No.488636 俺妹 彼女を水着に着替えさせたら 麻奈実編2012-09-26 00:28:26 投稿 / 全5ページ 総閲覧数:3029 閲覧ユーザー数:2941 |
彼女を水着に着替えさせたら 麻奈実編
『おめでとうございます。3等の全天候型レジャープール招待券ペアチケットが大当たりです』
『はあ……ありがとうございます』
何の気もなしに商店街で福引をしたら何とも厄介な商品を引き当ててしまった。
プールのペアチケット。
プールという存在は受験生にとってはあまり嬉しいものではない。時間は食うし、全身運動の疲れで勉強計画が長期に渡って狂ってしまう可能性がある。
しかもペアってことは誰かと一緒に行かないといけない。
1人で行くと惨めな奴になるし、誰か誘うのはおっくうだ。受験生の夏休みは誰かを誘ってどこかに出掛けるには不向きなように作られている。
「俺に彼女でもいれば一緒に行くように誘えるのだが……そんな存在はいないしなあ」
残念ながら俺には一緒に出掛けてくれるような超親密な女の子が存在しない。
少し悲しいが、赤城の奴でも誘って都合がつく時に出掛けるとするか……。
「うん? あれは……」
とその時、俺の目の前によく見知った少女の姿を発見した。
あの子に声を掛ければ男と2人でプールという悲しい事態に陥らずに済むんじゃないか。
希望の光が突如俺へと差し込んで来たのだった。
「お~い。麻奈実~」
正面から歩いて近付いて来るのは麻奈実だった。
一番誘い易い相手が近付いて来るのは俺にとって非常にラッキーだった。
大学受験生の忙しい夏の日々に遊びに誘うのは気が引ける部分もある。けれど麻奈実なら互いの日程を一番調整し易い仲であることも確かだった。麻奈実は基本的に自宅で勉強して予備校の類は最小限度しか通っていないのだから。
「きょうちゃ~ん」
麻奈実が楽しそうに手を振り返してきた。
この暑いのに何がそんなに嬉しいんだか。でも、上機嫌なのは結構だった。おかげで誘い易い雰囲気になっている。
「なあ、麻奈実」
「うん。い~よ~」
まだ用件を切り出していないのにオーケーされてしまった。
「いや、明日か明後日にでもプールに行こうと思っていたんだが」
むしろ俺が首を捻りながら尋ねる。いいのか、内容を聞かんで?
「うん。だからい~よ~」
麻奈実は笑顔全開だ。
「いや、でも、普通だったら女ってプールに行くのに準備がどうとか始まるんじゃ?」
桐乃やあやせだったら俺が突然プールに行こうと言ったら非難轟々に違いない。
『いいっ! 女には水着になるのに色々準備ってものがあるのよっ! そこんとこ分かってるの? ほんとっ、複雑繊細な女心が微塵も分かっていないバカ京介なんだからっ!』
『お兄さんは計画性がなさ過ぎですっ! 仮りにも女性をプールに誘うのですから、綿密なエスコート計画を持って頂かないとわたしが困るじゃないですかっ!』
きっとこんな感じで。
麻奈実は準備とやらは気にしないのだろうか?
「若いやんぐうーめんなら準備に気を使うのかも知れないけれど……わたしはスタイルとか水着とかそこまで気にする年齢じゃないし」
「麻奈実もまだ18歳だろうがっ!」
麻奈実の達観したおばあちゃん物言いに異議を唱える。大体麻奈実説に従ったのでは俺までおじいちゃんになってしまう。俺は馬鹿受けなナウなヤングだってのっ!
「それにそろそろ~きょうちゃんのお父さんが裸力を公衆の面前で晒さないといけない季節だなあ~って思っていた所なんだよ~」
「そういや、もうそろそろそんな季節だったな」
麻奈実の言葉にオヤジ、高坂大介にまつわる悲劇というか俺たち家族にとっての悲劇を思い出す。
オヤジは毎年この季節になるとプールか海に行きたがる。泳ぎに行くのではない。己の裸(ら)を一般ピープル達に晒す為だ。
『俺は1年に1度裸力(らりょく)を公衆の面前で開放しなければ、裸力が抑えきれなくなり裸王として完全に覚醒してしまう。裸王として覚醒した俺は服を着られなくなり、当然警察の制服も着られなくなる』
裸王として覚醒されると即ち仕事をクビになることを示している。だからオヤジの裸に付き合わされるのが俺や桐乃の毎年の不幸だった。ちなみにお袋は毎年この季節になるとオヤジの裸力開放が済むまで姿を消してしまう。1人逃げてずるい。
「みんなでプールに行けば~おじさんの裸力開放もあっという間に済むよ~♪」
「それはつまり、俺にオヤジの裸力開放に付き合えと?」
1年間で最も避けたい行事に俺を巻き込ませると?
