No.488091

fate/zero 〜君と行く道〜

駿亮さん

セイバーさんに大きな影響を与えたあの回です。

2012-09-24 19:58:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3091   閲覧ユーザー数:2979

12:導く者、守る者

 

 

 

私はただ救いたかった

ただそれだけなのに

何が間違っていたのか

私には分からなかった

 

 

 

 

「祖国の滅びの運命を変える」

その言葉に対する反応は三者三様だった。

ライダーは難しい顔で目を伏せ、アーチャーは薄ら笑いを浮かべ、勇希は嘆かわしそうにこめかみに掌を重ねた。

 

 

「なぁセイバー。つまりそれは過去を変えるという意味か?」

 

「そうだ。例え奇跡によって叶わぬ願いであったとしても、真に聖杯が万能の願望器であるならば、必ずや……」

 

そう言いかけた時、アーチャーが鼻で笑う。

尽かさずセイバーは非難の目を向けるが、視線を巡らせれば、他の二人も憂いの表情を浮かべていることに気がついた。

 

 

「セイバー。貴様よりにもよって……自らが歴史に刻んだ行いを否定するというのか?」

 

今までの愉快さも何処かへ飛んで行ってしまったのか、ライダーは少々声のトーンを落としていた。

その否定的な態度にセイバーは立ち上がって声を荒げる。

 

 

「そうとも。何故訝る!何故笑う!身命を捧げた故国が滅んだのだ。それを痛むのがどうしておかしい!?」

 

さも当然の事のように語るセイバーに、とうとうアーチャーは耐え切れなくなり笑い混じりの声を発する。

 

 

「おいおい聞いたか貴様等?この騎士王とか名乗る小娘は、よりにもよって……故国に身命を捧げたのだとさ!フハハ!」

 

「笑われる筋合いなどどこにある!王たる者ならば、身を呈して故国の繁栄を願う筈だ!」

 

「いいや違う。王が捧げるのではない。国が、民草が、その身命を王に捧げるのだ。断じてその逆ではない。」

 

肩を震わせて笑うアーチャーに怒声を発するセイバーだったが、その言葉はすぐに否定された。

まるで信じられない事を聞いたような顔でたじろぐも、すぐさま非難の矛先をライダーに向け直す。

 

 

「何を…!それは暴君の治世ではないか!」

 

「然り。我等は“暴君”であるが故に“英雄”だ。だがなセイバー。自らの治世を、その結末を悔やむ王がいるとしたら……それはただの“暗君”だ。暴君よりなおのこと始末が悪い。」

 

自分が暴君である事を認め、そのあり方を自ら肯定するライダーにセイバーは不快感を露わにする。

武人として認めていた者であったからこそ、その発言は許し難かった。

 

 

「イスカンダル。貴様とて、世継ぎを葬られ、築き上げた帝国は三つに引き裂かれて終わった筈だ。その結末に貴様は何の悔いも無いと言うのか?」

 

悔やんで当然。そうでなければおかしい。

そんな意味を言外に潜めたセイバーの問いにライダーは即答した。「無い」と。

 

 

「余の決断、余に付き従った臣下達の生き様の果てに辿り着いた結末ならば、その滅びは必定だ。痛みもしよう…涙も流そう…。だが決してそれを悔やみはしない。」

 

「そんな……」

 

セイバーはまたもたじろぐ。そんなものは認められないと彼女の本能が叫んでいたのだ。

それを知ってか知らずか、ライダーは更に続けた。それも覇気の篭った力強い声で。

 

 

「増してそれを覆すなど、そんな愚行は余と共に時代を築き上げた全ての人間に対する侮辱である!」

 

今の自分は、自分の生涯が終わりを迎えるその時にまで着いて来た者達の生き様や犠牲の上に成り立っている。

そんな思いを乗せた声をぶつけるライダーに、尚もセイバーは食い下がらなかった。

 

 

「滅びの華を誉れとするのは武人だけだ!力無き者を守らずしてどうする!?正しき治世、正しき統制、それこそが王の本懐だろう!」

 

 

それ以外の王道などあり得ないと確信しているが故の発言にライダーはもう一度問い掛けた。「ならば貴様は民草の奴隷か?」と。

 

 

「それで良い。理想に殉じてこその王だ。」

 

