プログラムにアルカンシェルを撃ち込もうとしている。守護騎士たちも戻ったから可能にはなったんだが……)
(なんだ?)
(……お前たちがいるからできないと……)
その答えを聞いて少し頭を悩ませた。
(あのお人好し共め……そのアルカンシェルってのはどれくらいの威力だ?)
(数キロに渡って空間歪曲を引き起こしながら全てを破壊する……謂わば核爆弾だ)
(地球は壊れるのか?)
(え?)
(それで地球は壊れるのかと聞いたのだ。もしくは形が変わるとか……)
(い、いや、そんな威力は流石に……)
まさかのスケールの違いに戸惑いながらも正直に話す。
どんな技術も、現段階では地球を一瞬で破壊するものはおろか形が変わるほどではない。
それを聞いたカリフはシレっと返した。
(なら問題ない、やってみろ)
(え、でもそれではお前たちが……)
(惑星爆発より威力が低いなら安全だ。それよりもオレはもう少しここでやることがあるからさっさとやれ、と言っておけ)
(そんなことできるわけないだろう!)
(じゃあ適当に誤魔化しておいて。んじゃ)
(お、おい!)
これ以上はめんどくさそうだから念話ジャックを一方的に打ち切る。
そして、その場には二人だけが残った。
「何……を……?」
「オレも少しこれには興味を持った……それだけだ」
そう言いながらも語るカリフの顔をクライドには見えていなかった。
その口端を吊り上げて笑う
この緊迫した状況には似つかわしくない無邪気な笑顔など……
◆
そして、外の世界
なのはたちに加え、純白のバリアジャケットを着たはやて、守護騎士たち、クロノやユーノとアルフも揃っていた。
視線の先には暴走し、まるで巨大な昆虫のような体に人間の女性が寄生したような化物と化した防衛プログラムが海の上にいた。
現地組は全て揃い、全てに決着を付けようとしていた。
「あの、リインフォースさん! カリフくんは!?」
「これ以上はもう時間の限界だ。それによってまたプランを立て直さなければならない」
リインフォ-スはなのはとクロノに追究されたのだが、咄嗟に嘘を言ってしまった。
「問題ない。どうやら真っ先にバグとして弾き出されていたようだった。ただ、どこか遠くに飛ばされたんだと思われる」
その答えに全員が安堵の息を吐いた。ただ、この時リインフォースはクライドのことは話していないため、なのはたちもこれが最善だと思っているらしい。
情が移れば到底この作戦は瓦解してしまうのだから。
「そんなら遠慮なく行けるってことやね?」
「あいつは後から来るだろう。なら、ここは……」
「あぁ、さっさとやっちまおうぜ」
「主には指一本触れさせん!」
「補佐は任せて」
守護騎士たちもやる気に身を震わせる。
自分たちに望まぬ運命を強いた事象に決着を付けるため……
「行くぞ、デュランダル」
クロノも新たなデバイスを展開させる。
それは自分の“こんなはずじゃなかった人生”に決着を付けるため……
皆が海の真ん中で暴れる醜悪な姿の防衛プログラムに向き合い……
これからの地球の命運を胸に抱く。
遂に
決着の時が来たのだった。
「チェーンバインド!」
「ストラグルバインド!」
ユーノとアルフがバインドを繰り出して防衛プログラムを拘束する。
「縛れ! 鋼の軛! でえぇいや!!」
ザフィーラも続いて、海上の触手を鞭状の拘束魔法になぎ倒されてゆく。
これまでに決めてきたプランはこうだ。
まず、相手の動きを拘束し、物理と魔力の複合四層式を破る!