「だけど桐乃ちゃんがプールのことを知ったら~絶対おじさんも連れて来ると思うよ~」
「そ、そうだった……」
桐乃が自分1人だけ不幸を甘受する訳がない。
アイツは俺と麻奈実のプールイベントにオヤジとの不幸行事をぶつけて来るに違いなかった。
「きょうちゃんが悲しい気分にならないようにわたしも桐乃ちゃんもすく~る水着で気分を盛り上げるから~。男の人って、すく~る水着が好きなんでしょう?」
麻奈実は得意顔で述べた。だがその意見に俺は同意できない。
「それは偏った見解だ。俺のようなアキバ系ではないナウなヤングは別にスクール水着だけが好きな訳じゃない。際どいビキニも大好きだ」
まったく。男はみんなスク水好きだなんて狭量過ぎる見解だ。
「はぇ~。際どいびきにだなんて、きょうちゃんはまだ若者の感覚を持っているんだね~」
目を丸くして驚きの声をあげる麻奈実。
「俺の青春はまだ終わっちゃいないのさ」
ちなみに俺たちは2人ともピッチピチの18歳だぜっ!!
こうして俺は麻奈実+αとプールに行くことになった。
麻奈実に話を振って2日後。
俺と麻奈実+αはチケットが当たったプール施設へとやって来ていた。
「筋肉がっ! 筋肉が火照るぞ、桐乃っ!! プールの客達の視線が俺の筋肉を火照らせるっ!」
「……お洒落で可愛いアタシが囚人服なんて嘘なのよ……今日こそは京介を悩殺して……するつもりだったのに……」
「ほぉおおおおおおおぉっ! 裸力を最大限に開放だぁあああああぁっ!」
「もう……死にたい……」
オヤジと桐乃はこんな感じなので早々に別れた。他人のフリをするに限る。
あれ以上一緒に付き合っていると俺のガラスのハートが砕けてしまう。
それに俺は麻奈実と一緒に来たのであって、オヤジと一緒に来た訳じゃない。よって行動を共にする必要性はまるでない。
「うん。俺は間違っていない」
自分にそう言い聞かせる。
「じゃあ麻奈実、一緒に泳ぎに行くかっ」
殊更明るく述べる。妹の尊い犠牲は忘れない。桐乃はオヤジの凶行を食い止めた英雄として俺の心の中で今も鮮明に生き続けている。
「きょうちゃ~ん。わたしね~行きたい所があるんだよ~」
「どこに行きたい? 流れるプールか? ウォータースライダーか?」
定番のスポットをあげてみる。だが、麻奈実の回答は違った。
麻奈実は奥まった一角を指差した。
そこにはプールの雰囲気とはあまりマッチしないおじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんが集まった地帯があった。
「温泉ぷ~るなんだよ~。水温40度で身も心もぽっかぽかに温まるんだよ~」
「それもうプールじゃなくてただのお風呂だよな?」
「温泉水を引いてるから本物の温泉なんだよ~」
麻奈実はとっても嬉しそうだ。俺のツッコミなんかものともしない。
「まっ、プールの楽しみ方は人それぞれだもんな」
ツッコミに人生を賭けるのを止めて麻奈実に同意する。
俺もそんなに熱心に泳ぎたい訳じゃない。加えて中央部に近い所にいるとあの裸王を視界に入れなければならないので苦痛。裸王が視界に入らない所に移動しよう。
俺と麻奈実はプール施設の敷地の隅へと移動する。温泉プールがある一角だ。
ここには麻奈実とよく似た年齢の爺さん婆さん、もとい、精神年齢が似た高齢者達がノンビリと緑色掛かった湯にまったりと浸かっている。
近くで見れば見るほどに思う。これはプールじゃない。温泉だと。
「きょうちゃ~ん。一緒に入ろう~」
麻奈実は楽しそうに手を振りながら俺を手招きする。
「ああ、今行くぜ」
麻奈実へと近付いていく。
ちなみに今の麻奈実は地味な紫色のワンピースタイプの水着。真ん中に赤いラインが斜めに入っている所が却ってババ臭さを表現している。
18歳なのだからもっと若さを表現してくれる水着で良いと思う。だが、コイツにそれを求めるのは酷というものだろう。麻奈実はそんなキャラじゃない。
麻奈実は楽しそうに鼻歌を交えながらそのままプール、というか浴槽の中に入った。
「うん? 麻奈実、お前はメガネを掛けたままお湯に浸かるのか?」
幾らド近眼でもメガネが曇って何も見えなくなるのでは?