挑発ともとれる言葉に肯定の色を示すその目に迷いは無く、それこそが己の道なのだという確固たる意思を示していた。

対してライダーは、怒声を上げる事も無く、憂いを含んだ表情で酒を煽る。そして静かに告げた。

 

 

「そんな生き方は人ではない。」

 

「王として国を求めるならば、人の生き方など望めない。征服王よ。高々我が身の可愛さ故に聖杯を求める貴様には分かるまい。飽くなき欲望を満たす為に、覇王となった貴様には「もう黙っとけよお前。」何だと?」

 

セイバーの言葉を遮ったのはそれまで無言を貫いていた勇希だった。

しかしその表情はいつものように飄々としている好青年のものではなく、まるで氷のように冷たく不気味な凄みを放っている冷徹漢の顔だった。

 

 

「なぁセイバー。お前にとって“王”って何だ?」

 

「何?」

 

あまりの豹変ぶりに困惑するセイバーは、何とかその問いに答えようとするが、それよりも先に勇希が言葉を更に紡ぐ。

 

 

「王とは民の為に生きるもの…民を守るのが王の務め。ならよ?その後は?助けた後はどうすんだ?その後の道筋は誰が示すんだ?」

 

「……っ!?」

 

 

確信を突いた言葉をだった。

セイバーの生き方はいっそ歪なまでに民や臣下を救う事に特化している。

だが、助けた後の者達をどうするのか?どうやって導くのか?どうやって幸せにするのか?そういった具体的なビジョンは無く、彼女は他者が望んだ王の姿を体現する事にのみ己の王道の意味を見出していたのだ。

 

 

「国なら王、軍なら将、家族なら父。ありとあらゆる集団にはその導き手が必ず必要であり、そういった奴が現れるのは必然だ……だがなセイバー。お前のその生き方は、導き手である王の使命を果たしちゃいない。」

 

淡々と告げる勇希に、セイバーは何も言えなかった。ただ瞳を揺らして己のアイデンティティとも言えるこれまでのあり方を否定するその言葉に耳を傾けるのみ。

それでも勇希はセイバーの心情を悟った上で畳み掛けるように告げる。

 

 

「確かにお前のその騎士道に殉じた王道が一度は国を救ったんだろう。だがな……そうやってただ助けられた連中がどんな末路を辿ったのか……お前が一番良く知ってるはずだぜ?」

 

その時、セイバーの脳裏に嘗ての情景が横切った。

生きとし生けるもの全てが死に絶えた凄惨な戦場。その中で一人佇む自分。

今でもこの目に焼き付いたあの悪夢のような光景が蘇る。

 

 

「人を率いる奴はいつだって前を見続けてなきゃならねぇんだよ。俯かねぇし、立ち止まらねぇ。増してや元来た道を引き返すなんざ絶対にあっちゃならねぇのさ。「俺の背中に続け。そしてこの背中を支えやがれ」そう言い聞かせて大勢の奴らを率いて突っ走んなきゃならない奴が人の生き方なんて望めないだと?とんだ笑い話だな。」

 

殉教などという茨の道に、着いて来いと言われて素直に付き従う者などいるものか。

導くものであるならば、引き連れた者を幸せにするために己自身も幸せの形を示さなければならないと勇希は語る。

 

誰かの為に身を削り、他者の為と言いながら自分を押し殺して理想ばかりを追い求めた所で結局の所、得られるのは苦痛一つだ。

率いる者が、自分も幸せになれる筈なのにそれを拒むなど、それでは守られた者達はどうやってこれから幸せになれば良いのか分からない。

人々をそんな出口の無い堂々巡りに誘うセイバーの王道を、勇希はただ冷淡に、無慈悲に真っ向から否定する。

 

 

「先頭に立つ奴なら、どんな時でも自分が正しいと疑うな。最初のスタートラインからゴール地点まで、例え途中でつまづいてもそれを自分のもたらした結果だって後腐れなく高らかに宣言しなきゃならねぇんだよ。」

 

「それは指導者の傲慢に過ぎない!そんなことで、先導者と共に倒れた者達の思いはどうするというのだ!」

 