魔力はなのはたち、物理は騎士たちとそれぞれ特化した攻撃法で打ち破る。
そして、そこへ一番の大玉をブチこんでコアを露出させる。
破壊するには戦力は圧倒的に足りてないのだが、露出させることくらいはできる。
そこからはサポート班の出番だということだ。
そして、今はアタックの時間だった。
「ちゃんと合わせろよ! 高町なのは!」
「ヴィータちゃんもね!」
互いに激励しながら戦意と共に魔力も高める。
「鉄槌の騎士ヴィータと黒鉄の伯爵グラーフアイゼン!」
『ギガントフォーム』
魔道師とデバイスは互いを信じ、カートリッジをロードする。
共に、グラーフアイゼンはヴィータの身の丈を大きく超える巨大なハンマーと化した。
「轟天・爆砕!」
ヴィータもサイズの差もものともせずに振り上げ、振り下ろした。
「ギガントシュラーク!!」
ヴィータの一撃が物理結界の一層をガラスのように破壊した。
そこへ続くのが、魔砲撃担当のなのはである。
「高町なのはとレイジングハートエクセリオン、行きます!」
ヴィータに続くように、カートリッジをロードする。
防衛プログラムも触手を飛ばして反撃しようとするも、なのはは不敵に笑った。
「こっちは今まですっごく厳しくて頼りがいのある先生と優しい先生に鍛えてもらったんだ! ここは一点集中で撃ち抜く!」
なのはは構わずに魔力を溜め、数秒足らずで桃色の閃光を放つ。
「ブレイクシューート!」
なのはの最大砲撃は見事に触手はもちろん、魔力バリアさえも破壊してしまった。
「次、シグナムとテスタロッサちゃん!」
シャマルの合図と共にシグナムとフェイトが動く。
「剣の騎士、シグナムが魂……炎の魔剣レヴァンテインの刃と連結刃に継ぐもう一つの姿を見せてやろう」
剣と鞘を合わせ、かつてカリフに放った最強の武器へと変貌する。
新たに弓となり、魔力の弦と矢が形成され、鋭く放たれた。
「翔けよ隼!」
矢に思いの丈と全魔力を注ぎこんだのは最強の一撃と隼のような疾風だった。
矢の爆発でまたバリアは破れ、残るは一層だけ
「フェイト・テスタロッサ、バルディッシュザンバー行きます!!」
カートリッジのロードを完成させ、バルディッシュの形成する巨大な剣を振り回す。
「ハァッ!」
身体ごと回転させて放った剣の衝撃波で触手もろともバリアへぶつける。
「撃ち抜け、雷神!!」
魔力をさらに高め、大剣を天に掲げて雷を纏わせる。
雷を味方に付けたフェイトの巨大な刃が防衛プログラムを寸断させた。
斬りおとされた残骸は海へと落ち、それに対して触手で反撃を計ってくる。
そこへザフィーラが盾としての誇りで以てこれを制す。
「盾の守護獣ザフィーラ! 砲撃なぞ撃たせん!」
触手を一本も残らずに魔力刃で突き刺して標本のように縫いつける。
だが、ここで防衛プログラムは口の中で魔力を溜め、砲撃の用意をしていた。
「くっ! まだこんな体力が……!」
クロノは舌打ちしながら続けると、背後から魔力弾が追い越した。
そのまま防衛プログラムの口の中へと紫の雷が入ったとき、口の中で爆発を起こした。
「グギャアアァァァァァァァ!」
苦しそうな声を上げながら周りの触手を振り回す。
口部分から破損し、爆煙を上げている。
「言ったでしょ? 大人は子供を守るものだって」
「母さん……」
「……」
プレシアのウィンクにフェイトは笑顔で応じ、アルフも複雑そうに頭を掻くだけだった。
クロノはそんなプレシアに一礼し、新たなデバイスを展開する。
「そろそろだな。はやて!」
「分かった!」
クロノに返し、はやては上空へと飛び立つ。
(魔力コントロールは私がやります。ご安心を)
「うん! 彼方より来たれ、やどりぎの枝。銀月の槍となりて、撃ち貫け。石化の槍、ミストルティン!」
ユニゾンしている頼もしき家族の協力ではやては虚空から石の槍を形成、すぐに防衛プログラムへ突き刺す。