「きょうちゃん……」
麻奈実は瞳を潤ませて俺を見た。
「メガネは掛けたまま、だよ♪」
麻奈実はパッと花開かせて笑顔を見せた。
「さすがは麻奈実。一番大事なことがよく分かっているな」
JCの小娘である桐乃やあやせには分からない人類の真理の根源に達している。この3歳の差は大きい。さすがはJKだ。
まあ、そんなことはともかく俺もプールの中へと入る。
「いい湯、だな」
水の中に入ると……まるっきりの風呂気分だった。
プールの水とは違う温かさ。というか、昨夜入った風呂の湯の温度と同じ。体の疲れが取れていく感じだ。
「極楽だね~きょうちゃ~ん」
麻奈実もお湯の中で蕩け切っている。
「それはプールに来て言う台詞じゃないぞ~」
返す俺も蕩け切っている。
命の洗濯をしているって気分。
受験のストレスが解け切っていく感じだ。
これが一緒に来た相手があやせや黒猫だったらこうはいかないだろう。
アイツらと来ればもっとドキドキ甘酸っぱい青春を味わえるのだろう。けれど、一緒にいて癒されるということはないだろう。
麻奈実と一緒にいるというのはとにかく落ち着くことを意味する。それが最大の利点だ。
「このまま何も起きないでのんびりお湯に浸かったまま終わりなんて展開になれば良いんだがなあ」
二次創作としては極めて良くないドラマなしの展開を望みながら目を瞑る。
だが勿論、何の事件も起きないまま物語が終了するなんて展開が訪れる筈がなかった。
「「きゃぁああああああああああああああぁっ!!!」」
数十メートル離れた敷地内の一角から少女達の悲鳴が聞こえて来た。
ここからだと観葉植物やオブジェが邪魔で現場を直接確認することは出来ない。
「きょうちゃんっ!」
隣では麻奈実が曇ったメガネを激しく光らせている。
「危険なことが起きているかも知れないんだ。麻奈実は来るんじゃないっ!」
現場に行きたがっている麻奈実を制する。
暴漢がナイフを振り回している事態だって考えられる。俺1人なら脱衣(トランザム)で対抗することも出来る。だが、麻奈実が人質にでも取られるようなことがあれば……。
「でも、女の人の手が必要な場合もあるかも知れないんだよ。ここはぷ~るなんだし」
「それは、確かに……」
もし仮に悲鳴が水着が流された系のドッキドキトラブルだった場合、俺が行って麻奈実が来ないのは非常にまずい。
「じゃあ妥協案だ。麻奈実は現場の状況を確かめるまでは俺の5m以上後ろにいてくれ。俺の指示があったらすぐに非難すること。いいな?」
「うん」
力強く頷く麻奈実。
こうして俺たちは悲鳴の真相を究明すべく現場へと駆け寄っていった。
悲鳴を挙げていたのは2人の少女だった。しかもよく知った2人だった。
「黒猫、沙織っ!!」
慌てて2人の元へと駆け寄る。
悲鳴を挙げたのが友達とあって一気に緊張感が増す。
「一体、何があった!?」
声を張り上げながら駆ける。
「はっ、裸の男の人がっ!」
紺色のワンピース水着姿の黒猫は息を詰まらせて声が止まってしまっている。こんな状況でなければじっくり拝みたい所だが今は状況把握が先だ。
「は、裸の中年男性が仰向けで倒れているでござるよ」
赤い大胆ビキニ姿の沙織は体を震わしながらグルグルメガネのまま右を向いた。こんな状況でなければ胸に顔を埋めたい所だが現在は状況把握が先だ。
「裸の中年男性?」
その言葉に嫌な予感を覚えながら俺も横を向く。
「オヤジっ!?」
そこに倒れていたのは全裸のオヤジだった。葉っぱ一枚纏っていない。
オヤジは仰向けに大の字になって倒れていた。頭に大きなコブを作り何か白いカスを体のあちこちに貼り付けながら。全てを公然と曝け出しながら。股間を堂々と誇らしげに晒しながら。満面のドヤ顔で目を瞑りながら。
「一体、何が起きたってんだ!?」
突然の事態にさすがに驚いてしまう。
一体、何故オヤジは倒れているんだ? 転んだのか? それとも誰かにやられたのか?
ていうか何故全裸なんだ? ふんどしはどこに消えた?
「俺は死体だ。死体に話し掛けても無駄だ」
オヤジはすまし顔で目を閉じたままそう述べた。…………おいっ!
「ほぇええええぇっ!? きょうちゃん、大変だよ~っ! おじさん死んじゃったんだってぇ~~っ!!」
俺の隣にいつの間にかやって来ていた麻奈実がオヤジの呟きに驚きの声を挙げる。
「あのなあっ! 麻奈実みたいな単純な騙され易い奴は簡単に信じちゃうから迷惑なんだよ! さっさと起きろっての!」
このオヤジは下半身を剥き出しに晒したまま何をバカやってんのか。いや、わざと剥き出しにしていたいのだろうが。
「俺は死体だと言っているだろう。死体が自ら動くものか」
「そうだよ、きょうちゃん。死体さんが自ら動いたらそれはぞんびさんになっちゃってそれはもっと怖い怖いなんだよ~」
麻奈実は俺に向かって分かってないなあと首を横に振った。分かってないのは俺の方なのか?
「まったく、麻奈実くんに比べてうちの京介は理解力に乏しくて困る。馬鹿だな」
「きょうちゃんも頑張ればきっと受験に受かるからもっと頑張ろうね」
死体は喋らないというのにその死体に説教されている俺。遠回しに受験に落ちそうだと“死体”との会話に疑問を抱かない女に説教される俺。何だこの状況は?
「じゃあせめて、その汚いものを世間に晒さないようにするぞ」
持って来たタオルでオヤジの剥き出しの股間を隠そうとする。主に高坂家の長男である俺の世間体を守る為に。だが──
「殺人事件の現場を勝手に素人が弄るんじゃない」
オヤジは俺の行為を声で制した。
「殺人事件じゃねえだろっ! オヤジどう見ても生きているじゃねえか!」
「殺人現場の扱い方も知らない小僧が偉そうなことを抜かすな」
オヤジは鼻から強く息を吐き出した。そんなオヤジの様子を見てピンと来た。
「オヤジ……もしかして、下半身を露出したままでいたくて死体を名乗っているんじゃないのか?」
オヤジの死体がビクッと震えた。
「京介よ……貴様が生前警察官であったこの俺の息子と見込んで頼みがある」
「今明らかに誤魔化そうとしているよな?」
オヤジはちょっと黙った。
「…………俺を殺した犯人を特定してくれ。さすればこの魂は安らかに成仏するだろう」
「オヤジは死んでないし、犯人をオヤジは見ているんだよなあ?」
「…………犯人捜査は任せたぞ、我が息子よ」
それを最後にオヤジは黙ってしまった。下半身を露出したまま隠そうともせずに。
「きょうちゃん。大変だよ。おじさんを殺した犯人を推理しないと!」
「いや、どう見ても死んでないだろ……」
オヤジは自分の裸を何とかして周囲の視界に入れたくて死んだフリをしているだけだ。探偵ごっこなんてしていたら、オヤジの術中に嵌ってしまう。
「まさか未来の嫁としてお義父様に正式にご挨拶する前にこんな事件が起きてしまうなんてぇ……」
黒猫は激しく動揺している。
まあコイツは現実と妄想をごっちゃにする癖があるからこの手の馬鹿話に乗り易いのは確かだ。諦めよう。ていうか未来の嫁とは一体どういうことなのだろうか?