「だからそれも受け入れるんだよ!自分がもたらした結果だと、これが自分の決断で、お前等の信じた奴の選んだ道だってな。もしもそこで自分が間違っていたからゴメンだなんて情けない台詞吐いた日には、それこそ心中した連中はやるせないだけだろうが!指導者の傲慢だ?それの何が悪い?傲慢じゃない人の行いが、感情が、それぞれの生き様が、一体どこにあるんだよ!?」

 

富める者が貧しき者に恵むのも富める者の傲慢であり、強者が弱者を守るのも強者の傲慢であり、生者が亡者を痛むのも、結局は生者の傲慢で自分勝手な自己満足なのだ。

 

それを悪と断じて認めず、どこの誰が作ったかも分からない偶像を高らかに掲げて盲目的なまでにそれを追い求めただけでなく、人として当然の事を否定して、理想という名の傲慢を民に押し付けた。

勇希にはセイバーがそんな行いをしていたようにしか思えなかった。

 

 

「例えお前が聖杯を手に入れて歴史を塗り替えても、お前自身がそんな生き方を覆さないようじゃ結局同じ事の繰り返しさ。民や臣下を“救う”ばかりで、“導く”事をしなかった。自分の理想が大事なばかりに、人の思いも願いも捨て置いて…あろうことか王の生き方よりも王の虚像を優先した…」

 

一言一言が鼓膜を叩く度にセイバーは動悸が早まって行くのを感じた。

それは勇希の言っていることを否定出来ないから、それが事実であるが故の沈黙だった。

 

民の願いは本当に救済だけだったのだろうか?臣下は王がただ理想に殉じて人並みの幸せすら得られないことに納得していたのだろうか?

 

思い返せば確かに自分は理想の王を体現することに必死で民の声を聞き、その思いをくんでやることなどしなかった。

嘗て許されざる罪を犯した重鎮を救おうという一心でその人物を許したこともあった。

だが、その後に彼はこう言い放って自分の下を去る。

「貴方は人の気持ちが分からない」

 

人の気持ちが分からない王が民の願いをくむことなど出来はしない。

民の幸せを願うと言っておきながら、彼女はその努力を怠っていたのだ。

 

 

「お前は王様なんかじゃねぇ。“救う為の王道だったモノ”を“王道を貫く為の救い”にすり替えて、手段と目的を履き違えた……ただの勘違いの大馬鹿野郎だ。」

 

「私…は……」

 

 

もうそこに王の姿はどこにもない。今まで信じた王道という名のメッキを剥がされて、あまりに脆い本心を剥き出しにされた弱々しい少女がいるだけだった。

 

一通りの話を終えた勇希に、おもむろにライダーが問いかける。

 

 

「イーターよ。その言い振りからして、貴様は先陣切って他者を率いる立場にあったのか?」

 

至極当然の問い。イーターの言葉にはそれを経験しただけの重みと、同じくらいに深い悲しみが篭っていた。

 

 

「そんな所だ。まぁ、俺が人を率いた理由なんて王様のそれに比べれば微々たるモンだがな。」

 

救いの無い人外の魔境となった地球で繰り広げられていた、人と人との戦争など子供のお遊戯に見えるような本当の地獄。

 

神の名を冠する怪物が闊歩する世界を生きた勇希は誰よりも先の見えない、終わりを先延ばしにするだけの救いの残酷さをしっていた。

故に認められなかった。ただ救われて放置され、いつまで続くか分からない絶望に身も心も蝕まれて行く人々を幸せにしようとしないセイバーの王道は。

 

 

「となればイーターよ。貴様は何故聖杯を求める?万能の願望器に一体何を託すのだ?」

 

「いや。願いなんて無い。」

 

「何だと?」

 

拍子抜けするような答えに、ライダーは怪訝な顔をする。

元々他の何かを頼りに願いを叶えるような根性は持っておらず、聖杯そのものが使用出来ない事を知っている勇希に、その問いに対する明確な答えなど無い。

 

 

「俺はただマスターの幸せを願っているだけだ。」

 

「あの娘っ子が貴様にとってそこまで大事なのか?高々数日の付き合いだというに。」

 

「他人事だって切り捨てられる奴じゃない。そんな所だ。」

 