突き刺された部分から石化は進み、崩れるもすぐに再生が始まる。
未だに再生機能は健在のようだが、クロノのシナリオ通りだった。
充分にダメージも通したし、新たなデバイスへの魔力供給も終わった。
これで準備は整った。
「行くぞ、デュランダル」
『イェッサー』
カードから取り出された新たな相棒は返事を返し、魔力を解き放った。
「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ、凍てつけ!」
『エターナルコフィン』
デュランダルは海を凍らせ、次第に防衛プログラムさえも凍らせる。
そして、見える範囲を銀世界に変えてしまった。
あまりに強力な魔法だが、それでも防衛プログラムを止めるに至らず必死にもがいている。
そして、これも計算の内だった。
なのは、フェイト、はやては既に空中でスタンバイしていた。
「いくよ! フェイトちゃん! はやてちゃん!」
三人は互いに頷き合い、防衛プログラムを見据える。
三人は各々魔力を溜める。
「全力全開……スターライト……」
全てを包みこむ星の光が……
「雷光一閃……プラズマザンバー……」
迸る雷を纏いし大剣が……
「ごめんな……おやすみな……」
長い間、一緒に育ってきたのは防衛プログラムも同じこと。
それでも大切なものを護るため、はやては決心する。
「響け終焉の笛……ラグナロク……」
全てを無に帰す笛の音が……
「「「ブレイカーーーーーーーーッ!」」」
凄まじい三つの閃光となって防衛プログラムを包みこみ……
大規模の余波を巻き起こしながら
周りの世界を光に染め上げたのだった……
全ての一斉攻撃が治まると、すぐにシャマルが動いた。
クラールヴィントで防衛プログラムのコアを探索する。
そして……
「捕まえ……た!」
その手に握りこんで確保に成功!
「長距離転送!」
「目標、軌道上!」
シャマル、ユーノ、アルフは防衛プログラムを結界で捉える。
「「「転送!!」」」
三人はすぐに結界ごと上空へと飛ばしたのだった。
上空とは言っても生半可な距離じゃない。
上へ上へ……
高く高く……
やがて、コアは大気圏を抜けたのだった。
ここまで来れば作戦はあと一段階残っている。
そして、舞台は宇宙へ……
◆
「目標! 転送されながら生体部品を修復中! 凄まじい速度です!」
リンディは固唾を飲んでタイミングを測る。
作戦の内容はつまり、被害のない宇宙の軌道上で防衛プログラムのコアを消滅させる空前絶後の大博打そのものだった。
だが、それが最も効果的であり、可能だという所は流石としか言いようが無い。
「アルカンシェル、バレル展開!」
エイミィがこの作戦の要を用意する。
広範囲に及んで空間歪曲を引き起こす禁断の兵器
アルカンシェル砲
アースラに備え付けられたエネルギー部の先端には特大の魔法陣
「ファイヤリングロックシステム、オープン」
既に用意はできている。
目の前に出てきたスイッチと起動するためのカギ
「……」
リンディは過去での闇の書との因縁が頭に浮かんだ。
大切な物を失った事件がこれで決着を迎える。
一瞬の瞑想を終え、しっかりとコアを見据え、カギをスイッチに付けた。
「アルカンシェル……」
魔法陣から繰り出される莫大なエネルギー波は一筋の光となって……
「発射!」
宇宙に光と轟音を届けたのだった。
◆
外からのアルカンシェルの砲撃が決まった。
それを確信させるかのようなエネルギーの波がコア内部へと流れ込んでくる。
まるで嵐のように吹き荒れる舞台でカリフは球体に掴まりながら嵐の発生源を見据える。
「これがアルカンシェルとやらか……オレの方がまだいける」
何故か対抗するかのような口調でこれからどう帰るかを悩んでいた。
「なあ、ここから宇宙へはどうやって行くんだ?」
「……」
「……どうやって行くんだ?」
「……」