「まさか槙島グループが経営するプールで殺人事件が起きるとは。金と権力を用いて全力で揉み消さねばならないでござる」
沙織は沙織で体を震わせながら話を真に受けている。とても物騒で黒いことを呟きながら。コイツもあるある仮定が好きなオタクだから仕方ない。
麻奈実、黒猫、沙織。俺の知り合いの中でもそういうのが好きな奴が集まってしまっては事態が収集できないのも仕方がなかった。
「おじさんは誰に殺されたのかな? どうして殺されたのかな? どうやって殺されたのかな?」
麻奈実がメガネを光らせながら尋ねて来る。今の麻奈実はもう好奇心の塊だった。
「きょうちゃん。わたし…………プールでも、気になるんだよっ!!」
麻奈実の好奇心がオーラとなって全身から吹き荒れる。
「それは別の物語の設定だろうが……」
小さく否定してみせるがそんなことに意味はなかった。
「分かったよ。俺がオヤジを殺した犯人を探し出してやるよ」
キラキラ状態の麻奈実に俺が言えることはこれしかなかった。
省エネ主義の俺だが麻奈美の好奇心には弱い。
こうして俺は起きてもいない殺人事件の捜査に当たることになった。
やらなければならないことは手短に、だ。
事件解決を宣言してから10分後。
俺の目の前には事件の関係者と思しき人物たちが勢揃いしていた。
探偵である俺と麻奈実の他には、黒猫、沙織、桐乃、あやせ、サングラスとマスクで素顔を隠している謎の女性。
「って、最後の人物が明らかに怪し過ぎるだろうがっ!」
プールの施設内なのに上下小豆色のジャージ。顔は隠れておりその右手には金属バットを持っている。
しかもこの人、髪型や体格から判断してどう見ても……
「アンタお袋だろっ!?」
俺の実の母親高坂佳乃に間違いなかった。
「しかもその手に持っているバット。どう見ても犯人はお袋だろうがっ!!」
推理するとかしないとかの以前の問題だった。
お袋はオヤジの裸力開放を激しく疎んでいた。動機は十分。そして実行する為の武器まで持っている。更に顔を隠して犯行がバレないように変装までしている。
これ以上の証拠は提示が必要だろうか?
「私はMs.KK。貴方の母親などではないわ。妙齢の女性を見ればすぐに母親だと認識するこのマザコンがっ!!」
何故かお袋に罵倒された。どうやら俺は両親に恵まれなかった不運を嘆くのが正解らしい。
「そうだよ、きょうちゃん。Ms.KKさんが犯人だっていう証拠はないんだし、きょうちゃんのおばさんだっていう証拠だってないんだよ~」
「まったく麻奈実ちゃんの言う通りよ。麻奈実ちゃんは小さい頃から物分りが良くてほんと良い子よねぇ」
「えへへへへ」
麻奈実はお袋側についてしまった。ていうか今の会話のおかしさに気付けっ!
まあ良い。どうせお袋の犯行であることはこの後すぐに判明するだろう。
となると、気になるのは……。
「あやせは何でこのプールに来ているんだ?」
俺も桐乃も呼んでいない筈のあやせがここに関係者としていることだった。
「ひっ、1人で偶々プールに遊びに来ただけです。お兄さんを追い掛けてプールに来ただなんて自惚れを抱かれては迷惑です。ふんっ!」
あやせにしては大胆なライトグリーンの三角ビキニに身を包みながら彼女はそっぽを向いた。
「いや、そんな自惚れは欠片も抱いちゃないが……お前、1人でプールに来たのか?」
もしかするとあやせも黒猫並に寂しい学校生活を送っているのだろうか?
「そっ、そんなことはどうでも良いじゃないですかっ! わたしは偶々プールに来て未来のお義父さまが倒れている所に出くわしてしまっただけなんですから!」
「あっそ……」
あやせは何だか知らないが何だかご機嫌斜めだ。ていうか、何故にオヤジが未来のお義父さまなのだろうか?
「フン。スイーツ2号の分際で大きな口を叩くわね」
何故か黒猫はあやせを睨みつけている。
「ほぇ~。きょうちゃんにぷ~るに誘われたのはわたしなんだよ~」
麻奈実はニコニコしながらあやせを見ている。
「はっはっは。あやせ殿はいまだ真の金持ちがどれほどの力を持っているのか知らないようでござるな」
沙織もまた物理的に上からの笑顔を見せた。
何なんだ、一体?
