「う~む……まだか、まだか…」
「ちょっと、一刀。少しは落ち着きなさいよ」
司馬懿との戦いから数ヶ月が過ぎた。
その後の大陸の流れは、めまぐるしいものであった。
司馬懿が術式の媒介としていた劉協は、奴が拠点としていた城で発見された。
衰弱していたものの命に別状は無く、少しすると目を覚ました。
華琳や他の者から事の顛末を聞かされると、自分のしたことに深く打ちのめされた様子であった。
何日も部屋に閉じこもっていたが、ある日何か決意したような顔で出てきた。
俺と桃香、華琳の三人を集めると、自身の責任を取り、三国の王に位を禅譲すると宣言した。
俺と華琳は何も言わずそれを受け取った。
桃香は自身の目的の一つに漢王朝の復興があったからであろう、涙ぐみながら、少しして恭しく頭を下げ劉協の言葉を受け取った。
それからが大変であった。
大陸に三国でき、三人の王が立ったことにより、それぞれの国の境界や経済・文化の交流、五湖が攻めてきた時など有事の際の協力の確認など様々なことを話し合った。
話し合いは連日に渡り行われたが、この間ようやくそれも終わり話がまとまった。
話し合いが終わると俺は急いで自分の城に、部屋の一室のの前を何度も行ったり来たりしている。
そして冒頭の雪蓮の言葉である。
「いや、しかし……」
「全く、雪蓮の言う通りよ。あなたがそわそわしてもどうにもならないでしょうに。ねぇ?桃香」
「はは…そうですよ、一刀さん」
華琳と桃香に注意をされたが、やはり落ち着くことができない。
「華佗も大丈夫って言ってったし、ね?」
「それはそうだけど……」
華佗の言葉を思い出し、うろうろとするのはやめたがそれでも落ち着かない。
「それにしても、ねえ……」
「そうですね……」
すると3人の顔がみるみる暗くなっていった。
「まさか、思春が……」
「「「…妊娠していたなんて!」」」
「おわぁ!?」
三人が声を合わせて大声を出したので、思わず吃驚してしまった。
「最初は私だと思ったんだけどなー。早くできるようにもっと頑張らなくちゃ」
「何をいってるのよ、雪蓮。次は私よ。
っていうか私が居る時ぐらい一刀を譲りなさいよね。
あなたと違って私や桃香はいつでもできるわけじゃないんだから」
「私も一刀さんの赤ちゃん、欲しいなぁ」
「まあまあ、落ち着いて」
「「「お前が言うな!!」」」
騒がしくなった三人をなだめようとしたら逆に言い返されてしまった。
「それにしてもあの時の一刀、おかしいったらなかったわ」
「うっ、そのことはもういいだろ」
雪蓮が言っているのは司馬懿との戦いの後のことである。
「あの時、倒れた思春を抱えて『思春が!思春が!』って叫んでいるときはどうしたのかと思ったけど、ただの貧血で良かったわね。
でも、思春も思春よね。妊娠してるのに戦いに出るなんて」
そう、あの戦いの時思春はすでにお腹に俺の子を宿し戦っていた。
「だから、心配なんだよ。もしあの戦いのせいで思春や子供に何かあったら俺は……」
すると華琳が俺をなだめるように肩に手を置き、
「大丈夫よ。あの戦いを一緒に戦ったのよ、強い子供が生まれるわ」
「そうですよ。だから今は無事生まれてくることを祈っていましょ」
「華琳…桃香…ありがとう」
そう言い、思春が居る部屋の扉を見た。
思春の陣痛はもう始まっており、産婆と共に部屋の中に居る。
「ううっ……」
時折聞こえる思春のうめき声が出産の苦しみを生々しく表している。
桃香は思春の濁った声を聞くたびに身体をぴくりと震わせ、手を合わせ拝むようにしている。
雪蓮や華琳も顔を歪めながらも、まだかまだかと待っていた。
俺もただ待つことしかできないことに歯がゆく思い、時の流れが長く感じた。
「…………オギャー、オギャー」
「!?」
扉の向こうから力強く聞こえる泣き声。
それは新しい命の誕生を告げるものであった。
少しして産婆が出てくると入っても良いと告げた。
産婆の許可をもらい部屋の中に入ると、寝台には先ほどまで陣痛の痛み耐えていたためか少しぐったりしている思春と、その横に真新しい布で包まれ寝かされた赤子の姿があった。
「一刀様…」
「思春…よくやったな」
二人の姿を見るとこみ上げてくるものがあった。
「見てください、一刀様。私達の子です。女だそうです」
思春は優しい目で隣に眠る娘に微笑むかける。
「そうか…そうか…」
震える声をこらえながら、思春と娘が横になる寝台に近づき、そっと子供の顔を覗き込む。
「この凛々しい目は思春に似てるな」
「そうですか?鼻や口元は一刀様にそっくりです」
お互いに似ているところを探し伝え合う。
「この子達の世界には、戦いの無い世界をつくりたいですね」
「ああ、そうだな。できるさ、きっと。これから、始まったばかりなのだから」
そっと指を出すとその小さな手できゅっと握り返してきた。
それを見て思春と二人、顔を合わせ笑いあった。
――君がそばに居るだけで
あなたに寄り添うだけで――
――幸せが溢れてくる
安らぎを感じる――
――いつもそばに居て欲しい
あなたと共に行きたい――
――君と笑い合いたい
あなたと喜びを分かち合いたい――
――君のことを思うと
あなたのことを考えると――
――胸の中がこんなにも温かくなるのだから――
あとがき
まずはじめに、ここまで読んで下さった皆様ありがとうございました。
皆様のコメントなどに励まされ、お陰で最後まで書くことが出来ました。
この話はTinamiで他の恋姫SSを読んでいて自分も書きたいなと思い、無謀にも始まりました。
なので全く話の骨組みなどは考えずに、「一刀が孫権だったら」という設定のみ考え後は流れに身を任せる様に書いてきました。それに私自身、モノを書くという経験も初めてのため、文の至る所に見苦しいところが散りばめられていると思われます。すみませんでした。
自分のちょっと気に入っている部分を挙げるとすれば、題名は良かったかなと思います。ヒロインである甘寧の真名「思春」を入れつつ、恋愛な感じを出せたかなと思います。
次回作についてですが、一応設定などはいろいろと考えています。この話は一話一話が短かったので次はどっしりと構えて書こうかなと思っています。他のもこの話の外伝的なものも考えています。しかし、リアルが忙しいのでいつになるやら。できるだけ早く書きたいと思っています。
最後にもう一度読んで下さった皆様、本当に有難うごさいました。コメントにこれまでを通しての感想などを書いてもらえると嬉しいです。今後の参考にしたいです。
では、次の作品で会いましょう。
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とうとう最終話です。
感想はあとがきで。
では、どうぞ!