何も返してこないクライドに苛立ちを覚えていた時だった。
相変わらずの口調でありながら、切迫した声がカリフの耳に届いた。
「なんてことだ……そ……んな」
「?」
それが気になってクライドの場所を覗き込むと、そこで酷く狼狽した様子のクライドを見た。
「これが……こいつの……」
「なんだ? なんかあったか?」
気になって聞いてみると、クライドは未だに信じられないと言った様子で告げた。
「中途半端……に一体化してい…るから分かるんだ……こいつは……今まで待っていたんだ……」
「何を?」
それだけ聞くと、答えも至極単純だった。
「こいつの“食料”……莫だ……いな魔力が……流れ込む……この時……を」
「なっ!! てことは……!」
カリフもこれには驚いて球体を見ると、既に変異が始まっていた。
球体は異様に肥大化し、色も点滅するように変わっていく。
それどころか、肉が溢れ、カリフやクライドさえも呑みこんでしまう。
「ぐっ! これは……!」
「まさか……我々を取り……込もうと……」
「この……気色悪いぃ!」
カリフは自分の手をナイフに変えて切り離そうと振り下ろす。
だが、その手もただ溢れ出る肉の中に吸いつかれるだけだった。
「切れねえ!? こりゃあただの肉じゃねえな!」
「もう遅い……こいつに取りこま……れ……」
「ドチクショウ!!」
カリフの抵抗も空しく、二人は一緒に肉の塊の無影と消えてしまった。
そして、その肉はまるで生き物のように止まり、やがては集まっていく。
形は変貌し、手、足、口、目、体さえも形成される。
そして遂に肉の変異は終わり……
「ジャネンバー!」
外の世界へ……
真なる深淵の闇が解き放たれたのだ。
◆
同時刻、アースラ内は混乱の極みだった。
「コアの位置に魔力検出! 次第に肥大化している模様!」
「そんな……アルカンシェルは間違いなく……」
エイミィが信じられない様子でコンソールの手を止める。
これがただの残留魔力だけで終わってほしい。
時間が経てば消えるような魔力であってほしい……
突如検出された謎の増大する魔力にアースラ内は混乱に陥りかけている。
「アレックス! 魔力の状態は!?」
「未だ増大中! ……なんだよこれ……残留魔力でもこんな魔力量は異常だろ……」
「艦長! 魔力パターン解析完了しました! この魔力はアルカンシェル、そして未知なる魔力との複合魔力です!」
「過去のデータから算出できる!?」」
「できません! 何度もやっているのですがこんなパターンは初めてです!」
次々に起こる異常事態はさらに加速する。
「魔力量未だに増大しています!」
「外のモニター映像映して! エイミィはクロノに連絡を!」
「はい!」
リンディは動揺を決して見せずになんとかすべきことを頭に思い描き、再びアルカンシェルのスイッチにカギをかける。
予備動作だけで済ませるとようやくモニターが出る。
「モニター映します!」
言い終わるのと同時にモニターに映されたのは信じ難い光景だった。
「!!」
「な、なんだあれは!」
「なに……あれ」
アースラの局員どころかエイミィ、リンディでさえも動揺を隠しきれなかった。
モニターに映っていたのは巨大な体
つぶらな瞳とは裏腹に途轍もなく大きな体を有している“生物”が宇宙空間の中を飛んでいた。
『ジャネ、ジャネ、ジャネンバー』
アースラの中に間延びした声が響く。
それこそがこれから起こる最大の事件の幕開けとも知らずに……
かつて、カリフの世界の地獄と地上に混沌を招いた
数多の怨念に生み出されし者
闇の書への憎悪が生んだ災厄の怪物
地獄より生まれし邪念の鬼
名を
「ジャネンバジャネンバジャネンバーー!」
邪念の王
ジャネンバ
この地に混沌が降りかかる。
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真の闇、降臨