本当なら他人事だと断じて見て見ぬ振りをする選択肢も勇希にはあった。

しかし彼は逢えて彼女を救うという道を、“義務”ではなく自分の“権利”で選択した。

それは単純に言えば同情でしかないのかもしれないが、だからと言って、それは何もしてやらない理由にはならない。

 

桜は自分を慕ってくれている。そして自分も桜が幸せそうにしている所を見ていたい。

そんな単純故に純粋な愛情が勇希を突き動かしている。

その歪み無き思いを感じ取ったのか、ライダーは満足気に笑って酒を飲み干した。

その直後、不穏な気配が辺りを包む。

 

突然庭園の至る所から黒い霧が立ち上り、その中から何人もの黒い装束を纏った人影が次々と出現する。

髑髏の仮面を付けたアサシンが、ものの数秒でその場を包囲した。

 

 

「こりゃぁ貴様の計らいか?金ピカ。」

 

「時臣め…下衆な真似を……」

 

「無茶苦茶だ!何でアサシンばっかり次から次へと!」

 

アーチャーが吐き捨てる一方で、ウェイバーは狼狽する。

そしてアサシンは誰に言い聞かせるまでもなく告げた。

「自分達は分断された個」「自分達は群にして個のサーヴァント」「個にして群の影」だと。

 

 

「なるほどねぇ。多重人格の英霊が自我の数だけ実体化したって所か。どうりでよく見かけるわけだよ。色んな格好をしたアサシンを。」

 

持ち前の探査能力で何度かアサシンを捕捉していた勇希は独りごちる。

どの個体も大まかな格好は大して変わらない集団故に今まで気が付かなかったが、今となってはどうでも良かった。

本来ならば闇討ち専門のアサシンがこうして姿を晒したということが重要だったのだ。

この行動が意味することも、今更論じるまでもない。

そう判断して酒器を置き、臨戦体勢に入る。

だが、打って変わってライダーはまた剛毅に笑って柄杓を掲げた。

 

 

「貴様等も遠慮はいらぬぞ!共に語ろうと言う者はここに来て杯を取れ!この酒は貴様等の血と共にある!」

 

庭園全体に響き渡る声で告げるライダーだったが、返答は寸分違わず柄杓を切断した投擲ナイフだった。

石畳の床に転がり落ちた柄杓の先から酒がこぼれ落ち、ライダーの白地のシャツとその足下を返り血の如く赤く染めた。

周囲の黒い影から発せられた笑い声に、征服王が静かに立ち上がる。

 

 

「なるほど……。この酒は貴様等の“血”と言った筈。逢えてぶちまけたいと言うのならば…是非も無し。」

 

言葉の直後に突風が吹き荒れた。セイバーは風を手で遮りながらもその隙間から目にする。戦装束に身を包んだ征服王たる凛とした背中を。

 

 

「セイバー!アーチャー!そしてイーターよ!これが宴の最後の問いだ!」

 

その声は轟々と吹き荒れる強風の中でも掻き消される事なく三人の耳に届いていた。

 

 

「王とは孤高なるや否や!」

 

その問いにアーチャーは無言の肯定を示し、セイバーは風を遮りながらも絞り出す様に答える。

 

 

「王ならば…孤高であるしか…ない!」

 

それは彼女が未だに自分の生き方を変えていない証拠だった。

ライダーは振り返りもせずに答える。

 

 

「駄目だな!全くもって分かっておらん!そんな貴様等には、余が今ここで、真の王たる者の姿を見せつけてやらなばなるまいて!」

 

そう言い放った直後、ライダーの足下から眩い光が溢れ、周囲を一瞬にして呑み込んだ。

 

そして視界が晴れればそこに広がっていたのは夜の城などではなく、果てしない大砂漠であった。

 

 

「固有結界ですって!?そんな馬鹿な!心象風景の具現化だなんて……!」

 

アイリスフィールが信じられないと言った様子で声を上げる。それはライダーのマスターであるウェイバーも同様であった。

 

“固有結界”

 

それは術者の心の中の景色、心象風景で現実世界を侵食する大襟呪。

ある意味魔術の一つの到達点と言える所業である。

それを何故魔術師ですらないライダーが使用出来るのか?

