薄暗い部屋に見えるのは、たった2つの人影だけだった。
見渡せば、黒焦げの人型が2体と焦げ損ねの人型が1体。合わせて3体の敵が絶命して倒れている。そして、生きてはいるが立つことのできない咲夜と、血を流して倒れている魔理沙と、斬られた魔理沙を見て卒倒したパチュリー。合わせて3人の仲間が倒されている。
戦況を把握しているからこそ、レミリアは焦っていた。咲夜は戦力外だが放置してもいい。追撃されれば危ないが、幸いにもここは扉で仕切られた空間だ。この目の前にいる敵だけが咲夜を害するものだから、こいつさえ蹴散らせば咲夜の安全は確保できる。次に、パチュリーは気絶しているだけなので起せば事足りる。同じくこいつさえ向かわせなければ安全は確保できる。
だが、魔理沙だけは違う。一刻も早く永遠亭に連れていかねばならない。この強敵2体を相手取っていたので直に見てはいないが、レミリアや咲夜が食らったものと同様の攻撃を受けたとするならば命の危険すらある。咲夜でさえ立ち上がれないほどの傷を受けたのだから、より耐久力の低い魔理沙が受けたならそれ以上の傷を受けたと見ていいだろう。仮に複数回の攻撃を受けたとするならば、回復が困難なほどの傷を受けている可能性すらある。
早く倒さねばと思えば思うほど、敵への攻撃は当たり辛くなっていく。レミリア自身も連戦疲れの上にこの敵の攻撃を受けているのだから、普通の攻撃であと二撃、切れのいい攻撃なら一撃でこの探索は終わりを迎えることになるだろう。
「でもねえ、ここで殺れないような器じゃあ、500年も生きらんないのよっ!」
火炎での攻撃は確実に効いていると判断したレミリアは、不慣れな剣を投げ捨てると自らの右手を振りかぶって特攻した。吸血鬼ならではの鋭利な爪は、攻撃力こそ剣には劣るが当てやすさでは遥かに上回る。大声と共に発された気合に当てられたのか、番人は振りかぶった右手に合わせて盾を構えて防御することを選択して、一呼吸だけ遅れて動かし始めていた左手の爪によって腹を切り裂かれた。さらに腹をかばったところを、固く握りこんだ右手で顔を殴られて一メートルほど吹き飛んだ。
「ふんっ。この程度、潜り抜けちゃう運命なんだから」
レミリアは動かなくなった番人の状態を数秒だけ確認すると、投げ捨てていた剣を拾って、無表情のままその首を落とす。咲夜が健在なら、血に塗れた剣の手入れを申し出る場面だろう。パチュリーが健在なら、吸血鬼に対して死んだ振りをするという馬鹿な敵を笑い飛ばしている場面だろう。魔理沙が健在なら、疲れたと喚きながら早く帰ることを強く求めてくる場面だろう。だが、皆はそこに倒れたままで、静かなままで、部屋には最も小柄なレミリアよりも高いものは一つとしてなかった。
「あぁもう、忌々しい!!」
腹立ち紛れにポツンと置かれていた宝箱を蹴飛ばすと、罠として仕掛けられていた石ころが頭に直撃した。血が噴き出す頭をくしゃくしゃに掻き混ぜながら、レミリアは「なんなのよ、これ……」と呟いた。
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地下一階:無茶の結果と1人立つ少女