「で、誰が京介の本命なの? 私は同居オーケーでお料理と家事が得意な子がいいわ。楽したいから」
Ms.KKを名乗っているお袋が更に訳の分からないことを続けた。
「「「「フッ!」」」」
そのお袋の呟きに対してあやせ、黒猫、麻奈実、沙織はそれぞれ余裕の笑みを浮かべてみせた。
コイツらは一体何の会話をしているんだ!?
何故みんなそんな自信満々な表情で頷いてみせるんだ?
どうやらこの謎は数々の難事件を解決して来た俺にも解けそうになかった。
よって俺は解けるであろうオヤジを叩いた犯人を割り出すことにした。
「今回のオヤジを襲撃した事件の重要参考人は黒猫、沙織、あやせ、お袋じゃなくてMS.KK、そして桐乃の5人だな」
体育座りで三角形に蹲っている囚人服ルックの桐乃を見ながら告げる。
「じゃあ各自に事件に関して証言をしてもらうから正直に答えるようにしてくれ」
犯人はどう考えてもお袋だが、他の4人の証言からその裏を取らなくては。
「きょうちゃん。頑張ってね~」
麻奈実の間の抜けた応援に後押しされながら俺は捜査に乗り出したのだった。
証言者1 黒猫(人間名 五更瑠璃)
Q 何故プールに来たのか?
沙織に誘われたのよ。沙織の家が運営するプールのモニタリング調査を兼ねて遊びに来たという訳よ
Q 事件との関わり合いは?
裸の男性が倒れていてビックリして悲鳴をあげたら先輩と田村先輩が駆けつけて来たのよ。沙織と一緒に第一発見者ということになるかしらね
Q 犯人に心当たりは?
貴方の妹が怪しいわね。私が男性の裸体に驚いて悲鳴をあげた時に、その隣に桐乃は蹲っていたわ。そして大声を聞いて急いで駆け出して逃げていった。犯行現場から逃走を試みたんじゃないかしら?
Q 他に言いたいことは?
どうして先輩にプールに誘われたのが私ではないのかしら?
私は別に夫の実家に住むことも毎日食事の準備を全員分することも厭わないわよ。
証言者2 新垣あやせ(別名 マイ・ラブリーエンジェル)
Q 何故プールに来たのか?
泳ぎの練習がしたくて偶々1人で来ただけです。
別にお兄さんの部屋を24時間盗聴してお兄さんが今日お姉さんとプールに行くことを知って嫉妬に狂って追い掛けて来た訳じゃありませんからね。勘違いしないで下さい!
Q 事件との関わり合いは?
お義父さまが倒れているのを発見して人を呼びに行こうと慌てて駆け去りました。でも、途中で黒猫さん達の悲鳴が聞こえて再度駆け戻ったのですが……お兄さんとお姉さんがいるのを発見して気まずくなり出て行けませんでした。
その意味で黒猫さん達より早く死体を見てしまった人間になりますね。
Q 犯人に心当たりは?
この手の殺人事件は怨恨が原因なのがお約束ですからお兄さんが一番怪しいです。お義父さまの死体に難癖ばかりつけていましたし。今すぐパンツを脱いで凶器を隠し持っていないか証明すべきです。パンツは脱いだらわたしに下さい。
でも、そうでないなら黒猫さんが怪しいのではないでしょうか?
あの方はお兄さんが死体と会話を繰り広げている時に何かをこっそり隠そうとしていました。もしかするとあの悲鳴は偽装で、お義父さまに何かした後に改めてやって来て悲鳴をあげてただの発見者のフリをしているのかも知れません。
Q 他に言いたいことは?
お兄さんがわたしではない女性を誘ったことに強い憤りを覚えています。勿論、他の女性がお兄さんの毒牙に掛かるのを警戒してのことですからね。勘違いしないで下さい。
後わたしは家庭的な女ですから。嫁ぎ先の義理の父母に尽くすことも当然だと考えている古風な感性も持ち合わせています。よく覚えておいて下さい。
証言者3 沙織・バジーナ(人間名 槙島沙織)
Q 何故プールに来たのか?
ここは槙島グループが運営するプールゆえ定期的に訪れてお客さんの反応をチェックしているのでござるよ。今日は金のない庶民がプールに何を望んでいるのか具体的にチェックする為に黒猫氏にご同行願ったのでござる。
Q 事件との関わり合いは?
拙者が従業員の方々に挨拶をして回り黒猫氏と再度合流を果たした直後に京介殿のお父上が裸で倒れているのを発見したのでござる。その意味で拙者は黒猫氏と共に第一発見者でござるな。
Q 犯人に心当たりは?
拙者が見るにMs.KK氏が怪しいでござる。何故なら彼女はプールにも関わらず上下ジャージ姿。ジャージ部魂を持っていないのにおかしいでござる。そして槙島グループが運営するプールで水泳を楽しまないなどあってはならないでござる。よって最初からお義父さまを暗殺する目的でここに来たのではないかと思うのでござる
Q 他に言いたいことは?
どんな事件もトラブルも槙島グループの金と権力の力で揉み消してやるでござる。よって京介殿は何の心配も要らないでござるよ。
拙者はさほど家事や料理は得意ではござらんが、拙者が雇う料理人やハウスキーパーはプロ中のプロでござる。故にご両親のお世話は任せるでござるよ。
証言者4 Ms.KK(本名 高坂佳乃)
Q 何故プールに来たのか?