 

 

「ここは嘗て我が軍勢が駆け抜けた大地!余と苦楽を共にした勇者達が等しく心に焼き付けた景色だ!この空間、この景色を具現化出来るのは、これが我等全員の心象であるからだ!!」

 

 

すると、背後から大地を揺るがさんばかりの轟音が響き、振り返ればそこにはそこには砂漠を埋め尽くす程の大軍勢が広がっていた。

 

 

「見よ我が無双の軍勢を!肉体は滅び、その魂は英霊として世界に召し上げられてそれでも尚余に忠義する伝説の勇者達!」

 

数だけの雑兵などと侮るなかれ。そこにいるのは皆、後の世で英雄として謳われる猛者ばかりである。

 

 

「彼等との絆こそが我が至宝!我が王道!イスカンダルたる余が誇る最強宝具“王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)”なり!!」

 

生前、征服王の覇道を支えた忠臣達が雄叫ぶ。

それは一個の巨大な生き物の咆哮のようであった。

 

その渦中から一頭の黒い巨馬が歩み出る。それをライダーは軽く撫でてその背に飛び乗った。

イスカンダルの愛馬ブケファロス。ライダーの絆はその愛馬すらも英霊として呼び出すのだ。

そしてライダーは馬上にて高らかに声を上げた。

 

 

「王とは!誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる者を指す言葉!」

 

『『『然り!然り!然り!』』』

 

大地を揺るがす肯定の言葉と共に王の軍勢は槍を空に向かって突き上げる。

 

 

「全ての勇者の展望を束ね!その道標となる者こそが王!故に、王とは孤高にあらず!その志は、全ての臣民の総算たるが故に!!」

 

『『『然り!然り!然りぃぃ!!』』』

 

 

王の姿の如何なるかを宣言を終えて、ライダーはアサシン達に向き直る。

具象化した戦場は平野、隠れる場所のないその場に於いて数でも個々の力でも、ライダーに負ける要素は一切無い。

結果は決まったようなものだった。

征服王は嘗てそうして来たように愛馬の横腹を蹴ると同時に号を発する。

 

 

「蹂躙せよ!!!」

 

『『『オオオオオオオオオオオオオ!!!』』』

 

一斉に王の軍勢は殺意の波となって襲い掛かる。ライダーを先陣に、王の軍勢は宣言通りにアサシンを蹂躙し尽くしていく。

 

ある者はライダーに一太刀で首を断たれ、またある者は投擲された槍で貫かれ、雪崩れ込んだ兵士達に両断される。

 

瞬く間にアサシンの群団を全滅せしめたライダーは勝利の雄叫びを上げ、連動するようにして彼の臣下達も吼えた。

 

その正しく英雄然とした立ち振る舞いを、セイバーは複雑な表情で眺めていた。

対極の王道を進みながらもこれ程までに臣下達に慕われた征服王に対して、少女はどこか羨ましそうにしているようでもあった。

 

 

当分の間響いた雄叫びはいつの間にか治まり、景色も夜のアインツベルン城に戻っていた。

 

 

「幕引きは興醒めであったな。」

 

「よく言うぜ。最後の最後で良いとこ持ってきやがって。」

 

「貴様とて余がセイバーに言うべき言葉を代わりに言うたではないか。これで貸し借り無しと言うことで納得せんか。」

 

「へいへい。ま、何にせよ宴はここまでかな?皆言いたい事も言い尽くしたっぽいし。」

 

「そうだわな。」

 

 

そう言うとライダーは立ち上がって剣を一振りし、空間の切れ目から戦車を呼び出すと、マスターを伴って飛び去って行った。

 

 

「さてと…ここいらで俺さんも退散しま「待てイーター。」何だよ?まだ何かあんのか?」

 

 

勇希も庭園の出口に向かって歩き出すが、セイバーに呼び止められる。

だが、勇希は気だるそうにその姿を横目見るのみで、これ以上話す事など無いと言わんばかりの目で言い放った。

 

 

「今のお前さんにとやかく言う気も無けりゃ、言われる筋合いも無い。今日の話はここで終わりだ。まだ何か伝えたい事があるんなら、次に会った時にしろ。じゃぁな。」

 

ポケットに手を突っ込んだまま、勇希はゆっくりとした足取りでその場を立ち去った。

残されたセイバーがまるで寒空の下で凍える子犬のような弱々しい顔をしていることを知った上で。

 

 

 

 

 


 
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