散歩の途中で偶然迷い込んだだけよ。
本当はこんな所に来たくはなかったのだけど。
Q 事件との関わり合いは?
気が付くとあの変態が目の前で倒れていたから立ち去っただけよ
汚物を野放しにも出来ないし。でも関係者だとも思われたくないわ
Q 犯人に心当たりは?
罪を憎んで人を憎まずよね。誰も悪くないと私は思うわ。
でも、そうね。強いて言うのなら沙織さんの姿勢は頂けないわね。私は嫁姑という関係の中で楽をしたいの。お金に物を言わせて楽をする奥様になりたい訳ではないのよ。
Q 他に言いたいことは?
いい加減誰が本命なのかはっきりしなさい。
ハーレムエンドなんて存在しないのよ。分かってる?
証言者5 高坂桐乃(ハンドルネーム きりりん)
Q 何故プールに来たのか?
お父さんに連れられて無理矢理よ。
もう……死にたい。
Q 事件との関わり合いは?
お母さんが後ろからお父さんをいきなりバットで殴りつけて立ち去って、裸に驚いた黒いのがお父さんをビート板が割れるほど激しく叩いて立ち去って、あやせがお父さんの股間を虫眼鏡で凝視していたらソーラレイになって逃げて、黒いのが沙織と一緒に戻って来て黒いのがビート板の破片を集めるのに夢中になっている間に沙織がプールの評判を落とす害悪がってお父さんのわき腹に蹴りを入れて、そんな状況にアタシが耐えられなくなってダッシュで逃げたの。逃げる際にお父さんを跨いだのだけど、ジャンプに失敗してお父さんの股間をグニャッと踏ん付けちゃって……もう死にたい。
Q 他に言いたいことは?
これ……麻奈実編でもハーレムルートでもなくて大介ルートその3だよね?
5人からの聞き込みがようやく終わった。
「はぇ~。誰が犯人なんだかわたしにはさっぱりだよ~」
麻奈実は腕を組みながらウンウン唸っている。
まあ確かに3人目の聞き込みの途中で居眠りを始めていた麻奈実には犯人が分からないだろう。
「じゃあ、聞き込みも終わった所でそろそろ帰って良い? そろそろ夕飯の支度をしないといけないのよ。まったく、主婦は大変だわ。ちなみに今晩はカレーよ」
「私もそろそろ帰らないと妹達がお腹を空かせてしまうわ」
待っている間に興味をなくしたのか帰ろうとするお袋と黒猫。
「まだ解答が済んでないんだから帰るな。そしてお袋よ。今晩はカレーというが、昨日も一昨日もその前もカレーだったぞ。というか、1週間分カレーを作り置きしてアンタ家から逃げただろうが!」
有り得ないだろう。日本の普通の家庭で1週間カレーオンリーというメニューは。
「きょうちゃんは今の話だけで犯人が分かったの~? はぇ~。やっぱり凄いんだねえ~」
麻奈実が目を丸くして驚いている。
ていうかコイツは本気で誰がオヤジを倒したのか本気で分かっていなかったのか?
「犯人は最初から分かっている。問題はもう1つのことだ。それが今の証言から分かった」
「もう1つのこと?」
麻奈実が首を捻った。
「ああ。それが今回の事件の核心だよ」
麻奈実に力強く頷いてみせる。
「問題は何故オヤジが死んだままなのか。今回の事件の鍵はそこにある」
「「「「「「えっ?」」」」」」
俺の言葉に驚く一同。
相変わらず下半身むき出しのまま倒れているオヤジ。
「じゃあ、俺の推理を披露させてもらうぜ」
俺は自分の説を披露することにした。
何故オヤジは“殺人”事件を選んだのかそのわけを。
「まず、今回のオヤジ“殺人”事件の犯人に関してだが……」
関係者一同を見回しながら俺は自分の推理を披露する。
まずは最もどうでも良い部分から。
「犯人は証言した5人全員だ」
俺の言葉に麻奈実以外の全員の顔が引き攣る。
「きょうちゃんは何を根拠にそう思ったのかな~?」
麻奈実が好奇心でメガネを光らせながら尋ねてくる。
「根拠は桐乃の証言。そして残りの4名は自分の犯行部分だけ除いて語っていること。そしてオヤジの体の傷を見れば犯行が裏付けられる」
オヤジの“死体”を見る。
「お袋が後頭部をバットで殴った跡はコブになって残っているし、体のあちこちにビート板の破片がついている。これは黒猫がやったものだろう。オヤジのわき腹には沙織のネイルアートと同じ色の欠片が付着しているし、股間は焦げている。桐乃は犯行を認めている。これ以上証拠云々言う必要もないだろう」
オヤジの“死体”に付着しているものを見れば桐乃の証言と一致するものばかり。
「いやぁ~まさか昨日コスプレで利用したネイルアートを落とし忘れていたとは拙者も大きなミスをしたものでござる」
「地面に落ちている破片は回収出来ても、あの筋肉に触ることは出来なかったわ」
「殴りたい存在があって殴る道具があった。それだけのことよ」
「むにゅって、むにゅって踏ん付けちゃったのよ……アタシ、やっぱり死ぬ」
次々と己の罪を告白する沙織達。桐乃の場合は本当に不幸な事故だった訳だが。
そんな中あやせだけが俯いて黙っていた。
「まああやせの場合はエロかったから起きた事故だけどな」
あやせに慰めの言葉を掛ける。
「エロいって何ですか! エロいって!」
あやせは顔を真っ赤にして反論する。
「しかしあやせ氏。男性の股間を虫眼鏡で凝視してソーラレイというのはJCにあるまじき卑猥さかと」
「まったく、性欲のみで生きているなんて流石はスイーツ2号ね。これだから俗世は嫌ね」
「若いっていいわね。でも、エロ過ぎは良くないわよ」
「アタシにはあやせなんていうエロいだけの友達はいないわ……」
自業自得とはいえ集中砲火を浴びるあやせ。
「お、お姉さんは……お姉さんは分かってくれますよね? わたしがそんなエッチな子じゃないって」
あやせは半分泣きそうな表情で最後の希望である麻奈実を見た。
「あやせちゃん」
麻奈実はあやせを見てニッコリと微笑み
「あやせちゃんがいれば日本の少子化は解決出来るね♪」
笑顔でとどめを刺した。
「わたしが……この潔癖症で知られる新垣あやせがエロ女だなんて……」
あやせも桐乃の隣に体育座りで塞ぎ込んだ。
死体であるオヤジより加害者の方が大きな傷を負う過酷な事件だった。
「それでここからが本番なんだが」
落ち込んでいる桐乃とあやせは一時放っておいて本題に入る。
「何故オヤジはお袋にバットで殴られた後ずっと死んだフリを続けていたかということなんだが……」
誇らしげな表情で股間を露出したまま死んでいる親父を見る。
「下半身露出をしていたいからじゃないの?」
お袋が汚物を見る目でオヤジを見ながら聞いてきた。
「それもあるだろう。何しろオヤジ本人が殺人事件を装うことで現場の維持、つまり裸でいることを守ったぐらいだしな」
単に気絶したという設定ならば医務室に運ばれてしまう。それは即ち裸が室内に閉じ込められてしまうことを意味する。それはオヤジが望まない展開だろう。
だから俺は当初オヤジが裸でいつことを守り続ける為に殺人事件の体裁を取ったのだと思った。だけど、これじゃあまだ不十分だった。
「でも、それだけじゃなかったんだ。オヤジにはもう1つ狙いがあったんだ」
オヤジは何も語らない。
「おじさんの狙いって何?」
麻奈実が再び首を捻った。
「この状況そのものだよ。お袋が、桐乃が、麻奈実が、皆が、そして俺が一同に介しているこの場面を作り上げることそのものがオヤジの狙いだったんだ」
俺の推理を聞いて瞬間的に皆が静まり返った。
「それって、どういうことなのかな?」
いち早く立ち直った麻奈実がまだよく分からないという風に首を傾げた。
「オヤジは、人間が不器用だから家族サービスが昔から下手だったんだ。それでも俺も桐乃も幼かった頃は家族4人、麻奈実の家も合わせればもっと大人数で毎年出掛けていた」
遠い昔の日々を思い出してみる。 俺がまだ小学生だった頃は家族総出で出掛けるのが当たり前の風景だった。
「けれど、中学に入った頃から俺はそういう家族行事を恥ずかしいって思うようになって段々参加しないようになった。桐乃も陸上にモデルに忙しくなって家族は段々バラバラになっていった」
5年ぐらい前を境に家族4人で出掛けた記憶が急激に減っている。オヤジはそのことに対して何か言ったことはないがきっと内心は寂しかったのだろう。
「それでオヤジの裸力開放イベントが唯一の家族勢揃い行事だった訳だが……これはオヤジ以外にとっては苦痛以外の何物でもなかった」
オヤジが半裸を晒すイベントに付き合わされることへの苦痛。お袋なんてここ3年は行方を眩ませるぐらいだった。
家族を嫌がらせる行事しか企画できないオヤジは本当に不器用すぎた。
「そんな裸力開放イベントで昔みたいに家族総出でわいわいするにはどうすれば良いのかオヤジは考えた。その結果が今回の殺人事件だった」
皆がハッと息を呑んだ。
「オヤジは桐乃を無理矢理連れ出し、俺と麻奈実が来るプールへと同じ日に足を運んだ。裸を高らかに歌い上げれば世間体維持の為にお袋もプールに現れるに違いない。後はどうやって1箇所に集まるかだった」
「そっか。それでおじさんは自分から事件の中心人物となることでみんなをここに集めたんだねえ」
麻奈実は納得したように首を縦に振った。
「そういうことだ。オヤジは殺人事件の犠牲者になることで家族サービスを実現させようとしたんだ」
オヤジの意図を締め括る。
不器用過ぎる人間の不器用な家族愛だった。
「だけど桐乃ちゃんのこの落ち込み具合から考えるとこの家族さ~びすは~失敗だったんじゃないかなあ?」
「ブハッ!」
麻奈実の無邪気にして辛らつ過ぎる一言にオヤジの死体が吐血した。
「確かにこんな家族サービスはないでござるよ。サービスされる度にダークサイドに落ちるのは勘弁して欲しいでござる」
「そうね。私も将来高坂家に嫁いだ際に毎年こんな家族サービスに参加しなければならないとなったら、京介に遠方に転勤出来ないか尋ねてしまうに違いないわ」
「そう言えば家族同士の交流が減ったのって、おじさんの裸に耐えられなくなったのが理由の1つだってお母さんが前に言っていたような」
「グホッ!?!?」
オヤジは全身から激しく血を噴出した。まるで本物の殺人現場のように大量の血が流れている。
「そういうことよ。来年からは裸力を開放したければ、1人で誰もいない所でやって頂戴」
お袋はサングラスを掛けたままドヤ顔を見せている。
「お父さん……もう本当に……死んでいいから」
そして心に深い傷を負った桐乃のとどめの一言。
とても小さな呟きで心が込められているだけにオヤジにもダメージ大な筈だ。
これでオヤジの裸も少しは収まる。
そう思ったんだ。
でも、現実はいつだって俺に過酷だった。
「あんまりお義父さまを責めないで下さい」
オヤジを庇いながら立ち上がったのはあやせだった。
「お義父さまは全世界の性教育の為、モラルを向上させる為にその身を奉げているんです」
あやせは熱く訴えている。
「しかし幾ら性教育の為とはいえ、あやせ氏のようなエロいだけの人間が出来上がっても……」
「男を見る時にまず下半身から観察する人間に妹達がなったら大変だわ」
「少子化問題は解決出来ても他の問題がねえ。はへぇ~」
「アタシはエロいだけのあやせともうお付き合いできません」
けれど、あやせの主張に対する妹達の評価は厳しかった。
「黙りなさいっ!」
あやせはお得意の上から発言で批判を封じに掛かる。
「とにかくっ、お義父さまのしていることは間違いではないんですっ! わたしがそう決めました」
あやせはお得意の一方的な裁定を下した。
そしてその裁定は萎縮させられたかも知れないオヤジを再び増長させてしまうものだった。
「とぉっ!!」
死んでいた筈のオヤジは突如飛び上がって俺の横に立った。
「まったくあやせくんの言う通りだ」
そして自分に耳障りの良いあやせの言葉だけ肯定してみせた。
「俺の裸は世界だっ!!」
更に訳分からないことこの上ない迷言まで使い始めた。
「アンタ少しは反省しろよっ!」
俺はオヤジにツッコミを入れる。
この瞬間、俺は大きな間違いを犯していることにまだ気付いていなかった。
俺はオヤジが殺人事件の犠牲者になった意図を正確に掴んでいた。
にも関わらず、何故この瞬間にオヤジが俺の横に立っているのかその意図を考えなかった。
その考えのなさが俺を文字通りの地獄へと叩き込むことになった。
「俺は裸だ。そしてこの裸魂は息子である京介へと受け継がれる」
「へっ?」
間抜けな声を出して聞き返してしまう俺。地獄から抜け出す最後のチャンスを見落としてしまったのだった。
「こんな風にな」
オヤジは俺の水着を引っ張って地面へと落とした。
「はへ?」
水着がなくなったことでみんなの前で晒される俺のリヴァイアサン。俺の自慢の超海魔リヴァイアサンが少女達に晒されてしまったのだ。
「「「「「へっ?」」」」」
少女達の視線が俺の股間へと集中する。少女達は初めて見る巨大で荒々しいソレに恐れを抱いているに違いなかった。
「どうしてきょうちゃんは、おじさんと比べてそんなにちっちゃいのかな? 可愛いけどおかしいね? わたし……気になるんだよっ!」
首を大きく捻る麻奈実。
あまりにも屈辱的な一言。俺のリヴァイアサンがこんなに可愛いわけがないってのに。
でも、麻奈実の示した態度は最も良心的なものだった。
何故なら残りの4人の少女の示した態度は……。
「「死ねっ! この変態っ!!」」
俺の肋骨を砕き心臓を破裂させる見事な飛び蹴りを披露する桐乃とあやせ。
あやせは脱がされた俺の海パンを頭に被りながら怒りに満ち満ちている。
「あっ、貴方は嫁入り前の私に何てものを見せるのよっ!? 貴方の部屋のベッドで初めて見る筈の物をこんな所で見せないで頂戴っ!!」
恥ずかしでパニックになりながらコンクリートブロックで俺の頭を叩き続ける黒猫。ビート板でない分破壊力が先ほどとは段違いだ。頭蓋骨の砕ける音が連続して鳴る。
「槙島グループの経営するプールで裸を晒すとは……京介殿を産業スパイとして処分しなくてはならないとは残念でござるよ」
沙織はビリビリいっている電磁警棒で俺を滅多打ちにする。生命線という回路が電撃により次々と断たれていく。
4人の少女達の攻撃により俺が致命傷を負うにはさして時間が掛からなかった。
「これだけ女の子がいるのだから1人ぐらいもうそういう仲になっている娘がいるのかと思ったけれど……これじゃあ嫁を迎えて楽々生活の夢を叶えるのはまだ先の話ね。ガッカリだわ」
お袋は何か勝手なことをほざきながら大きな溜め息を吐き出している。
大体俺は4人の攻撃でもう致命傷を負ったのだからこの先嫁を貰う未来なんて待っていないというのに……。
「きょうちゃんがこの後に訪れるのは天国かな? 地獄かな? わたし……とっても気になるんだよ?」
好奇心の塊でピカピカした表情を見せる麻奈実。
「俺、今回何も悪いことをしていないんだから……きっと天国にいけるさ」
その顔にちょっとだけ安堵感を覚えつつ俺は遠い世界へと旅立っていった。
やっぱり公共の場で全裸はダメだよなぁ~
了
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